「中央人民政府和西蔵地方政府関於和平解放西蔵辨法的協議」(和訳)

底本
著者:ダライ・ラマ
書名:チベットわが祖国
出版:亜細亜大学アジア研究所(1986)
掲載:pp.307-310(上記書の付録)
翻訳:木村肥佐生

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資料(二)中央人民政府とチベット地方政府の
チベット平和解放に関する協約(十七か条協定)── 一九五一年五月二十三日
「中央人民政府和西蔵地方政府関於和平解放西蔵辨法的協議」
(「新華月報」第四巻第二期、二七一−二七二ページ)


 チベット民族は中国領土内において悠久の歴史をもつ民族の一つであり、その他多くの民族と同じく、偉大な祖国の創造と発展の過程において、自己の光栄ある責任を果たしてきた。しかし最近、百余年来、帝国主義は中国に侵入した。したがって、彼らはまたチベット地区にも侵入し、各種の欺瞞と挑発を進めた。国民党反動政府はチベット民族に対し、それ以前の反動政府と同様、引き続きその民族的圧迫と民族離間の政策を採り、それによってチベット民族の内部に分裂と不団結を生ぜしめた。そしてチベット地方政府は帝国主義の欺瞞と挑発に反対せず、偉大な祖国に対して、非愛国主義的な態度をとった。これらの状況はチベット民族とチベット人民を奴隷化と苦痛の探淵に落とし入れていた。一九四九年、中国人民解放戦争は全国的範囲で基本的勝利をかちとり、各民族共同の内部の敵、国民党反動政府を打倒し、各民族共同の外部の敵──帝国主義侵略勢力を駆逐した。この基礎の上に、中華人民共和国と中央人民政府が成立を宣言した。中央人民政府は、中国人民政治協商会議が通過させた共同綱額に基づき、中華人民共和国領土内の各民族が一律に平等であり、団結して相互援助を行い、帝国主義と各民族内部の人民の共同の敵に反対し、中華人民共和国を各民族が友愛によって合作する大家庭とすることを宣言した。中華人民共和国各民族の大家族においては、各少数民族の集居する地区で民族の区域自治が実行され、各少数民族が等しくその自己の言語文字を発展させ、その風俗習慣および宗教信仰を保持あるいは改革する自由を持った。中央人民政府は、各少数民族がその政治・経済および文化・教育を発展させる建設事業を援助した。これ以後、国内各民族は、チベットおよび台湾区域をのぞいていずれもすでに解放をかちとった。中央人民政府の統一的指導のもと、各少数民族はいずれもすでに民族平等の権利を充分に享受し、かつすでに民族の地方的自治を実行し、あるいはまさに実行しつつある。帝国主義侵略勢力のチベットにおける影響を順調に一掃して、中華人民共和国の領土と主権の統一を完成し、国防を維持し、チベット民族とチベット人民に解放をかちとらせ、中華人民共和国の大家庭に戻らせて、国内のその他の各民族と同じく、民族平等の権利を享受させ、その政治・経済・文化教育の事業を発展させるため、中央人民政府は人民解放軍にチベット進軍を命令した際、チベット地方政府に、代表を中央に派遣して交渉を行い、チベット平和解放の方法に関する協約の締結を便利ならしめるようにと通知した。一九五一年四月下旬、チベット地方政府の全権代表は北京に到着した。中央人民政府は直ちに全権代表を指名し、チベット地方政府の全権代表と友好的基礎のうえに交渉を行った。交渉の結果、双方は本協約を成立させることに同意し、かつこれを実行に移すことを保証した。
第 一 条
チベット人民は団結して、帝国主義侵略勢力をチベットから駆逐し、チベット人民は中華人民共和国の祖国の大家族の中に戻る。
第 二 条
チベット地方政府は、人民解放軍がチベットに進駐して、国防を強化することに積極的に協力援助する。
第 三 条
中国人民政治協商会議共同綱額の民族政策に基づき、中央人民政府の統一的指導のもと、チベット人民は民族区域自治を実行する権利を有する。
第 四 条
チベットの現行政治制度に対しては、中央は変更を加えない。ダライ・ラマの固有の地位および職権にも中央は変更を加えない。各級官吏は従来どおりの職に就く。
第 五 条
パンチェン・エルデニの固有の地位および職権は維持されるべきである。
第 六 条
ダライ・ラマ、およびパンチェン・エルデニの固有の地位および職権とは、十三世ダライ・ラマおよび九世パンチェン・エルデニが互いに友好関係にあった時期の地位および職権を指す。
第 七 条
中国人民政治協商会議共同綱領が規定する宗教信仰自由の政策を実行し、チベット人民の宗教信仰と風俗習慣を尊重し、ラマ寺廟を保護する。寺廟の収入には中央は変更を加えない。
第 八 条
チベット軍は逐次人民解放軍に改編し、中華人民共和国国防武装兵力の一部とする。
第 九 条
チベットの実際状況に基づき、チベット民族の言語、文字およぴ学校教育を逐次発展させる。
第 十 条
チベットの実際状況に基づき、チベットの農・牧畜・商工業を逐次発展させ、人民の生活を改善する。
第 十 一条
チベットに関する各種の改革は、中央は強制しない。チベット地方政府はみずから進んで改革を進め、人民が改革の要求を提出した場合、チベットの指導者と協議する方法によってこれを解決する。
第 十 二条
過去において帝国主義と親しかった官吏および国民党と親しかった官吏は、帝国主義および国民党との関係を断固離脱し、破壊と反抗を行わない限り、そのまま職にあってよく、過去は問わない。
第 十 三条
チベットに進駐する人民解放軍は、前記各項の政策を遵守する。同時に取引きは公正にし、人民の針二今糸一本といえども取らない。
第 十 四条
中央人民政府は、チベット地区のいっさいの渉外事項を統一して処理し、かつ平等、互恵、およぴ領土主権の相互尊重という基礎の上に隣邦と平和な関係を保ち、公平な通商貿易関係を樹立発展させる。
第 十 五条
本協約の施行を保証するため、中央人民政府はチベットに軍政委員会および軍区司令部を設立する。中央人民政府が派遣する人員以外に、できるだけチベット地方の人員を吸収して工作に参加させる。
軍政委員会に参加するチベット地方の人員には、チベット地方政府および各地区・各主要寺廟の愛国分子を含むことができ、中央人民政府が指定する代表と関係各方面が協議して名簿を提出し、中央人民政府に任命を申請する。
第 十 六条
軍政委員会、軍区司令部、およびチベット進駐人民解放軍の所要経費は、中央人民政府が支給する。チベット人民政府は、人民解放軍の食糧およびその他、日用品の購買と運輸に協力するものとする。
第 十 七条
本協約は署名捺印ののち、直ちに効力を発する。


中央人民政府全権代表   主席代表  李 維 漢(署名捺印)
代表  張 経 武(署名捺印)
張 国 華(署名捺印)
孫 志 遠(署名捺印)


アボ アワンジグメ      
チベット地方政府全権代表 首席代表  阿沛・阿旺晋美(署名捺印)
ケメイ ソナムワンデイ    
代表  凱墨・索安旺堆(署名捺印)
トゥプテン タンダル    
土丹・旦達(署名捺印)
トゥプテン  レタムン   
土登・列門(署名捺印)
サンポ テンゼントンドプ    
桑頗・登増頓珠(署名捺印)


一九五一年五月二十三日 北京にて


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