定山渓天狗岳

 札幌市という大都市に存在しながら、携帯すらはいらず(笑)、絶滅の危機に瀕する植物が数多く生育する山ということで出かけてみました。当然目的は絶滅の危機に瀕する植物の観察です。なおこの山は登山道があまり整備されておらず、川に沿って登っていくという感じなので危険な場所が多いです。登られる方は十分注意して登ってください。

今回注目してみた植物(絶滅の危機に瀕する植物に注目しました)

なお、レッドリストについて詳しいことが知りたい方はこちらをご覧下さい

では、実際に登ったときの様子をご紹介しましょう。

ふもとはこのような針葉樹林が広がっていて、大変に暗いです。しばらく進んでいくと川にぶつかります。川を何度もわたることで徐々に標高を上げていきます。

 

大体5合目付近?(定山渓天狗岳は何合目という標識がない)の森林です。最初の写真より光が多く差し込んでいるのが分かると思います。標高をあげると、温度の低下・風・雪の影響などにより、一般的に樹高はどんどん下がっていきます。もっともここは沢沿いのため、沢のあたりに木がないことと、沢沿いの木はそれほど大きくはならないこともありますが…

この辺では、このシラネアオイ、と言う植物がよく見られます。落ち着いたうすピンク色をしていて、大変可憐な花です。この定山渓天狗岳では、結構大群落を作っています。こうして近づいてみても美しいのですが、ちょっと離れて群落全体を眺めてみても非常に美しいです。ちなみに、このシラネアオイ、日本の固有種なんだそうです。

 

これは大体8〜9合目付近の森林の様子です。別に沢沿いではないのですが、かなり樹高が低くなり、光が差し込んできています。ここを抜けると、すぐにお花畑に出ます。そこでは色とりどりの花が咲いていました。いくつかご紹介しましょう。

   
これは、チシマフウロという植物です。高山帯であればたいていの山に存在します。私の偏見で言えば(笑)、結構地域により変異が激しく、去年ニセコで見た個体とはずいぶん違いという印象を受けました。   続いては、ヘビイチゴです。分布は広く、日本全国で生育しています。名前のとおりイチゴの仲間で、小さなイチゴのような実をつけます。山で登り疲れたとき、この実を発見したら食べてみるのもいいかもしれません。   最後は、キクバクワガタ?という植物です。似た種に、エゾミヤマクワガタというのがいて、ちょっと見分けがつきづらく、どっちかはよく分かりません(笑)。植物なのに、クワガタ、と言うのもおかしな名前ですね。

 

このお花畑をすぎるとまた森林の中に入っていきます。しかし、頂上はもうすぐそこです。最後に急坂がありますが、気をつけて登れば大丈夫でしょう。この、頂上までの道に今回捜し求めていたもののひとつがありました。

 

 これは2枚とも、サクラソウモドキの写真です。登山道付近にまるで普通に生育しています。モドキという名が付いている事から分かるように、サクラソウという種も存在し、この種もまた、絶滅の危機に瀕しています(サクラソウはレッドリストのランクで言うと絶滅危惧U類)

 

 サクラソウモドキのほか、こんなかわいらしい花も咲いていました。サンカヨウって言う名前です。葉っぱが変な形をしているので分かりやすいです。

 

とまあ、なんだかんだでやっと着いた頂上です。ちなみにこれは山頂から見えた羊蹄山です。この頂上付近でもうひとつの発見がありました。

 これは、タカネグンバイの写真です。頂上付近の岩壁に細々と生育していました。近づける場所にないため、正確な個体数はわかりませんでしたが、この定山渓天狗岳の個体群はかなり危機的な状況にあると思います。

 一般に植物などが絶滅の危機に陥る場合、原因は以下の2つが主なものです。

 前者の場合、開発などが直接その種を破壊する場合と、直接は破壊しなくても、その種の繁殖に必要な種が開発などで絶滅してしまうと連鎖的に絶滅してしまう(植物では花粉などを運んでくれる昆虫・鳥など)と言う2パターンが考えられます。

 人間が現れる前、生物種の絶滅は生物同士の競争、及び大規模な気候変動により起こっていました。このときの生物種の絶滅するペースは100年に90種とも言われています(*1)。そして人間が歴史上に登場し、最近の生物種の絶滅するペースは400年に300数十種、つまり100年に75種以上といわれています(*1)。人間が登場する前の方が絶滅速度は速いかもしれませんが、それは隕石の衝突や大陸の移動、地球規模の気候変動(氷河期の到来、または衰退)など、非常に大規模な環境変異があっての話で、これといった気候変動のなかった間に、100年に75種以上というペースで絶滅していくのは明らかに異常なことです。

 今回定山渓天狗岳に登り、このように絶滅の危機に瀕する植物を見てきました。札幌市ですら、このような絶滅の危機に瀕する植物の生育する場所が残っているのです。北海道にはまだまだ豊かな自然が残されています。そのような自然を守るということは、何も特別な知識が要るわけではないのです。ただ一人一人が自然を愛し、大事にしてくれればいいのです。未来にもこの自然を残していくために……

*1 保全生態学入門 文一総合出版 鷲谷いづみ・矢原徹一著 p51より

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