北港テクノポート線の問題



 将来延々と赤字を生み続けるのは、競技施設だけではありません。むしろ、大阪オリンピックに関する公共事業の中で最大の問題は、北港テクノポート線の建設ではないでしょうか。


 大阪五輪の開催には、大量の観客を運ぶことができる鉄道の建設が不可欠です。しかし、たった2週間のために鉄道を敷くなどということは当然許されません。大阪市は、選手村、メディア村を改造して約6,000戸の住宅にするとしており、そのために鉄道を敷くと説明しています。


 しかし、ゴミの島にできた"中古"改造マンションが、一時に6,000戸売りに出ても、完売はとても無理な話です。マンションが売れないとすると、鉄道は当然ガラガラで走ることになりますから、延々と赤字を生み続けることはまちがいありません。


 北港テクノポート線は、大阪港トランスポートシステム(株)(OTS)が現在の路線(大阪港−中埠頭間)を延長する形で建設されます。OTSは、大阪市が51%を出資する第三セクターで、現在、大阪港−中埠頭間3.7kmを結ぶ鉄道を運営しています。大阪港−コスモスクエア間は地下鉄、中埠頭−コスモスクエア間は新交通システムです。現在の路線は大赤字で、これを延長すれば、毎年恐ろしい額の赤字がたまり、やがては経営破綻して市の財政にのしかかってきます。北港テクノポート線の問題点を以下に説明します。




1 初期投資が4000億円にものぼると予想され、市や国の負担割合が大きい。財政難の折りに建設すべき路線ではない。

 大阪市と運輸省が行った事業化検証調査によると、北港テクノポート線の建設費は1,870億円と試算されているが、これまでの地下鉄の建設実績から推定すると、4,000億円程度にもなると考えられる。

 しかも、現在の路線建設の事例にならえば、建設費のうちOTSが負担する部分は22%にすぎず、国が26%、市が51%を負担することになる(図参照)。北港テクノポート線の建設が市の財政破綻に直結する可能性がある。


2 できあがった路線は毎年赤字を生み、市の財政的支援がなければOTSは数年以内に破産する。経営が数年で行き詰まるような路線を認めてはならない。

 現在の路線は、地下鉄2.4km、新交通システム1.3kmのあわせて3.7kmであるが、1998年度の収支は、収入18億6945万円に対し、費用が37億8465万円、差し引き19億1520万円の赤字である。費用のうち減価償却費は約12億5000万円であるから、運賃収入で人件費や電気代などの運転費もまかなえないほど悪い経営状態と言える(表参照)

 北港テクノポート線については、1)償却対象の資産(インフラ外)に係る減価償却費については現在と比例して大きくなる、2)距離に比例した運賃をとることは困難、3)夢洲の住宅が順調に売却できなければ常住人口が極端に少ない(最悪ゼロに近い)、ことから毎年の赤字額は100億円以上に上ると懸念されるが、そうなると数年でOTSの経営が破綻する。このような鉄道路線を認可してはいけない。


3 テクノポート線は開発型路線であり、公共性が低い。こうした事業に市が財政的支援を行うことは許されない。

 現在のテクノポート線(大阪港−中埠頭間)を大阪市地下鉄(高速鉄道)事業として行わなかった理由の1つは、この路線は「開発型」であり、内陸部の地下鉄8号線と比べて優先度が低かったため交通局では着工できなかったから、と聞いている。このことは、テクノポート線が地域住民の利便性などの「公共性」を優先したものでないことを示すものであり、当事業に市が財政的支援を行うことは許されない。


4 現在の路線は運賃が非常に高額であり、延長される北港テクノポート線についてはそれ以上の額になる。初期投資に関して市や国から大きな財政支援を受けた上、このような高額運賃をとっても赤字経営というのでは、経営の建て直し方法がない。

 現在の路線を大阪市地下鉄(高速鉄道)事業として行わなかったもう一つの理由は、別会社にしないと採算がとれないためである。現在、運賃は1区間230円で民鉄等と比べて格段に高い。梅田からコスモスクエアまで480円もかかり、京都へ行くより高いという異常さである。

 先に述べたように、現在の路線についてOTSは建設費880億円のうち22%(190億円)しか自社負担していない。減価償却、固定資産税の支払いについても、自社資産部分120億円について行えばいいだけである。市や国の大きな財政支援を受け、さらに高額の運賃をとっても赤字が出るという状況では、経営を建て直す手段がない。OTSの破産回避のために、市がイベントの開催や新規の開発などさらなる追加の財政支出を強いられるようでは本末転倒である。


(補足)

 テクノポート線により、市が税収を失っているという問題もある。

 テクノポート線のインフラ部分は市が国の補助を受けて建設し、市が保有したままOTSが上部を利用している。インフラ部分はOTSの保有資産ではないので、市には固定資産税が入らない。

 また、OTSは従来はトラックターミナルなどの経営をしていた会社で黒字経営であった。しかし、鉄道事業を開始した1997年度に、鉄道事業の赤字により一気に累積黒字を食いつぶし、赤字に転落した。鉄道事業以外は現在でも黒字なので、経営主体が異なれば当然その分の法人税が入っているはずである。



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