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 「ふーい、っちいなあー。こっちの夏は……」電車の中で冷え切った体を太陽にめいいっぱいさらしてみる。体につきささってくるような陽射しもあの頃のままだ。なつかしさでちょっとホロリとしながら駅の改札口をぬけてく……。
 その瞬間ときだった。見覚えのある君を見つけたのは。白いシャツブラウスに白いスカート(あれはなんと言うのだろう君に教えられたはずだったがプリーツスカートだったかフレアスカートだったか……)。君の腕には少し大きいG−SHOCKを手でいじりながら何をするでもなく公園のベンチに座って遠くを見ていた。8月の陽射しの中で君のいる場所だけがひんやりと涼しげにみえた。
 俺はうつむいた君の顔をそのまま撮っておきたくなって、肩にかけていた一眼レフを構えシャッターを押した。「パシャッ」という音と同時にファインダーの中が白く染まった。
 (ゲエッ!ストロボっ……こんなヘマ……)
 君は光に驚いたのか、はっと顔を上げ僕のほうを見た。人の心を見透かすようなその瞳、ひかえめでいてやさしげなその唇、何もかもあの頃のまま。僕が手を振ると君は周りを見回して寂しげな目をして、けれど顔だけは笑顔を作り小声で何かつぶやいた。
 「……」
 「なに?なにか言った?」ついあの頃のように声をかけていた……するともうあの頃の君のように
 「おかえりなさい!こっちには帰省で帰ってきたの?」とさっきまでの寂しげな目も笑顔で覆い隠されてる。2年ぶりに会っても大事なことを自分の中にしまってしまう癖はそのままなんだな。そう言おうとして、はっとした。そう俺たちはあの頃のように恋人同士じゃない。ここで逢ったのも偶然といえば偶然なのだ。
 「ああ、さすがに盆前ぐらいは帰らないとな。家のご先祖様が怒っちまうだろ?」そうおどけて言いながらベンチの横に荷物を下ろし、君の隣に座った。
 「ふーん、そーなんだ。そーゆートコ変わってないねユヒト。」
 ユヒト……そう呼ばれたのもひさしぶりだ、みんなが「夢人」をユメトと読み間違えるのを訂正するのも面倒くさくなって本当の読み方を教えてないからだが……こうして呼ばれてみるといつ間にか高校の頃に戻ってしまった気がしてしまう。
 「しっかし、こっちは2年経ってもどっこも変わんないのな。俺は嬉しいけど」
 「そんな事ないよ。ユヒトがまだみてないトコとか…やっぱりさびれてるよ……」
 寂しそうに、でもごまかしもしない口調で言うと君はすっくと立ち上がった。ふと、どうしたんだろうと思っていると
 「どーせユヒト暇なんでしょ?ひさしぶりにデートしようよ、あの場所で待ってるから…ね?」俺にはそんな君を見て断るなんてできるわけがなかった(断る気もなかったが)
 そうして俺は荷物を実家いえの部屋に置くとあの場所に改造した50ccバイクで向かった。あんなことが待っているとは知らないまま……。
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