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 糺宮神社から1台のバイクが飛び出してきた。
 ブルーのZZRに二人乗りした刃と真だ。
 門をでたときに、ちょうど幼稚園帰りの集団とすれ違い園児の一人とぶつかりそうになった。
 「オー、あぶねーあぶねー」
 などとおどけている刃に向かって
 「私はまだ死にたくありませんからね。」
 などと後ろから真がつぶやいている。これから糺宮神社の例の分社に向かっているところだった。どーでもいいがヘルメットはどーした。
 真の家、つまりは糺宮神社から分社までは3駅ぐらいはなれている。バイクを操りながら、
 「ここんとこ、この手の仕事ばかりだな」
 「そういえばそうですね」
 などと会話をしている。実際刃がこの仕事を始めたのは高校に入って一月ぐらいたってからだったが、ここ2〜3ヶ月の間はこのような仕事が続いていた。
 「こんなに霊害が続けて起こるということは……」
 真が少し考え込むと
 「何か心当たりがあんのか?」
 「えぇ、実は…」
 と真が言いかけたとき、後ろからけたたましいサイレンが近づいてきた。
 「前のバイク、止まりなさい」
 と、パトカーが近づいてきている。刃はミラーを見ながら
 「ちーとばっかし飛ばすぜ」
 と、真の返事を聞く前にアクセルを回した。どうやら振り切るつもりのようだ。
 「素直に止まれーーー」
 などと声が聞こえてくるが、全く気にする様子もなく素早く裏道に入り込んでゆく。バイクなら通れるが、車は通れそうもない道ばかりを選びながら右に左に曲がってゆく。
 「ここらまでくれば、もう大丈夫だろ」
 などと言いつつ後ろを見ると、
 「…………」
 真はサイレンの音が遠ざかっていく方向を見ていた。
 「……どうかしたか?」
 「榊君、交通違反はいけませんよ」
 「改造車乗り回してるお前に言われたかねーよ。……時にお前、ヘルメットはどうした?」
 刃に言われ、真は思い出したように頭を触って、一言。
 「……スペア、ありますか?」
 「………単車のどこにそんなもん積むスペースがあるんだよ」
 あきれた刃は、額に手を当てて天を仰ぐ。
 「何の抵抗もなく乗ったから、てっきり持ってるもんだと思ったんだけどな……」
 「そういうことは乗る前に聞いてください。それに……私、バイクなんて持ってませんよ?」
 さらり、と言ってのける真。
 (……こいつに口で勝とうと思った俺が馬鹿だった)
 あきらめた刃は向き直ると、再びエンジンをふかす。
 「飛ばすぞ」
 「ちょ、ちょっと……うわっ!」
 短く言うと、刃は一気にZZRを発進させた。同乗者の苦情を軽く聞き流しながら。


 十数分後。
 人気もとうに絶えた聖華高校の中を、二人は問題の場所に向かっていた。
 「……今度から絶対に後ろには乗りませんからね」
 息も絶え絶え、といった感じで、真は刃をにらみつけた。
 「今度から乗らないって、帰りはどうするんだ、お前。歩いて帰るのか?」
 「ここからだと、澪の家が近いんですよ。送ってもらいます」
 「お前なぁ……そんなに嫌だったか?」
 「嫌です」
 取り付く島もなく、真はきっぱりと言ってのける。
 「あれだったら、まだ瀬名さんの助手席のほうがましです」
 「瀬名さんって……よくお前の話に出てくるあの人だろ? そんなにやばいのか?」
 「……白昼堂々とNSXでカーチェイスする人の助手席に乗りたいですか?」
 「うーむ……そいつは遠慮したいなぁ……」
 もちろん、日本の法律は白昼堂々とNSXでカーチェイスなど認めてはいない。
 「……お前も、いろいろ大変なんだな……」
 「ええ、大変なんです……」
 しみじみと語る真。
 「ていうか、そんな人と一緒にするなよ……」
 などと語りながら桜並木を進んでゆく。
 「そろそろ着きますね……」
 今までの雰囲気と一転して神妙な面もちで真がつぶやく。
 「そろそろ教えてくれても良いんじゃないか?」
 なかなか本題を切り出さない真に刃が訪ねる。
 何を言いたいのか分からないといった様子で、
 「何をですか?」
 と答える。初めからまともに答えると思っていなかったのでそれ以上追求しないが、やれやれと言わんばかりに頭をふる刃。
 「ところで、糺宮神社の分社の建てられた目的って何なんだ。」
 真が簡単に本当のことを話さないのが分かっている刃は、ほかに疑問に思っていることをきく。
 「あぁ、それはですね……」
 と真が言いかけたとき、明らかに今まで吹いていた風とは違う突風が二人を襲った。どう考えても自然のものとは思えない風が。
 「何だ、この風は!」
 と、真を庇いつつ叫ぶ刃。
 「私に聴かれても……」
 困惑げな顔で答える真。
 「お前が言ってた人外のものの仕業じゃないのか?」
 と率直な疑問を聞き返す。
 「いえ。それならばもっと前に私が気づくはずです。」
 自信ありげに言い返す真。
 「それもそうだな」
 真の力を知っている刃は、それ以上は追求しなかった。
 (それにこの風、微かだが人間の臭いがする。てー事は人為的なものか?)
 「いつまで続くんですかね、この風は!」
 と苦情を言う真。別に刃に言ってもどうにかなるとは思えないがつい苦情を言っている。
 「俺に聴かれてもなぁ。それよりはっきりしてる事が一つだけある。この風が人為的なものだって事だ」
 実際そんなことができる人間など常識に当てはめて考えればいるはずがないのだが、常識に当てはまらない人間が近くにいるとすぐに思いつくことができる。
 「なぜそう思うんですか?」
 聞き返す真に刃は、
 「風にまじって、人の臭いがする。それに敵意、いや殺意といった方がいいか、そいつが感じられる。それに、いつもお前の力を見てるとな」
 と言う刃。世間では霊力などと呼ばれている力を持つ真は、
 「私の力と一緒にしないでください。それにあなただって似たようなもんでしょう。わけの分からない体術を使ってるんですから」
 知りもしない人物と一緒にされて憤慨した様子で答える真。そんなやりとりをやっていると、何の前触れもなく風がやみそのかわりに激しい金属音が聞こえてくる。お互いに顔を見てうなずき、金属音のした方に走りだす刃と真。
this page: written by syu, Hikawa Ryou.
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