日が落ち、空が暗くなっていた。ここは御木城跡。そこには2つの人影が向かい合って立っている。
「まさか、あっちの方がやっぱり本命でしたって事はないよな?」
立っている方の刃が座っている真に向かって話している。
「それは無いと思うんですが……、やっぱりほってはおけないでしょう」
そう答えるが、真にも分かっていた。ついさっき、刃の携帯に電話がかかってきて聖華高校の方に向かっている人間がいるとの情報が、聖からもたらされた。
それを聞いた葛城が聖華高校の方に向かい、刃と真が御木城跡に残った。
戦力的に考えての采配だ。
霊力は人一倍ある真だが、生身での格闘は人並みである。刃は霊力は無いが、格闘に関しては人より優れている。
その点葛城は、霊力は真に及ばないにしても、符術を使うので格闘戦になっても引けを取ることが無い。
それらの事を考えて、葛城が聖華高校の方に向かう事になった。
「それにしてもなぁ、まさかこんな時にやって来るなんて都合がよすぎないか」
ぼやくように言って、周りの様子を見る。少し考え込むように難しい顔をして、真の方に振り返りながら話し掛ける刃。
「やっぱり、偶然じゃないだろうな。」
ふぅ、とため息をつきながらも真が刃の言葉に相槌を入れる。
「えぇ、あまりにタイミングがよすぎますからね。しかし、いったいどこのどなたがそんな事をしでかしてくれたんです。」
真は不満をぶちまける。
「そう言えば言ってなかったな、聖さんの情報では電子部品を主に扱ってるメーカーらしいぜ」
そう刃が言うと、
「はぁ、電子部品メーカーですか?そんな所がなんで晴憲の御霊なんかに手を出すんですか」
頭の上に疑問符がいっぱい並んでいる真に向かって
「まぁ、そこだけじゃない様なんだけどな」
刃の答えを聞いても納得が行かない様子の真が
「いったい何をする気なんでしょうね?」
と刃に聞いてくる。
「俺に聞くなよ。まぁ、ろくな事じゃないだろうけどな」
聖と同じような事を言う刃。そうですね、と答えて真が立ち上がる。
「暗くなってきましたね」
あたりを見回してそう言ってくる。
「そうだな、来るとしたらこれからだろうな」
刃の言葉にうなずく真。
「そろそろ準備をしておいた方がいいですね。刃は準備しなくていいんですか?」
自分の道具を入れてあるバッグをベンチに乗せて、中のものを出しながら聞いてくる真。
「俺の方は、これだけだからな」
と言って、ベンチに立てかけてある1メートルほどもある棒状の包みを手にとって答える。
「それだけでいいんですか。今回は結構危ないと思うんですが」
刃にそう言いながらも、自分の装備を確かめている。
「そうか、いつもよりは重装備だぜ。」
と答えながら真のバックの中を覗く。
「て、ちょっと待て。なんなんだそいつは!」
真の手に持っているものを指差しながらまくしたてる。
「何って、これが何に見えるんですか?」
疑問符を浮かべながら聞き返す真。
「銃にしか見えないんだが」
冷や汗をかきながら答える。
「えぇ、そうですよ。実弾じゃありませんけど」
にこやかな顔で答えてくる真を見て、刃がうなだれる。
「いや、いくらなんでもそれは無いだろう」
そう言われて、少しふてくされたような顔で答える真。
「何言ってるんですか。私は刃のように単細胞じゃないんですよ。これくらいの装備は当たり前じゃないですか」
きっぱりと、いやみたっぷりに答える真。
「おい、だれが単細胞だ!それに、そんなもん使ったらあのいやみな課長に何言われるか分かったもんじゃないぜ」
先ほど会った、真が毛嫌いする人物のことを言う。刃も真と同じで、とてもではないが好意を持てる相手ではないと実感したばかりだった。
「そう言われればそうですね」
課長という言葉を聞いて、見る見るうちに不機嫌な顔になっていく真。
「それじゃ、銃はあきらめるとして……」
そう言ってから、またバックの中身をごそごそと調べはじめる。
「いったい何が入ってんだよ、そのバックは」
何故か楽しそうな真の様子を見て、ため息をつく。
(まぁ、俺もこいつを持ってきてるし真のことは言えないか)
ベンチに立てかけてある物を手にとって、肩に担ぐ。
「あ、着替え持ってきてるんでした。」
そう言うと、立ち上がって刃の方を見てから、
「ちょっと着替えてきますね」
そう言ってから、車の方に走っていく真。
「急いで行ってこいよ」
走っていく真の背中に向かってそう言うと、ベンチに座りこむ。
肩に担いでいる物を手にとって、包んでいる布を取り払う。
「使わないほうがいいんだけどな」
包みの中身は、日本刀だった。
「久々だな、こいつを出したのは」
そう言ってから、柄紐をほどき縛り直す。刀のすべてを丁寧に調べてからまた布で包み傍らに立てかける。
「ふぅ……」
ため息をつきながら真を待っていると、空腹なのに気づく。
腕時計を見ると、すでに午後8時半に差し掛かっていた。
「腹も減るよな、こんな時間になると」
自分の腕時計とにらめっこしながら、
「どうするかな」
御木城跡は封鎖しているが封印の場所にいるのは刃と真の二人だけで、真がいないのでこの場所を離れられない。
「今日はどたばたしてたからなぁ」
自分の腹を押さえながらぼやく。どうやらかなり空腹の様子で、今にも腹の虫が泣きそうな状態だ。
「どうしたんですか?」
そう言ってくるのは、真だった。
「え、」
どうやら真が近づいてくるのにも気づいていなかったらしい刃が振り返る。
「食べますか、コレ」
そう言う真の手には、大きめの紙袋があり中からパンやらおにぎりがでてくる。
「サンキュー、どうしたんだ」
パンを受け取ってから、刃が聞く。
「買って来たんですよ」
そう言い真も紙袋からおにぎりを取り出して、食べ始める。
今まで刃一人でいたので静かだった場所が、真が帰ってきたのでにぎやかになっていた。
「ちょうどよかったぜ、かなり腹へってたんだ」
本当にうれしそうな顔で刃が言う。
「そうなんですか、それはよかったですね」
おにぎりを頬張りながら答える真。そんな会話をしながら遅い夕食を取っていると、刃が急に真剣な顔になった。
「来たぜ、真」
そう言うとおもむろに立ち上がった。
「えぇ」
真も刃に習い立ち上がり周りを見渡す。
「結構来てるな」
刃が回りの気配を探りながらそう言う。
「よく分かりますね」
真が感心したようにそう言うと、
「まぁ、それなりにはな。こんな仕事してると嫌でもみにつくぜ」
苦笑いしながら刃が答える。
「下が騒がしいですね」
喧騒が下から聞こえてきたのを聞き逃さず真が話し掛けてくる。
「下は、おとりだろうな……」
「そうでしょうね」
刃の問いに真が答える。
「真、お前はなるべく下がってろ。」
周りに現れた屈強そうな男たちを見て、真にそう言うと刃は変わった構えをとり相手を見据える。
「分かりました」
そう言ってから真は言われた通りに後ろに下がる。
屈強そうな男たちは手に手に物騒なものを構えると、一斉に襲いかかってくる。それを迎え撃つようにして刃が前に出てくると、刃にねらいを定めた男が三人向かってくる。
それを落ち着いて見ながら刃が迎え撃つ。
「何も言わずに襲ってくるなんてたちが悪いぜおっさん達」
等と余裕を見せる刃の挑発に乗って、一人が手にしたナイフを突き出してくる。
それを、一歩下がりナイフを持った手に強烈な蹴りを放ちかわすと、すかさず攻撃に転じる。
「グッ」
男がそううめいた時には、その体は中を舞っていた。男の体は仲間の一人の方に飛んでいきぶつかる。
「せいっ」
後一人の方にすばやく回った刃は掛け声とともに蹴りを放つ。
「ちぃ」
男がそう言いながらけりを受け止めると刃を掴み投げようと足を払ってくる。
「あまい、そんなんじゃ俺は投げれないぜ」
そう言い放ち、自分の足を狙って払おうとしてくる足をすかし逆にその足を払いのけて投げを打つ。頭から落とされた相手は一発で失神している。
ドカッ、と音がしてコンマ遅れの衝撃が頭に響く。
相手を投げているときに背後に回った奴が、木刀のようなもので殴ってきたようで、地面を転がりながら間合いを取る。
常人ならそれだけで倒れるだろうが、刃はそのまま立ち上がる。
「くそっ、やってくれるじゃねぇか」
がんがんと響く頭を押さえながら刃が悪態をつく。
「ガキが調子に乗ってるからだ」
つばを地面にはき捨ててからそう言うと、男がすぐさま木刀で殴りかかってくる。
殴ってくる男のほうへ一歩踏み出し、間合いを詰めてから肘を鳩尾にぶつけ、続けて相手の首に手を回す。
「そんなんもってたって、間合い詰められれば終りだぜ」
そう言うと相手の顔を引き付けてから膝蹴りをおみまいする。
倒れた相手には目もくれず周りを見ると、真の方に何人かが襲いかかっている。
それを見た瞬間そっちに向かおうとするが、先ほど刃の挑発に乗った奴をぶつけた相手が男を振り払い立ちふさがる。
「邪魔だっ」
そう叫ぶと足元を狙い蹴りを放ち、すぐさま顔を狙ったまわし蹴りを放つ。その連続攻撃をかわしてから腹を狙った攻撃がくる。
「ぐはっ」
肺の空気をすべて吐き出しながら刃が苦悶の声をあげる。その後続けざまに殴ってくるが、それをかろうじてかわす。
間髪いれず攻撃を仕掛けてくるので、交わすことができずにそのすべてを受け止める。
自分の攻撃がなかなか当たらないので、男は投げようと刃の襟口を掴みかかるが、それを待ってましたと言わんばかりの顔をした刃が、零距離からの攻撃を加える。
前に襲撃されたときに使った技だ。
「これでどうだ!」
その攻撃を食らった相手は二、三メートルほど吹き飛び失神した。この前襲ってきた相手にはさほどの効果はなかったが、今回はどうやらうまくいった様だ。
息を整える間もなくすぐに真の方に向かう。
「うわっ」
そう叫んだ真の体が、地面をすべる。
「このっ」
倒れながらも手にしていた手裏剣を投げはなつ。
真の放った手裏剣が、吹き飛ばした相手に向かって飛んでいく。
ズシャ、と鈍い音がして男の肩に突き刺さる。
すばやく真が立ち上がると、すぐに刃が駆け寄ってくる。
「お前何持ってんだ?」
駆け寄ってすぐに真に問い掛ける。
「えっ、手裏剣ですけど……」
冷や汗を流しながら真を見つめる。
「物騒だな……」
ぼそっとつぶやく刃。
その言葉を聞いた真がむすっとした顔でいい返してくる。
「何言うんですか、あなたの存在自体物騒じゃないですか」
今日何度目かの真の悪意の無い辛辣な言葉が飛び出す。
「……何だよ、お前よりはましだと思うぞっと……まったく何もってくるかわからんし」
真と話している途中一人殴りかかってきたが、それを軽くあしらいながら話を続ける。
「そんな事をするから言ってるんじゃないですか」
そう言う真も、話しながらも手裏剣を投げ放つ。
放物線を描きながら男達の体に突き刺さっていく。
「よっと、こいつで終りだな」
そう言ってから最期の一人を投げ飛ばすと、肺の中の空気を吐き出す。
「終りですかね」
あたりを見回して、真が言ってくる。
「うーん、どうだろうな。コレが本隊だといいが……それは無いと思うぜ」
刃の脳裏に、先日襲撃してきた相手がでてくる。
(奴が来てないという事は……あっちが本命か?)
刃は、聖華高校のほうを見ると一言つぶやく。
「しっかり頼むぜ、葛城さん」
刃の方を真がかえりみると
「葛城さんなら、大丈夫でしょう」
自分の事でもないのに、自信たっぷりの顔でいってくる。
真の言葉に相槌を入れると、周りを見渡し襲撃者をまとめて縛り上げていく。
時刻は午後九時を回ろうとしていた。 |