M リハーサルそして本番

すべての準備が整うとリハーサルを行います。リハーサルは、完璧な準備を確認するための作業です。ここからは、俳優と監督が一対一で向き合います。

演劇は、俳優と演出家が長い期間、稽古をくりかえします。公演で最高の演技を発揮できるよう、本番に焦点をあてながら演技の完成を目指します。ところが、映画には稽古や練習がありません。俳優に求められるのは瞬発力です。

映画をつくるための今までの準備は、ほとんど「本番」のために向けられてきました。ところが勘違いしてはいけないのが、映画の「本番」は、映画の「完成」ではないということです。それは、あくまで表現の素材をつくることです。

通常、映画は1カットごとに撮影します。俳優の動作を違う角度から撮影するために、同じ演技を何回もくりかえします。会話の途中でカメラの位置を変えることもあります。俳優自身が「これは完璧な演技だ」と思っていても、監督はNGを出します。それは、前のカットと動作のつじつまが合わなかったり、演技の位置が10センチずれていたなど、理由はさまざまです。映画の演技は非常に細かく複雑です。

ところが自主映画の俳優は、演技経験の少ない人です。映画の演技をマスターしている人はいません。一方、カメラは俳優の些細な動きも捕えます。不安を抱いたままの演技であれば、表情や動きですぐに分かってしまいます。

映画の「本番」は1回勝負ではありません。やり直しができるのです。もちろん、大がかりな撮影や現場の状況で1回しかチャンスがないものだってあります。NGが増えるとフィルム代もかさみます。現場に緊張感は必要です。けれども、「本番」を1回勝負の神聖なものと考えてはいけません。

必要なのは、そのシーンにふさわしい動作と最高の表情です。演技を感じさせない自然体を作り出さねばならないのです。妥協してOKを出す勇気より、もう1回やり直す勇気を大切にしたい。現場が一体となってリハーサルと本番をていねいに重ねていくことで俳優の魅力を引き出せると私たちは考えています。

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