−それぞれの幸せ−
7


墓地に着いて、暫くした時だった。クラースの墓を探しているクレス達に、一人の老人が何かを確認する様にして近づいていっていた。
「あの…もしかしてあなたは、アーチェさんですか?」
その老人は、アーチェに近づきいきなりそんな事を言った。
「えっ!?…そ、そうだけど。……アタシに何か?」
アーチェは少し慌てながら、その老人にそう答える。
「……お久しぶりです、アーチェさん。……今日は、祖父の墓参りに来たのですね」
「………あなたもしかして、レナード君?」
「……はい。……父の葬儀以来ですね」
「…考えてみれば、そうだね」
レナードと言う名の老人とアーチェは、懐かしそうな感じで話をしていた。アーチェは今目の前にいる老人の事を、子供の頃から知っているのだから懐かしくて当然なのだろう。
「こちらの方々が、祖父と共に戦った仲間達ですね。えっと…」
「クレス・アルベインです。ミゲールの町で、アルベイン流の道場を開いています。それで、これが…」
「ミント・アルベインです。クレスの妻です」
「俺はチェスター・バークライト。アーチェの夫です。……こいつはエーチェ。俺達の娘です」
「よろしくなの、おじいちゃん」
四人は、初めて会ったこの老人にそれぞれ自己紹介をした。
「私の名は、レナード・レスターです。…貴方達の事は、祖父のクラースから、よく聞かされていましたよ」
レナードはそう言って、嬉しそうに微笑んだ。
「そうですか。……でもまさか、ここでクラースさんのお孫さんに会えるなんて思ってもいませんでしたよ。以後、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
そう言った後、クレスとレナードはがっちりと握手を交わした。
その後、レナードの案内でクラースの墓に着いた彼等は、そこにお供え物をして暫く合掌をした。

「……クラースさん。長い間来る事が出来なくて、ごめんなさい」
クレスは、墓前にそう言って申し訳なさそうに謝った。
その後彼等は、天国にいるクラースに向けるように、自分達の近況を語った。
クレス達が、苦労の末ミゲールの町を作った事。
チェスターとアーチェが結婚して、子供が出来た事。
クレスとミントが結婚して、ミントが今妊娠している事。
クレスとチェスターが、今色々と忙しいと言う事。
戦いが終わってから、今に至るまでの事。
それらの思い出を、クラースに向けて延々と語り続け、気がつけばもう結構な時間になっていた。
「…それじゃあ、今日の所はこれで帰ります。……また今度、僕とミントの子供が産まれた時にでも見せに来ますね」
最後にクレスはそう言って、クラースの墓を後にした。

「ところでみなさん。…もしよろしければ、私の家に来ませんか?……色々とお話したい事とかありますし、みなさんをおもてなししたいと言う気持ちもありますから」
墓地を出てすぐに、レナードはクレス達にそう言った。
「いえいえ、そんな気をつかわなくても」
「あなた。ここは素直にご好意を受けましょうよ」
「そうそう。せっかくああ言ってくれてるんだから、素直に受けるべきだぜ」
「そうだね。……それじゃあ、よろしくお願いします」
「いえいえ、お構いなく」
そうしてクレス達は、レナードの家へと向かって行った。
「ふふ……レナード君も、もうすっかり人の良いおじいさんになっちゃったね」
レナードのその姿と態度を見て、アーチェは愉快そうに、だがどこか悲しそうな感じで微笑んでいた。

…………………


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