航空自衛隊浜松基地航空祭見聞記(3)
そうこうしているうちに午後になり、我々も滑走路に移動した。
浜松は広い、入間に比べると断然に広い。
かなりの人数の観客がいたが、それでも移動に苦労しない。
ついでに通路にレジャーシート敷いて陣取る馬鹿者もいなかった。
いやシート敷いてる人がいない訳ではないが、歩くのに邪魔なところでそれやる人も(その必要も)いないのだった。
という訳で、我々も簡単に座って見物する場所を確保、歩き詰めだった身体を休める事ができた。
いい天気であった、風が少々あったが陽射しがいいので、日にやける肌が冷やされてちょうどいい。
その時、太平洋戦争の時爆撃機に乗ってたというおじーさんが、セスナを操縦しながら飛行機の操縦法講座をやってる最中だった。
おじーさんはセスナを操りながら、地上の観客に無線で喋り続けている。
飛行機の操縦を自動車運転に置き換えて詳しく説明しながら、実際に機動してみせている。
派手な事をする訳ではないのだが、ついつい聞き入ってしまう。
さすがに民間セスナパイロットの第一人者と呼ばれるだけあって、実にスムーズ。
あのじーさん、腕も頭も本当にいい人なんだなぁ、と氷猫君と二人して感心してた。
最後には「普通に着地するのはつまらないから」といって、エンジンを最小アイドリング(つまり事実上の無動力状態)にして滑空着陸を決めてみせた。
なんともさりげない大技だったのがお見事!
氷猫君いわく
「派手な飛び方しなくてもエンターテイメント出来るんだなぁ」
この一言が印象に残った。
その次(本当はその前にヘリが飛んだのであるが)はグライダーの飛行展示である。
黄色いセスナに曳航されて静かにやってきた白いグライダー、広田達は基地上空を旋回するだけだろうなぁとか思っていた。
とそこに、いつの間に放送室へ入ったのだろうか、先程のセスナじーさんの声がスピーカーから聞こえてきて……
「おい、グライダーが『宙返り』するって!」
「なにぃ! グライダーにそんな事出来るのか!?」
……やった……本当に見事にくるりと回った……
それまで広田は、寝転がって(文字どおり仰向けになって寝ていた、そんな事ができるくらい浜松は広い)のんびりとグライダーを眺めていた。
だけどこの時ばかりは、飛び上がって起きた。
なんか物凄いものを見た気分だった。
いやはや、グライダーってのは高性能かつ極めて優雅な乗り物なんだなぁ……
ここまで見てきて我々は
「いやぁ浜松まで来て本当に良かった、期待してた3倍以上の満足がある」
と思っていた、一つはミサイル手動装置とF−15の真後ろ、もう一つはセスナとグライダー、そして最後に本来の目的である……
そう、ブルーインパルスの飛行展示だ。
次はいよいよ、ブルーの出番であった。
今までゆっくりと座り込んでいた観客が総立ちになる、その中に我々も混じっているのは言うまでもない。
そして今か今かと待っているうちに、スピーカーから流れてくるBGM。
滑走路から盛大なスモークが立ち上り、ブルー仕様のT−4のエンジン音が高まり
人だかりの上に見えていた尾翼がゆっくりと動きだし……
運悪く基地上空に大きな雲が出てきたため、演技科目は変更されていた。
それでもその雲のところまで一気に駆けあがってゆく、白と青のT−4の姿はまさに「空のドルフィン」だった。
これが見たくて、都内から往復400キロの道程を苦にせずにやってきたのだ。
我々はこの時で完全に満たされた。