小ネタの部屋

その28.「しんつよのサタスマSP」

「あ、つ、ま、れっ!」
CXの廊下を歩いていた慎吾はびくっと立ち止まった。聞きなれた中居の号令。それもかなり機嫌の悪そうな奴。
「しゅーごうっ、すわれっ」
ハスキーだから余計に迫力のある怒鳴り声は続く。
なーんだ。めちゃイケスペシャルじゃん。
製作局のテレビ画面では、バスローブ姿の中居がキレて説教している場面。演技とはいえ、そのかすれた怒鳴り声にしっかり反応してしまうのは12年の条件反射。
今年もごくろーさん。でもなっつかしー。あの怒った中居君。
年末の中居は疲れているせいか、ほとんど仕事以外は口もきかないし、もともとプライベートな喜怒哀楽をメンバーに見せるようなことも、ほとんどない。昔はよく「集合っ!」って呼ばれては並んで怒られたけれど、もう大人になってからは、そんな場面は何年もない。
「なつかしーよね。あのキレかた。まじギレの方がもっと迫力あるけど」
いつのまにか寄ってきた剛も同じことを考えている。二人そろえばしんつよコンビ。慎吾はふいにひらめいた。
「ねえ、つよぽん。中居君に久しぶりに怒られたくない?」
「えー、なんだよ。俺やだよ。怖いもん」
「だって、もうずうっとこんなことないじゃん。最近の中居君ってつめたくない?ナイナイなんかとばっか、仲良くしてさ。中居君が面倒みなきゃいけないのは、どこのだれかって教えてあげなきゃ」
慎吾は目を輝かせている。こうなった慎吾はもう止められない。慎吾はある計画を剛に耳打ちした。それをきいた剛もいい人を返上して、意地悪そうな笑いを浮かべた。

「たっだいまー」
一人の仕事で、誰もいない楽屋に帰る時も、こんな風に挨拶するのが習慣になっている。誰かがおかえりっていってくれることを期待するわけじゃないけど。
でもその日は違っていた。
「だああ……」
えっ? ただいまの「ま」の所で口をぽかんと開けて、中居はかたまった。
「…だあ」
楽屋のたたみの上には、まぎれもない、まだ「はいはい」しかできない赤ん坊が、中居に向かって(めずらしく)にこにこ笑いかけていた。
「えっ、サタスマ?」
そんなスケジュールあったっけ? 今日はこれのあと、スマスマの撮りでぇ。
「なーんだ。どっきりかぁ。ほーんと気合入ってるよ、最近のサタスマ」
中居はおもいっきり楽屋のドアを開いた。しかし廊下はしーんと静まりかえっており、中居を待ち構えているはずのカメラや音声、スマッペの姿もない。
「はあっ?」
振返ってみる。赤ん坊はまちがいなく存在する。もう一回廊下を見ると「おつかれさまっす」とさっきまで一緒にいたスタッフが普通に通りかかった。
「おつかれ」と反射的に返事をしてから、そろりとドアを締める。それから部屋の中で背伸びしたり、はいつくばったりして、隅々までカメラを探す。その間中、問題の物体は機嫌よく中居に笑顔を向けている。
「……ない」
ってことは……中居は赤ん坊を振返った。中居がやっと自分の所に来てくれたので、赤ん坊はさらにうれしげによだれをたらす。
「あーあ、きったねーの。お前、だれよ。どっからわいたの?」
赤ん坊をなれた手付きで抱き上げると、ぽろりと手紙が落ちる。それを開いた中居は、再びかたまった。

『この子は木村拓哉の隠し子です。名前は広哉です。がんばって一人で育ててきましたが、もう疲れてしまいました。中居様、あとはよろしくお願いします』

きれいな女文字の手紙には、そのあと、育児メモが丁寧につづられていた。
「ちょっと、まってぇ、まじかよ」
赤ん坊をまじまじと見つめる。
木村の子供って……そういわれたら、目のあたりとか、なんとなく……犬っぽいところとか……
「ばあああ」赤ん坊は上機嫌。
「ホンキの捨て子……」中居は呆然とした。
いくら俺が芸能界一の子育て名人だって、こんなのありかよ。なーんで木村の子供なんかお願いされなきゃなんねーの。これって、まじっ、まじっ? ほんとにお母さんに捨てられたの、お前?
気がつくと、部屋の隅には見覚えのないピンクのバッグ、ベビーバギーが。バッグの中は思ったとおりベビー用品がつまっている。
「中居さん?」
びくぅっと心臓が飛び上がる。マネージャーの声。
「はーい。今ちょっと入らないで」
「今日のスマスマ、明日の早朝に変更です。木村さんの飛行機、遅れてるそうです」
しまった。木村は海外ロケで、ぎりぎりに入ることになっていた。今ごろは携帯もつながらない空の上。この事態を知らせたくても、知らせようがない。
「開けますよ」
飛び上がって、自分から少しだけドアを開いて、身体でふさぐ。部屋の中を見られないように。既に中居の頭は、マネージャーにも知られず、この問題をどう処理するかでいっぱいだった。
「荷物下さい。今日はこれであがりです」
「い、いいって。今日、俺一人で帰るわ。車、昨日っからここにおきっぱなしだし。おつかれー」
不信そうなマネージャーの鼻先でドアをばたんとしめる。さらに誰も入ってこないようにしっかり鍵をかける。ドアの音におどろいたのか、赤ん坊が泣き出した。
「中居さん?どうしたんですか?誰かいるんですか?」
「あのっ、あのっ、CD。そう、今度買ったCD。これってさ、ヒーリング効果があるっちゅうのよ。この泣き声にさ。おれ、ちょっと疲れ気味だから。とにかくおつかれー」
必死の言い訳に騙されてくれたマネージャーが去って行く足音がすると、中居はふかーいため息をついた。
「ごーめん。ごめん。ひろやぁ。びっくりしたんだー。よーしよし」
めずらしいことに、赤ん坊は中居が抱き上げるとぴったり泣き止んだ。

人がいなくなった頃を見計らって、楽屋を脱出する。いくら帽子を目深にかぶってもベビーバギーを押した中居。めだつ、めだつ。
「あっ、サタスマっすか?中居さん、お疲れです」
「大変ですね。サタスマ」
夜十時を回ったとはいえ、まだ沢山いるスタッフから声がかかるが、ベビーバギーをおした中居は、既に何の違和感ももたれないキャラとして定着していた。
「そう、サタスマ。サタスマ」
本物のサタスマスタッフに行き合わないのをいいことに、「サタスマ」を念仏のように唱えながら、中居は無事テレビ局の地下駐車場についた。
車に荷物と赤ん坊を積み込んで、ばたんと扉をしめて、またため息。
「どーすんべ、これぇ」

その頃、スマスマの控室は大騒ぎになっていた。まず一番に到着していた剛に今日の撮りの延期が伝えられ、元気に入ってきた慎吾のもとに剛は青くなって駆け寄った。
「しんご!大変、木村君、飛行機、遅れて」
「なーによ。つよぽん。わっかんねーよ」
「だから、今日のスマスマ延期、延期!」
慎吾の頭の中で、それがどんな事態を引き起こすのか、考えをめぐらすのにちょっとタイムラグがあった。
「うーんと、……えーっ、じゃあ、木村くんは?」
「まだ、飛行機。飛んでる」
その時、吾郎が遅れて到着した。慎吾と剛は駆け寄ると、同時に口を開いて説明しようとした。さすがは吾郎。しんつよの慌てふためいた音声多重でも事態をしっかり把握する。
「じゃあ、計画は失敗?」
慎吾の計画では、赤ん坊を発見してあわ食った中居にしばらく子守りをさせ、そこに遅れて木村が到着。キレた中居の怒りの一喝ののち、種あかしという筋書きになっていたのだ。
「じゃあ、子供は?」
赤ん坊の実のおじである吾郎は、一番重要なことを真っ先にたずねた。しんつよは顔を見合わせる。
「ねえ、中居君知らない?今日他の番組で、入ってるでしょ」
スタッフにたずねる。
「中居さんなら、さっき帰りましたよ。ベビーバギー押して。大変ですよね。サタスマ」
女性スタッフはくすくす笑いながら教えてくれた。しんつよごろーが、慌ててCX中走り回っている間に、中居と赤ん坊を乗せた車は、とっくに夜の街に消えていた。

「あーあ、おつかれ、おつかれ」
長い待ち時間と、長いフライト。アジアの重ったるい空気の中にいたことが疲れを倍増させているような気がする。マンションの長いエントランスを歩きながら、時計をたしかめる。時差をあわせて、東京は既に午前一時。
木村の部屋は最上階。エレベーターはその階には暗証番号なしではとまれない。今同じ階のもうひと部屋は空き部屋なので、誰も上がってこれないはずの廊下に人影を見た時は、思わず身構えた。
「だれっ?」
影から出てきたのは、中居。木村はほっと息を吐くと同時に、びっくりして目を見開いた。中居の腕の中には赤ん坊。妙に見慣れたような、それでいて奇妙な光景だった。
「ただいま」
中居はおかえりも言わず、木村を睨み付けている。
いったい、なーんなんだよ。こっちは疲れはててんのに、サタスマかよ。じょーだんじゃねえよ。
「サタスマなら、よそでやれよ。今日、くたくたなんだからさ」
「ばっか、ちげーよ」
「じゃあ、お前の子供かよ。いつ産んだんだよ」
頭の上を飛び交う、機嫌悪い同士の険悪な会話に刺激されたのか、赤ん坊は火がついたように泣き出した。深夜のマンションの廊下に響きわたる泣き声。
中居はあわてふためいて、赤ん坊をかかえ直し、木村は一刻も早くドアを開けようと焦って鍵を落した。
「まあ、上がれよ。事情ありそうだし」と、中居と赤ん坊の妙にしっくりくるセットを部屋の中に招き入れ、ロックをかけ、ひと息つくと、わけもわからず腹立たしくなる。
赤ん坊をかかえた中居はだまりこくったまま。
リビングルームに二人を残し、アジアのべたついた空気を洗い流しに行く。髪をふきながら戻ると、赤ん坊は中居の手からミルクをもらっていた。
すっかり堂にいった手付き。なぜかほほえましい光景。
男のくせにこんなに子守り姿が似合う奴って、やっぱ中居くらいだよな。
そばによって子供の顔をのぞきこむ。
「おっ、ごきげん」
赤ん坊はミルクを飲みながら、にこにこ笑いかけてきた。
「かっわいいじゃん。男の子? 将来いい男になりそ」
「あったりめーだよ。天下の木村拓哉の子だもん」
頭にかけたタオルがばさっとおちる。
「ひろやぁ、やっとパパに会えたよ。パパだよぉ」
口調は優しいけれど、目は笑っていない中居。
「ちょっと、まて、何つった?俺の聞き違いか?」
「ばか、おっきな声だすなよ。飲んだら寝そうなんだから」
赤ん坊はミルクを飲みながら、もう半分目を閉じている。二人のやりとりはささやき声の迫力のない言い合いになる。
「なあ、もう一度いってみろ、おい」
「とにかく、これ読め。寝かせてくるから」
「おい、なかい、なんだって……」
寝室の広いベッドの隅にかってに赤ん坊の寝床をつくり、中居が一人でもどってきた時には、木村は不機嫌な顔で煙草をふかしていた。
「……で、お前、これ信じてんの?」
手紙をひらひらさせながら、中居を睨み付ける木村。しばらくにらみあった末、ふいに中居の目からきつい光が消えた。
「きむら、こうなった以上、いさぎよく責任とってくれ。あの子の幸せだけを一番に考えてくれよ」と低いかすれ声でいう中居。
「お前が逃げない男だってことは、俺が一番よっく知ってる。きっと事情があるだろ。とにかく母親を捜して、親子三人で幸せに……」
木村はだまりこんでいる。
「ひょっとして、俺が木村拓哉伝説なんて言ったから悪いのか?なあ、俺がお前たち親子のこと、こわしちゃったのか?それだったら、あやまる。お前の女にもあやまる」
中居の大きな目から、きらきら輝くものがこぼれおちた。
「きむら、ごめん。俺、SMAPバカだからさ。つい……俺、どんなことをしてもつぐなう。もし、母親が帰って来なかったら、俺、母親になって、広哉を育てる……」
木村の不機嫌な顔が、びっくり顔にかわる。
「12年、ありがとな。もう、他に大切なもんができても、みんなおかしくない年になったんだよな。俺、にぶいよな。もう、とっくにそういう時期なんだよな……」
木村のびっくり顔が、もうお手上げという顔にかわる。
「週三日なんていわねーよ。俺、木村の子なら責任もって……」
「ばああーかっ!おめー、しんそこ、ばあああーか!」
木村の大声に赤ん坊が泣き出すのと、インターホンがけたたましく鳴り出すのが同時だった。

「……ってわけだから、俺、赤ん坊ひきとって帰る。アネキが心配するから」
吾郎は情けない顔のしんつよコンビにかわってことの顛末を説明したあと、赤ん坊を中居の腕から抱き取った。
「僕は赤ん坊を貸し出しただけで、計画には入ってないからね」
ますます小さくなるしんつよにとどめの一撃を打ち込んで、吾郎はさっさとベビーバギーを押して、ピンクのバックを肩にかけ、帰っていった。妙に似合わない光景だった。

あとには、死刑執行を待つしんつよコンビが、木村家のリビングでうなだれている。
「オメーラッ!」
意外にも、大音声で一喝したのは、中居じゃなくて木村。この計画の主役だった中居は完全にほうけた顔で、ソファにへたっている。
「おめーらっ、だいたいっ」
木村が大きく息を吸って、続けようとした時、中居はかすれた声で言った。
「木村、いいよ、もう」
「よくねーよ。おまえ、だいたいしんつよに甘いんだよ」
「おれ、今日、帰るわ、疲れたから」
中居は力ない足取りで、部屋をでようとする。「まてまて」と止めに入る木村。木村は中居を抱き留めたまま、慎吾たちに目で「消えろ」と合図した。
こそこそ消えようとするしんつよコンビ。玄関のところでスニーカーをはいていると、一人リビングから出てきた木村は「おまえらの説教は明日。覚悟しとけよ」と言った。
「中居君、どうしちゃったの?」
「最近あいつ、いろいろナーバスなの。こういう問題に関してはとくに」
「ごめんなさい」
「中居にあやまれ。今日のところは俺がフォローしとくから」
いうことだけ言って、木村はさっさとリビングに戻っていった。「木村の子なら俺……」という中居の台詞を心の中で反芻しながら。

「なーんか木村君、うれしそうじゃなかった?最後」
「うーん。よくわかんないけど、目が笑ってた」
「でもびっくりしたね。赤ん坊と中居君と木村君、家族みたいに妙にしっくりしてたよね」
「また、つよぽんは。そんなこと一言でも言ったら、明日ひどい目にあうよ」
「結局、木村君には怒られても中居君には怒られなかったね」

いそいそと、冷えた缶ビールを冷蔵庫から取り出しながら、木村は目だけではなく、口元までこみあげる笑いをこらえていた。久々にみる、テレビの中以外の、へたれた中居。
木村にとってこんなにおいしい獲物はない。
さてさて、どーやって慰めよっかな。それとも、がんがん飲ませてつぶしちゃおっかなー。ばっかだねー。ほんと。どーやって子育てするつもりだったんだろ。あいつ。引退宣言でもするつもりだったんかね。中居正広子育て引退なんてね。
昔はもっと目の前で、へこんだり怒ったりしていたのに、いつの間にか、そういう顔を見せなくなった中居。テレビの中ではへたれキャラ、ビビリキャラを演じても、会議室で打ち合わせする中居の真剣な横顔なんかをふと目にすると、こいつ、本当に大人になったんだな、と思い知らされる。
常にどこかに計算がある中居と、つくらない木村。
SMAPを仕切ることで、大人になっていく中居を見るたびに、反発ではないにしろ、自分は反対の方向へと走ってきたような気がする。
ほいっと缶ビールを渡しながら、向かいあってすわる。ふたり同時にプルトップを引き上げ、一気にのどに流しこんだ。
「はぁー、気ぃ抜けた」
「しんご、謝ってたぜ。あいつら、久々にお前に怒られたかったんだってさ」
中居はきょとんとする。
「昔よく『そこにならべっ!』とかいって、おれらのこと怒ってたじゃん」
中居は苦笑した。
「そんなの、しんご達がガキの頃の話じゃん。あいつら、すんげーガキだったからさ。でもお前はタメだし、お前のこと、怒った覚えはねえよ」
「いや、俺、覚えてる。俺もよくあいつ等と一緒にワルさしたから」
「ガキだったよな。しんご。ランドセルしょって仕事きてた」
「おれらみんなガキだったけど、お前一人でどんどん、大人になっちゃったんだよ」
「……今はみんな大人だしさ。俺が怒ったりすること、もうねーよ」
子育てが終わった母親みたいな台詞をはく中居。その目は吾郎が置き忘れていった哺乳瓶を見ていた。
「中居、元気だせ。ありゃ吾郎の甥っ子なんだから、いつでもまた会えるだろ。サタスマでも、いちいちそんなに情うつしてんの?」
木村はソファにへたりこんでいる中居の隣に、席をうつした。
「……だって、木村の子だと思ったべ。おれ」
「ほーんと。おばか。この木村拓哉がそんなへまするかよ」
おっと、思わず口が滑る。中居がにらみつけてくる。
「……でもさ、いつか本当にくるんだよな。こういう日が……SMAPより大切なものができる日が」
「いつかはいつかだろ。そーんなこと考えてもはじまんないじゃん」
木村は中居の頭をこづく。
「まあ、そん時はさ、お前、俺の子供の専属ベビーシッターに雇ってやるよ」
そんな台詞にも、今日の中居からは力のない微笑みしかかえってこない。
「お父さんも、もれなくついてくるんだぞ」
おっ、少し笑った。
「お前、なんで、あんなことあっさり信じたの? まず疑ってかかるのが普通でしょ。だいたい広哉なんて名前、ありかよー」
「だってさ…」
「なんだよ」
「あの子おれの顔見て、はじめからにこにこ笑ってくれたべ。そんな子今までいなかったし」
「根拠ねーよ。あの吾郎の甥っ子だぞ。そんくらいの芸はしこんである」
「それにさー、抱っこしたら、ぴたって泣き止んだし。あとさっ……」
必死でいいつのる中居の頭を、木村はあきれ顔でくしゃくしゃとかき乱した。

(byMAKO様。ありがとうございましたーー!!へへー!貰ったものはなんでも使ってしまう私ぃ〜(笑))


その29.「声帯移植」

『長嶋監督の声帯を、例えばキムタクに移植できるんですよ!』
深夜のお笑い番組を見ていた、中居正広の目がキラリ、と光った。
あまり知られていないことだが、中居正広には、サイエンティストとしての顔がある。もちろん頭につくのは「マッド」だ。
そんな中居正広が、すでに長嶋監督の声帯を人工的に完成させたのが、ついこないだのこと。
まさかそれを木村に移植すると、あんなおもしろいことができるなんて・・・!

中居は木村を麻酔で眠らせて秘密の手術室に連れこんだ。
ふふ、と笑った中居は、メスを手にして、ふと、首を傾げる。
いけない・・・。木村はSMAPのメインボーカルだ。俺は長嶋監督の声は好きだが、長嶋監督の歌声は、例の、何年か前のキャンペーンソングの時に聞いて、これはいけない!と思ったじゃないか。あの声で、SMAPの曲を歌わせる訳にはいかない。
寝ている木村をひょいと小脇に、しかも小粋にかかえ、スマスマの控え室に放り込んだ中居は、手近にいたメンバーを簡易麻酔薬(すなわち後頭部殴打)で眠らせ、再び秘密の手術室に連れこむ。
そう。中居の秘密の手術室はTMCの地下、120mに作られていた。

「うふふふ」
中居は満足そうに微笑んだ。ほくそえんだといってもいい。
手術は完成だ。ヤツの声はもう長嶋監督のはずだ!!

「あ・・・?中居くん・・・・?」
「違う!!長嶋監督は、最初にやっぱり『んーーー』って言わなきゃダメだ!」
「何言ってんだよ!あっ!何この声!!俺になにしたんだよっ!」
「だーかーらーー!!『んー?ん?どーしたんですかねぇ〜、この声、んー、ボイスですねぇ〜?んー?僕のぉ〜、ボイスが、チェンジぃ〜、してますかぁ〜?』だろっ!!」
「そんな喋り方した時ないっ!」
「ったくおめーは使えねーなー!!いいからこれ読めっ!」
壁に貼られた文字をそのメンバーは読み上げる。
「『んー、メンバーの、中居・木村・稲垣・香取・松井・清原・元木・上原・・・』って何これ!!」
「はぁ〜・・・、俺って、松井や清原と同じチームなんだぁ〜・・・・。うーれーしぃーーー・・・・・・!」
「声、元に戻してよっ!!」
「いいじゃねぇかよ!おまえは別に声がどうだって関係ねぇんだからよっ!」
「それは中居くんでしょー!!」
「うっせうっせ!俺は喋りの仕事もあんだよ!それに、長嶋監督はそんな喋り方しねえって言ってんだろ!!」

 

「なんだってつよぽんはあんなに不器用な訳?んー、長嶋ですぅ、うー、セコムぅ、してますかぁ〜?すぐじゃん、こんなの」
「さぁ。高倉健でも目指してんじゃないの?」

そしてまだ麻酔薬で眠らされている木村は、すよすよと幸せな寝息を立てているのだった。

どうなるSMAP!メンバーの一人が長嶋監督の声になってしまったぞ!?

(いや、お笑いオンエアバトルで、そういうネタがあったもんでつい・・・(笑)本当は、29番目だったので、29ネタを、とリクエストされてましたが、あれはオチが自分で考えられませんでした(笑)いろんな悩みなら考えられるんだけども(笑)


その30「なんてったってアイドル3」

「なぁなぁ、最近緑茶のCMって可愛いよな!」
「・・・?マツシマナナコのとか?」
「あれは全然ダメだろ。あれは話になんねーよ」
「マジな顔で言うなよ」
「ちっがうよぉ〜、俺が言ってるのはしみじみ緑茶に笹緑茶っ!」
「どんなんだっけ」
「えーーー!!知らないのぉー!可愛いんだよぉ〜!中居がやったらぜってー可愛いってぇ!」
「そぉかなぁ」
木村のセリフに首をかしげる中居は、小さな顔に、大きな目に、通った鼻筋に、ほんのり焼けた肌はアイスミルクカフェオレ。相変わらずアイドルチックなルックスをしている。
「中居、ゆってゆって、『しみじみしよか?』って!『しみじみしよか?』ってぇ!」
「んー・・・『しみじみぃ、しよかっ?』」
「そぉれぇーーー!!!」
木村はあのCMがすごくすごく好きなのだ。なんてことのない駅のホームで、しみじみお弁当を食べたいっ!と思っているのだ。金かからんんぁ、という可愛いカップルが好きなのだ!
「『しみじみぃ、しよかっ?』」
「可愛いぃーーー!!」

木村を身悶えさせていた中居は、ふいに床に寝転がった。
そして、
「さぁ〜さの葉、さぁらさらぁ〜、さぁ〜さ、緑茶ぁ〜♪」
「きゃーーー!!!!!」
「さぁさ緑茶、さぁさ緑茶ぁ〜♪」
「中居、かゎいいぃぃぃぃーーーー!!!」
仕事場には必ず置いてあるバットを手に、中居はころころころころ転がっている。ゆっくり転がる動きが、たとえようもなく愛らしい!
「しみじみぃ、しよかっ?」
「きゃーーーーー!!!!!!」
「さぁさ緑茶ぁ〜♪」
「中居ぃーーー!!かぁわいいぃぃーーー!!」
「しみじみぃ、しよかっ?」
「素敵ぃぃーーーーー!!!
「笹緑茶じゃなきゃ、いやいやのポーズぅ〜!」
「しびれるぅーーー!!」
「そうそう、これこれのポーズぅ〜〜!!」
「イっちゃうぅぅーーーーんん!!!!」
そして日本一のアイドルグループSMAPの上二人は、ふたりとも笹緑茶のポーズで、控え室の床を掃除しているのか!というほどの勢いで転がり続けたのだった。


その31「タミコ」

私の名前はタミコ。昨日、「タミさんは、野菊のような人だ」と言われたわ。清楚で可憐な私なの。
そんな私の趣味は、実はインターネット。色んなページをサーフィンしてるけど、一番好きなのは、SMAPのページなの。あぁ、どうしてSMAPって公式HPがないのかしら。きっと、とっても面白いものができると思うのよね。中居くんの「今日の格言」木村くんの「今日のポエム」吾郎様の「今日のエスプリ」(京のエスプリでも素敵ね)剛くんの「今日のジーンズ」慎吾くんの「今日のイラスト」
あぁ!みたい!絶対に見たいわ!!
かちゃかちゃとタイピングの手は止まらない。
そんな熱い思いを、今日もファンの掲示板にぶつける私なの!
タイピングの早さなら、私、日商ワープロ検定3段をもらってもいいほどなのよ!

でも、いくらインターネットが趣味だからって家に閉じこもってばかりじゃ不健康。私は、お散歩にいくことにしたの。後、ご飯も外で食べようかなって。友達のタカコを誘おうかしら、それともタツヒコ・・・。あぁ、そうだった・・・。タツヒコとは、昨日ケンカをしたんだったわ。
だって、タツヒコったら、俺とSMAPとどっちが大切なんだ!なんて聞くんだもの!そんなくだらないこと聞くなんて!って言ったら、電話しても、電話しても繋がらないし!って怒るのよ。
だってうちはISDNじゃないんだもの!インターネットやってる時は、回線ふさがってるの!タツヒコが何度も電話してくるから、キャッチホン解除してない回線が、ぶちぶちぶちぶち切れるんじゃないのよ!
・・・あれは、売り言葉に買い言葉だった・・・。
やっぱり仲直りしよう。
謝ろう。
だって、タツヒコったら、手足が長くてスラリとしてて、私にはもったいないほどの素敵な彼なんだものっ♪

タツヒコの部屋のチャイムを鳴らす。
これがお昼の連ドラだったら、中では、友達のタカコあたりとタツヒコが裸でベッドの中よね。月9とかだと、泣きながら飛び出してくるってパターンだわ。でも、これは現実で、タツヒコは一人でいてくれた。
ワンルームマンションで、狭いし。
「タツヒコ・・・」
「タミコ・・・」
「ごめんなさい。昨日は・・・」
「いや、俺こそ・・・。つまんないこと言って・・・」
「タツヒコ!」
「タミコっ!」
ひしっっ!!!私たちの抱擁はとっても熱い。熱く、そして、力強い。ぎゅうぎゅうと抱き合った私たちは、そして二人になれる、素敵なお部屋へと・・・・・・・・・・・。

そしたら!!
「きゃーー!!!地震っ!地震よぉーー!!」
「タミコ!俺に掴まれ!」
「タツヒコー!離さないでぇーーーーっ!!!」

気がついた時。私とタツヒコは、寄り添って倒れていた。
「はっ・・・!ここは、ここはどこ・・・?」
「た、タミコ・・・っ。に、逃げろ・・・!」
「タツヒコ!タツヒコ気がついた!?」
「逃げろ、逃げるんだタミコ・・・!」
「逃げる?逃げるって何からっ!?あっ、きゃあ!!」
私の体は突然、宙に持ち上げられた。
巨人だ・・・!私は親指姫のようになってしまった・・・!
と、思ったら、その巨人は、SMAPの吾郎様だった。
「きゃ・・・っ、ど、どうして・・・っ?」

『なんでビニールで持つんだよ!素手でいった方がいいって』
『男らしいとこ見せてくれよぉ、ごろちゃーん!』

そっ、それに、木村くんに、中居くんまでっ!ここ!ここって、ビストロの厨房なの!?

「タツヒコ!タツヒコ、ここ、ビストロSMAPよ!ビストロSMAP!私、前から考え続けていたの!ビストロのゲストになれたら何を注文しようかって・・・!ねぇ、タツヒコ!あなただったら何を頼むのっ?」
「・・・何って、注文される側だろ、俺らはよ・・・」
「あっ!中居くん・・・!中居くんが、私たちのこと、持ってくれるの・・・!?中居くん!ここ!私はここよっ!」
「つかまれたらダメなんだろうが!」
「いやっ!中居くんっ!怖くなんかないわよ!私、噛んだりしないわ!ねぇ、中居くんっ!」

なんて可愛いんだろう。中居くんは涙目で木村くんにお願いしてる。その中居くんのお願いを聞いて、木村くんが私と、そして、タツヒコを正確につかんでくれた。
あぁ・・・。
これが木村くんの手・・・!
なんて甘美なのかしら・・・。大きな官能的な手で撫でられ、そして、まるでその幸せは、これからくる最期の時へのプレリュードだったように、鋭い刃物が、まるで私を無機物のように、残酷に、そして、激しく切り刻む。
私は、ただあなたの目を見ながら、もだえ苦しむことしかできない・・・・・・・・・・・・

「切られてるの俺だって!」
「あっ!タツヒコだったのっ!?」
「俺だ俺!いてぇの俺!」
「いいなぁ〜、木村くんに切られて、あぁっ!!!」

タツヒコが・・・!タツヒコが中居くんの手に!中居くんの手にキスを・・・!
木村くんによって、びくびくしてる中居くんの手の甲に・・・!

「ひどーーーい!!!!私だってそんなことしたことないのにぃー!!ずるぅーーい!ずるぅぅぅーーいぃぃぃぃーーー!!!」
「待ってこれ・・・、俺の命の灯火も・・・・、もう・・・消えかけ・・・・」
「あたしもぉーー!!あたしもぉーー!!あーたーしーもぉーーー!!!!」

その願いは通じたわ。
タツヒコぢるを洗い流した中居くんの手をじんわり掴んで、その手の上に私を置いてくれた・・・!
あぁ・・・!これが中居くんの手のひら・・・!
あったかぁ〜〜〜い・・・・・・・・・

『貞子ぉ〜〜〜〜!!!』

って違うの。私はタミコ。
そして私の命の灯火も消えることになった。
でも何が心残りって、このツートップ大騒ぎの様子一部始終をSMAP仲間に教えてあげられないことだわ。あぁ、あれは放送されるのかしら。あのシーンはあるのかしら・・・!
この大ネタを墓まで持っていくことを許して・・・!みんな・・・っ!

うっ、がく。


その32「中居正広責任編集」

「ふぅ」
中居正広は、小さくため息をつき、その本を置いた。
オリックス、イチロー責任編集「インパクト」
奥さんとスノボに行った時の写真とか載せたぬるい本だと思っていたのに・・・・・・・・!
「さすが5年連続首位打者だ・・・!」
中居は、深く感銘を受けていた。多岐に渡った内容。ファン心をくすぐりつつ、プロとしての姿勢もきっちりと示し、ともかく、何もかもが中居好みだった。
中田英寿、イチロー、プロの中のプロが責任編集で本を出している、ということが、あの木村拓哉からプロだね、と言われる男、中居正広の心を燃え立たせた。
『責任編集』
これだ・・・!2000年!20世紀最後の年は、責任編集が来る!間違いない!!

「という訳で、中居正広責任編集のSMAP本を作ろうと思う」
むしろ静かな物言いに、メンバー全員、背筋を冷たい汗が伝うのを感じた。
「・・・何それ、SMAP本って・・・」
「くっだらねぇ暴露本みたいなヤツだって売れるんだぞ?俺らが出したらどれだけ売れるか!」
「いや、売れるだろうけど、何をすんだよ」
「写真集とか?」
吾郎の言葉に、中居は、「はっ!」と肩をすくめる。
「写真集?それだったら中居正広責任編集SMAP写真集って言うねっ」

「・・・喋り方、おかしくない・・・?」
「編集者モードに入ってんじゃないの・・・?」

「そこ!下二人うるさいっ!ともかく、本を作るんだ。あぁ、いい、いい、おまえらが忙しいことは重々承知してるよ。この件に関しては、この俺様に任せなさい!!」
下3人の目は、明らかに一番ヒマぶっこいてる週休4日男に集中した。
そしてそのヒマぶっこいてる週休4日男は、現在ドラマまで入ってて、どー考えてもメンバー1忙しい、というか日本でも指折りの忙しさであろうメンバーを、呆然と見ている。
ただで済むはずがない・・・・!
その危惧は間違いなく全員共通だった。

「とりあえずこんなもんでどうかと思って」
そして、その危惧はたちまち現実のものとなる。
「どうだべ!すげえべ!完璧じゃね?このSMAP本を超えるのは、また俺が作るものしかないと思わね!?」
「・・・なんだこれ」
「ちょっと、中居くん、これ・・・」
メンバーの前に山と積まれたコピー用紙を見て、全員げんなりとした。
「これはちょっと・・・、ま、マニアックすぎない・・・?」
慎吾が見ているのは、「超無限大翔・完全フォーメーション見取り図」だ。
「えっ?なんで!?気になるべ!どこから出てくんのかなぁ、とか、そゆこと気になんべ!この曲だったら、誰がどこにいるとか知りたいべ!」
「でも、もう終わったツアーだしぃ・・・」
「こ・・・、これは・・・!」
「すごいべ!全衣装コレクション!全だぜ、全!!」
「全だ・・・・・・・・・」
それはもう、SMAPとして、どころか、スケートボーイズ時代からの衣装を載せるというおっそろしい企画だった。
「特別許可を取ったから、森のも載せられるんだぜぇ〜〜♪」
「えーーーっ!!森くんっ!?すごいじゃん!」
「すっごいべー!!それで、これが森の特集ページな。本人寄稿つき!」
「うっそぉ!」
慎吾は驚いてそのコピー用紙を手にし、がっくし脱力した。
「・・・だからって、なんで・・・・・・・・・」
「え?何何?」
木村ものぞきこんで脱力した。
「・・・森且行、全戦跡とかかと思ったのに・・・」
「そんなん、どこででも解るべ」
中居の企画は、森のレースにいくら自分がつっこんで、そして勝ったか負けたかの全戦跡だった。
それ以外にも、ビストロSMAP、作る予定で作られなかったレシピ集、だの、粘土の王国つぶされた作品たちのつぶされた後がどうなるかのドキュメントだの、メンバーのかつての成績表だの、各ツアー、没になった曲集だの・・・・・・・

「中居!おまえマニアック過ぎるだろ!」
「なんでよ!ほら!これとか!全衣装なんて、ほんっと全衣装なんだぜ!?前にさー、あの曲の時、一回だけ俺と木村と、衣装の中だけとっかえたことあったべ!それまで入れてるのに!」
「ぎゃーー!!!おっそろしぃーーー!!!!」
「SMAP教・・・・」
「教祖様・・・・」
吾郎と剛は、手を合わせ、中居を拝むだけなのだ。

それ以外にも、コンサートでの客席には絶対解らないような失敗集、中居しか知らないメンバーの秘密、CD用に準備されたが没になった曲全集、SMAPフィーリング5(SMAP版)、ありとあらゆる占いをやってみました、特別7大ふろく(SMAPすごろく、SMAPさいころ、SMAP日光写真、SMAP着せ替え、SMAP紙相撲、SMAP水で消えるペン、明治SMAP(復刻版))、SMAPナイトスクープ(局長、中居正広、秘書、木村拓哉、顧問、稲垣吾郎、探偵、木村拓哉、稲垣吾郎、草g剛、香取慎吾)などの企画があった。

が、まだそれを受けてくれる出版社は見つかっていない。
(ついでに、明治も「SMAP」を復刻させる予定がない)


その33「香取慎吾責任編集」

中居くんがやるんなら・・・!
俺だって考えていた。中居正広責任編集の800倍ビビットでゴージャスでインタラクティブな!
・・・って、インタラクティブってなんだっけ。
ともかく、俺が作ったら、もっとすんごいものができるんだ!
まず、SMAP物語ってマンガ。あぁ、愛と青春のSMAP。キャラクターももうできてんだ!でも、表情をつけるのがなかなか難しいんだけど・・・。
あ!アニメ!アニメいいじゃん!コンピュータグラフィック!CD−ROMつき!
うわー!超いいじゃん!!
SMAP6人が集まって、そして正義のために闘う・・・!キャラクターグッズも作らなきゃね。踊る大捜査線とか、スペーストラベーラズに負けらんないじゃん。
デスクトップキャラクターでしょー、スクリーンセーバーでしょー、壁紙も作って、ま、壁紙なんて簡単だけどね。
でも、アニメってことは声の出演してもらわなきゃいけないから、メンバーのスケジュールも確認しとかなきゃいけないんだな。うーん、木村くんはいいとして、吾郎ちゃんは、舞台か。でも、いいや、舞台の日は間違いなく舞台に来てるんだからつかまるじゃん。後はスマスマの時だな。・・・つよぽんは今、レギュラーだけか?でもなー、ぷっすまいったらユースケさんとか出たがるかもしんないしなー。
いや、俺的には全然いいんだけどさ。
ナレーションは、じゃあ、最近評判だから中居くんにさせてあげてもいいけど、つよぽんは、SMAPの森本レオだしなぁ〜・・・。
森くんは、喋れるのかな。・・・台本さえあれば喋れるか・・・。
キャラクターのコスチュームは、うーんと・・・。どんなのがいいかなぁ〜。私服は本人のセンスをあらわすもんだから重要だし、でも、正義のために戦う時のユニフォームは、もっと重要だよ。やっぱり色だよね、色。
でもなぁ〜。音レンジャーとかぶるのはだっせーしなぁー・・・。なんかもっと斬新な色がいいんじゃん。
金とか、銀とか。後ー、萌黄色とか、浅黄色とか、・・・どんな色なのか知らないけど。
それか、全員虹色とか!?虹か・・・。明るくていいじゃん。そんで、その虹のデザインを変えるんだ。レインボー戦隊SMAP!悪の化身もーにんぐむすめと戦うぞぉー!
お。もーにんぐむすめが悪の化身というのもなかなかいいじゃんか。デザインはこんな感じで。おっと、これじゃあブル中野だよ、もっと、なんてのかなぁ〜、もっとこう、フィフス・エレメントチックな感じの。もしくは、アコムのCMに出てきてる、怖いお姉ちゃんみたいな。いや、それは、あの、柳沢慎吾にあこがれてる人じゃなくってね、もっと変なお姉ちゃんが出てるんだよ、あの人みたいな感じの。

ビデオとかにした方がいいかなぁ・・・。
いや、でも、やっぱりCD−ROMだよ。CD−ROM。レインボー戦隊SMAPのゲームも入ってんだよ。シューティングがいいかな。シューティングと、パズルゲームみたいなやつ。SMAPの顔が落ちてきて、連鎖させんだ。おしゃれー!
でもなー。CD−ROM持ってなかったら・・・
DVD!!DVDにすりゃあいいんだよ!PS2でも見られるし!
・・・でも、ゲームはなー・・・。PS2だけにする訳にいかないしぃ。まぁ、今時PS2なんて誰でも持ってんだろうけど、PS2用のゲームともなったら、やっぱり、デザインから考えなおして、より本格的なヤツがいいしなぁー。PS2で落ちゲーって、贅沢すぎるかも。
じゃあ、やっぱりCD−ROM・・・?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アプティバをつける!!
それだ!アプティバもつければいいんだよ!その本に!OKOK!完璧じゃん!!
ディスプレイはでっかい方がいいよね。それと、音もいいのを入れるから、スピーカーもなんなら別にしてもらって、やっぱり戦闘シーンの迫力を出すには、サラウンドは必須だよ、必須!

香取慎吾のSMAP本。
現在予定販売価格、破格の28万円。


その34「草g剛責任編集」

SMAPの本かぁ〜・・・。
それはやっぱり、あれかなぁ。あのー、SMAP、振りつけの歴史とかがいいのかなぁ。
・・・でも、そうしたら、一人ずつやらないと、解らなくなっちゃうよなぁ。俺とか、結構ちゃんと教えてもらったこと覚えてるけど、多分、中居くんとか、おかずつけすぎて何が本当だったか解らなくなってるんだろうな。慎吾とかもそうなんだろうなぁ。木村くんはちゃんと覚えてるよ。あたり前じゃんか。ただどうしても木村拓哉な味がね。オーラってのかな。それが前面に出ちゃうんだなぁ〜・・・。
吾郎ちゃんは・・・・・・・・・。ね・・・・・・・・・・・。
それを一人ずつ聞いてったら面白いかも。
面白いかもだけど、どうやったらいいんだろう。あ!パラパラマンガ!!本の上下の角で、表裏使ったら4組できるから、そこでパラパラマンガにしたらすごい面白いと思う!!
いいじゃん、いいじゃん!本の上の角で、表からパラパラしたら中居くん。裏からパラパラしたら木村くん、そんで、下の角を表からパラパラしたら吾郎ちゃんで、裏からパラパラしたら俺で!
・・・・慎吾は・・・・・?
で、でも、本でやるには4つが限界なんだよ・・・。
じゃ、じゃあ、吾郎ちゃんと慎吾を並べようかなぁ・・・。絶対面白いと思うんだ。
そうだな。そうしよう。うんうん・・・。
後、ジーンズ拝見も、一応ベストジーニストとしてはやっとかなきゃね。
でも・・・!また中居くんがビンテージジーンズをG短パンにしてたら、俺泣くかも!泣いちゃうかもしれないから!それは、出さないでもらおう!なんであんなことができるんだよ!なんで!!
なんでぇーーーーーー!!!!!!!
(約30分。思い出してはむせび泣く)

・・・でも、見てみたいな・・・。木村くんのジーンズとか。えへ。すごいよね・・・。
吾郎ちゃんは、持ってんのかな、ジーンズなんて・・・。
ブラックくらい持ってるかな。
・・・多分。

じゃあ、ジーンズと、振りつけ。
そういう本にしよう。
・・・ダメかな。
でも、いいんじゃないかな。
振りつけ調べに行かないと。
・・・どうやって調べようかな。写真?写真で取るのか。あ!デジカメか!そうだそうだ。デジカメ持ってるもんな。ぷっすまのやつ。
・・・あれユースケさんが持ってるだっけ!?デジカメとデジカムって違うんだっけ。違うよな。写真。でも、写真をとるにしても、振り付けだから、止まってもらわなきゃいけないんだなぁ。
・・・吾郎ちゃん、止まれるかなぁ・・・・。

草g剛のSMAP本。
企画前に進まず。


その35「『で?』」

あ。木村くんがなんか喋ってる。
慎吾は、中居と向かい合って座っている木村を見て思った。
木村は、真摯な表情で、じっと中居を見つめながら、言葉を尽くしていた。
熱い。熱いよ、木村くん・・・!ほら、つよぽんもうっとりしている。俺だって、あんなに熱く語られたらうっとりだよ!木村くん!!

「で?」

しかし、木村が最後ににっこり笑って口を閉じた瞬間、中居は言った。

「え?」
「で?」
「でって、だから、あの・・・」
そして木村は更に熱く、身振り手振りを交えて話しを続ける。
しかし、木村が言葉を切るたびに、中居はただ、「で?」「で?」を繰り返すばかり。
そして慎吾は認識した。
木村くんは喋ってるんじゃない。叱られてるんだ・・・!

中居正広の「で?」攻撃。これは、木村拓哉にだけ通用する必殺技だった。たとえば吾郎だと、「で?」と言われても、「でって、そのままだよ」とその場を離れてしまう。たとえば剛だと、「で?」と言われれば、さっきした話をそっくりそのまま最初から始めてしまう。そして慎吾自身だと、「で?」といわれるたび、話がどんどん大げさになっていき、最後は宇宙人とか、UFOまで持ち出さないと話が終わらない。
終わらないが、すぐに途中で打ち切られるので、そこまで喋れることはほっとんどない。
が、木村だけは、「で?」と言われるたびに、手を変え品を変え、より熱く、真摯に語りつづけるのだ。
そしてかれこれ20分も語りつづけたろうか。
剛も慎吾も涙をじんわり目尻に浮かばせる、それはいい話だった。
そうだ。その通りだよ、木村くん・・・!解る、解るよ木村くん!!
それなのに。

「・・・で?」
「・・・中居」
「すんごい間ぁあけるなぁ、話の途中で」
と、途中!今、すごいいい結論に到達したのに!途中なんて!!そうなの?そうなの、中居くぅーーん!!!

そして30分後。
もう、剛、慎吾は泣いていた。あぁ・・・!一杯の掛けそば以来の感動(!?)すごい・・・!すごいよ木村くん!そうだよね!そうだよねぇ!俺、そう思うよ!すごく思うよぅぅぅ!!

しかし。
中居は、冷静な目でじぃーーっと木村を見つめ返し、静かに、静かに、言った。
「・・・・・・・・・・で?」
がたん!!
木村が椅子を鳴らして立ちあがった。そして。
「すいませんでしたっ!!!!」
「訳の解んねぇオチのねぇ話をするくらいなら、一言謝りやがれ!!!」
テーブルに手をつき、深く頭を下げている木村に、中居は言い放つ。
「はいっ!すいませんっ!!」

「・・・吾郎ちゃん・・・。木村くん、何したの・・・?」
「中居くんのお弁当に入ってたつくねを取ったらしいよ」
そ、しんなことで・・・!
そんなことで1時間以上もこんなことを・・・!
慎吾の中に、また新たなツートップ伝説が生まれた瞬間だった。


その36「稲垣吾郎責任編集」

え。俺が?
俺が?SMAPの?
えー・・・、と。そうだなぁ・・・。
でもさぁ、俺が何かしたいって言っても、ほら、言うこと聞いてくれない人たちばっかりだからねぇ。だから、何か言っても無駄って言うか、むなしいって言うか・・・。
そもそも、なんでSMAPの本を自分たちで作らなきゃいけないのかなぁ。
いや、楽しいだろうなぁとは思うけど、客観的な視点ってのが大事じゃない?
だから、自分たちの意見は意見として、本当は誰か別の、そうだなぁ、プロの編集者とか、あぁ、でも編集を専門にしてる人より、色んな世界の人に意見を聞いたりした方が面白いだろうな。
それでも、どうしてもってことになるんだったら・・・。うーん、俺としては・・・。SMAPの・・・。
こう、アーティスティックな面・・・。
あぁ・・・そんなこと言っても、メンバーはダメだろうなぁ。
あの人たちは、どうしたって面白い方向に持っていこうとするからね。面白いか、マニアックか。どうせなら、分析、とか・・・。
分析・・・、って言うのも、おかしいよね。
それは、こっちがこういうことだと解説することじゃなく、一人一人が感じるもの。だと思う。
つまり、ファンの人なり、周りの人なりが、自分たちを見てどう感じるか、は、丸っきり個人のものだよね?
それなら、こっちが見せるものは、一人一人に対しては単なる素材にすぎない方がいいのか・・・。

難しい話だよね。
美味しい料理は、美味しい素材が絶対的に必要だけど、技巧だって必要だと思う。土付きの野菜が一番美味しい、というのが料理なのかって言うと、やっぱりそれは違うんじゃあないかと思う。

えーとだからつまり、素材としてのSMAPを見せるための本、が必要なのか、という話なんだけど、それって言うのは、手のうちを晒すことになりかねなくて、それって興ざめかな、と俺は思う訳。

「・・・・・・・・・・」

え?あれ、みんないたの?

稲垣吾郎のSMAP本。
メンバーからぼこぼこにされたため、企画(?)白紙。


その37「今日の中居正広」

その日、慎吾がソファを見たら、何かが寝ていた。
それは、たれている中居正広だった。
「もぉ」
そのソファは、慎吾的には「慎吾のソファ」と呼ばれているものなので、そんなところでたれられていても困る。
なので、慎吾は今日もよくたれている中居のウェストを両手で上から持ち上げて、よいせ、と側にあった一人用ソファの背もたれに置いた。
ようやく寝られる。ソファに仰向けになった慎吾は、2秒でいびきをかきはじめた。

「あ」

そのソファに、吾郎のバックが置いてあり、そのヒモの部分がかけられている中居の体の下に入ってしまっている。
吾郎はたれている中居のシャツの首の後ろを持って、壁のフックに引っ掛けた。
バックの中からは、めんどくさそーな文庫本を取りだし、そのソファにゆったり座って読み始める。

「ちょっとぉ」

その、吊られている中居のフックの隣には、剛のジャケットがかかっていた。ぐったりたれている中居の足が、そのジャケットにひっかかっている。

えいっ!とその足をジャケットから払い落とすと、その勢いで中居はフックから落っこちる。
そこに落としておいては迷惑になると、剛は、うつぶせに倒れている中居の背中の部分をよーいしょ、と両手でつかんで持ち上げて、部屋の半分を占める畳の部分に運んだ。
座卓の上に中居を置き、急いでジャケットの元に戻った剛は、買ったばかりのジャケットにブラシをかけ始めた。

「おいおい」

その座卓の上には、木村が読んでいた台本が広げられており、その上に最初に慎吾が発見した時の3割ましたれている中居がいる。
「中居」
つついても反応はない。完全に垂れている。
仕方なく、その体の下から台本を引っ張り出し、続きを読み始めたら。
中居の手が木村に当たってくる。
木村が移動すると、今度は足が当たる。
中居は、座卓の上をたれたまま、寝返りをうちまくっていた。

「・・・ったく、うぜえな・・・」

木村は小さくつぶやき、座卓から中居をつまみあげ、座敷の奥に置きに行く。そこならどう転がっても下には落ちまい、という彼なりの判断だった。
しかし。

「うぜえ・・・・・・・・・?」

転がされた中居が、小さくつぶやく。
うぜぇって、俺・・・?俺・・・って、みんなにうざいって思われてたのか・・・!?俺ってうざいのか!?
がばっ!
中居は立ちあがった。
うるうると涙をたたえた瞳で木村を睨む。
「俺って・・・、うざい・・・?」
「え?」
「う・・・、うざいんだぁ〜〜〜!!」
バカァーーーー!!みんな嫌いぃぃーー!!と駆け出した中居は、ほんの2歩で、がっくりとひざをつき、その場に伸びた。

「・・・うざいってゆーか・・・」
「たれてんだからさ」
メンバーは誰ともなくつぶやき、半分頭を座敷から落っことしそうになっている中居を、座敷に寝かせる。
「じっとしててくれればいいのに・・・」
「知ってる?こんなとこにもかけられんだぜ?」
木村の手によって、たれている中居は、三面鏡の1面にひっかけられたりした。

今日の中居正広のたれ度。180(また、乙女度80)

たれ度とは。文字通り、たれている状態であり、その時はまったく使い物にならない。当然のことながら、その間は存在そのものの質量すらたれているため、どこにでも簡単に運べるし、フックなどにひっかけることも可能。時々本来の意識を取り戻すことがあるが、何分たれている最中なので、まともな思考は働いていない。
なお、なぜ人類がたれるのか、についての研究はまだ初期段階のため、原因は突き止められていない。


その38「『たっくん』」

たっくんとは。
木村拓哉が友達から呼ばれている呼び名である。
なんだよ、ちょっと可愛ぶってっ、という感がひっじょおおーーーーーーーーーに!強い!!呼び名だったが、木村本人は気に入っていた。
ごく最近までは。

「たっくんよぉ」
中居がそう言ったのは、SMAP×SMAPの控え室でのことだった。
その時、木村は慎吾と喋っていて、結構テンション高かった。
だから、
「えっ?何?今、なんつったっ?」
嬉しいっ!という顔で木村は中居を振りかえる。
たっくん、というお気に入りの呼び名で呼ばれたことが嬉しかった。

そして呼びかけた中居は、雑誌に目を落としたまま、低〜〜い声で言う。
「たっくん、っつったんだよ。たっくん」
「なんか珍しいな、中居にたっくんって呼ばれるなんて」
ウキウキと中居の側にいった木村は、何?と顔を伏せたままの中居の顔を覗き込む。しかしそのご機嫌な笑顔は、1秒後、凍りついた。

「たっくん、たっくんって可愛がられてていいねぇ、たっくん」

慎吾の笑顔も凍りついた。どうして、つよぽんや吾郎ちゃんがここにいてくれないんだ!みんなの意地悪!とここにいない二人を恨んだりもした。

「たっくんさぁ、ちょっと小耳に挟んだんだけど」
絶対零度の声が、木村自身ちょっとまずかったなぁ〜、と思っている仕事上での失敗を淡々と語っていく。
「何?それって、ホント?」
「・・・え・・・、うん・・・」
「ふぅーーん・・・。あぁ、でも、たっくんは可愛いから、別になぁにしたっていいのかなぁ?たっくん?」

ひぃぃぃーーーーーーっっ!
どうしてこんなとこで木村くんと喋ってたんだぁーーーーー!!俺のばかぁーーーーーーー!!!
慎吾の心は、20km先までダッシュ。そして、そうだ、こんどの慎吾ママの朝ご飯で作る料理はこんな料理にしよう、というシミュレーションに没頭し、世界を閉じた。

「あ。えーと。あの」
「いいんだよな?濡れた捨て犬の目をした可愛い子たっくんだから、何してもOKだよな?な?たっくんっ」
「すっ、すみませんでした」
「あれっ。なーんで、たっくんが謝ったりするのかなぁ〜?いいんだよ〜、たっくんは、可愛い、可愛いたっくんなんだからぁ〜、そんな謝ったりしちゃーファンが泣くよぉ〜、たっくぅ〜ん」
「ほんっとに!すみませんでしたっ!!」

「たっくん、たっくんって可愛いように言われて、いい気になってんじゃねぇぞ、たっくん」

絶対零度、さらに倍!という冷たさは、TMC自体を一瞬凍らせたという。

その後。中居が木村に文句を言う時は、「たっくん」が枕詞としてつくようになり、木村は友達から「たっくん」と呼ばれるたびに、ビクビクしているという。

中居正広、自分以外に可愛いと呼ばれる存在が許せない男だった。


その39「今日の木村拓哉」

例によって例のごとく慎吾がSMAP×SMAPの収録にやってきたのは、慎吾が最後だった。
あーあ。また怒られる・・・。
遅刻ポイントもあるけれど、メンバー、特にリーダーにめちゃめちゃ叱られる。自分だって遅いくせに、人より1分でも早かったら大きな顔しちゃってさ、しちゃってさ、しちゃってさっ。
軽く逆ギレしながら、「おくれましたぁ〜」と控え室のドアを開ける。遅刻してるのに態度悪い!と叱られることは解っていたが、今日はそんな気分ではなかった。
怒るなら怒れよ!俺は逃げも隠れもしないぜ!!!

胸を張り、どーん!と男らしく仁王立ちの慎吾は、誰からも気づかれなかった。

しっ、シカトっ!?シカトなの!?俺、シカトっ!?

慌てて当たりを見まわした慎吾は、メンバー3人が自分に背中を向け、部屋の片隅に集まっているのを見た。
はっ!まっ!まさかっ!!

「木村くんがぁぁ〜〜〜っっ!?」
「バカ慎吾っ!!」
中居の回し蹴りが背中にヒット。
「いってぇぇ!!」
「大声出すなよ!慎吾!」
「木村くんがおびえるだろ?」
「あーーーっ!やっぱりそうなんだぁ〜〜!」

中居、吾郎、剛に、あたかも焼きをいれられてるかのように、部屋のコーナーに追い詰められている木村は、畳にぺたんと座り、小さく震えながら、ウルウルのお目々でメンバーを見上げていた。
「かぁわいい〜・・・」
感に堪えないといった呟きを中居がもらす。
「可愛いよねぇ〜・・・」
吾郎もしみじみとつぶやき、剛は感動のあまり声もない。
中居に蹴っ飛ばされた慎吾も、慌てて近寄ってくる。
「あーーっ、かぁわいぃぃぃーーー!!」
その慎吾の声を聞き、顔を見て、きゅぅん!と木村が小さくなる。
「あー!泣いたー!」
「てめ何すんだよっ!」
「慎吾サイテー!」
「えー!今日、俺なのぉー!!」
「おめぇだ、おめえ!おまえ今日はてんとう虫なんだからなっ!ぜってー!木村には近づくんじゃねぇぞ!」
「ほんっとだよ!可哀想にねぇ。大丈夫、大丈夫、もうてんとう虫あっちいっちゃったからねー?」
怖い、怖いとぶるぶる震えている木村を、3人がかりでよしよしとなだめる。
だが、木村の機嫌はなかなか直らなかった。そう、こんな時には。

「じゃーん!」
「あっ!中居くん!」
中居が手品のように取り出したもの。それは、いちごゼリーだった。かわゆく赤く透明ないちごゼリーはこの状態の木村の大好物。
「ずるいっ!いつの間に!」
「かっかっかっ!おまえら、考えあめーぞ!もうそろそろこの時期だって判断しとかねーとな!」
中居は、2・3日中にもこの状態になるに違いない!と予想。毎日いちごゼリーを持ち歩いていた。
「シャキン!」
「あっ!お皿まで!」
ぷるぷると赤くかわゆい透明なゼリーを、やっぱり透明な淡いブルーのガラスの器に載せる。
「はーい、いちごゼリーでちゅよー?」
目の前にゼリーを出され、そのゼリーがぷるぷると震えるのを見ると、木村の目はうるうるの中に、キラキラの輝きを見せる。
「持てる?ちゃんと食べれる?」
吾郎に聞かれ、こっくりと、しかしぶるぶるは忘れずに木村はうなずく。
「はい、じゃあ、これ、スプーン」
可愛いスプーンは、当然ミッフィー。中居にお皿とスプーンを渡されて、ぎゅっ、とスプーンを握り込む。
もうそれだけで可愛い・・・・!
そろそろ剛の意識は遠のきかけている。
「ネロだ・・・!」
そう。そのスプーンの持ち方は、あのフランダースの犬で、ネロが木のスプーンを持っていたのと同じ持ち方。
いたいけ大爆発!!
ウルウルのお目々で、じっとゼリーを見つめながら、そんな持ち方のスプーンで、慎重にゼリーをすくう。
けれど、やっぱりぶるぶる震えているから、ちゃんと口元まで持っていって、ぱかんと口が開いたりしたにも関わらず、小さなスプーンからゼリーが落ちて、畳の上に、ぽとん、と落ちたりしちゃった日には!!

「がっがばいずぎるぅぅぅぅーーーーーー!!!!!!!」

メンバーの悲鳴が部屋を揺らし、木村の涙とゼリーが畳濡らすのであった。

今日の木村拓哉のぶるぶる度。180(また、乙女度80)

ぶるぶる度とは。文字通り、ぶるぶるしている状態であり、その時はまったく使い物にならない。
ただぶるぶる震え、時々泣いたりするだけで、食べるものはイチゴのゼリーのみ。また、メンバーの誰かをランダムにてんとう虫と判断。そのメンバーを見ると、苦手のあまりまた泣いてしまう。
メンバー全員から可愛い!と絶賛を浴びていることを、普段の木村が知らないことは、彼の精神安定上、非常に有益だと思われる。
なお、なぜ人類がぶるぶるするのか、についての研究はまだ初期段階のため、原因は突き止められていない。


その40「長者番付発表記念特別編その1−ビューネ−」

「俺、もっと認められてもいいと思うんだよねっ」
中居はぱしゃぱしゃとコットンでほっぺたを叩く。
「タカさんなんて、タカさんなんて、とんねるずなのに、なんで?なんでなんでっ?野猿だからっ?ねぇ、なんでっ?もぉ、心もお肌も、ぶつぶつぅっ」

ちょん。
優しいコットンがすっと通った鼻の頭にちょこん、と当たる。
「俺がいるよ?」
「あ・・・」
目の前でにっこり笑っているのは木村。
そう。木村は11位、俺は10位・・・!
「えぇわぁ〜」
うふふぅとおなか一杯の猫のように微笑んだ中居は、はっ!と眉間に皺を寄せた。
「みのもんた!?みのもんたがどぉして!?どぉして、そんなにっ?」
きぃぃーーー!と奥歯を噛み締めた中居は、また乱暴にコットンでほっぺたをぴしぴし叩く。
「もぉ、心もお肌もぶつぶつぅ!!」

ちょん。
優しいコットンがすっと通った鼻の頭にちょこん、と当たる。
「俺がいるよ?」
「あ・・・」
目の前でにっこり笑っているのは木村。
そう。こんなにかっちょいい木村でも11位で、俺は10位・・・!
「えぇわぁ〜・・・♪」
とろとろと日溜りの中でうたたねしてる猫のように満足そうな、今にも喉でも鳴らしそうなまま、ちょんちょんと触れていくコットンの感触を感じていたが、はっ!と辛い顔をした。
「天童よしみって、天童よしみって、なんであんなに?一体なんで?なんで、なんで??なんで桑田さんよりっ?なんであんなにぃーーー!!もぉーーっ!心もお肌もぶつぶつぅぅぅーーー!!!」
きぃぃーーーっ!!ばっしゃん!ばっしゃん!ばっしゃん!!
もうコットンどころの騒ぎではなく、中居は両手にふりかけたビューネで、盛大に頬を叩く。当たりに飛び散るビューネ。

ちょん。
優しいコットンがすっと通った鼻の頭にちょこん、と当たる。
「俺がいるよ?」
「あ・・・」
目の前でにっこり笑っているのは木村。
そう。こんなにおっとこまえで、日本一の男前で、すんごくかっちょいい木村が11位、でも俺は10位・・・!
「えぇわぁ〜〜〜んっ♪♪」
木村は顔中べたべたになった中居の顔に乾いたコットンをあてて、逆に吸い取る。くすぐったい顔でうっとりとお肌と心を癒していた中居は。

「あっ、でも」
そしてエンドレスでこれは繰り返されるのだった。


その40「長者番付発表記念特別編その2−質問−」

トントン。
社長室のドアがノックされた。
「社長ー」
「こんにちはー、社長ー」
ぎくう!社長は持っていた書類を取り落とし、ついでに椅子からおっこちた。
来た・・・!来てしまった・・・っ!
トントン。
「あのう。社長ー」
「社長、いませんかぁー?」
ノックの音はあくまでも軽く、呼びかける声はあくまでも可愛らしい。しかし社長はびくびくとおびえたように、ドアを開けたものかどうかと逡巡する。
トントン。
「社長ー・・・?」
「いないのかな」
「そんなはずないよ。入ってまっとく?」
待ってるんかい!!社長は仕方なく二人を招き入れた。

「こんにちはー」
「こんにちは」
やってきたのは、中居正広と木村拓哉だった。仲良く並んでやってきた二人を見て、社長は心の中で大きくため息をついた。
「あのぉー」
中居は不思議そうに、ちょっと小首を傾げて社長に尋ねる。
「どうして、俺と木村と、貰ってるお金が違うんですかぁ?」
「俺と中居は、同じ時に事務所に入って、同じグループで、同い年なのに、なんで違うんですかぁ?」
「え!あ、あの」
「なんでですかぁ?」
不思議そうな顔で、二人は首を傾げている。並んだ状態で、内側にそれぞれ小首を傾げている二人は、それぞれに可愛らしかったが、社長は、誰がこの二人を社長室まで通したのかとスタッフを恨んだ。
「いや、仕事の数とか、が違う、し・・・」
「数?」
「数だったら中居の方がずぅーーーっと多いですよ?」
「あー、そうなんだけども・・・」
「変だよねー?」
「うん。変。変ですー」
二人は何でも一緒がいいのだった。だって二人は同じような時に事務所に入って、同じグループで、同い年なのだから。
「商品の売上とかがー・・・」
「だってHOPSとか、ウィダーとかは売上とかあっても、JCBとかは?」
「あー、えーっと」
「変なのー」
「一緒がいいなー」
「一緒がいいー」
だって、同じような時に事務所に入って、同じグループで、同い年なのに。
声を合わせる二人に、社長は頭痛を覚えた。絶対そう言い出すと思っていたから、できる限り近づけたのに・・・!推定年収差を一千万まで近づけ、上下に並ぶようにしてやったのに・・・!
「じゃあ、俺、木村に500万あげるー」
「え、ダメだよー。中居が仕事した分じゃん」
「だって、そしたら一緒だもん」
「そうだけどー・・・。でも、ダメだって」
「えー、だって一緒がいいのにぃーーー」
ウルウルとお互いに涙を浮かべる二人・・・!

「解った!!解ったからっ!!!」
ドン!!
テーブルの上に、一千万の札束が乗る。
「持っていきなさいっ!」
「わーい!」
「社長ありがとーー!!」
「これで一緒だねーー!!」

無邪気に札束を手に、どうもありがとー!またねー!バイバーイ!と天下一品のアイドル笑顔を振り撒きながら社長室を出た中居は。
「ちょろい」
とつぶやいた。
「ほい、500万」
木村は札束5つを中居の手に乗せて、何するー?と尋ねる。
「トイレの電球が切れたから買う」
「おまえはイチロー真っ青だな!!」
「俺は庶民派だからな!おまえみたいな天使派と違って!」
「だから天使派ってのは、どんな派閥なんだ!!」

今日のモットー『臨時ボーナスは頭を使ってもらおう』

(なお、わが社のたろちゃんとさこちゃんは、同学歴の同期入社。ボーナスの額がちょっと違ったわー、と二人そろってホントに総務に聞きにいったことがあるつわものだ(笑)!!)


その40「長者番付発表記念特別編その3−リーダー−」

「うっ!ウソや!!!」
その朝、城島茂は新聞を手に愕然とした。
「ウソやろ!ウソやん!中居っ!!」
長者番付、俳優・タレント部門の10位に中居正広(SMAP)の名前を見つけてしまったのだ。
「ウソや!リーダーはお小遣い制のはずやったやんか!なんでやー!なんでなんやー!」

「え。俺、まだお小遣い制だよ」
「ど、どっから!」
ドラえもんのどこでもドアでも使ったかのように唐突に中居が現れ、城島は驚愕する。
「ただ、額が上がっただけ」
「えーーー!!500円からあがったんかいー!」
「うん、あがったよ。そんじゃー」
「待て中居ー!どんな小遣いや!それーー!!」
が、すでに中居の姿はなかった。
「なんで俺は小遣いあがらへんねん・・・・!あっ!はぐれ刑事をケイン・小杉に取られたからか!?『若い刑事さん』言われた時に違和感があったからか!?安浦さんの娘とのお付き合いがどう考えても発展しそうもなかったからか!?なんでなんやーーー!!!」

なんでなんだろうねぇ、リーダー。


その41「ネジ巻き人形」

(その1)

「き〜むらっ」
ちょこん、とドアの隙間から顔を出した一匹の子猫、ではなくて、隙間から顔を出したのはこの頃、美人ぶりに磨きと拍車がかかった中居だった。
首をかしげると長いストレートの髪がさらさらと、耳の横で音を立てた。それを鬱陶しげに横に払いつつ、大きな目で木村の姿を探す。
狭い部屋の中のことだから、すぐに目的は見つかった。
部屋の隅、座布団を枕にこちらに背を向け、横になっている。
さっき、控え室から脚本を持って姿を消したのを何気なくチェックしておいたから、こういうことに関して中居に間違いはない。
てけてけと、歩み寄り靴を脱いで畳の上に、這い上がった。
木村の肩に、シャツから覗かせた指の先をかけ、覗き込んだ顔は、寝顔。薄く開いた唇から漏れる寝息は規則正しく。片手は台本をつかんだまま、気持ちよさそうに。
「・・・・・・・・・・・・・・おやすみ・・・・・・・・・・」
起こそうか逡巡して、結局静かにドアを閉めて外に出た中居だったが、その足取りは覚束なかった。

 次の日。
木村はドラマの撮影現場にいた。
高視聴率を維持するこのドラマの収録はそろそろ佳境に入ってきて、現場には心地よい緊張感が漲っている。
その雰囲気を壊すのも避けたくて、休憩時間木村はなんとなく楽屋に一人閉じこもって、TVをつけた。
流れ出す陽気な音楽。耳慣れたその音と共に入ってくる出演者。
その中には自分のよく知る人間もいてそれがちょっと誇らしく嬉しい。
自然とだらけた笑顔になってた木村だったが、しかし、すぐに表情を改めた。
「うわっ、やべっ・・・・・・・・・・・」
思わず漏れた言葉の意味を知る人は少ない。
慌てて、上着をつかむとマネージャーにだけ断りを入れて木村はスタジオを飛び出した。

「中居!!」
「〜〜〜〜あ〜〜〜びゅーてぃほ〜〜らいふ〜〜〜」
飛び込んだアルタの楽屋にいた中居が、本番用のきりっとした顔で振り向いたが、その顔から出てくるとは信じがたい口調で言葉を吐いた。
よく見ればその目の瞳孔が開きかけているのがわかる。
コワレテル。
木村はすぐにそれを察知した。
「中居、早くいえよ、昨日スマスマだっただろ」
「う〜〜〜むすこはぁ〜おんなぁ〜〜〜」
「ほら!早くこっち向いて!」
いまだ、訳のわからない言葉を垂れ流している口をふさぎつつ木村は中居の肩に手をかけて後ろを向かせた。
「次は〜〜〜〜貴さんとぉ〜〜〜たっきゅぅ〜〜」
「それはこの前やっただろ」
言いながら、中居の脇に手をやると。
「う〜〜〜〜ひゃひゃひゃひゃひゃ・・・・・・・・」
この世のものとは思えない声が、漏れて・・・消えた。
「・・・・・・・・・いい?中居」
木村の腕から逃れようと苦心した結果、床に崩れ落ちた中居の頭をくしゃくしゃとやって、心配そうに覗き込んだ。
「・・・・・・大丈夫。サンキュ」
首をもたげ、1分前とは打って変わった口調で中居は木村を振り返り、笑った。さわやかに、木村も笑顔で答える。
「じゃ、俺行くからな。次ねじ回すときは遠慮するなよ」
「うん。撮影がんばれよ」
「おう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・SMAPの中だけの認知度。
99.9999999・・・・・・・%の事実。
中居正広はネジ回し式人形で。
木村拓哉はその専用スタッフである・・・・・・・・・・・・・・・・・。

(その2)

目が覚めると、そっけない天井がこちらをにらんでいた。
あまりのハードスケジュールにスマスマの収録途中に昼寝をしていたんだった。
体を起こそうとして。違和感を覚える。
痛い・・・・・・・・ぐるぐるぐると、首の後ろあたりをげんこでマッサージしてみた。
が。
「いてェ・・・・・・・な」
大きなアーモンドアイが瞬く間にうるんで、袖で涙を拭おうと首を傾け・・・・・・・・・・・
「いてぇよぉ・・・・・・・」
中居は、ソファにへたった。
ほんの少し首を傾けるだけで、耐えがたい痛みが襲ってくる。
ずるずると、かけてあった毛布を口元に持ってきて、一つ、血の気のない唇から息を漏らした。
「なぁんでだろ・・・・・昨日ちゃんとしてもらったのに・・・・」

 ドアをノックした。
返答はないけれど、きっと寝ているんだろうと思って木村は中居の楽屋の扉を開けた。
案の定、ソファの上にキティちゃんの毛布にくるまった、人の気配がある。
ソファの背もたれの方から顔を覗き込むと、こけた頬の稜線と長い睫毛だけが見えた。他は毛布に埋まっている。
「中居?もう収録始まるってさ。おい」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「中居、起きろよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「おいってば」
肩に手をかけて、こちらに反転させようとした木村の行為は悲鳴で報われた。
「・・・な、中居?・・・・」
「いてぇよぉ・・・・・・・」
しくしくと、どうやら泣いている様子の中居に、木村はびくびくしながら中居の正面に回った。
見事に全身毛布に包んで、瞳だけがこちらを見ていた。
湖水に映った月のようなゆらめく、頼りない視線に頬に血の気を上らせて、なるべく優しく尋ねる。
「どうしたんだよ?何が痛い?」
「・・・・・俺、俺おかしいのかなぁ・・・・」
しゃっくりをあげながら、たどたどしい口調で中居は一生懸命何かを木村に伝えようとする。
「おかしくねぇよ」
手をのばしてくしゃくしゃと、髪をかき回すと中居は口元に淡い笑みを浮かべた。
「・・・・起きたらさ、首が回らないんだ。俺・・やっぱり働きすぎて 壊れちゃったのかな・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・やっぱり・・・・・・・・・・・・」
木村は心中、ため息をついた。
そうだよな。壊れてなきゃ中居がこんなにかわいいわけないもんな。
こんなにかわいいなら、いつもほんの少し壊しておいてやろうか。
サディスティックな側面を必死に押さえ込みつつ、木村は中居の最近一段と細くなった身体にやさしく手を添えて、抱き起こすようにソファに座らせた。
信頼に満ちた眼差しに、やっぱり裏切られないよな、と木村は少し残念に思いながら、中居の首に手をかけた。

 「うひゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「な、中居君?!!!」
慎吾が見たものは抱き合う2TOPだった。
(いや、本当は騒ぎ疲れた中居がふにゃんと木村の肩にもたれかかっていただけなのだが・・・・・・・)
中居を呼びに行った木村がなかなか戻らないので、様子を見に来たのだったが、突如室内から中居のこの世のものとも思えない声が聞こえてきて勢いよく扉を開けた慎吾は、ほんっとうに、まずい場面に居合わせてしまった。
汗をかきつつ、回れ右をするわけにも行かずに慎吾はそこで固まった。
「あ、慎吾。終わったから」
そんな慎吾に、中居は何事もなかったかのように声をかけた。
が、しかしその言葉は、さらに慎吾の石になるスピードを促進する。
(終わった?終わったって・・・・・・・なにが、なにが終わったの?ねぇ、木村君。木村君ウソだよね・・・・何かいってよ・・・・・)
「やっぱ、いいっしょ?俺」
「うん。さすが木村だよな。お前しかダメだな、俺」
(いいって・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメって・・・・・・・・・・・・何が・・・泣きたいよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・泣いて・・・・・・)
「慎吾?そこにいられたら出れねぇんだけど」
首をぐるぐる回して、中居が言った。
ソファから立ち上がるとき、少しふらついたのを木村が自然な仕草で支える。
「サンキュ。」
「また、壊れられたら困るからな」
「俺、そう簡単には壊れねぇよ。」
「ああ?徹夜一日だけでぶっ壊れるくせに」
「それは、ハードだからだろ」
「そぉかぁ?」
「・・・・・・・慎吾、お前なにやって・・・・・・・・・」
何時までも立ち退かない慎吾に怪訝そうな視線を向けた中居が見たものは、頬を滂沱の涙に濡らす慎吾だった。
「慎吾?」
「うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!!!!」
「おい、慎吾!」
すごい勢いで廊下を走り去っていった慎吾。
彼は一体何を思ったのか。
少なくとも木村と中居。この2人にとっては永遠の疑問であった。

END

(by植木屋様。ぎゃはははは!!かーわーいーーー!!!なーんで可愛いんでしょう!壊れかけの中居リーダー!!)


その42「ロクサーヌ」

稲垣吾郎の舞台、「七色いんこ」を中居正広が見に行ったのはメンバーの中で一番遅かった。
他のメンバーが結構喜んで帰ってきたなぁ、と思っていたら、吾郎が堺正章のように上にお皿なんかがのったテーブルクロスを引きぬき、マントにした。
これは・・・!これは面白い!!これは木村なんか大喜びだろう!と思う。
が、中居の脳裏には、宮沢りえの姿があった。乗馬服というのか、長靴じゃなくって、長いブーツを履いて、でも、歩くと、後ろのとこがかぱかぱするほど足は細いみたいで、きりっとして、可愛かった。むぅ・・・。
宮沢りえは、何度か衣装替えをした。
次は白いジャージ。靴も可愛い白いシューズ。可愛い・・・。
舞台衣装の村娘の衣装。アルプスの少女ハイジみたいで可愛い・・・。
一度、最初の衣装に着替え、極めつけは最後のシーンのドレス!ドレス!!ドレスぅ!!!!

可愛いーー!!きぃーーー!!!!!!!!

カーテンコールが始まった途端、客席で勢いよく立ちあがったのが中居正広で、ステージ上の稲垣吾郎は死ぬほど驚いた。回りの客も驚いた。他の役者も驚いた。
『なんだろう・・・なんであんなに睨んでるんだろう・・・』
手を叩くでもなく、中居はただつったったまま、じぃーーっと舞台を睨みつけていた。

色は白とクリームだな・・・?ん?レースか?ん?ちきしょう、なんで俺の目はこんなに悪いんだ・・・!

「あ、中・・・」
「いっちゃったね・・・ごろちゃん・・・」

突然身を翻し、ダッシュで会場を出ていった中居を、呆然と見送る吾郎王子とりえ姫だった。

ダッシュしている中居正広は動かない表情の下で絶叫した。

でも、あの白いジャージは俺が着た方がぜってーーー可愛いーー!!!!!
あの乗馬服だって負けるもんか!俺だってブーツはいて、後ろのとこカパカパさせてやるぅぅぅーーー!!
どっ、ドレスだって負けるもんかぁぁーーーー!!!
どこに売ってんだ、あの白いジャージ!!白いシューズぅぅぅぅ!!!
その夜、赤坂の街を走りまわる小さな影があったという。

中居正広、本当に自分以外に可愛いと呼ばれる存在が許せない男だった。


その43「今日の中居正広」

ある種の生き物は身を守るために、体を丸くすることがある。
球という最強の形になり、周囲の攻撃を撃退するのだ。

「あれー、中居はー?」
「あれ、いないね」
スマスマで、歌のコーナーの収録をしている日。ふと見ると、中居の姿がなかった。
「そろそろ収録始まるでしょ?」
吾郎がきょろきょろと、当たりを見まわした。心の中で、鏡が見たいなと思っての行動だったが、その視界に。
「あっ。木村くん」
「ん?」
振り向いた木村は、げっ、と顔色変えた。
「え、中居くんいたの?」
慎吾や剛もやってきて、木村と同じ様に顔色を変えた。
「丸まってる・・・!」

中居正広は、ある種の生き物なので、身を守るために、丸まろうとしていた。
「いや!まだ大丈夫だ!まだっ!」
木村は、丸まろうとしている中居を、助け起こした。
「中居?中居ー?どした?何がヤなんだ?」
「だって・・・、俺、歌・・・おぼえらんない・・・・・・・・きゅ・・・っ」
「あぁ!右足がっ!」
今日はサンダルを履くため、中居は素足だ。その足先がきゅっ、と丸まり始めた。
「大丈夫!大丈夫だよ!カンペ出してもらうから!」
「ホントにぃ・・・?」
きゅっ、と丸められていた左手がゆっくりと開かれる。
「ホント!中居くん、何言ってんだよ!ほら!もうつよぽんが作ってるよ!カンペ!」
「え。なんで俺が」
「いいから急げよっ!」
慎吾に蹴飛ばされ、仕方なく、剛がカンペを作り始める。
それを確認し、ようやく丸まりかけていた中居は、元の形態に戻った。

「そろそろ収録行きまーす!」
「はーい!」
「ほら!つよぽん、カンペ!まだっ?」
「だから。なんで俺が・・・」

収録は、順調とは言えなかった。
中居がNGを出してしまったのだ。
『あ・・・!』
マイクをきゅっ、と握り締めていた中居は、どおしよお・・・と思った。
『歌詞、間違えちゃった・・・っ』
きゅぅ・・・っ。
中居のうっすい胸は痛む。せつなくて、きゅうきゅう泣いてるみたいで・・・。
指を握り込んだ手が、手首から内側に曲がる。つま先が、丸まっていく。猫が丸くなるように。そしてアルマジロが丸まるように。

「あーーーっ!!中居ぃーー!!」
「中居くん!!」
「ちっきしょーー!つよぽんのカンペの出来が悪かったからだぁーー!!」
「いや、ぜってー違うって」

「はーい!中居くん丸まりましたぁー!!」
「はい!中居くん待ちでーす!」
「あぁ・・・!」
木村は宙を仰いだが時すでに遅し。中居は完全な形、球に、きゅ・・・っ、と丸まってしまっていた。

「中居、大丈夫だよ〜」
「NGの1回や2回、なんだよ、中居くーん」
こうなると、後はもう、きゅ・・・っ、と痛んでいる中居の胸を癒すことに全力を尽くすだけだ。
「ほら、中居くん。剛も反省してるし」
「え。NGって俺のせいなの?」
「謝れよっ!つよぽんっ」
「中居、あれじゃん、こないだの撮影の時なんてさぁ、俺、ひっどかったじゃん、NG〜」
「そう、そう。中居くんだけじゃないよ」

「・・・ほんとに・・・?」
「蚊のなくような声が球の中からした。
あっ!木村たちの顔に光がさす。
「ホントだよ、中居くんっ!中居くんのNGが後2秒遅かったら、絶対つよぽんがNGだしてたよっ!」
「出さねぇよ?」
「バカ・・・っ!出したって言え・・・っ!」
木村に睨まれ、剛も慌てて、「そう!そうだよ、中居くん!中居くんのおかげで!」と言葉を継いだ。中居がNGを出した当たり、剛が歌うパートはまるでないというのに。
「そぉかなぁ・・・」
「そうだって!中居、さすが!」
「やっぱり中居くんはリーダーだね」
「怒ってない・・・?」
「怒るわけないよ、中居くん!」
メンバーたちは口々に言いながら、中居の様子をじっとうかがう。
「ほら、中居。やっぱ顔見て話したいからさ。な?」
球を、軽く揺すりながら木村が言い、ついに完璧だった球が動いた。
「これ・・・!」
「右肘じゃねぇか・・・?」
完璧だった球に、小さな盛り上がりが見えてきて。

「・・・中居さん、右腕見えてきましたぁー!」
「そろそろスタンバイお願いしまぁす!」

「きゅ・・・っ」
「あっ!ダメ!まだ早かったっ!」
気の早いスタッフの声に、また、きゅ・・・っと心と体を丸めてしまった中居正広。
一体、今日の撮影はいつ再開できるのか。それは誰もしらなかった。

「今日の中居正広の『きゅ・・・っ』指数、180」


その44「木村拓哉責任編集・・・?」

SMAPの本?
んーと、SMAPなぁ・・・。
結構見たまんまのヤツらだから、わざわざ本とか作らなくても解ってもらえてんじゃないの?
あ、でも、今だから言える話とか、一杯あるけど。
前、中居と北海道に行った時に飯食いに行って、中居がすっげー酔っ払って大変だったんだけど、

「それ、コンサートでしょ」
「北海道のコンサートの後、みんなでご飯食べに行った時の話でしょう、木村くん」

・・・そーいや、他のメンバーもいたような。

「いたんだよ。みんなで行ったんだよ。スタッフもいたんだよ」

そーだっけ。

「やっぱ木村、おまえら無理だ。俺が作った方がいいに決まってんじゃん、SMAPの本って」
「えー、やだよぉ。なんか、今さらだもん、中居くんのぉ〜」
「いや、中居のは、いまさらとかって問題じゃない!」
「どこにっ?どこに問題があんのっ?」
「何ページになんだよー!中居くんの本ー!」
「でも、慎吾のだって、何がアプティバ付きだよ!」
「えー!だって、その頃富士通とかやってなかったじゃん!木村くんはっ!」
「あー!うっせぇうっせぇ!本ってのは、本!なんでCDとかつけるんだよっ!つけるんだったら、そーだなー、没シングルじゃんっ?俺のソロが入っててさぁ〜・・・」
「やだよぅ!!」
「でも、そもそも、本を出そうって言うことから考えた方がいいんだって」

「「「吾郎!!うるっせぇ!!」」」

「・・・どうよ、あの3人」
「しょうがないじゃん、普通じゃないんだから・・・」

「おまえ金持ってんだから、俺に本出させろよ!」
「所得番付アイドル部門第1位だろうが!おまえは!」
「バッカ!俺は、色々大変なんだよ!えーっと、車とか、金かかってんだよっ!」
「あんなオヤジ車のどーこに金かけてんだよ、中居くんっ!」

「多分、俺の車の方が高いよね」

「「「高速にも乗れねぇようなボロ車じゃねぇかよ!!」」」

「・・・あれはクラシックカーって言うんだけど」
「俺も、吾郎ちゃんのその趣味は、ちょっと・・・」

「「「おまえもいい加減なんか喋れっ!」

2000年のキーワード、責任編集。しかし、SMAP責任編集の本が出来る可能性は、限りなく0に近いのだった。どうにかしてやれ、ビル・ゲイツ!


その45

私立十二社学園の英語教師(担任クラスなし)の風間大輔は眉間にシワを寄せ、厳しい顔をしていた。
彼には大いなる悪、と闘うという崇高な使命があったのだ。
彼がいるのは学校の廊下。曲がり角付近で、背中を壁に預け、角の向こうの様子をうかがっている。
「来た・・・!」
特徴のある足音だった。
大いなる悪・・・!風間は、そっと顔を出し、やってくる大いなる悪を見つめる。じっと。熱く。
あぁ、どうして俺の目からはビームがでないんだ・・・!バカ!こんな役立たずな目なんて!目なんて!

風間ちゃんのチャームポイントだから大事にしちゃうぞぉーー!!

眉間のシワはますます深くなり、親と、おじいちゃんおばあちゃんの敵を見るような目はますます険しくなっていく。

その視線をまったく感じていない男は、軽い足取りでやってきて、2年D組の前で立ち止まる。出席簿(おぉ!!憧れの出席簿!)を脇に挟みなおして、両手を合わせ、その中にふっ、と息を吹き込むのが、大いなる悪の呪いのしぐさだ。
俺の可愛い生徒たちに、あんな大いなる悪の呪いを受けさせる訳にはいかない!
風間は、角から颯爽!と踊りだし、大声で呪文を唱えた。

「ゆーたーかぁーーーー!!!!」

今まさに、教室のドアに手をかけようとしていた、私立十二社学園、新任英語教師(2年D組副担)の、水谷庸司の手が止まった。

「俺は豊じゃねぇーーーー!!!!」
「僕の先生はぁーーー!フィバぁぁぁーーーー!!!」

この呪いを唱えた後は、全力で逃げるだけだ!風間は廊下を走り出した。
「待ちやがれ!クソ風間ぁーー!!」
追いかけてくる大いなる悪をひきつけている間に、十二社学園用務員扱い、現在、教員免許取得中の南波次郎が、2年D組での教育実習をすることができるのだ。
早く!早く南波先生に免許を取ってもらえないと、俺はいつまでだっても、担当クラスなしじゃん!!!

「熱中先生は小学校ですーー!!ここは高校ですぅーーー!!!」
「誰が熱中先生だ!誰がぁ!!」
「熱中先生はジャージはいてますー!ジャージですーーー!!そんなニセサーファーみたいなカッコしてませーーん!!!」

そう。水谷庸司は、豊、と呼ばれるとキレる男だった。
が、赴任10日の間に、25回もこんなことをされている男、水谷庸司は、アホではなかった。

「俺はなぁ!どうせ豊だったら、福本豊だよぉ!!」

ききぃっ!
風間の足が止まる。
「・・・なんだとぉ・・・?」
「どうせ豊だったら、福本だっつってんの」
ふふん、と笑う水谷は、まだ憧れの出席簿を持ったままだった。
しまった・・・!あれがなければ、生徒の名前を覚えていない南波先生には、出欠がとれない・・・!いや、それよりも!!
「福本はなぁ!福本は、おまえみたいに、チャラチャラしたカッコとかしてなくってなぁ!!!」
伝説の盗塁王福本の戦跡を、涙ながらに訴える真の野球好き、風間大輔だった。

当然その頃、2年D組では、前担任南波VS新担任北山の、血で血を洗うような抗争が巻き起こっており、生徒たちを爆笑の渦に落とし込んでいる。

「・・・お母さん、これでよかったのかしら・・・」

理事長室の前で、福本の戦跡を涙ながらに訴えられ、新理事長となったキヌカ先生は、軽く頭を抱えるのだった。

十二社学園の明日はどっちだ!


その46

「101人目」その1

同学年100人と話す。その収録には丸二日かかり、最後の一人が終わった時は、二日目の深夜3時を回ろうかという時間だった。
「はー・・・」
木村は立ちあがり伸びをする。「お疲れ様でした」という声に答えながら、鏡貼りのセットから出ようと足を踏み出したら。

「101人目っ!でぇ〜〜〜っす!」

セットの中に、木村拓哉とまさに同学年。同じ高校の同じクラス隣の席で同じ部活だった男、中居正広が謎のポーズで乱入してきた。

ばしっ。
セット内、思わず暗転。

「なんでだよーーーー!!!サンライズぅぅぅーーーー!!!!!」
「ここ、サンライズ使ってねぇから・・・」
「トークさせろよ、トークぅ〜!暗くたって、トークくらいできんだからなぁ〜!トークゥ〜〜!!」
照明が再びつくまで、騒ぎ続けた中居だった。

「101人目」その2

「さっ」
キラリン☆と擬音のつきそうな瞬きをし、中居は木村の前の席に座る。
「何やってんだよ、トークトーク!」
立ちあがったままの木村に、パタパタと手を振り、座れ座れと合図する。
「同学年じゃん、同学年!何でも聞いてっ!それ!書いてっ!」
今までの100人には、フリップに質問を書いて聞いていた。だからと言って、中居相手に女の子たち何人かに聞いた、×○△◇好き?とか聞けないし、それで、好きとか言われて具体的な話されたら、多分すぐさま照明消されて叩き出されるし。
「えーっと・・・」
「何、何?」
ペンで口元を軽く叩きながら考えていると、中居は、足をパタパタさせながら、前に体を傾け、ウキウキした顔をしている。
・・・何がそんなに楽しいんだろう・・・。
そう思ったので、素直にそう書いてみた。

『何がそんなに楽しいの?』

「楽しい?楽しいこと?あぁ、楽しいよねぇ、毎日・・・!」
うふうふと笑いながら、中居は腕を伸ばし木村の腕を叩く。
「だってさぁ!ゆったじゃん、ゆったじゃん、優勝するってさぁぁ〜〜〜!」
「・・・あぁ。巨人?」
「するよぉ!もう恐いくらいだね!なんであんなに強いかね、おいらもう回っちゃうよーん!くるくるぅ〜っ!」
立ちあがって見事なターンを繰り返す中居を見て、木村は一つうなずいた。

『どれくらい飲んだ?』

「飲んだ?何?飲んでねぇよ?酒?飲んでねぇってば!」
「ウソぉ!おまえそれでシラフなはず・・・!し、シラフだ・・・!」
顔を近づけても、タバコの匂いしかしない。木村は驚愕した。何かやばい薬でも吸ったんじゃあ・・・!
「俺がどれくらい飲めるかってゆーと、やっぱりもういい大人として、いいちこを1本ほど」
「飲めねぇだろ!」
「1本ほど飲んでみたいねぇ」
あ!と中居が動きを止めた。
「俺も質問しなきゃ、俺も質問しなきゃ。同学年だもんな。えーっと、えーっと。何聞こうかなー・・・。あ!『×○△◇好き?』」

ばしっ。
セット内、思わず暗転。

「なんでだよーーーー!!!サンライズぅぅぅーーーー!!!!!」
「だからサンライズじゃ・・・」
「どーせこいつ、ラジオで好きだって散々言ってんじゃーん!テレビだって構わねぇじゃーん!!」
「まてぇ!こんなのテレビで流せるかぁ!」
「何!おまえ女の子に×○△◇好き?とか聞いといて、自分のことは言わないつもり!?うわ!セクハラ−!!」
「えぇ?これってセクハラか!?」
「うわ!エロぉ〜っ!」
「セクハラってのは、なんか見返りがあってだろぉっ?」
「は・・・っ!」
中居の目線が中空を泳いだ。
「さっきのホステスさんとこで・・・・・・!シャンパン飲ませてもらうんだろ!料亭とかにもいっちゃうんだろっ!」
「いかねぇよ!高いって言ってたじゃねぇか!」
「うっそぉ〜ん、天下の木村拓哉様が何をゆってるのぅ。いけるよう、いけるよう。連れてってよぅ〜。後、柔道の選手とか紹介してよぅ〜。コネじゃん、コネぇ〜」
「それが目的かあーーーー!!」
「でもさー、あのホステスさん、自分みたいな綺麗なおねえちゃんって、×○△◇好きな保母さんの方が可愛かったよなぁ〜、てゆーか、俺の方が可愛いべ!可愛いべ!!」

暗転のまま、二人の声だけが響き渡るスタジオには、実はもう、二人だけしかいなかった。
100人の誰よりも、熱い、そして無意味なトークは、その後早朝まで続けられたというが、知っているのはその二人だけである。


その47

「中居のサタスマ派遣社員」その1

ビストロSMAPの撮影があるので、中居はオーナーの衣装に着替えていた。
と、そこにノックの音が。
「はいぃ?」
ドアが開き、しかし誰入ってこない。のではなかった。中居が向かっていた鏡に、誰も映り込まなかっただけで、確かに入ってきたものがいた。
「ん?」
振り向いた中居の真後ろにはスマッペ。
「・・・なんだおまえ」
スマッペの手には、いつもの手紙が。
「俺、これからビストロなんだよ」
『いいから見ろ!』
しかしいつも通りに蹴りが飛び、うっとーしーなぁ!と思いながら、その手紙をひっぱがし、中身を見た中居は。

『毎日毎日仕事仕事。ほんの少しでいいから時間が欲しいあなた。中居があなたのかわりに働きます。中居正広のサタスマ派遣社員!今回のおハガキは、ビストロSMAPで働く、ウェイトレスのエイコさんから。区役所、郵便局、銀行などで手続きをしなくてはいけません。半日だけお願いします!とのこと。
ビストロSMAPは、国内最高のシェフ4名を抱え、一日に一組のゲストを迎えて、お好きなお料理をお出ししている知る人ぞしる名店。ゲストになることが、日本のセレブリティの証といわれている』

『さっさと着替えろ!』
「はぁぁ!?」
凍り付いていた中居は、スマッペの声に我にかえった。
「何ゆってんの!?いねぇじゃん!ビストロにウェイトレスなんかいねぇじゃん!」
『うるさい!着替えろ!』
びしぃ!びしぃ!と蹴っ飛ばされ、なぜか着替えさせられた中居だった。

ビストロSMAPのウェイトレスは、ザ・メイドというユニフォームを着ている。紺色のワンピースは膝丈でふんわり膨らみ、白いレェスのエプロンはお約束だ。
蹴られながら着替えた中居は、仕事に行くぞ!とスマッペに魅惑的なおヒップあたりを押されながら廊下に出た。

『オーナーから説明を受けろ!』
「オーナーって、オーナー俺だろ!俺がなんの説明を誰にするんだ!?」
『うるさいっ!』
びしっ!とまた蹴られ、しぶしぶ一人二役をやろうとするが。
「だから!ウェイトレスなんていねぇんだよ!ビストロにはよ!シェフが作って、シェフがサーブしてんだよっ!」
『うるさい!うるさいっ!』
びしぃ!びしぃぃ!
スマッペのローキックの威力は、関根勤すら驚愕させるレベルだ。
「と、ともかく、しっかり!」
オーナー役の中居は言い、ウェイトレス中居は、はぁい、と返事をした。

キンコーン

「いらっしゃいませぇ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ご予約のお名前はぁ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・奥田民生です」
「奥田様!どぉぞぉ〜」
「あ、あの・・・」
「あ、きょおは、オーナーがお休みなんですぅー、だからウェイトレスがここもやっちゃうんですぅ〜」
ゲスト奥田民生はおどおどと席につき、おどおどとウェイトレスを見上げる。
「さて!当ビストロにはメニューはございません!お客様のお好きな料理を作らせていただきますが、何がよろしいでしょう!」
「え、えーと、夏休みのお昼ご飯を・・・」
「夏休みのお昼ご飯!」
「あのー、そうめんとか、なんか、そういうヤツで・・・」
「わっかりましたぁ!」
ウェイトレスは無造作にベルを取り、無造作に前に出た。

「オ・・・」
そしてベルを鳴らせようとして、シェフたちの視線を感じた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
シェフたちは、ウェイトレスの方を向いていた。
いつも前を向いているのに。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなに見てぇんだったら見せてやるぅぅぅ!!!!」
スカートをまくりあげた瞬間だった。
木村シェフが、おまえはチーターか!というスピードで階段を駆け上がり、
「やめなさいっ!!!!」
とスカートを押さえる。押さえられたウェイトレスは、ふふん、と笑顔で言った。
「見せてもいいパンツだもんねーー」
スカートにある程度長さがあるため、ウェイトレスはおじゃる丸短パンをはいている。
「いいからっ!」
前に出ない!ここから後ろ!と立ち位置を指示、ゲストの奥田にどうも、と挨拶をした後、何もなかったかのように厨房に降りていった。

立ち位置まで指示されたウェイトレスは、ついに吠えた。
「サタスマ、バッカじゃねぇの!?いいのかこれで!スマスマはいいのかぁ!?」

<その頃エイコさんは>

区役所で書類を取ろうとしているエイコさん。でも、番号札は、120番。まだまだ順番は回ってこない。

つづく。


その48

「生茶」

「あの人のことは、あんまり好きにならないで」
と、つよぽんが言った。
「さよならする時、辛いから・・・」
僕は2リットルペットボトルを口のみして、間接キス・・・と。

言うかーーーーーーー!!!!!

「つよぽーん!!しっかりしなよ!しっかりしなよ!あの人って、あの人だよぉ!?」

あの人は、つよぽんと僕の、母親がやっていた食堂にふらりと現れた。
つよぽんがお兄ちゃんだから店をやっていて、僕はまだ学生だからといって遊んでばかりだ。つよぽんはいつも疲れているのでパートの募集をしたけど、こんな海辺の町で、やっすい時給で来てくれる人はいない。
と思っていた時、あの人が店の前に立っていたのだ。
体全体が影になるようなつばのひろぉーーーーーーい麦藁帽子を被って、白い長袖のシャツに、黒いズボンに、あろうことか、革靴で。
僕たちは、おかしな人にはなれていない。
もしかしたら、あれが東京の最新ファッションかも、と思ったけど、そんなファッションやだとも思う。
一体、あのどでかい麦藁帽子はどこで買うことができるんだろう。
そして、あの人が持っているものは、僕には2リットルペットボトルに見えるけど、中に入っているのは、鉛とか、そういうものなんだろうか。ものすごく重たそうに見えるけど。
真夏の炎天下なのに、汗をかいてる様子のないその人は、よろよろと2リットルペットボトルを持ち上げ、不器用そうに口をつけ、飲もうとして。
入り口に殺到してくるお茶に負け、白いシャツを濡らした。顔の下半分も濡らした。
そこに、海からの突風が!ああ!!と慌てて帽子を押さえ、濡れたシャツそのままのその人がうちの店にかけこんできた。
「ま、まだなんですけど・・・」
つよぽんが呆然と言う。
つよぽんは、営業時間を気にするタイプではなく、誰かがくれば、その時から営業スタートくらいの気持ちでいる。
でも、よくこの狭い入り口を入ってこれたな、という巨大な麦わら帽子を被った、なんか、お茶で濡れてる人をお客さんにする度胸はなかったらしい。
そう言われたその人は、あれ、そうなの?とちょっと首を傾げた後、じゃあ、パートで、とあっさりいった。
そして、やれやれ、とペットボトルをテーブルに置いた。
手首をマッサージまでしている。

2リットルペットボトルもまともに持ち運べない人が、昼間は猟師さんとかで一杯になる店で働ける訳がない、と、僕もつよぽんも思ったけど、無理です、という勇気もないのだった。

その人は、直射日光と海風が嫌いだと言った。
なのにここは、猟師町。
つよぽんもそうだけど、この人も、めちゃ色が白い。
でも、皿くらいは運べるらしく、時給と照らし合わせれば、まぁ、ちょうどの労働力なんじゃないの?と思いはじめていた頃、事件が起こった。

お客さんが、昼間からお酒を飲んでいて、暴れ出してしまったんだ。
つよぽんはびっくりしたけど、相手は酔っ払い一人、こっちには、あの人もいるんだし、二人がかりなら!とあの人を探した。
そしたらあの人は、店の裏側の窓から、中を見ながら何やらメモをとっていた。
・・・め、メモ・・・!?
僕は慌てて店に入り、椅子を振り上げてるお客さんの前に出た。
よく来てくれる雄吉さんだ。家も近い猟師さんで、何かヤなことでもあったんだろう。
一度振り上げたものを下ろすことができなくなっちゃってる。
うちの店の椅子なんて、木だし。ボロいし。俺、一発くらい殴られたって、多分平気だし。
と思っていると、するする、っと裏の窓があき、何かが雄吉さんに向かって飛んできた。

「ゆっ、雄吉さんっ!?」
突然雄吉さんは椅子を放して倒れ、そして、その首筋には。
「はっ!針ぃっ!?」
その首筋には、銀色の長い針が突き立ち、そして、ふるふると振るえていた。ふるふると!ふるふると!!
そして悠々と登場したあの人は、その長い針をするりと抜いて、懐に。
フ、懐って!懐って!なんで和服着てるかなーーーー!!

雄吉さんは、それから30分ほど倒れたまま爆睡し、目が覚めたら何事もなかったかのように帰っていった。
そして、その一部始終を見ていたつよぽんが、言ったのだ。

「あの人のことは、あんまり好きにならないで」

なれるかーーーー!!!!!!

(素敵!あの人(笑)!)


その49

「ガード」

「よぉ、中居くん、ちょっとこれから飲みに行かね?」
うたばん終了後、石橋は中居に言った。
今晩のうたばんは、スタジオの照明が切れるギリギリで終了。司会者たちのテンションは、未だ高かった。
高かったはずだった。
しかしそう背中から声をかけられた中居は、くるりと振り返り一言。
「ダメです」
「え?え、じゃあ、メシだけでも?」
「ダメです」
「・・・お茶・・・?」
「なおさら、ダメです♪」
歌うように言われた石橋は、無意識につぶやいていた。

「ガードが固いな。・・・ガッカリ・・・!」

と、目の前に、突然チロリアンな人々が現れたのだ。
ずさっ!と現れた楽器を手にしたチロリアンは3人。
あぁ!俺の視力が、0.03であっても、このチロリアンたちが誰なのか見て取れるぜ!石橋は驚愕した。
そして、中居は歌う。
「がっかりするのはおかどちがいっ♪」
そしてチロリアンズも歌う。
「「「人は見かけによらぬもの〜♪」」」
さらに中居は歌い、踊る。
「夜の私はガードが、かたいのっ♪」
チャチャ、チャチャチャチャ、チャチャチャチャチャっ♪
「中居っ♪」

逃げろーー!!!
中居の掛け声に、チロリアンズも飛び出し、4人は一塊になってスタジオから駆け出した。
何だ?!
と慌てて追いかけた、石橋、スタッフたちが見たのは、バンの運手席で、ハンドルにもたれ、夜中なのにサングラスをかけ、エンジンかけたまま待っている、SMAPの最後の一人、木村拓哉だった。
きゃーーー!!!
と楽しげな叫び声を上げながら中居が、そしてチロリアンズがバンに飛び込み、バンは去った。
「なんで、優香・・・」
「なんで、エリス・・・」
「でも、吾郎さんたち、チロリアン、似合ってましたね・・・」
「似合ってたな。新ユニットかな・・・」
ガソリンの匂いに包まれながら、呆然とつぶやく、石橋&スタッフであった。

(いや、あのCMの踊り可愛いじゃないですか。エリスの。優香の・・・(笑))


その50

「中居のサタスマ派遣社員」その2

ゲストの奥田と、ウェイトレス中居が厨房に降りてきた。いつもならここで、シェフたちとゲストの間とつないで何か話をするところなのだが。
「あのー、皿持ってきてくれるかな、20cmの真っ白のヤツ。あれ」
「はぁ?」
地の底から這いあがる「はぁ?」は、せわしなく野菜を切っている吾郎シェフには無視された。テレビに向かって、右手側が吾郎シェフ、剛シェフチームで、せっせと料理をしている。剛シェフに押し付けようとするのも無理らしい。
「・・・しょ、しょうしょ、お待ちください・・・」
それでもにっこり笑って、ゲストを振り捨て皿を取りに行く。
「20cmの白い?どれだ?あ?」
「あ、それ・・・じゃ、ないかなぁ」
一人にされて、さくさく喋れるゲストでもなく、大人しくウェイトレスについてきては、一緒に探してくれた。
「これ?ですか?」
「20cmって、それくらい」
「あ。そですか」
釣り歴も長く、ツアーの最中にツアーバスで釣りに行ってしまうほどの男(実話)、奥田民生は、これが魚ならと思うと、サイズが解ってしまう特技があった(かどうかはしらんけども)
ウェイトレスは、20cm、20cm、といいながら、おら、と吾郎シェフチームのカウンターに皿を乗せ、とっとと木村シェフチームにいこうとしたところを呼びとめられる。
「ちょっと、何これ」
「何これって、皿だろ。何に見えんだよ。あ?色紙か?サイン書くか??」
「・・・洗わないと」
「はぁ!?」
「ここ、スタジオだし。いくら棚から出してきたってそれまで入ってたの、ダンボールとかだよ?使うのは洗うでしょう、普通」
「それはおめぇらの仕事だろぉ・・・!」
「あっ!ごろちゃん!大変!油が!」
「あぁっ!」
キンキュー!キンキュー!エマージェンシー!などと口々に騒ぎながら、二人は油の元にかけより、ウェイトレスは白い皿とともに残された。
「・・・あ、あの・・・やりましょう、か・・・?」
気よわーに奥田から言われ、そんなことをさせる訳にはいかん、と、ウェイトレスは笑った。
「ほんっとすみませんねぇ〜、なってなくってっ!」
えへえへ笑いながら、ウェイトレスは、じゃっ!と水で皿をなで、拭け!といわれる前に、さっさと木村シェフチームに駆け寄る。
「えー、木村くんとは」
「ね」
「ね」
にこ、にこ、と微笑みあう二人。
木村シェフは、ウェイトレスに顔を向けた。ここで、思い出が語られるんだな、と笑顔で待ちうけていると。
「これ、洗ってくれる?」
「なんだとぅ!?」
木村の指は、流し一杯になってるシンクを指差していた。
「ごめん、ちょっとお願い」
「ちょっとお願いじゃねぇだろ!おめぇいっつも、料理しながら洗ってるじゃねぇかよ!洗ってるじゃねぇかよぅ!!」
「さっき、おまえそのまんま洗ってたろ。そんなエプロン、飾りだぞ?」
木村シェフはさっさと手を拭いて、慎吾シェフから受け取ったエプロンを手にウェイトレスに近づく。これがレェスのひらひらなら、ダッシュで逃げたところだが、中途ハンパにシンプルなのが悪かった。
「え。なんか、それ普通じゃん?」
どうせなら、レェスのひらひらで逃げ出したところを無理やりつかまえられて、っていう方がおいしい、と思ってしまうウェイトレスの精神は、すでにどっぷりバラエティに漬かっている。頭まで漬かっている。
鮮やかなオレンジのキャンバス地で、首からひもをかけて後ろで結ぶだけのエプロンをまじまじと見ていると、
「そりゃ、裏方の時にひらひらさせとく必要ねぇし」
すかさずエプロンを身につけさせられた。
「すいませんねぇ、奥田さん。今日、ウェイトレスが一人お休みで」
「あ、あぁ、そう、なの・・・?」
どーすりゃいいんだと困った笑顔になりながら、釣りの話は徐々に盛りあがってきていた。慎吾が解らないのにちゃちゃをいれてきて、なお盛りあがる。
その間ウェイトレスは。

一人黙々と鍋を洗っていた。
オレンジのエプロンが濡れるのも構わず洗っていた。
鍋の汚れは、どうなのこれ!というものであり、根が綺麗好きなウェイトレスの心をわしづかみ。
これはやっぱり深夜通販でおなじみのなんとかマジックとか、あーゆー洗剤がひつようだ!
エプロンのみならず、紺色のスカートも濡れはじめ、足元にも水溜りまでできつつある中、軽くトリップし始めたウェイトレスだった。
「おい!そこまで水飛ばすな!料理にかかる!かかる!」
はたからは水遊びにしか見えていなかった(笑)

<その頃エイコさんは>

え!順番飛ばされてたなんてひどい!!番号ふだを手にふるふると振るえるエイコさん。まだまだ銀行までたどり着けないぞ!


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