御木城跡にある専用駐車場に、白のR33GT−Rが高速で入ってくる。後輪を滑らせて綺麗に枠内に止める。
「ついたぞ」
そう言い放ち一人で車を降りていく。それに続くようにして刃も車から降りる。
「ここが……。ここに晴憲の怨霊が封印されてんのか」
車のカギを閉めながら葛城が答えてくる。
「あぁ…、そうだ。もっとも、俺や司さんの推理が正しければの話だけどな」
いつもと変わらぬ顔で答えてくる。
「そうあってほしいもんだね。もっとも、はずれるなんて思って無い顔してるけどな、あんた」
そう言う刃に
「すこしは目上に対する礼儀ってものを勉強しろ」
葛城が相変わらずのポーカーフェイスで答えてくる。やはり一筋縄じゃいかない人間のようだ。刃は少しむっとしてきた。最近ろくな事が無く、おまけに真が倒れた等という事件が発生し挙句の果てには闇討ちを食らってしまった。誰かが、呪ってるんではないか、などと考えてしまう。
「どうしたんだ、難しい顔をして?」
急に黙り込み、難しい顔をしていた刃に向かって話し掛ける。
「いや、別に。最近ややこしい事が続けて起こってるから、誰かが俺を呪ってんじゃないかと思って」
考えていた事をそのまま言うと、さも呆れたように葛城が
「そんな馬鹿なことがあるわけが無い」
と答えてくる。
「確かにね。だけど、これは偶然じゃないような気がしないかい? 葛城さん」
そういうと、これまでの事を簡単に説明した。今までの事件をよく考えると、偶然とは思えなくなる。あまりにもできすぎている。
「確かに、それはできすぎているな」
刃の話を聞いて、葛城も同じような答えに達したようだ。
「そうだろ? 封印を解いた日に、いきなり襲ってくるなんて事は……」
と話していると、聞き覚えのあるエンジン音が聞こえてきた。すると、二人が入ってきた入り口から黒のインプレッサが、葛城の運転に負けず劣らずのスピードで突っ込んできた。
キュキュキュキュキュ、と後輪を滑らせながら刃の方に突っ込んでくる。ふと葛城のほうを見るとすでにその場から離れていた。急いで立ち上がりドリフトしてくるインプレッサを間一髪のところでかわす。インプレッサはそのまま葛城のR33GT−Rの横に止まった。
ガチャッ、と小気味のいい音をたててドアが開く。
「あ、葛城さんも来てたんですか。おはようございます」
とにこやかに挨拶をする。真だ。
「真君、体はもういいのか」
この場にいないはずの人間が、いきなり車をぶっ飛ばしてきたのでさすがの葛城も驚いたようだった。
「えぇ、もうすっかり」
そう答える真は、元気そうだった。
「そうか、それはよかった。だが、もう無茶な事はしないようにしてくれ。みんな心配したんだ」
葛城は、そう言ってから真の肩をポンポンとたたいた。
「本当に、ご心配をおかけしました。それより」
そういうと、表情が変わり、後の方を振り向く。
「ここなんですね。晴憲の霊が封印されているのは」
そう言う真にうなずきながら、葛城が語りかけてくる。
「あぁ、君も感じたか。正直ここに来るまでは推測の域を越えなかったが君も感じたんなら間違い無いだろう。」
葛城と真、二人の退魔士がそろって感じると言う事はまず間違い無い。
「じゃあ、ここを張っていれば……」
そう言っている真の後ろから、青い顔をした刃がチョークスリーパーをかけそのまま叫び出す。
「なにシリアスに会話してんだ、おまえは!! 人を殺す気か」
と言って真にまくし立てる。
「なに考えてんだ! 人をひきそうになってシカトしやがって。それに葛城さん、あんたもなに和やかに真と会話してんだよ」
ビシッ、と葛城に指を突きつける。
「ひかれそうになるのは自業自得だろ。それよりも、早くその手を離さないか。真君の顔が青くなってるぞ」
そう言われ、真が青い顔をしながらもがいていた。
「げほっ、げほっ……なにするんですか。また倒れるところだったじゃ無いですか、まったく。加減ってものを知らないんですか、刃」
青い顔で抗議する真の顔は笑っていた。
「ははっ、悪りぃ。ってその前にお前が謝れってんだよ!」
刃も笑いながら言い返している。
「あぁ、ひきそうになった事ですか?そんな事気にしてちゃだめですよ」
そんな感じの会話を交わす二人を見ながら、葛城も笑っていた。真が子供のときから知っているが、こんな風に友達と話す真ははじめて見る姿だった。いつも友達と言える人にでさえ、真は一線をひいている感じが合った。しかし刃とは憎まれ口はたたいても、そんな事は無いようだ。
「ったく、心配したんだぜ、お前が倒れたって聞いたときは」
まだ会話は続いているようだった。
「ははは、すみません。やっぱりちょっと無理があったみたいです。でも、刃が葛城さんと知りあいだったなんて知りませんでした」
葛城と刃を見ながら真が疑問をぶつけた。
「ん、実は葛城さんから電話がかかってきたんだ」
「そうなんですか?」
と聞きながら、真が葛城の方を見る。
「悪いとは思ったが、真君の携帯を見せてもらったよ」
謝りながら言ってくる葛城に、
「いえ、それはいいですけど。それよりよく刃だと分かりましたね」
まだ真は疑問があるようで聞いてくる。
「あぁ、仕事以外で真君が倒れるようなことを頼むのは刃しかいない、と司さんが言っていたんだ。実際思ったとおりっだったようだがね」
そう言うと刃が、
「なんだよそれ、俺がいつもそんな事ばっかりしているみたいじゃないか」
抗議の声をあげる刃に、しらっとした顔で真が答える。
「そんな事ばかりしているみたいじゃないかって、自覚してないんですか刃?実際にそんな事ばかりしてるじゃありませんか」
真の悪意の無い辛辣な言葉が飛ぶ。
「それじゃまるで俺が、トラブルメーカーみたいじゃないか。俺はトラブルバスターやってんだぞ」
ぶつぶつ言っている刃と笑っている真に向かって葛城が声をかけてくる。
「おしゃべりはそこまでにして、そろそろ行こうか」
葛城の言葉で今までじゃれあっていた二人が振り向き、御木城跡に向かって歩き出した。三人とも雰囲気が違っていた。三人ともが感じているものは、これから起こる事が、笑って済まされるものじゃないと言う事だけだった。
刃たち三人が御木城跡に向かい歩を進めていると、周りの注目を集めていた。まだ朝とはいえ、人はそれなりにいる。普通ならばもう学校に行っている筈の高校生風の二人と、三十路を過ぎたばかりの男の組み合わせである。目立たない方がおかしかった。
「なにか、異様に目立ってませんか?」
とつぶやく真に、
「うーん、やっぱりそう思うか。実は俺もそう思ってたんだよな」
「異様な組み合わせだからな。目立ってもしょうがないさ」
刃と葛城が答えてくる。
「困りましたね。まさかこんなに人がいるとは思いませんでしたよ。これじゃ、いざというときに周りの人も巻き込みかねないですね」
困惑げな顔で真がつぶやく。
「そうだな、相手が常識を知っているとも思えないからな。一般人の出入りのほうは禁止するようにした方がいいだろう」
葛城がそういうと携帯を取り出した。
「何処に頼むんですか。JGBAですか?」
真が葛城にかける相手を聞いてくる。
「あぁ、今回は広域特務課にも頼んである」
広域特務課と聞いて、真が嫌な顔をした。
「という事は、あの課長が来るんですね」
とてつもなく嫌な顔をしながら真がため息をつく。
「今回は事態が事態なだけにしょうがないだろう。下手をすると某県全体が魑魅魍魎の巣窟になってしまうからな」
葛城が真をなだめるように話し掛ける。その横で刃が二人の会話についていけず、渋い顔をしている。
「ところで、JGBAとか広域特務課って何なんだ」
と刃が聞いてきたので、真が説明する。
「JGBAというのはですね、正式には日本退魔士協会といって名前のとおり退魔士関係の協会で、民間の魑魅魍魎撃退組織やフリーの退魔士で形成されている組織です。どうでもいいんですがあそこの受付は変えるべきですね。広域特務課は、日本で唯一の公的な魑魅魍魎撃退組織です。所属は某県警なんですが、日本全国で活動しています。公的施設に限定してますけどね。そこの……」
と真が説明して、なにか言おうとしたら
「そこの課長がむかつくんだな」
刃が横から口を挟んでくる。
「そうなんですよ。あそこに頼むのは嫌なんですけど、仕方ありませんよね」
またまた真がため息をつく。よっぽど嫌いなようだ。
「しょうが無いだろ、こういう場所の封鎖なんてのは公的機関の十八番だろうからな」
今まで離れて電話していた葛城が近づいてきて、話に入ってくる。
「一時間後には封鎖できるそうだ。それまでは晴憲が封印されている場所で待機しておこう」
葛城の言葉にうなずく二人。晴憲の封印されている場所につくまでに刃は真のため息と、課長の悪口を散々聞くはめになったのはいうまでも無い。
この場所は暗い、相田はそうつぶやいた。
ここは後藤が取り仕切る組織の、いわば集会所みたいな場所だった。後藤が取り仕切る組織とは、俗にいう死の商人である。死の商人といっても、ミサイルなんかを売っているのではない。科学と魑魅魍魎の力をあわせた新しい兵器を開発し、それをさばいているのだ。表向きは電子部品メーカーだが、裏ではここ10年で大きな販売層を持つ組織になっていた。相田は、元退魔士の能力を買われ、情報収集やサンプル集めのために雇われている。今回は、今までと違いかなり大きな仕事になりそうだった。そのため、退魔士の世界では三本の指に入る織姫家とももめる事になった。
「ものを知らないという事は幸せだな」
そう相田はつぶやく。
「まぁ、そうでなくては取り入った意味は無いんだが」
暗い廊下を進み、いつもの様にドアをあける。音も無くドアが開き中の様子が見えてくる。どうやら全員集まっているようだ。
「来たか」
一番奥にいる後藤が話し掛けてくる。いつもの場所に行き、話し始める。
「封印の場所が分かりました。場所は御木城跡地のようです。先ほど広域特務課が動いたという情報もあります」
相田の言葉に、後藤が反応をしめした。
「広域特務課が動いたか。えらく反応が早いな」
後藤の言葉は、相田が思っている事と同じだった。ここまで早く反応するとは思っていなかった。
「どうするんだ相田!」
後藤の右側に座っている小太りの男が怒鳴っている。どうもいけ好かない奴だった。小心者の癖にえらく威張りくさるその態度が、相田の癇にさわる。
「どうするんだ、と言われましてもやるしかないでしょう」
目線を合わせもしないで相田が答える。
「相田の言うとうりだ。問題はどうやって封印を解くかと言う事だ」
後藤が小太りの男に、と言うよりこの場にいる全ての者に告げるようにいった。
「そうですね、この前のように簡単には行きそうも無いですからね」
そう告げると、その場が静まり返る。しばらくしてどうするか話が始まる。その様子を見ながら、相田は黙していた。それから一時の間話し合いが続くが結局どうするかが決まらない。
「私に考えがあるんですが」
頃合を見て話を切り出す。
「なんだ、言ってみろ」
後藤が答えてくる。
「では、………」
と相田が話を切り出す。それは、刃たちが封印の場所についたときだった。 |