柘榴の影 3
闇主には私の知らない過去がある。
それが、こんなにも自分を落ち込ませるとは正直びっくりした。
いつもふざけた事を言って自分をからかうばかりの青年だが、まさか彼がこんな目に合うとは露程にも考えてなかった。もう一生彼と話が出来ないかもしれないというだけで、こんなにも自分が落ち込むとは…。
そもそもあの青年には謎が多すぎる。からかわれて厄介だという気持ちから、今まで深く考えた事がなかったが、どうして彼はしつこく自分に付きまとうのだろうか?確かに幼馴染ではあるが、会うのは10年ぶりくらいだ。正直、自分は、彼の事などすっかり脳裏の片隅から消えていた。遊んだ記憶さえ定かではない。
「姉上?」
そんな事を考えていた時だった。部屋の外から突然、弟、乱華の声が聞こえてきた。
考え事に没頭していたラエスリールは正直、少々びっくりした。
「姉上?寝てるのですか?」
再び乱華の声が聞こえてきた。
「いや。起きてる。どうしたんだ?」
慌ててラエスリールは扉のドアを開ける。そこには浮かない顔をした弟、乱華がいた。
「姉上、どうしたのですか?さっきから母上が食事の時間だと呼んでますけど。一向に降りてくる気配がないので呼びに来たのですが…。」
乱華の言葉に驚いて部屋の時計を見ると、針は食事の時間を当に過ぎていた。
「あ!すまん!少し考え事をしていたから…。全く聞こえなかった!」
そう言って慌てて下に降りようとしたラエスリールに乱華がぽつりと声をかけた。
「あいつの事ですか?」
「え?」
「姉上はあいつの事を考えていたのですか?」
そう問う乱華にラエスリールは動揺した。
「あ、あいつって…!」
「あいつです。昔、隣に住んでた闇主です。」
図星だったのでラエスリールは思わず赤面した。
「やっぱりそうなんですね。聞きました。どうやらあいつ、誰かに殴られて意識不明らしいですね。姉上がお見舞いに行ったのも風の噂で聞きました。」
な、何?!噂になってるのか?!とラエスリールは動揺したが、口には出さなかった。
「そんなにショックですか?あいつが入院したのが…。」
「ショックも何も…!知り合いなんだから当然じゃないか!乱華は大丈夫なのか?少なくともあいつは乱華とも幼馴染のはずだぞ?」
そう言うラエスリールを乱華は鼻で笑った。
「姉上は本当に鈍感なのですね。罪なお人だ。私があいつに好感を持ってると思っているのですか?だとしたら飛んだお笑いです。」
そう言って乱華は笑った。
「知ってますか?あいつが姉上の見てない所で私に何をしていたのかを…。」
「?」
「あいつは姉上に花の首飾りを送りながら、教えを請う私に、これでもこねてろ、と事もあろうに犬のう○こを……犬のう○こを顔面に投げたんですよ!!この私の愛らしい顔面に!!!」
「………。」
「それだけじゃありません!!姉上がいなくなると突然私を振返り、決まって私のこの絹のような金髪にはちみつをかけるんです!!おまえの頭を見てるとかけたくなる…って!!!」
「………。」
「許せません!!あの数々の暴言!暴行!私があいつに好意など持ってる訳ないじゃないですか!!」
乱華の訴えを聞きながら、ラエスリールは少々げんなりしていた。
なんと子供だましな…。いや、子供なのだからしょうがないが、正直乱華がそんな目にあってた事を自分が全く覚えてないのは何故だろうと不思議に思った。
「あたりまえです!姉上がこっちに気付く前に証拠隠滅、私を遠くへ追っ払って、帰ったと言い張っていたのですから!!!」
ああ、それでか、とラエスリールは納得した。
「日々の恨み……私は忘れた訳ではありません!あいつは、あんな目にあっても当然の奴です!月日が変わっても、あいつの罰当たりな性格は変わってなかったんです!!」
「乱華……何もそこまでは……。再会してから今まで…、あいつは結構私に良くしてくれたぞ?」
「それは姉上にだけです!知ってますか?当時、あいつ、俺は隣の家に住んでるって言ってたけど本当は違うんですよ?」
「え?」
「隣に住んでるなんて大嘘です。あいつは、あのガンダルアルス園から毎日抜け出してきてたんです!」
「え!あのガンダルさんが経営してる孤児院から?!」
衝撃的な事実だった。ずっと隣に住んでた幼馴染だと思っていた。まさかあの有名なガンダルアルス園から抜け出してきてたなんて……!
ガンダルアルス園とはラエスリールの家の近所にある有名な孤児院である。
なんらかの原因で親がいない子を、有名な大富豪ガンダルさんが養っているのだ。
何が有名かというと、そこ出身の孤児達は後々なんらかの形で天才ぶりを披露するからである。
ガンダルの教育とは何か?天才児の作り方とか色々本になったりして世間を賑わしているのは確かだ。
「どうして乱華はそんな事知ってるんだ?」
「弱みを見つけてやろうと思ってあいつの後をつけたんです。隣の家に帰るのかと思いきや…こちらもびっくりしてしまいました。なんとあいつは孤児だったんです!」
そう言って少し興奮気味に乱華は力説した。
「悔しい事に言いふらしてやろうと思った矢先、あいつは引っ越すとか言い置いて、うちに来なくなりましたけどね。別にラスにちょっかいを出さないなら良いんです。あいつがいなくなってせいせいした!」
そう言って乱華はふふんと鼻をならした。
「………乱華。悪い。急に食欲をなくした。母様にごはんをいらない、って伝えといてくれないか?」
それだけ言うと、ラエスリールは無言で部屋に戻った。
締めたドアを叩く乱華の声が聞こえたが、ラエスリールはもうそれどころではなかった。
闇主が孤児?
なぜ私達に嘘など?
ラエスリールの頭はもうぐちゃぐちゃだった。
驚きの第3話(笑)
やっぱり闇主にお父さんとお母さんがいるなんて考えたくないんだよね〜。
些細な事だけど、現在版だとどうしても気になる点…………(汗)
でも、〜って事は闇主さんの養父はガンダル神ですか???ちょっと笑える…(笑)
なんだかどんどんシリアスな「学園の剣」。次回は鎖縛登場予定。予告しちゃって大丈夫かしら?
15・9・16 レン