赤ちゃんは、父親の精子と母親の卵子が結合して産まれます。この時、精子も卵子も「減数分裂」により、23組の染色体が半分ずつになって、23個しか染色体のない状態で作られています。それが結合して新しい生命が産まれるのです。
ところでこの23組の染色体のうちのひとつに「性染色体」というものがあり、実はこれが性別を決めています。この染色体は人間の場合、女性はXXといって、Xの形をした染色体が2個あります。これに対して男性の場合はXYといい、女性と同じX染色体がひとつともうひとつYの形をした染色体があります。このXXかXYかというのが性別を決めているわけです。
男性の体内で精子が作られる時には、減数分裂によりX染色体を持つ精子とY染色体を持つ精子ができます。これに対して卵子は全てX染色体を持っています。そこで、男の子ができるか女の子ができるかというのは、卵子にX精子が結合するか、Y精子が結合するかで決まるのです。俗に「男腹」「女腹」といって、男の子ばかり産む女性、女の子ばかり産む女性という言い方をすることがありますが、実際には性別の決定は精子側の問題なので女性にはあまり責任はありません。
Y染色体のある受精卵は成長する途中で「雄性化因子」というものを作り出します。この因子が働くと、生後五週間頃に、原始的な性腺の内側の髄質(medulla)が発達して、睾丸になり、ウォルフ管(Wolffian duct)が発達して精嚢が形成されます。
この雄性化因子が働かなかった場合は性腺の外側の皮質(cortex)が発達して卵巣になり、ミュラー管(Mullerian duct)が発達して子宮と膣が形成されます。まれにY染色体があるのに雄性化因子が出来なかったり、うまく作用しないことがあり、その場合は染色体の上で男性であっても、性器は完全に女性型になります。ただしこの場合妊娠する能力まではできません。
股間の形状も初期は男女とも陰裂(割れ目,vulvar slit)があって中に陰核(さね,クリトリス,clitoris)がありますが、男性の場合はやがて陰核が大きく成長して陰茎(ちんちん,ペニス,penis)になるとともに、体内にあった睾丸が下に下りてきて陰裂の部分の皮膚を押し広げ、陰嚢(scrotum)を形成します。この時点で陰裂は癒着してくっついてしまいます。男性の陰嚢の「縫い目」は女性の大陰唇(labium majus)のなれの果て、陰茎の「縫い目」は小陰唇(labium minus)のなれの果てです。尿道口は女性の場合は陰核のすぐ下にありますが、これが成長して陰茎に変化する場合はそれを取り込んでしまい、尿道口は結局陰茎の先端に開くことになります。
人間の場合、いわゆる性転換手術を受けた人には生殖能力はありません。単に形を希望する性のものに変えただけですので男から女に性転換しても子供を産む能力はできません。
ただひじょうに稀な例として、人間の性が自然に転換することがあることは知られています。報告されている例はすべて女性から男性になったもので、だいたい10代半ばくらいにそれまで女の子だったのが突然、おちんちんが生えてきて男の子になってしまうというものです。これはおそらくは雄生化因子がものすごく遅れて働いたものと思われますが、詳しいことは事例が少なすぎてよく分かりません。もちろんこの男の子たちはちゃんと女性と結婚して子供を作る能力を持っていました。
以前カリブ海の島でこういう現象が大量に発生したことがあり、調べてみるとその子たちがみな何世代か前に一人の女性を祖先としていたことが分かりました。そういう現象を起こしやすい遺伝子が存在するのでしょう。