組み付けの幾何学
標準からはずすリスク

 さて、そんな具合にして音の大きさや柔らかさを好みによって調整できるわけですが、その場合、調整が難しくなるというのも、忘れてはいけないことです。具体的には、リズムをぴたっとあわせることが難しくなります。
 設計者の意図を敢えて無視するからにはそれなりの覚悟が必要ということで。
 これについては、次のように説明できるでしょう。

 櫛の歯は、ドラムの突起に持ち上げられて持ち上がり、先端が突起から離れたところで振動をはじめ、音を出します。実際には付け根から中間にかけての部分がぐーっと曲がるのですが、話を簡単にするために、途中は曲がらず、付け根に関節があるものとして考えましょう。
 高音用の短い歯と、低音用の長い歯の先端は、それぞれ図のような軌跡を描くことになります。

 この櫛を標準の位置に組み付けてドラムを回転させると、ドラムの突起の先端が図1のそれぞれA・Bの位置まで来たところで高音用・低温用の櫛の歯が突起から離れ、音を出すことになります。すなわち、高音用・低音用の突起をこれだけずらして配置すれば、このふたつの音を同時に鳴らすことができるわけで、ドラムはそのように作られているものと思われます。
 ところが、たとえば標準よりも櫛をドラムに近づけた場合には図2のようになります。この場合、櫛の歯が音を出すのはそれぞれ、突起がA’・B’の位置に来たときです。A−BよりもA’−B’の角度の方が大きいため、標準にあわせて作られているドラムでは低音が遅れることになります。

 (実際にはドラムの突起の位置はずらされていないかもしれません。つまり、A−Bの角度はごくわずかなので無視されているかも、ということです)
 これを解決するには、櫛の歯の長さをすべて同じにし、付け根の削り具合と先端の削り残し具合だけで音程を決める方法が考えられます。
 しかし、その場合、低音側の歯(先端を重く、付け根を細く(=弱く)しないといけない)が折れやすくなると考えられます。しかも、実際には上のモデルと異なって歯が曲線を描いて持ち上がるため、結局先端の軌跡が一致しない可能性もあります。従って、これは「机上の空論」ということになります。
 そもそも、「標準からはずすことを前提にした設計」をする必要があるのか?という疑問もありますし。

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