柘榴の影 7




「良かったじゃない、ラス。闇主先生目が覚めたんでしょう?」


昼食時の昼休み、美味しそうな手作り弁当をつつきながら、突然サティンが言った。


「え?闇主先生復活したの?サティンってば情報が早いじゃない!」


昼食の友、リーヴィが学食のハンバーグを突っつきながら言う。
ここは浮城高校の食堂。
いつもお昼を共にする浮城高校美少女3人娘は、今日はここでお昼を取ることになったのだ。


「当たり前でしょ。これでも一応生徒会長なんだから。職員室の情報は結構早く耳に入ってくるの」


少々鼻高々に言うサティンの言葉を聞きながら、ラエスリールは内心痛い話題を振られたな、と思っていた。

闇主の目が覚めて以来、ラエスリールはもう病院通いをするのを止めていた。セスランからの連絡で、近々闇主が退院するという情報も知っていたのだが、ラエスリールはそれを誰かに話す気にはなれなかった。そういう精神状態ではなかったのだ。出来ればこの話題には、しばらく触れたくはなかった。


「―で、当然ラスは知ってるんだよね?なんか聞きかじった話じゃ目が覚めた時、側にいたんでしょ?」


さすがの情報網…恐るべしサティン…という感じである。


「どうして教えてくれなかったの?結構心配してたのに」


ちょっと拗ねるようなサティンの一言にラエスリールは慌てた。


「そ、そういう訳じゃないんだ!サティン達には話したいとは思っていたんだけど!…ただ、あんまり嬉しい状況じゃなかったんで…落ちついてからにしようかな、と思って」


そう言って沈むラエスリールに珍しくサティンは追求の言葉をかけてきた。


「ラス?何があったの?あなたがそんなに落ち込むなんて。あんまり良くない傾向よ?話してスッキリした方が良いと思うけど?」


そういうサティンにラエスリールは瞬間戸惑った。
話してしまいたい、けれどこれは自分だけの問題であって、この気持ちを彼女達が理解してくれるとは思えない。こんな悩みを話しては、逆に迷惑をかけてしまうんじゃないだろうか?

そう悩むラエスリールにサティンはきっぱり言った。


「ラス、一人で悩むのは良くないわ。何の為に私達がいると思っているの?」


そう言われてラエスリールははっとした。
こんなにも自分の事を思ってくれている人達になんだか申し訳なくなって、ラエスリールはぽつりぽつりとこの間の病院での出来事を話し始める事にした。
闇主の目が覚めた事、翡翠先生に責められた事、そして、闇主が自分の事だけ存在を忘れていた事、その話を聞いた途端、サティン達はやはり言葉に詰まったのであった。

まさかそんな事になっていたとは……。

確かに慰める言葉も見つからない。どんな慰めの言葉も所詮表面上のもの、今のラエスリールの気持ちを軽くしてやる事は無理のような気がしたからだ。


「どうして闇主は私の事だけ覚えてないのだろう……。なんだか、あの瞬間の冷たい言葉が胸に刺さって、彼に会うのが怖いんだ」


そう言って瞳を伏せるラエスリールがとても痛々しかった。


「ラス……所詮何を言っても慰めになっちゃうかもしれないけど……、まだ目が覚めてちょっとしか経ってないんだもの。いずれ思い出すかもしれないし…、こんな所でめげちゃうのはまだ早いわよ?」

「……分かってる……でも、あいつにこんな奴知らない、と言う目で見られるのが怖いんだ…情けないな」


そう言って自嘲気味に悲しく微笑むラエスリールが痛かった。

とその時、突然校内放送がかかった。


『お知らせします。2年3組ラエスリールさん、先生がお呼びです。至急職員室へ来て下さい。繰り返します。2年3組ラエスリールさん、先生がお呼びです。至急職員室へ来て下さい。』


「ちょっとラス!呼ばれてるわよ?一体何やらかしたの!?」


突然の放送にリーヴィが声を荒げる。


「……先生って誰なのかしら?なんか妖しくない?付いて行ってあげようか?」


そう言うサティンに、ラエスリールは言った。


「いや、いい。食事中だし悪いだろ?行けば分かるだろうから……ちょっと行って来るよ」


そう言って、席を立ったラエスリールは、この申し出を断った事を後から死ぬほど後悔する事になった。







浮城高校の職員室は校舎の一番端っこにある。
教室から結構離れている為、生徒、教師、共に不評な場所である。
そこに行く為には色々な教室の前を通り過ぎなければならなく、保健室もまたそのひとつだった。
保健室の主は現在いないけれど、ここは彼を思い出すので、ラエスリールはしばらくこの前を通らないようにしていた。しかし、職員室の並びにある為、そこに行くには絶対ここを通らなければならない。
昼休みとはいえ、教師以外はほとんど通らない道の為、人気はあまりなかった。
ラエスリールは何だか嫌な気持ちで保健室の前を通りすぎた。

出来るだけこの部屋の主の事は考えないようにした。
何故呼び出されたのか、その内容に集中しようと……。
そう思いながらその前を通った時、突然保健室のドアが開けられた。

ちょうど目の前を歩いていたラエスリールは、その中から出てきた手に、突然肩を抱かれ、そのまま中に引き入れられたのである。

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途中です。ここで切った方が面白いと思って(笑)
今回、ラスさまうだうだ悩んでます。まあ基本的にラスさまは悩む体質なんですけど……!
次回くらいから、キャラをもっと動かしたいと思います。アクションなくって飽きてきちゃったでしょ?
なるべく早めに続きアップします。(だって大体出来てるんだもん!)

2004.5.27 レン