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Epilogue
 静かなる惨劇が巻き起こった翌日、刃はいつも通りに学校に来ていた。
退屈な授業を受けながら、普段と同じ様に刃にとって興味の無い話が延々と繰り返されている。
 いつもと同じ様に時間が進んでいく。
 「ふぁぁー、ねみぃ」
 そう言って軽く伸びをする。
 「眠そうね?榊君」
 振り向くと唯が立っていた。
 「よっ、どうしたんだ?」
 振り向いてそう答える。
 「うん、今日真君が来てないんだけど榊君知ってる?それに…、さっきあったんだけど遠野さんの様子がおかしいみたいなの」
 唯の言葉に刃は少し苦い顔をする。
 「んー、まぁ色々あってな」
 そう言葉を濁しながら答える。
 (澪のやつ、学校来てるのか。……後で行ってみるか)
 「色々って? 何があったの」
 唯はなおも聞いてくる。
 「知らない方が良いって事もあるぜ」
 刃はそう言うと話はそれまでと言わんばかりその場を去ろうとする。
 「ちょっと待って」
 そう言って刃の腕を慌ててつかんでくる。
 「つぅっ」
 刃がそううめくと、唯につかまれた所を押さえてしゃがみ込む。
 「えっ、ごめん」
 唯はとっさに謝ると、心配そうに刃を見る。
 「あぁ、わりぃ。ちょっと大げさだった」
 昨日の晩、咲夜にやられた所を捕まれたのである。
 「そんな事言ったって血が出てるよ」
 顔を青くしながら唯が保健室に付き添うと言ってくる。
 「そこまでしなくていぃって」
 そう言うと刃はさっさと行ってしまう。
 刃はその足で澪の教室まで行くと、澪の姿を探す。
 「ホントに来てやがる」
 教室の中に澪の姿を見つけると中に入っていく。
 「よぉ。……休むかと思ったぜ」
 昼ご飯を食べ終わった後らしくこじんまりした弁当箱を片付けていた。
 「刃君、どうして私が休むの?」
 澪は普段通りに話し掛けてくる。
 「どうしてって、そりゃいろいろあったしよ」
 そう言って言葉を濁す。
 「何があったのよ? なんか変じゃない、今日の刃君?」
 澪は心配そうな顔でこちらをのぞきこんでくる。
 (どう言う事だ?一体)
 「あぁ、いや別に何でも無い」
 そう、と幾分か不思議な顔をしながらも澪はそう答えてくる。
 「それよりもさ、刃君。真が休んでるみたいなんだけど何か知らない?」
 澪はそう聞いてくる。
 「いや、しらねーぜ。あいつが学校休む事なんてしょっちゅうあるだろ」
 取りあえずは話をあわせるが、刃は困惑してしまう。
 昨日、あれほどの惨劇を目の当たりにして平常でいられるなど普通では考えられない。
「おかしーなー、仕事だったらいつもは教えてくれるのに」
 澪はなおも話を続けているが、刃はそれどころでは無くなっていた。
 「まぁ、それはおいといてだな。昨日は何してた?」
 刃は澪の話を止め、そう聞いてみる事にする。
 「えっ、別に何もしてないけど」
 澪はそう答えてくる。
 「そうか、なら良いんだ」
 その後、いつものように真の話をしばらく聞かされてようやく解放される。
 「記憶が無いのか?……まぁ、無理も無いけどな」
 廊下を歩きながらそうつぶやく。
 しばらく話を聞いて分かった事だが、昨日の話題をふると矛盾がいくつもあった。
 昨日の出来事は、確かに澪のように普通に生活しているものには刺激が強すぎた。
 「自分の心を保つためとはいえ、こうなる事が予想できなかったはず無いだろうに」
 昨日の真の行動には、理解できない事だらけであった。
 「それとも……、それがわかっていても、だったのか?」
 刃は、ここにはいない真にそう問いかける。
 問いかけずにはいられなかった。
−桜の森暗夜奇譚 第2話 氷浦府中陣記 了−
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