−それぞれの幸せ−
8


「なぁミラルド」
「どうしたの?」
「あいつ等、とても幸せそうだったな」
「ふふっ……そうね。見ていて妬けちゃうくらい」
「………羨ましいのか?」
「いいえ。……私は十分に幸せよ」
「……私もだよ」
「ふふふ」
「あはははは」
それは他の人達には決して聞こえる事の無い会話。天国で暮らす夫婦の、他愛も無いお喋りだった。

…………………

レナードの案内で家へと着いたクレス達。今彼等は、客間にてお茶をごちそうになっていた。
「主人から話しは聞きました。ゆっくりしていって下さいね」
「急にすいません。それじゃあ、お言葉に甘えてゆっくりさせてもらいます」
レナードの妻は優しい口調で、クレス達をもてなしてくれた。すぐさまクレスはお礼の言葉を述べ、そして再び茶を飲み始める。
「へぇ〜。あの頃と全然変わってないや」
家の中を見回しながら、アーチェは小さく呟く。懐かしさと、悲しさが入り交じった瞳で。
「あの頃って?」
「……ミスト君が亡くなった時だから………大体20年程前かな」
チェスターの問いかけに、アーチェはそう答える。
「ミストって、もしかしてクラースさんの…」
「うん。クラースの息子」
「……そうなのですか」
アーチェの言葉は、その場にいた全員に長い時の流れを感じさせ、悲しい雰囲気を漂わせていた。
クラースはともかく、その息子は既に亡く。孫ですら、クレス達の祖父程の年齢があると言う現実が、彼等の心に突き刺さった。
「私はもう会えないな」
クラースの言ったその言葉が、いま現実としてそこに存在していた。
「……………長い年月が経ったんだ」
悲し気な眼差しでクレスは呟いた。

「……ここももう、百年近く変わってないんだ」
家の中を見回しながら、アーチェは感慨深く呟く。
「…へえ……この飾り、懐かしいなぁ〜」
「あの、アーチェさんが初めてここにいらしたのは、いつ頃の事なのですか?」
懐かしさに浸っているアーチェに、ミントはさりげなく問う。
「うん………確か、ミスト君がまだ子供の頃だったかな。あの時はね………」

…………………


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