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2
 それはそもそも、2日前。
 おそらく前々から企画はしていたのだろうが、澪が突然家でクリスマスパーティーをやると宣言したことにまでコトは遡る。


 「だーかーらー、明後日のクリスマスイブに遊ぼうって言ってるんじゃない」
 手を腰に当てて、少し顔を膨らませた澪が目の前に立っている。
 「何で俺なんだ?真はどうしたんだよ?」
 そういうと、澪はなぜか勝ち誇った顔で言ってくる。
 「真、来るに決まってるでしょ。今年は1999年だし、みんなで遊ぶことになったの」
 澪がそう説明してくる。
 「はー、何だよそれは。それに俺にも都合ってもんがだなぁ・・・」
 「という訳で、刃君は飲み物を持ってきてね。場所は私のうちだから2時に来てよね」
 刃の言葉をさえぎり、自分の用件を伝えると風のように去っていってしまう。
 後に残された刃は、暫しの間固まってしまっていた。
 「ところで飲み物というのは、一番重くてかさばる物では・・・・・・」
 そうつぶやいた刃に答えてくれるものはいなかった。


 場所は変わってここは織姫真の教室である。
 「まーこーとー」
 そう叫びながら真の従姉妹である澪が駆け寄ってくる。
 教室の生徒が何事かと振り返っているが、澪の姿を見ると皆納得してしまう。
 真のクラスでは澪が真の名を叫びながら入ってくることはすでに恒例行事になっているようだ。
 「どうしたんですか、澪?」
 当の真も慣れてしまい、いつものように答える。
 「えへへー、明後日のことなんだけど、刃君も来ることになったから」
 手に持っている手帳を見ながら各自の持ってくるものをチェックしだす。
 「はぁ、刃も来るんですか。よく来る気になりましたねぇ」
 真がそういうと、手帳を見ていた澪が顔を上げる。
 「うん、二つ返事だったよ。それに彼女もいないんだし一人で過ごすよりいいと思ったんじゃないの?」
 まるで刃の人権を無視した言葉が次々と飛んでいる。
 「あぁ、なるほど。そうですね、刃ですからねぇ」
 などと、真も澪の言葉に相槌を打っている。
 「それで、私は何を持ってくれば良いんですか?」
 真が自分の担当を聞く。
 「そうねぇ、一番重い飲み物は刃君が持ってきてくれるし・・・。そうだお菓子をよろしくね」
 そう言うと、真のクラスからも風のように去っていってしまう澪。
 「ふぅ、刃も災難ですねぇ」
 ため息をつきながら首を左右に振る。



 2学期最後の授業、とはいっても校長の長い話があるだけの終業式を終えて教室に戻ると、刃は何も入っていないカバンを手に取り真のクラスへ移動する。
 教室のドアを開け真の姿を見つけると、
 「おーい、真」
 真の名前を呼びながら入ってくる。
 「どうしたんですか?」
 刃とは違い、えらく重そうなカバンを持っている。
 「帰るんだろう? 途中までいっしょに帰らないか」
 少し考えてから真が答える。
 「いいですよ。あ、でもあなたの後ろには乗りませんからね!」
 刃の後ろで何度も苦い経験をしている真は、きっぱりと言ってのける。
 「あぁ、今日は俺も電車できてんだ」
 少し不服そうな顔をしながらも刃が答える。
 「めずらしいですね、あなたが電車で来るなんて」
 そう言いながら真が刃のほうに近寄ってくる。
 「それで、どうしたんですか?」
 真が聞いてくる。
 「澪の事だよ。いったい何考えてんだ、俺は何も答えてないんだぜ」
 今更ながらに澪の強引さに気づいたように刃が言う。
 「私に言われてもですねぇ・・・。まぁ澪が強引なのは今に始まったことではありませんし、もぅあきらめるしかないでしょう」
 ふぅ、とため息をつく。
 「はぁ、俺にも用事ってもんがあるんだけどな・・・・・・」
 刃もため息をつきながら言う。
 「え、そうなんですか?」
 少し驚いたように真が聞き返す。
 「何だよその顔は、俺にクリスマスに用事があったら悪いのかよ」
 またまた不機嫌そうに刃が言い返す。
 「いえ、そういう訳じゃありませんけど・・・、誰かと約束でもしてるんですか?」
 興味津々の真が刃に迫る。
 「い、いや別に、そういう訳じゃないんだがな、ほ、ほら色々とあるだろ?」
 しどろもどろになりながら刃が答える。
 真は刃と知り合ってからこの方、刃から女の子の話というのを聞いたことがなかった。
 「そうですね、色々とありますよね。で、誰なんですか?」
 真が迫る。
 「だ、だから、そうじゃないって」
 刃はまだ誤魔化そうとしている。
 「それは分かりましたから、そろそろ白状してもいいと思いますけど」
 うれしそうに笑顔をたたえた真がさらに問い詰める。
 「だから違うって」
 刃は、だんだんむきになってきている。
 「何か用事があるんでしょう? だったら私が澪に事情を説明しておきますから・・・・・・」
 なおも詰め寄ってくる真。
 「もういい、この話はやめにしよう」
 そう言って話を止めようとする。
 「それでは、どうするんですか、明後日は?」
 少し真顔になった真が聞いてくる。
 「あぁ、行く事は行くけどな。それよりなんで俺が飲み物を持っていかなきゃいけないんだ? お前は車だろ、俺は単車だぜ。」
 自分の担当のもので真に聞く。
 「え、そうなんですか。私はお菓子なんですけど・・・・・・、変わりましょうか?」
 申し訳なさそううに言ってくる。
 「ふぅ、いいや。お前に変わってもらうと後が怖そうだしな・・・・・・」
 刃が少し疲れたように言う。
 「? そうですか?」
 よく分かってない真が答える。
 「そうだよ。まぁいいや。じゃあそろそろ行こうぜ」
 そう言いながら駅のほうへ歩いて行く。
 二人そろって歩いていると、校門の所で澪と出くわす。
 「あ、真。おまけに刃君」
 澪が笑顔でそう言ってくる。
 「だーれがおまけだ」
 「ははは、どうしたんですか澪」
 対照的な返事をしながら澪のところへ向かう二人。
 「んー、帰りに買物に行こうかと思って・・・・・・それで」
 最後の言葉は刃に向けられていた。
 「分かった分かった。もう真に用事は無いしな」
 そう言うと刃は一人で帰っていく。
 「ごめんねー」
 振り向かずに手を振る刃に、澪は、かなり嬉しそうな表情で手を振る。
 その横には。
 心底すまなさそうな表情で見送る真がいた。
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