こぽ…。
こぽ…。こぽ…。
小さな無数の泡が、蒼く澄んだ液体の中を上へ上へと昇っていく。
蒼い液体は少し粘りがあるのか、ひどくゆっくりとした動きで昇っていくが、昇りつめた
泡は透明な壁にはばまれ、やがて吸収されていった。

──大きな透明の球体の中に、『何か』がいた。──

両腕を折り曲げ、膝を抱え込むようにして浮かぶ姿は、まるで羊水の中で身を丸めて眠る
胎児のようにも見える。
ふせられた瞼を覆う長いまつげも、微かに開かれ呼吸を繰り返す唇も、僅かながらに生の
きらめきを放っている。
それは静かに閉じていた目をうっすらと開くと、昇っていく泡をその瞳に映す。
しばらくただじっとその水面をまるでスクリーンのように瞳の上に反映していたが、やが
て再びゆっくりと閉じられる。
おそらく見えてはいないのだろう。
撫でるように『彼』の表面をなだらかに滑っていく泡が、少しずつ減っていく。
ぷつっぷつっと泡が壁にぶつかり割れるささやかな音もやがて消え、再び静寂が訪れる。
彼を取り巻く球体の外には『何も』なかった。
ただ無限の闇だけがそこに存在していた。

──『彼』は眠っているのだろうか。──

──それともただ『生きて』いるだけの存在なのだろうか。──

微かな呼吸音だけがその世界の全てだった。















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