第一章 野鯉の構造・形態とその生態

1.野鯉の定義
2.鯉の構造と形態
3ハネとモジリ

 

 野鯉を釣るためには、まず野鯉のことを知らなければなりません。兵法にいう『敵を知り、己を知らば、百戦すれども危うからず』というところです。

 ここでは、野鯉の構造・形態及び、それに起因する生態について述べようと思います。 ところで、我々釣り人が好んで使う野鯉という言葉は、一般の鯉とは別の種類のものなのでしょうか。

<野鯉の定義>
  野鯉の定義には、釣り人がこだわるだけで、生物学的分類上では野鯉という種はありません。鯉科鯉目一種だけです。                      
 しかし、釣り人にとっては、何故か野鯉という言葉に強く魅かれるのです。
それは、観賞用ペットとして人間に飼育されている鯉や、釣り掘りなどの人工的に囲われた池の鯉では無く、自然の中で自由に生きている野生の鯉を釣ることに無上の喜びを感じるからでしょう。
 そしてまた、鯉釣りを以前の漁業や単なるレジャ−の延長としてではなく、スポ−ツとしてル−ルあるものとして考えるようになったからにほかありません。
 そこでここでは、野鯉の定義を、自然の中で自らの力で自由に暮らしている鯉とします。すなわち、野生化した鯉です。その中には、いろいろな体型や体色を持ったものがあり、代々その地で自然繁殖してきたもの、放流された鯉の子孫、稚魚のときに放流されたもの、そして成魚放流されたものなど実に様々なものが含まれます。



<野鯉と養殖鯉>

 一般に、釣り人は、昔の掛け軸に描かれているような体高の低い細長い体型の鯉を野鯉と呼び、放流された鯉及びその子孫には、食用として交配された大和鯉と呼ばれる体高の高い体型のものが多いので、これを野鯉と区別して放流鯉とか養殖鯉と呼ぶことが多いようです。
 しかし、本当に厳密に野鯉と放流鯉の区別はつくのでしょうか。例えば、高地のダム湖に生息している鯉の殆どは、放流された鯉及びその子孫ですが、貧栄養湖の影響で痩せこけた細長い体型のものが多く、透明度の高い水質のせいか素晴らしい黄金色の体色をしています。
  また逆に、平地の栄養豊富な湖沼や河川には、黒ずんだものや白っぽい体色の鯉、そして丸々と良く肥えた体高の高い鯉が少なくありません。
  体色や体型は、その鯉の生息する環境によって固有のものが形成されると考えたほうが自然でしょう。
 地鯉という言葉があります。その土地土地に住む固有の野鯉の事をそう呼びますが、これはその環境に即して適応したそれぞれ独自の姿形を持っています。
  こうして見ると、姿形だけでは容易に野鯉とそうでないものとの区別はつきません。
誰もが理解できる相違点が無ければ、区別を定義する事はできません。
  釣り人にとって、野鯉とは氏より育ちです。たとえ生粋の野鯉の血統を持つ鯉でも、釣り堀の鯉を釣って野鯉を釣ったとは誰も思いません。逆に、放流された鯉でも、自然の中で何年も生き延びてきた鯉は、もう立派な野鯉だと言えます。
 もし、氏も育ちも揃った鯉だけが本当の野鯉だというのなら、それをどうして証明するのでしょうか。
 例えば、野生の証明が、全く人間の手付かずの環境の中で育ったということであれば、現代の日本にはそんな所は殆ど無いといって良いでしょう。人間の垂れ流した残飯や有機物を全く食べないで、自然のエサだけを食べているものが野鯉であるなら、そんな鯉はどこにも居ないといって良いでしょう。
 さて、前置きの定義が長くなり過ぎましたが、これは野鯉と放流鯉と区別して考えると、その生態や釣り方にも影響してくるからなのです。

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