N 記憶を撮る

暗闇の中で光る映像…。映画は「記憶」のようだと人は言います。映画を撮影するとき、カメラは何を捕らえていなければならないのでしょうか。それは、「光景」です。

記憶の中によみがえる「光景」は、いつもぼんやりと輝いています。その輝きの中には、言葉で言い表せない感情が、静かなエネルギーを秘めてやどっています。私たちが撮ろうとしているのは、単なる俳優の動きや物語の展開ではありません。「記憶」を描こうとしているのです。誰の「記憶」なのか?それは、私たちの作品と向き合うすべての人の「記憶」です。

「記憶」とは、たいてい美しいものです。無駄なものは削られ、洗練されています。撮影する映像も、同様でなければなりません。そこに必要なものは、心をみつめるまなざしです。

音楽を聴けば思い出がよみがえるように、人間の深いところに眠っている「記憶」を辿ることができるような作品づくりを私たちはめざしています。もちろんそれは決して簡単なことではありません。カメラで撮れるものは現実に見えるものだけです。けれども、本当に人の心を動かす力のある映像には「光」があります。ファインダーを覗く人間は、決してそれを見逃してはならないのです。

画づくりを学ぶために映画を多く観るという人がいます。けれども、私たちがめざす表現は、完成された映画から学ぶものではありません。むしろ映画にとらわれず、自らの感受性を豊かにすることを大切にしたいと思っています。なぜなら、私たちが表現しようとしているものは、私たち自身が心に秘めている人間の「記憶」だからです。

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