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7
 暗い部屋に、人影がいくつかある。会話をしている様で、一人の男が声をはっしている。
 「晴憲の封印は、分社の方ではなかった様です。とんだ骨折り損でしたね」
部屋の入り口の所にいる男が、相対する所にいる人影に向かって喋っている。
 「ですが、分社の方で思わぬものを見つけまして……」
 「そんな事はどうでも良い!それよりも、晴憲の封印されている場所は分かっているのか!」
向かって一番右の、腹がでている男が苛立たしげに話をさえぎったのでしょうがないといった感じで
 「そちらの方は抜かりは無いですよ。後2、3日すれば分かると思いますよ」
 「急がせろ。あまり時間に余裕があるわけではない。それに、何やら邪魔が入ったそうではないか?」
部屋の一番奥にいる男が、問いかけてくると
 「その件に関しては、破談屋に任せてあるんで」
と、言い返す。
 「あらぁ、破談屋に頼んだの。そこまでしなくても良いんじゃないの」
微笑しながら、この場には似合わないような女が語りかけてくる。
 「いえいえ、何事にも万全で望みませんとね。特に今回は失敗は許されませんしね」
後半の部分は先ほど怒鳴りつけてきた男に向かって皮肉を込めて答える。もっとも皮肉ということも分かってもらえるとは思えなかったが、
 「分かっているならいいが、なるべく急いでやるんだ」
やはり、皮肉とは分からず機嫌を直したのか腹の出ている男は偉そうに話し掛けてくる。
 (ふん、やはりこの男は使えないな。分かっていたがここまで愚かだと話す気にもならないが、やはり気をつけるは後藤か)
一番奥にいる男を見ながら、自分の考えに間違いはないと思う。後藤という男に関しての情報は不明な点が多く、それに頭の回転が速い男だった。
 「報告は以上か?無いならそろそろ開きにしよう」
後藤はそう告げると早々に席を立ち部屋を出て行く。それに習うようにすべての人間が出て行くと、男以外には誰もいなくなる。
 「ククク…、これでいい。ここまでは何もかも順調だ。後藤の奴は厄介だが、まだ利用価値がある」
そう呟くと、おもむろに電話に手をかけ手なれた様子で番号をプッシュする。数回コールが続いた後、相手が出る。
 「もしもし」
低い声で返事が返ってくる。お世辞にも電話の受け答えがいいとは言えないが気にした風も無く
 「相田だ。例の件についてだがどうなっている?」
 「昨日接触したが、なかなかのやり手のようだな。とりあえずは、おまえの言うとおり様子見だけにしておいたが」
と答えてくる。その答えに納得し
 「そうか。相変わらず仕事は速いな、戒。あいつは使えるかもしれないからくれぐれも殺すなよ」
と、念を押す。
 「あぁ、分かっている。用件はそれだけか。無いなら切るぞ」
といって、返事も聞かずに電話が切れた。どうやら事は、今のところ相田という男の思惑どうり進んでいるようだ。椅子に深深と座り目を閉じる。


 朝から刃は不機嫌だった。その理由は分かっている。昨日、聖の店を出てからすぐ尾行されていたからだ。尾行されるようなことはよくあるのだが、今回はされる理由が思い当たらなかった。いつもなら気にすることも無かったのだが、厄介な仕事をしている途中だというのもあり、少し強引に相手をおびき出そうとしたのだが相手が悪かったようだ。暗い裏路地に誘い出した男からはものすごく嫌な威圧感が発せられていた。
 「誰だい、あんた……」
威圧感に気おされながらもそう聞く。
 「答えるつもりは無い。答えてもらうつもりも無いだろう」
 「はっ、それもそうだな。で、俺に何のようだい。金は持ってないぜ」
と強がりながらやり返す。
 「金には困ってない。それに無駄話をこれ以上するつもりも無い。おまえもこっちの世界にいるんなら分かるだろう」
と言ってから襲い掛かってくる。
 「ちぃ……」
 すばやく突っ込んでくる相手に、半身になりながら構えながら攻撃をかわす。やられてばかりにはいかず、やり返す。まずは右足で上段に蹴りを入れその反動で左の後ろ回し蹴りを入れる。しかし、すんでのところでかわされる。かわすついでとばかりに腹に蹴りを入れてくれる。
 「ぐぅ、……てぇ」
 うめきながらも構えを崩さない。相手と間合いを取りながら息を整える。
 (強い、それにえらく早いな。しゃあないやるか)
 ふと気合を入れなおすと、今度はこちらからしかける。さっきと同じように上段に蹴りを入れ今度は顔めがけて殴り飛ばす。それを相手がかわすと、すばやく近づきゼロ距離射程からの打撃を与える。さすがにこれはかわしきれない様で2、3メートルほど吹っ飛ぶ。いつもならこれで大体かたがつく。少なくともしばらくは動けなくなるはずだった。だが、
 「ほぅ、なかなかやるな」
と平然としている。
 「な、これで立てるってか」
 背中に冷たい汗が流れた。握り締めた手のひらにはべったりとした汗がある。脳裏には嫌なことばかりが映し出される。
 「今日はこんな所か」
 そう言うと、それ以上何も言わず後ろを向いて去って行く。男が完全に見えなくなってからその場に座り込んだ。
 「くそ!なんだってんだ。」
 昨日のことを思い出してはそう呟く。こっちの世界にいるからには常人よりもこういうケースに見舞われることも多い。だが、何の理由も分からずに襲われた事は無い。そんな事があって苛々していた時に聖から電話があった。いつもは直接電話をしてこず、代わりの人間が連絡を取ってくる。仕事に関係がある話だったら間違い無くそうやってきていた。それに、
 「刃か、話があるからすぐ来てくれ」
とそれだけを伝えるとすぐに切れる。仕事の話なら直接電話をしてこないだろうし、プライベートでの電話なら用件を伝えるだろう。考えていても埒があかないので聖の店に行っているのだが、苛々しているのが顔に出ているのが分かる。自分でも分かっているがそういう感情が顔に出やすい性質なのだ。周りを歩く人達が距離をおこうとしながら歩いていっている。そうこうするうちに聖の店が見えてきた。いつもどおり進んで行くと、店の前に綾香が立っていた。こっちに気づいたらしく声をかけてくる。
 「あ、おはよう刃。お兄ちゃん待ってるよ」
そういうと案内するように店に入っていく。その後についていくと昨日とは違う部屋に入っていく。
 「いつもの部屋じゃないのかよ」
と聞くと
 「うーん、なんか仕事の話だけじゃないから自分の部屋に通してくれって言われてるんだ。……なんかさぁ、今日機嫌悪くない?」
どうやらまだ顔に出ていたらしい。苦笑しながら
 「昨日ちょっとした事があったんだ」
と前置きしてから昨日のことを簡単に説明した。
 「ちょっと、大丈夫なの刃」
と心配そうな顔をしている。昨日蹴られた所が痛くあまり大丈夫じゃなかったが、強がってみせる。
 「無事じゃないならここにくるわけ無いじゃん」
と茶化して言うと
 「……実はね、刃。昨日あんたがきた後に………」
と何か言いそうにしていたら聖の部屋についたようだった。
 「いいや。お兄ちゃんが話すと思うから」
珍しく歯切れの悪い言い方をしてくる。
 「何だよ、気になるじゃねぇか」
と追求してみた。実際、綾香の性格を知っているのでこういう歯切れの悪い言い方をされると気になる。
 「なんか心当たりがあるのか?」
ふと思ったことを聞いてみる。
 「それもお兄ちゃんが話すと思うから。ほら、行くわよ」
と言って背中を押してくる。そのまま正面のドアをくぐると、聖がコーヒーをすすりながらスポーツ新聞を読んでる。どうやらこの手の新聞のお約束的な場所を読んでいるのだろう、顔がニヤニヤしている。
 「……おやじくさいっすよ、聖さん……」
 「……おやじくさいよ、お兄ちゃん……」
と、二人が見事にはもった。同時に同じ事を言われて、とりあえずゴホンと咳をしながら真面目な顔になる。少し顔がヒクヒクしている。
 「やっと着たな刃。……どうでもいいけど二人してそんな目で見るな」
どうやら綾香も同じ目をしていたらしい。
 (何回会ってもつかめん人だな)
 「実は今日呼び出したのは、まずはこれだ」
と言って茶封筒を差し出してきた。
 「そいつはこの前頼まれてたやつだ。それと分社の方のやつはこいつだ」
またべつの茶封筒をわたしてくる。それをあけて、中身を取り出す。思っていたより量があり、一枚一枚めくっていく。
 「あちゃー、こんなにいるんかよ。しかしまぁ真の家に手を出そう何ざ命知らずなやつらだな」
と、資料をめくっていると聖が声をかけてきた。
 「織姫家は、その道じゃ有名だからな。だが、あくまで可能性がある奴と言うだけでそいつらじゃない可能性もある」
と引っかかる言い方をしてくる。聖がこんな言い方をしてくる時は、大体見当がついているときだけだ。
 「で、正直なところどいつらなんですか?見当ついてるんでしょ」
 「ま、大体はな。渡した資料にもチェック入れてるんだが、最近氷浦市に進出してきている企業がある。表向きは普通の電子部品を専門に扱っているメーカーなんだが、裏じゃいろいろやっているらしい」
と説明してくれる。だが、納得できないことがあった。
 「電子部品メーカーってそんな、今回のことと関係あるんですか? 科学とはまったくの正反対じゃないですか」
 「あぁ、まったく反対なんだ。それで最初は迷ったんだがな。実はそこだけじゃないみたいで、ほかにもいくつか企業が絡んでいるみたいなんだ。まぁ、何をしようとしているのかは分からんが、ろくな事じゃないのは確かだな」
と説明をすると、綾香に飲み物を持ってくるように頼む。
 「うん。刃は何がいい?」
綾香がリクエストを聞いてきたので、コーヒーをたのむ。
 「それで、今日呼び出したのは何でですか? 仕事の話だけじゃないんでしょう。いったいどうしたんですか」
仕事の話だけなら、いちいち呼び出したりするような事はしない聖が呼び出したと言うことは、それ意外に何かあるときだけだ。
 「……おまえ、昨日襲われただろう? そいつについてだ」
 「な、……さすがに情報が早いですね」
 まさか、昨日のことが知られていないと思っていたが、聖の情報網は刃が思っていたより迅速かつ正確だったようだ。
 「実はな、おまえを付け回している奴がいるって言う情報があったんだ。別に、こっちの世界にいるんならそんな事は日常茶飯事だが、相手が相手だったから気になってたんだ。悪い事は言わない、そいつには関わるな、って言っても無駄のようだな」
刃の顔を見てそう言ってくる。
 「当たり前じゃないですか、仕事でやってんですからね。それに、売られた喧嘩は買うようにしてるんで。」
ため息をつきながらも聖が忠告してくる。
 「ま、せいぜい気をつけろよ。あ、それとなおまえの友達……真って言ったか? そいつが倒れたそうだぞ」
と意外なことを言ってくる。
 「何でそんな事まで知ってるんですか……」
にやっと笑いながら
 「企業秘密って奴だ」
 (ほんと、何でも知ってるよな。……この人だけは敵に回したくないな………)
そうこうしていると綾香がコーヒーを持ってきた。
 「話は終った? はい、コーヒー」
と言って手渡してくれる。
 「サンキュー、あそうそう実は………」
と言いながら世間話をはじめた。それから20分後に葛城と言う人物から電話がかかってきた。
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