タクシー洗車で稼いだお金を映画につぎ込みました

製作・監督助手 菊池康治

とにかく16mm映画だということが何よりも大変でした。16mm映画の現場経験があるのは僕ひとり。しかもそれは専門学校の卒業制作で、今思えば技術的にも未熟な作品でした。フィルムをどこで購入するのか、機材をどこで借りるのか。どこで現像できるのか。何ひとつ分からないところからのスタートでした。監督は8ミリの経験から、フィルムやキャメラの扱いには慣れていましたが、それでもフィルムの装填には苦労しました。感光しないように黒袋の中でフィルムを入れかえる職人技は、監督と二人でくり返し練習しました。

製作費が大きかったことも困難に拍車をかけました。少しでも資金を集めるために、ビデオ作品の路上販売をしたのです。真冬なのに道端にゴザを敷いてビデオを売りました。活動の時間をつくるために会社を辞め、深夜のアルバイトに転職。タクシー洗車で稼いだお金を映画につぎ込みました。

昭和50年の風景を探し出すことも容易ではありませんでした。当然、画面に平成時代の建築物が見えると、映画は台無しです。フレーム全体に昭和50年が滲み出るような場所を求めてさまよい歩きました。それから、とにかく必死で撮影を許可してくれるアパートを探しました。イメージ通りで、なおかつ空室があり、撮影のために部屋を改造すること、電源工事をすることなどを認めてくれる家主さんは、当たり前ですが簡単には見つかりません。監督と二人で歩き、そして地道な交渉を続けました。

「トトオ」は決して派手な映画ではありません。こじんまりとした日常が淡々と綴られています。それでも、この映画は良い意味で“わかりやすい映画”でなければならないといつも考えていました。サスペンスやアクションという明確なジャンル分けや、笑いや涙といった感情を積極的に描くことが決してわかりやすいとは限りません。僕は、ていねいに作られていることが一番重要だと思うのです。
●三重県出身 兵庫県在住 フリーター
日本写真映像専門学校卒業 映像プロダクションへ就職したものの倒産し転職。ケーブルテレビ局の番組制作部門、営業部門を経て退職。現在フリーター。
○僕はどう考えても映像の仕事に向いていないと思う。現場で考え込んでしまうから。

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