−それぞれの幸せ−
12


「ふんふんふふ〜ん♪今日は良い天気だねぇ〜♪」
アーチェは上機嫌で鼻歌を歌いながら、ユークリッド近くの上空を飛んでいた。彼女の言葉通り、空には雲一つ無い快晴である。彼女は今、約一年ぶりにクラース達に会いに行くところであった。
「ミスト君とリネットちゃんの結婚式から一年かぁ〜。時の経つのは、早いもんだねぇ〜」
何と無く年寄りじみた事を言いながら、アーチェはユークリッドの町中に着陸した。そこは、丁度クラースの家の前である。
コンコンコン…
いつも通り玄関のドアをノックする。
「はい。………あら、アーチェさん。お久しぶりねぇ〜」
数秒後、ドアを開けて中から出てきたのはミラルドだった。彼女は、アーチェに簡単な挨拶をして家の中へと招き入れた。
「久しぶりだね、ミラルドさん。最近どう?」
「う〜ん、別に変わりは……あっ、そうそう、もうすぐ私おばあちゃんになっちゃうのよ」
「へぇ〜。おめでとうミラルドさん。……って、ミラルドさんに言ってもしょうがないよね」
「ふふっ、そうね。今の言葉は、ミストとリネットさんに伝えておくわね」
「ありがとね。……ところで、クラースはどうしてるの?」
「ああ。あの人ったら、初孫が生まれるからって最近落ち着きがないのよ。…まるで、ミストが生まれた時の様な感じでね」
「あはは、クラースらしいや」
「でも、私も結構心配しているのよ。なんと言っても、初孫ですからねぇ」
「ふぅ〜ん。……やっぱ、そう言うもんなんだね」
「ええ、そう言うものなのよ」
玄関でそう言った会話をした後、二人は客間へと足を運んだ。

「今クラース呼んでくるから、適当に座ってちょうだいね」
「は〜い♪」
アーチェを客間に招いた後、ミラルドはクラースを呼びに一旦部屋を出て行った。
「………ふぅ。……ミスト君、ついこの前まで子供だと思っていたのに、もうすぐ父親になっちゃうのか。…………時が経つのって、ほんと早いよね」
一人きりになった時、アーチェはついそんな独り言を言ってしまった。

「あはははは。クラースったら、心配性にも程があるよ。……あはははははははは」
「うるさい。……お前には解らんだろうが、私にとっては重大な事なんだぞ」
「それは私にとっても同じ事だけど、貴方はちょっと心配しすぎよ。…ミスト達なら大丈夫ですって」
「そうそう、ミラルドさんの言う通り。ミスト君とリネットちゃんなら心配ないって」
「………だと良いのだが。…………ふぅ」
「ふぅん。……でも、あんまり気を遣い過ぎると禿げるよ」
「うるさいっ!!…どうしてそこに行き着くんだっ!!」
「あはははははははは」
ミラルドがクラースを連れて客間に入って来てから数分。アーチェは、クラースの落ち着きの無さについつい笑ってしまっていた。そして彼女達は、落ち着きのないクラースをからかって楽しんでいた。
「うるさいですよ、父さんに母さん。一体何が……あっ、アーチェさん。こんにちは」
三人がわいわい騒いでいた所に、ミストが少しいらついた表情をして入ってきた。その様子から、彼がどれくらい神経を削っているかが伺えた。だが、そこにいたアーチェを見て彼はすぐに表情をゆるめ、彼女に挨拶をした。
「こんにちは、久しぶりだねミスト君。……もうすぐミスト君もお父さんになっちゃうんだね」
「ええ、もうそろそろですね。……もう臨月に入ってますから、いつ生まれてもおかしくない状況ですね。もう、心配で心配で夜も眠れなくて」
「何となく解るよ、その気持ち。……心配する事しか出来ないもどかしさってやつでしょ」
「……ああ、早く生まれないかな」
「ふふっ。ほんとクラースにそっくりね、そう言う所は。……大丈夫よミスト。リネットさん、元気な子供を産んでくれるわよ」
「解ってますよ。……でも、やっぱり心配で」
見ている方が心配になってしまうくらいに心配性なミストに、アーチェとミラルドは苦笑するしかなかった。


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