←↑→ 基礎知識(9)去勢

性器を除去することを去勢(きょせい)といいます。一般には、男性なら睾丸、女性なら卵巣を除去するのですが、男性の場合に睾丸とともに陰茎まで、女性の場合に卵巣だけでなく子宮まで除去する場合もあります。

去勢は現代では次節で述べる性転換を志す人がその途中の段階として受ける場合を除いては、一般に病気の治療のためにおこなわれます。多くはそれらの部位に腫瘍などができて、除去しなければ生命の危険がある場合です。悪性の腫瘍でない場合は片方の睾丸・卵巣の除去だけで済む場合もありますが、転移の可能性がある場合で、本人がもう何人か子供もいる場合は、患者と話し合いの上で、両方とも除去する場合もあります。

牛などの家畜の場合は、特にオスの牛は、育てやすくしたり肉質を良くするために、繁殖に使用する優秀なものを除いては、ほとんどのオスを生後間もないうちに去勢してしまいます。

中世以前には、戦争で負けた側の国の兵士が全員去勢されて奴隷として使われるような例もありました。また、中国やアラビアなどでは、本人の意志で去勢して、王宮の雑益に従事する「宦官(かんがん)」になるケースもありました。これは普通の庶民には、王宮などに勤めて出世したりする道が閉ざされていたためです。中国などでは、代々宦官になる家というのもありました。これは男の子が生まれたらその父親が去勢して宦官になるということを代々続けていった家です。

この宦官になるための去勢は、睾丸・陰茎両方とも除去するものです。中国などの例では、陰部をきれいに洗った上で、白い陶器の上に乗せ切断用の刀を当てます。そこで「後悔しないか?」と尋ね、本人に少しでも躊躇するような気配があれば手術は中止、意志が固いようであれば刃は動いて一瞬にして陰茎と陰嚢が切り離されます。切り離した後は尿道が詰まらないように針を刺し、化膿止めの薬を塗り、1時間ほど部屋の中を歩かせた上であとは傷が治るまで安静にさせます。

これが古くは消毒技術があまり良くなく、熱い砂の中に埋めて熱による殺菌を試みていました。その時代は手術を受けた人の半数が死んでいたといわれます。しかし19世紀頃の手術では、しっかりしたところで手術を受ければまず死ぬことはなかったそうです。

睾丸がなくなると精子が作られないため女性を妊娠させることがありませんが、同時に男性ホルモンも分泌されなくなります。そのため、二次性徴が現れる前の、10歳くらいまでに去勢した男の子は、男性的な身体特徴があらわれず、声なども思春期前の高い声(ボーイソプラノ)が保たれます。そこで西洋では歌のうまい男の子で本人や親が同意する場合、この高い声を維持するために去勢するということがおこなわれました。そうやって大人になっても高い声を維持していた歌手を「カストラート」と言います。カストラートは、睾丸さえ取れば目的を達せられるので陰茎は付けたままです。むろんカストラートになってしまえば、女性と結婚して子供を残したりすることはできなくなります。

現代では、宦官もカストラートも、世界のどこでもおこなわれていません。

なお、男性が去勢手術を受けた場合、睾丸だけを取った場合は陰茎はそのままなので普通におしっこができますが、陰茎も一緒にとった場合は、股間におしっこの出る穴がポツンとあいている状態になります。

なお、陰茎だけ除去して睾丸は残すという手術は、ほとんどおこなわれることはありませんが、おこなった場合は尿道をそのままにしておくと排尿のたびに陰嚢が濡れてしまい衛生上問題がありますので、尿道を陰嚢の後ろに付け替えることもおこなわれます。



←↑→