柘榴の影5




「いかがでしたか?例の少女は?」

授業中なので人気のない体育館倉庫の裏で、先程の青年―鎖縛ともう一人、褐色の肌の少々逞しいスーツ姿の男が密談をしていた。

「ああ。なかなかの美人さんだったよ。しかし、あいつの好みも変わったもんだな。昔はもっと派手なタイプが好みだったのに。おまえのご主人のようにね。」

それだけ言って、青年は隣の男へ目配せを送った。

「それは口にしない約束でしょう?あの男をあっと言わせてやりたいのでしょう?今がチャンスと教えて差し上げただけではありませんか?」

そう言って男は視線を逸らした。なまじ男の身体が大きいものだから、その行為が何やら妖しく見える。

「まあ、そっちが何を考えてるのかは知らんが、とりあえず俺はあの子が気に入ったんでね。当面はあなた方の思惑に乗ってやる事にするよ。」

そう言いながら、青年は手にしていた煙草に火をつけた。

「まあ、また何か進展があったら教えてよ。とりあえず、こっちはこっちで勝手に動くからさ。」

それだけ言うと青年は煙草を吸いながら男から離れた。そのまま校門の方へと進んでいく。
後に残された男はそんな青年の姿をじっと見送っていた。難しい顔をしながら…。


*


闇主…

あれから毎日、ラエスリールは授業が終わると病院へ来るのが日課になっていた。
別に何をしてあげられるわけではないけれど…ただ青年の横顔が見ていたかった。
眠っているだけだけだと知っていたけれど、ただその顔を眺めているだけで気持ちが落ちついた。

闇主…

再び彼のことを思う。
そういえば、こんなにも落ち着いて彼の顔を見たのは何年ぶりだろうか?
再会してからというもの、いつも振り回されてばかりで彼の顔をじっくり見る暇などなかった。
いや、もしかすると、彼の顔をゆっくり落ち着いて見るなど初めてのことではないだろうか?
相変わらず、美しい顔が、規則正しい呼吸を繰り返している。
きめ細かい象牙色の肌には染みひとつなく、切れ長の瞳から伸びた睫がその肌に影を落としている。

…闇主って、こんなに睫が長かったんだ?

初めて知る事実にラエスリールはなんとなく感心した。
落ち着いてみてみれば、初めて知ることが多いことに気付く。
綺麗な肌、長い睫、端正な横顔、整った目鼻…
つくづく闇主が美しい青年であることをラエスリールは今更ながらに認識した。
なんでこんな綺麗な青年が自分のことなど気にかけてくれるんだろう?
今更ながら、そんな疑問が頭に浮かぶ。
こんな貧相な小娘なんかと一緒にいたって彼にはなんの得もないだろうに…?
昔はとにかく、今は誰も後ろ指を指すことなど出来ないほど、自分が美しく成長していることなど、彼女は知る由もなかった。

闇主…

思わず、彼の頬に手を伸ばす。
僅かなぬくもりに胸がキュンとした。
普段は振回されてばかりで、はた迷惑な奴だと思っていたのに、こうして落ち着いて見ていると、なんだか分からない不思議な気持ちに包まれてくる。

彼に会いたい!
彼の声を聞きたい!
会って…そして、いつもみたいに自分をからかって!!

それが適わない事が悲しかった。頭に巻かれている白い包帯が痛々しい。

と、その時、ふいに病室のドアが開けられた。

「!」

少しびっくりしてそちらを振り向くと、そこには見覚えのある美しい女性が立っていた。

「ひ、翡翠先生?」

そう、それはラエスリールの学校の体育教師である翡翠だったのである。
しかし、今の彼女は、学校での格好からは考えられないほど、華美な格好をしていた。
身体の線がはっきりと分かるピタリとしたスーツ、褐色の肌にゴールドのアクセサリー、一体どこの誰かとラエスリールは瞬間、自分の目を疑った。

「あらラエスリールじゃない?単なる生徒のくせにお見舞いに熱心ね。あんまりこういう事してると、教育委員会に訴えられても知らないわよ?」

それだけ言うと、翡翠は我がもの顔で闇主の側に来て、頭上に飾られている花を自分が持ってきたものと交換した。

「ひ、翡翠先生は頻繁に来られてるんですか?」

彼女のあまりにも慣れた行動に目を見張りながらラエスリールは質問した。

「ええ。一応、彼とは学校で会う前からの友人ですもの。彼、家族がいないでしょ?こういうお世話してあげる人もいないんじゃないかと思って。」

そう言いながら、翡翠は手際良く青年の身の回りを片付け始めた。
それを見ているうちに、ラエスリールは無性に腹が立ってきた。
翡翠先生は闇主に家族がいない事を知っている、
翡翠先生だったら、闇主に色々世話を焼いてやれる、
それと比べて私は…、私は闇主の顔を見て泣く事しか出来ない!!
そう思っただけで、ラエスリールは、なんだか訳の分からない感情に支配された。
勝手に世話を焼く翡翠にも、何も出来ない自分にも無性に腹が立った。

「だったら私、帰ります。あんまり来るなって言うなら来るのも止めます。そうですよね。私…単に甘えていただけですから。」

それに気付かされてラエスリールは愕然とした。
そう、自分は青年に甘えていたのだ。
ただ構ってくれるから。ただ優しくしてくれるから。
彼の好意にぶらさがり、彼に何をしてあげるでもなく、自分は単に甘えていただけなのだ!

「そうね。まあ、よく彼のお世話になってるあなたなら、多少彼に甘えたくなる気持ちは分からなくもないけれど、こういう時まで頼るのはどうかと思うわよ?彼だって大変なんだから。生徒一人ごときに特別に手をかけてあげらるもんではなくてよ?」

翡翠の言葉にラエスリールは返す言葉もなかった。

「か…えります。ご迷惑かけて申し訳ございませんでした。」

そう言って闇主の横の席から立ちあがろうとした時、ふいに手首を捕まれた。

「?!」
「か……える…なよ。もう少しここにいろ……。」

そう言って自分の手首を掴んでるのは、なんと、当の闇主本人だったのだ。

「あ!闇主?!」
「意識が戻ったの?!」

闇主の意識が戻った。事態は少し急変する。


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はい。お待たせしましたです。
スランプだったのに最初の一言さえ決まればあっという間に書けるものですね。
その分、文章めちゃくちゃですが・・・(恥)

謎の人物また登場&翡翠様も当然登場です。学園の剣のレギュラーですから(笑)
しっかも、思いっきりラスの事イジメてます。悟りきった大人のフリして超イジメです!(鬼)
翡翠さんのイジメにさすがの闇主さんも耐えきれなかったのか…予想以上に早く復活の兆し!
いえいえ、これからが大波乱の予定なんですがね(笑)

続き楽しみにしてもらえると光栄ですー。お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。ではでは。

15・10・28 レン