さらに計算を超える何かを求めてくる

女 優  正木 佐和

もう全部、好きなんです。伴野監督の作品は。どれを何回観ても、常に新しい発見がある。映画としてこれは凄い魅力だと思います。

例えば別の監督は、演技に愛がなければだめだと言う。感情でぶつかって行くような演技を求めてくる。俳優を持ち上げたり、突き放したり。その気にさせる。でも伴野監督は、まずフレームにこだわる。俳優の細やかな動きを大切にする。「悲しいと思っているだけでは、悲しさを表現できないよ」と。動きは先の先まで計算されているのに、さらに計算を超える何かを求めてくる。そんな厳しい注文には、ヤワな役者じゃ応えきれない。でも、私にとってはそれが燃えるんです。

私自身、脚本を読み込んでも、まだ作品を理解しきれていないことが多い。伴野作品は決して脚本で語り進める映画ではないので。だから長い現場では反発することもある。反抗期なんですね。でも、でき上がった作品をみると、確実に納得させられる。ああ、そうだったのか!って。そういう発見がすごく私にとっては面白い。だから出演を重ねるごとに伴野監督への信頼度はアップします。

自主映画なのに、やってることはプロの現場と何も変わらない。むしろスタッフの数が圧倒的に少ないので、監督がすべてを作っていく。私と監督の二人だけで撮影することもあったけれど、照明ひとつにしても妥協しない。決して手を抜いたりしないんです。ああ、この監督に大勢の優秀なスタッフがいれば、もっと自由になれるのに、と思うことがしばしばありました。

現像所での試写は本当に緊張しました。「トトオ」は、前作「山田君ノ布団」よりも現実感がはっきりと描かれています。スクリーンの私も出演を重ねることで育てられていると実感しました。


●大阪府出身 東京都在住 女優
近畿大学文芸学部で演出家太田省吾に演劇を学ぶ。上京してNHKドラマなどに数多く出演。伴野作品は4本目。最初の「砂と空」に出演したことが映画女優を志すきっかけとなる。
撮影中は本気で監督に惚れます。監督のためなら何でもできます。

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