柘榴の影 4




「あら、ごめんなさい。あんまりにも存在感がなかったんで気付かなかったわ。」

そう言ってクラスメートの桜妃がラエスリールに体当たりしてきた。
その反動でラエスリールは机の角に脚をぶつけていた。

「あら?血が出ちゃったみたいね?
あなたって虚弱体質なんじゃないの?これくらいで怪我しちゃうなんて。」

謝るどころか暴言まで吐きつける。
しかし、毎度の事だった為、ラエスリールは大人しく黙っていた。

「少しはなんとか言ったら?あなたのそういう態度が気に入らないのよね。すぐ被害者ぶって。」

そう言って桜妃はむくれた。

「…ああ、でもそうね。そういう態度取ってたら誰かが庇ってくれるものね。なかなかずる賢いわ。いつもいつも誰かに庇ってもらって!あなたのそういう所、私、大嫌い!」

「……別にそういう訳じゃ…。」

そう呟くラエスリールを無視して桜妃は言いたい事を続けた。

「でも残念ね。教室じゃあなたを庇ってくれる人なんて誰もいなくてよ?
最近、いつもしゃしゃり出てくる闇主先生も今は入院中ですものね!」

そう言われて、ラエスリールは胸がちくんと痛んだ。

「良い気味!せいぜい一人でその怪我の手当てでもするのね。虚弱体質のラエスリール!」

それだけ言うと、桜妃は自分のハンカチを投げ捨てて教室から出ていった。
一応、ハンカチを置いていってくれただけ良い人なのだろうか?とか、とんちんかんな事を考えながらラエスリールは保健室に向かう事にした。別に大した傷ではないのだが、なんだかクラスメートの視線が痛くてその場にいられなかったのだ。


どうして桜妃はいつも自分に突っかかってくるのだろう?
気に入らなければ放っておけば良いのに…。
そんな事を考えながら、保健室のドアを開けた途端、そこに驚くべき人物を発見してラエスリールの身体は凍りついた。

「………闇主?」

誰もいないはずの保健室で、薬戸棚を漁ってるのは闇主ではないだろうか?
一瞬、目の錯覚かと思った。昨日まで目を覚ます気配さえなかったのだ。昨日の今日でここにいるはずがない。そう思って、目を瞬かせてみたが、やはり目の前にいるのは闇主のように思えた。

「闇主?おまえ…おまえ、いつ退院してきたんだ?もうこんな所にいて良いのか?」

呆然としながら、薬戸棚の前の「彼」に近付く。日差しを背後に受けながら「彼」が振り向いた。

「闇主?聞き覚えのある嫌な名前だな。」

そう呟く「彼」の声はよくよく聞くと闇主の声ではなかった。

「……誰?」

「誰とは心外だな。勝手には間違えたのはそっちだろ?」

そう言って、こっちを振り向いたのは、闇主に似ているけど全然違う別人…。

「おまえは誰だ?……ここで何をしているんだ?」

「黒髪に金の瞳………
ふ〜ん、おまえがラエスリールか?さすが、あいつらしくなかなかなの美人さんだな。」

そう言って男はふっと笑った。

「…誰だ?私を知ってるのか?!」

ラエスリールは途端に身を強張らせた。
この男は自分を知っている、でも自分はこんなに青年など見た事ないのだ。
これだけ闇主に似ているのだから、知っていれば忘れるはずがない。

「保健室で待ってれば、いずれ会えるだろうと思ってたよ。話によれば、君は保健室の常連らしいからね。あいつ会いたさにここに来てるのか…、なんせ保健室で何をやってるのか疑問だね。」

なんだか意味の分からない事をぶつぶつと言ってるが、言葉の内容からどうやらこの男は闇主の知り合いのようだった。

「…おまえは闇主の知り合いなのか?」

そう問うラエスリールに男はふっと笑った。

「まあ、知り合いと言えばそうなんだろうけど……。
ここ数年あいつには会ってないね。愚れて家を勘当されて以来、見た事ないからな。」

そう言う彼の発言にピンと来るものがあった。

「……おまえ…闇主の兄弟か何かか?」

彼の言動、闇主そっくりの顔、そこから考えればそう思うのが一番妥当な気がしたのだ。

「兄弟……といえばそうなのかもしれないが……、実際、俺とあいつに血の繋がりはないからな。あんまり正確な響きではないな。っていうより、俺が一番嫌いな響き。」

そう言う男の瞳には憎悪とも言うべき不可思議な色が浮かんでいた。

「?」

ラエスリールは眉根を寄せた。
兄弟と言いながらも血の繋がりがない…全く謎だ。これだけ似てるのに兄弟じゃないというのか?
何よりも男の瞳に浮かぶあの憎悪は本物だ。一体、この男と闇主の間に何があったのだろうか?
いや、しかし昨日の乱華の話では闇主は孤児だと言う、親兄弟がいるなんておかしなことではないか。ラエスリールは更に頭が混乱してきた。

「まあ、いい。今日は物色に来たのさ。あいつが気に入ってるっていう女生徒を見にね。」

それだけ言うと男は漁っていた薬戸棚を閉めた。

「なかなかの報酬だったよ。また会おう、美人さん。それまで充分、身の回りに注意する事だね。」

それだけ言うと、男はラエスリールの横をするりと通り抜けて行った。
一瞬、呆然となったラエスリールだったが、すぐに我に返り青年を呼びとめた。

「待て!!おまえは何者なんだ?!私に一体なんの用があったというんだ?!」

しかし、男はラエスリールの言葉を全く無視し、保健室を出ていった。
すぐに追いかけてみたのだが、ドアを開けた時には既に男の姿は消えていた。

一体、あいつは何者なんだ?私に何の用があるというのだろう?

ラエスリールの中で闇主に関する疑問符はどんどん数を増していくのだった。


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お待たせ致しました。予告通り鎖縛登場の第4話です。
って、男!!自分の名前名乗ってないじゃん!!闇主似の謎の男のまま終わっちゃってるじゃん!!
まあ、これを読んでる破妖ファンの方なら、彼が誰なのか一目瞭然でしょう?
一応、脇役で桜妃ちゃんあたりも登場してみちゃったりしてますv
どうやら桜妃ちゃんは翡翠さんの取り巻きらしいんで、ラスいじめ筆頭って事でランクイン(笑)
葛衣も仲間に入れてあげたかったんだけど、ここではNG。今度の機会を狙います。
そろそろ念願の闇主さん看病シーンを入れたいな〜…と思いつつ…次回へ続く。どうぞよろしくお願いしますv

15・9・27 レン