小ネタの部屋

その144「課長中居正広」

中居課長といえば、その外資系商社でもかなりの人望を誇っている。
仕事ができるのなんか当たり前。OLはそれだけじゃあ心ときめかせない。中居課長は、なにせイケていた。
体にフィットしたスーツ。色の綺麗なシャツ。遊び心溢れるネクタイ。サラリーマンとしてはちょっと明るい髪の色も、スタイリングと際立つ清潔感が好感度ドン!さらに倍!
「あー、中居課長、今日も素敵ー」
社内彼氏にしたい男ナンバー1.
「ふっふっふ。当たり前よ。うちのボスよ」
「ムカつくーー!!」
中居課長をボスと呼べる部下になることは、女性社員の一つの憧れだ。
「えぇーーい!失敗しろーー!失敗しろぉぉーー!」
「そんな呪いをかけたってムダ!チーム中居に死角はなくってよ!」
そう。
中居課長に死角はない。いつだってパーフェクトな仕事を心がける男は、部下の失敗にひるんだりしない。
『最後の責任は俺が取る。もう一度やってみろ』
ある大きなプロジェクトが頓挫しそうになった時、そう言われて奮起した部下たちの働きは、今では伝説となって語られている。
「まるで生きた課長シマコウサク!」
中居課長は、ビジネスマンのお手本でもあった。

中居課長は、仕事を把握し、部下を把握している。
「サイン、お願いします・・・」
女性の部下が書類を差し出した手を見て、中居課長はひそかに眉をひそめた。
マニキュアが、はげかけていた。
「あ、ちょっと待って」
彼女は、中居課長の元にきて二年。その仕事っぷりは、中居課長をして十分信頼足らしめるものだった。普通なら、彼女が作ってきた書類は、目を通さずともサインをする仲居課長だ。
「はい・・・?」
しかし今日はデスクの前で引きとめ、ぱらぱらと書類を確認する。
「体調悪いね?」
「えっ」
「ここ、おかしくない?数字」
「え・・・。あっ!」
ぱっと彼女の顔が引き締まった。
「体調悪いのはしょうがないから、ゆっくりでいい。その代わりよく確認して」
「すみません、課長」

急ぎ足で席に戻り、その後一度席をたった彼女を見送って、中居課長は心の中でため息をついた。
今までは、鮮やかなネイルアートを楽しんでいた女性が、ベージュや、ピンクの淡いネイルで我慢できるものだろうか。
しかし、メイクの上から顔を洗ったと思われる彼女は、きりりっ!とした横顔を見せながら、パソコンに向き合いだした。

「はぁー・・・」
マンションのドアを閉め、中居課長はため息をついた。

中居課長は、基本的には残業をしない。
プライベートを大事にするって、なんか素敵よね♪と部下たちはより憧れるし、同僚、そして上司も、あれだけの仕事をして、この余裕をうらやんでもいる。
しかし。
「いけない。ため息一つで幸せ逃げちゃう」
中居課長は。
「さって、今日の晩御飯、どーしよっかなぁ〜♪」
ささっと靴を脱ぎ、さっとそろえる。靴の汚れを簡単に落としておくことも忘れない。
「昨日はイタリアンだったから、やっぱり和食がいいわねぇ〜。お魚もあるし〜」
スーツを脱ぎ、部屋着に着替える。カフェエプロンは先週衝動買いした新品だ。
「えっ、でも、まってまって?お肉もあるんだったー。んー、どぅしよっかなぁ〜」
開けた冷蔵庫の前に可愛らしくしゃがみ、これじゃ冷気が逃げちゃう!と扉を閉め、もう一度ため息をついてしまった。
「ああん!だめっ!ため息ついたら幸せが逃げるのっ!それがどーして解んないのかしらっ!あの女にはっ!大体、しおらしく男の好みなんかに染まってる女じゃないでしょ!」

中居課長は。

オネエだった。

まだ本当の愛を見つけていないオネエだった。
「でも、いつかは見つけるわ・・・!あたしだけの、愛・・・!ううん。あたしと、まだ見ぬあの人との愛・・・!」
部屋のあちこちにある可愛らしい天使のオブジェに、がんばるっ!と力強く声をかけ、もう一度冷蔵庫をあけた。
「肉よ!力つけなきゃ!あたしだけでも!」
ワイルドに焼肉にしてやる!と固まり肉をスライスしながら、でも野菜は大事、とたっぷりの野菜サラダを作る。ドレッシングはもちろんお手製。漬物ももちろん自家製。お酒も飲みたいけど、今日は実家の味を引き継いだ梅酒で我慢。
「もう若くないんだから、あたしをいたわらなきゃ〜♪」

いつだって中居課長は、自分をいたわってきた。
可愛いあたしを可愛がるのは今のところあたしだけ、だからだ。
まっててね、と、誰とは知らないダーリンを探し求めている中居課長は、この翌日、運命!と思える出会いをすることになる。

(こないだ、JRAの新しいポスターの中居さんがかっちょいい、ということを考えながら道を歩いておりました。いつもあーゆー風にしててくれたらいいんじゃん。でも、ドラマになると眉間にしわ系ばっかりだからなー。それはつまらないのよなーー。もっと朗らかなドラマがいいわけ、朗らかな。朗らか?ほがらかっていえば、新宿二丁目のほがらかな人々???(byほぼ日刊イトイ新聞)というところから思いついた話です。毎回、寅さん並にメンズたちと運命の出会いをし、そのメンズたちのためにもてる力をあますところなくかっちょよく披露したあげく、あっさり振られていく、それでもくじけない中居課長が見たい!!)

その143「バレンタインデー」

バレンタインデーである。
バレンタンデーのアイドルといえば、何トントラックに何杯ものチョコレートをもらうものだ。それがなくてなんのアイドルだ。
中居正広は、事務所に電話をしてみた。はて、SMAPあてにトラックが何台届いているんだい?

「届いてないってよ!届いてないってよーーーー!!!」
中居の叫び声に、木村は眉をひそめる。
「どーなんだよ!チョコレートが届いてないってどーなんだよ!!!もう終わったのかよSMAPわよーーーー!!!」
「いやいやいや・・・」
木村は首を振る。
「ジャニーズ事務所は、チョコレートをタレントに送ってくれるんだったら、その分を阪神とか中越とかに寄付してくれってシステムを取ってるんじゃないのか?」
「はぁ〜?」
中居はものすごく表情をゆがめてバカにしたように木村を見下ろす。
「そんなもん、いくら寄付すんだよ。150万とかすんのか!いっくら寄付してもチョコレート買って大好きな中居くんに贈るくらいの金額残るだろうがよーーーー!!!」
「・・・おまえ、そんな食わねーじゃん、チョコレート・・・」
「食うとか食わないとかじゃねぇだろ!醍醐味だろ!トラック何台分ものチョコレートを見る!それがアイドルとしての醍醐味じゃねぇか!!」
「あ、アイドルって・・・」
「アイドルだ!少年隊が少年隊を名乗り続ける以上、SMAPはアイドルだ!!」
「まぁ、アイドルですけどぉ・・・」
「あーーー!ちきしょー!なんでそんな時だけ言うこと聞くんだよ!他のことはゆってもゆっても聞きゃしないくせに!ええーい!」
中居はすでに立ち上がっていたので、さらにテーブルの上で仁王立ちになった。
「もらいに行く!!」
「はぁっ!?」
「どこだ!ファンはどこにたむろしてんだ!!」
「どこって!家だろ!」
「バレンタインデーだぞ!大好きな中居くんにチョコレートを渡したーい!ってどこぞに集まってるはずだろう!!」
「待て!落ち着け!目を覚ませ!!」
「いや、俺は落ち着いているし、寝てない。少なくとも3トントラック一杯分のチョコレートを集めるまでは帰ってこない!じゃあな!!」
「待てこらーー!!帰ってこーーい!!」
わははははははーーーー!!!
高らかな笑い声を立てながら、中居はまるで足に羽が生えたように軽やかに部屋を飛び出していった。てゆーか、窓から羽ばたいていった。

「・・・という夢を見た・・・」
「・・・悪夢だねー・・・木村くん・・・」
木村は明らかに憔悴していた。
「だから、用意することにした」
木村の低い声に、吾郎、剛、慎吾はうなずく。
「3トントラックと」
「チョコレートだね」
「僕らも協力するよ・・・」

中居さんから腹筋を奪ってんのは、おまえらなのかーーーー!!!

その142「4月ドラマ」

草g剛がIT社長に。
スポーツ新聞にその見出しを見た中居は、む、と刮目した。
またしても木村拓哉と草g剛が同クールでドラマをやるのか。
片やレーサー、片や社長。
・・・これは・・・!
二人の役を思い浮かべた中居は、ぽん、とヒザを叩いた。
これは、何年かぶりのスピンオフができるんじゃあ!いやいや、スピンオフじゃねぇや、なんてんだっけ、あのーあのー、ほらほら、コラボレーション?それとも違うかーー。えーーー、なんだーーあれーーー、ほらーーー、早坂由紀夫がよーー、いいひと。に出たってやつー。あれなんてんだーーーーーーーー!!

ま、いい。

内心の焦りを表情に一切あらわさず、中居はもう一度新聞に目を落とす。
できるぞ。これはできる。
プライドと僕と彼女と彼女の生きる道ではテイストが違いすぎて無理だったが、今回はいける。・・・凛ちゃんにホッケー場にきてもらうくらいのことしかできない。そんで、来てもらってどーする。
しかし今回は挫折した天才レーサー木村が。
・・・天才、とは書いていなかったか?木村のドラマ記事を思いだしながら中居は首を傾げた。
ま、いい、ともかくなにやらあって日本に帰ってきたカーレーサーと、IT会社社長を目指す男。いいじゃないか。このカーレーサーを、社長がスポンサードする。いいじゃないか?
そういうシーンが1シーンくらいあってもな。うんうん・・・。

そうか。天才じゃないのか・・・。

記事には命知らずとは書いてあったが、天才とは書いてはいなかった。・・・ドラマには天才が必要ではないだろうか。
ここのところ天才づいている中居は、もし、これらのドラマに天才がいないというのなら、自分が出馬してやってもいい、と思った。
天才カーレーサー役で登場してやることもやぶさかではないが?主人公のライバル、天才カーレーサー役で登場してやってもいいのだが!?
いやいや、まてまて。
そこまでやったら出すぎだ。
天才メカニックくらいにしておこう。
メカニックといえば、キメ台詞だよな。なんだっけ。なんていうんだっけな。
『話は聞かせてもらった』
違う!それは違う!それは山さん!太陽にほえろ!露口茂!場合によっては『ロロモ』と読める露口茂!そうじゃなくって、天才メカニックっていやーなんかあったろーー、なんだっけなーーー、なんだっけなーー・・・・!!!

「こんなこともあろうかと思って作っておいたんだ!!!(by宇宙戦艦ヤマト 真田工場長)」

「「「「何を!!」」」」

静かに舐めるようにスポーツ新聞を見ていたかと思ったら、突然大声を出した中居に驚愕するばかりのメンバー一同であった。

その141
「Mの悲劇」

その土曜日、稲垣吾郎を除くSMAPメンバーは仕事で集まっていた。
その時稲垣吾郎は王様のブランチに出ていて、ま、なんとなくメンバーはそれを見ていたところ。
「女っていう字、可愛いですよね」
と吾郎がいい、木村は飲んでいたコーヒーを吹き出した。中居は硬直した。
「はんぱねー!」
それは、ドラマで共演している長谷川京子に対する言葉だったのだ。
「すごいな、稲垣吾郎!」
「何を言ってるかなー・・・!」
「だって、はせきょーだよ。はせきょー。俺、年末会ったかど、やっぱり綺麗だったしさー。言われなれてる訳じゃん。可愛いだの、綺麗だのって。そんなの聞き飽きてるよ。そこで字が可愛いって!」
「なんって!やなやつなんだ!稲垣吾郎!!」
中居はテーブルをびしびしばしばし叩きまくる。
「そりゃあるぞ!覚えてない女からひどい復讐をされるなんてことはある!稲垣吾郎にある!きっとある!」
「でもなー・・・」
ほんとにすごいと思いながら、木村は首を小さく振る。
「本当の稲垣吾郎は、それが復讐だと気づくかなぁ〜」
「ごろちゃん、気づかなさそうー」
「吾郎、女の人からされることは、オール好意だと思いそう。少々ひどいことされても素直じゃないなーとか言いそうじゃない?」
「・・・あいつドMだからな」

その中居の言葉に、はっ、と4人は目線を合わせた。
「・・・だからMの悲劇・・・?」

たった今、どんなドラマなのかを王様のブランチで話していたのを聞いていたにも関わらず、ドMのドラマだと思い込んでしまったSMAP4人である。

その140
「○○といえば」

「そーいや、松本紳助ってどうなってるんだ?」
深夜、いや、中居的にはまだまだ浅い時間、テレビをつけた中居はそうつぶやいた。
何やら訳の解らない女と、訳の解らないことになり、島田紳助が芸能活動を休止して、色々な番組に代理の司会者が出ている。
しかし、松本紳助は、島田紳助と、松本人志の二人だけ。
興味があってみてみたところ、スマスマにも登場することのあるきむきむ兄やんこと木村祐一と、千原Jr.が出ていた。
「あー、こうなったのか。これも面白いな」
三人で色々話をしていたのだが、中居の目がキラリと光ったのは、カードに書いてある言葉を見て、それにあてはまるのはこの3人のうちだれか、を話し合っていくものだった。
古風なのは誰、とか、女々しいのは誰、とか。
これはいい・・・!
中居はほくそ笑んだ。
これをスマスマでやれば、おそらく盛り上がる。もちろん、中居にとって、誰が古風で、誰が女々しいかなんて、一発で解ってるのだけれども。なにせ、中居は世界一のSMAPマニアなのだから。

「という訳で、今日のトークテーマは、○○は誰だー!」
「何?」
打ち合わせもなく急に言われて、木村が首を傾げる。
「ここにカードがあります。ここに書いてあるのに当てはまるメンバーは誰かを決めていきましょー!」
じゃあー、まずこれ!と適当に選んだ一枚に書いてあったのは、『ケチ』
ケチ、とはちょっと違うが、中居の中では剛がしみったれだ。
そっちにもっていこう、とした瞬間。
「あ、中居くんだよね。これね」
「あー。中居かなー」
「待て待てまてー!」
慎吾と木村がほぼ同時に喋りだし、中居は思いっきりつっこんだ。
「どこがケチだ!どこが!」
「いやいや、お金を出さないとかじゃないんだけどね」
吾郎ものってくる。
「なんていうのかな。懐が狭い?んー、違うなー」
「狭いってんじゃないんだけどー。オープンじゃない感じがなー」
「木村くん、それ!オープンじゃない」
「常に心は閉ざし気味で、人にキョーキンを開こうとしない感じがケチくさいとイコールっぽい」
「すげ。慎吾がなんか難しそうなこと言ってる」
「小さくまとまろうとしちゃってる感じが、中居くんをより小さく見せちゃったりすることがあるんだよね。いや、大きく見えることもあるんだけど、木村くんと慎吾はケチとは全然違うじゃない。僕も別にケチじゃないし、じゃあ、剛か中居くんなんだけどー。・・・剛は〜」
「僕ケチじゃないよ」
「ま、ぷっすまとかであんだけユースケにたかられてんだもんね」
「そうすると、なんか、自分の資産を、自分自身も含めて、あんまりにも大事にする中居くんが、ケチっぽいかなぁと」
「だな」
木村が同意し、しんつよも、うんうんとうなずく。
「ということで、ケチなメンバーといえば、中居くん、っと」
中居の手から、カードをぱっととった慎吾が、メンバーの名前のが並んだ札の上にそれをおく。
「これ面白いね!」
「じゃ、また来週もこれで!・・・中居?中居?」
「ケチ・・・・・・・ケチなんて・・・・・・・」
SMAPマニアの中居正広にも、こんな日があるらしい。

その139
「ハウルの動く城」

やはりコントをせねばなるまい。
そう中居は思い、メンバーとの打ち合わせに望んだ。
「ハウルをやらざるを得まい」
「あ、そう・・・?」
だって、あれ日テレ系なのに・・・?と戸惑うのは木村だ。
「いや、やるべきだろう。ここで重要なのはキャスティング」
「そうだよね。木村くんのハウルみたいなー、俺!」
ジブリ好きの慎吾の言葉に、吾郎も剛もうなずいた。が、中居は、じーっと木村を見つめるばかりだ。
「な、何・・・?」
「いや。うん。・・・木村がね」
「いやいや、何そこから覆そうとしてんのかね、この人は」
「だって、ハウルってさぁ」
「うん」
「絶世の美男子だろ?」
『絶世の美男子』と言いながら、下3人は木村を指差す。
「うーん。そうだよな。ま、木村は美男子だけども」
じーーーーーっと木村を見つめた後、中居はふと遠くを見つめた。
「ま、俺も?チェ・ジウから肌が綺麗と言われた男だし?」
「いやいやいや!中居くんしっかりして!あなたハウルじゃないですから!!」
「ま、まぁまぁ。それはいいや。それよりさ、もっと、この役はこれじゃなきゃってのがあるからさ」
「ハウルを木村くんがやる以上のはまり役がどこにあるのーー!」
慎吾の絶叫を中居はあっさりと無視する。
「まず吾郎な」
「僕?」
「そりゃも、吾郎にぴったりのってゆーか、吾郎がやらなきゃだれがやるって役があるだろ?」
「え?じゃあ、僕がハウルを?」
「荒地の魔女」
「・・・」
「これまで数々のデブキャラを演じてきた稲垣吾郎にふさわしい究極のデブキャラ!荒地の魔女!ばんざーいばんざーい!!」
「やだよー!何ゆってんただよーー!」
「絶対似合うって!大丈夫だって!」
ひゃっははは!と楽しげに中居は笑いながら吾郎の肩を叩き、そのまま剛の肩も叩いた。
「そして剛にもぴったりのあのキャラクター!」
「え?・・・あれでしょう!火の悪魔でしょお!!」
「ぶっぶー。ヒン」
「・・・犬・・・」
「これまで数々の動物キャラを演じてきた草g剛にふさわしい究極!でもないけど、動物キャラ!ヒン!ばんざーいばんざーい!声は原田大二郎ー!!」
「やだよー。もう飽きたー」
「で、問題はー・・・」
中居は困ったように眉間に皺を寄せ、何度か首を振る。
「ハウルだなー・・・」
「だから!木村くんでしょうが!」
「んー・・・。でもなあ・・・。絶世の美男子だしなぁ・・・。美肌といえば韓国、韓国といえば美肌のトップ女優、チェ・ジウから肌綺麗って言われちゃったしなぁ、俺なぁ・・・」
「・・・は、ハウル、やる・・・?」
「えっ!?いや、やりたいって訳じゃないんだけどさ。どーしてもやりたいって訳じゃないんだけど、せっかく肌綺麗って言ってもらったからさぁ〜〜!!」

という訳で。

香川県は金比羅さんまでやってきての、石段のぼりロケが決行された。
石段を登るのは、ものすごい特殊メイクをしている荒地の魔女こと稲垣吾郎。頭のところにソフィーばあちゃんのでっかい人形をつけられているヒンこと草g剛。
二人がへっとへと!になりながら石段を登って居るのを、石段の上で、高笑いしながら見下ろしているのが中居ハウル。
「Sだ・・・この人・・・」
「Sだな、ドS・・・!」
カルシファー慎吾と、マルクル木村は、自分たちの身がいつまで安全なのか、ひたひたと迫り来る恐怖を感じ、背中に冷たい汗を感じざるを得ない。
「急げよー!ひゃーひゃひゃひゃっ!!」
金比羅宮に、ドSの幸せそうな(笑)声が響き渡った。

その138
「ジャニーズ その9」

「はぁ〜・・・」
ジャニーズの総監督、中居総監督は大きくため息をついた。
「楽天かぁ〜・・・」
ライブドアと楽天をパリーグに、そしてジャニーズはセリーグに入るつもりだったのに、そうはうまくいかなかったのだ。
「いや、しかし」
中居総監督はまだ諦めた訳ではない。現在のプロ野球機構の伏魔殿っぷりなら、ジャニーズが食い込んでいく方法はいくらでもある。
「にしても、楽天が一場を取ったか」
ジャニーズとしては、ダルビッシュが欲しいのだが、じゃあ一場が欲しくないのかといえばそうではない。即戦力になる力だ。すでに一度叩かれてるだけに、後は伸びるばかりとも言える。
「ところで木村」
「はっ?」
「今のプロ野球を盛り立てるために必要なものはなんだと思う?」
「え?」
「今年のどたばた具合は、古くからのファンを失うには十分といえたよ。今までのファンが減ったとしたら、新しいファンを獲得するしかない。そういう時に何が必要かってこと」
「んーー。あれじゃねぇの?スター選手」
「ぴんぽん!!」
力強く中居総監督は言い切った。
「本当に里中ハルが日本アイスホッケー界に存在すれば、ジャンクスポーツに出るだけでアイスホッケーは人気スポーツの仲間入りできるはずだ!」
「あ。あぁ・・・」
「俺は決めた」
「な、何を・・・?」
「ジャニーズのエースだ」
「あぁ、あのダルビッシュ」
「ダルビッシュは期待のルーキー!ジャニーズのエースナンバーを背負うのは!!」
ズシャ!!
中腰でキャッチャーミットを構えていた中居は一瞬で立ち上がり、大きく振りかぶってボールを投げた。
「木村!おまえだぁぁ!!」
「ああああ!!」
しかし木村は、中居総監督が投げた渾身のストレートを受け止めることができず大きく後逸。
「・・・。ピッチャーライナーには気をつけろよ」
「できねぇよ!」
「顔だけは守れよ!エース!!」
「ダイエーか西武買ったらいいじゃねぇか!」
「おまえは肩が弱いからな!筋トレ大切だぞ、筋トレ!」
稲垣吾郎の方がよっぽどコントロールがいいのだが!本気か中居総監督!!

<つづく>

その137
「突然ヘキサゴン」

中居がちらっとテレビを見ると、クイズヘキサゴンが流れていた。
頭がそんなによくなくても、ハッタリで勝ち残れるというクイズ番組だ。ふと、この番組にSMAPが出たら?と考えた。
いつでもどこでも寝ても覚めても、SMAPのことを考えている、ザ・リーダー中居正広。
このクイズは、有名進学塾小学生6年生、渋谷の女子高生、東大男子学生、丸の内のOL、新橋のサラリーマンに問題を出し、それぞれ何パーセント答えられたかで、どれを出すかを選択する。例えば小学生が0%しか答えられなかったとしても、OLなら100%解る問題だったりする。
そこから推理をするのだ。
どの問題を選べば、誰を陥れられるかを。
まず慎吾を潰すのは簡単だ。小学生がわからない問題を積み重ねていけばいい。小学校もろくにいけていないだけに、基本的な知識に欠けるところが多い。

・・・のはみんなか・・・。

クイズヘキサゴンならともかく、パネルクイズアタック25には出られない。あれは本物のクイズ番組だ。知識だけで競わされて勝てるはずがない。
そして中居はもう一度シミュレーションしてみる。
中居自身、「小泉さんの前の首相は誰でしょう」という問題があった場合、間違いなく解らない。
だが、このクイズは、正解してるかどうかは二の次なのだ。いかに、自分があっている、もしくは、間違っているように見せるか。
「つまらないな」
中居はつぶやいた。
自分がだませるかどうかはともかく、他のメンバーが正解したか、していないかは解ってしまうじゃないか。丸見えじゃないか。てことは、難しそうな問題を出して、ぱっと4人を見ると、あってるあってないは解るから、あってない人間を全部潰していけばいいのか。
んー。楽勝すぎるなーー。

クイズヘキサゴンからSMAPにオファーが来ても、受けないでおこーっと、と、中居は思った・・・

が!
いやまて!SMAPには真の天然がいる!自分が正解してるかどうかが本当に気づかない可能性がある超天然、草g剛・・・!
あいつを残しておくと、現場を引っ掻き回して面白いかもしれない・・・!てことは、まず吾郎を潰し(喋りが合わないので)、慎吾を潰し(一般常識に欠けるので)、んー、木村と剛、どっちから潰すかなー・・・!
とにかく、寝ても覚めても食前食後もSMAPのことを考え続けている中居リーダーだった。

その136
「ジャニーズ その9」

「はい!先生!」
「はい。野球を知らない木村くん」
「・・・香取慎吾よりは知ってます」
「慎吾より知らなかったら社会人として問題だろう」
「はぁ」
木村はちょっとしょぼんとする。せっかく野球に関する疑問が出てきたというのに。
いや、疑問が出るというのはすごいことなのだ。まったく知らないものについては、質問はできない。ようやく木村も野球への理解が一歩進んだといえよう。
「で、なんだね木村くん」
「あ!先生!」
はい!とまっすぐに手を上げると、中居総監督は首を振る。
「監督といいたまえ。先生と、呼ばれるほどの、アホでなし。・・・バカでなし・・・?あれ?なんだっけ?」
「中居総監督!!」
「なんだね木村くーーん」
「こないだテレビで見たんだけど」
「だけどぉ〜?」
「・・・ですけどぉ。球団を1年経営するのにかかるお金は最初の1年で46億。入ってくるお金は22億ってほんとですか?」
「そういう試算はあるね」
「あの。意味が解らないんですけど」
「何がだね、木村くん」
「46億かけて22億の戻りじゃあ、24億の赤字ってことになりませんか?」
はっはっは。
中居総監督は両手を広げ、肩をすくめて笑った。
「何を言ってるんだね、木村くん。ハウルで12億5千万、2046で12億5千万、What's up SMAPで3千円儲ける男の言うことじゃないだろう」
「どうせ、あのラジオは三千円ですよ!」
「いや、でも30分で三千円ってことは、時給六千円。銀座のクラブほどではないが、なかなかの高給だぞ」
「あぁあぁそうですか!」
いつもならこのあたりで投げ出す木村だが、今日の彼は一味違う。なにせ、そんな試算はおかしいに決まっているからだ。
「だから、そんな赤字が出るって解ってるのに、そういうの、経営って言うのか?いや、経営って言葉の意味ははっきり知らないけど、そんなことするのは政府とかぐらいじゃねぇの」
「・・・何社会派ぶってんだよ・・・!利口そうな口を聞くな!利口じゃないんだからおまえは!!いやバカキャラじゃない!バカキャラじゃないんだ!だからこそ!だからこそどっかで聞いたような底の浅そうなことを言うな!!」

「痛い痛い痛い痛い!!」
あっちこっちから飛んできたとげに木村はばったりと倒れるしかなかった。

「・・・い、いくらの中居でも、22億の損って言うのは・・・!」
そして倒れたまま、虫の息で木村はつぶやく。彼は彼なりに心配しているのだ。この22億の損を取り戻すために、訳の解らない無茶な仕事をするのではないかと。
「バカたれ!」
しかし中居総監督は言い切った。
「俺は儲けようとしてる訳じゃない!」
「えっ」
「俺は、ただただ野球を愛してるんだ!愛の話に金を持ち込むな!」
「ええ〜〜!?」
「無粋だぞ。木村」

無粋!?
粋じゃないってこと!?
22億を気にするのは粋じゃないってことー!?

どこまで行くのだ!中居総監督!!

<つづく>←私もどこまで行くのだ(笑)

その135
「ジャニーズ その8」

「ふ、仙台か」
色々あった。古田選手会長はがんばったと中居総監督は思っている。一席設けてもいい。というか、頼むから設けさせてくれ、という感じだ。
シダックスは嫁がうるさいから出てくんなって感じで、2005年度は、セ・パ7球団ずつだな。
「にしても、何も仙台に2球団行かなくてもよ」
「なんかあんの?仙台って」
ようやく事態が落ち着き、中居総監督が普通になってきたことに、木村は安心してたずねた。
「仙台に何があるって?」
「いや、みんな仙台、仙台って言ってるから。なんか、野球の歴史的に重要とか?」
「・・・野球の歴史的?」
「あのー。ミスターが生まれたとか」
にこ、っと笑顔で言う木村の頭を、しみじみと中居総監督は撫でた。
「可哀想になぁ・・・」
「何が!」
その手を振り払い、きーー!となる木村に、中居は慈愛に満ちた笑顔を向ける。
「野球のことなんかなーーーーんにも!知らないんだから、知った風に喋るのはやめような〜?」
「あーー!ムカつくぅー!」
「別に仙台って土地に特別なものがある訳じゃないのさ。他の場所にもあるけど、とにかくあそこには球場がある。東北に野球チームはないしな」
「あ、そゆこと・・・」
はは、と木村は笑う。
「なんか似たような会社が、わざわざ一ケ所に集中するから、なんかあるのかと」
「まぁ、なんかあるんだろうけどなあ〜」
「あんのかよ!」
「そりゃああるぞ。どっちも新球団、どっちもインターネット関連企業。元々なんかあんだろ。ただ、こっちとしても、あそこ2球団にパリーグに入ってもらわないと、7・7の構想がなぁ」
また何か恐ろしいことを考えているのではないか・・・?いざとなれば何をしでかすか解らない中居総監督を、おそるおそる木村は見つめる。
「ま、うちは球場作ってるから東京なんだけどな」
「・・・それもおかしいな・・・」
「預かり金も25億になったことだし、楽勝だなー」
「25億って!」
「大丈夫大丈夫。預かり金だから。球団辞めるときには帰ってくるし。ぽーんと木村のポケットマネーから出るじゃん?」
「出るか!」
「はははは!冗談ばっかし!出る出る。ハウルで10億、2046で10億、What's UP SMAPで5億」
「もー、最後の1つなんか、5万円でも出ないぞ」
「・・・本気になんなよ、さびしくなるよ・・・」
「ならねーもん・・・」
「ならねーよな・・・。カブトムシトークじゃあ3千円がいいとこだよな・・・」
「具体的だな・・・」
「俺ならそれくらいしか出せねーな・・・」

<しんみり続く・・・>

その134
「ジャニーズ その7」

「ストか・・・」
その報に触れ、中居はぎゅっと目を閉じ、しかし、顔を上げた。
野球少年だった中居は、子供の頃からシーズン中はナイター中継に釘付けだった。
テレビの向こうは、いつもキラキラ輝いていた。
憧れの世界だった。
そのプロ野球が、ストで中止になるなんて・・・!

いや・・・!
中居は顔を振り、目を開けた。
目をそらす訳にはいかない。これは現実だ。

「だからつまり、新規参入を認めさせる必要があるんだな」
「は?」
すっかりしんみりしているのだとばかり思い、ぺらぺらと雑誌なんぞを眺めていた球団事務員(SMAP)たちは顔を上げた。
「なにがなんでもオリックスと近鉄を合併させるというのなら、新しい球団をいれて、セパあわせて12球団に戻すのが筋だといえば筋だ。だが、そうすると結局巨人戦はセリーグにしか回ってこない。そこでだ」
中居総監督は、ホワイトボードに大きく、「7×7」と描いた。
「新規球団は、ジャニーズ、ライブドア、楽天。ライブドア、楽天がパリーグに、ジャニーズがセリーグに」
「なんでうちがセリーグって決まってんだよ」
「決まってるだろうがよ!セリーグ入らなきゃ巨人と試合できねーじゃねぇか!ペナントで!」
「それは1リーグにしたいっていう人たちと同じ考えなんじゃないの?」
吾郎が首を傾げる。そこへ。
「バカタレー!!」
ホワイトボードの黒板消し(?)がすっ飛んできて吾郎のこめかみにヒット。
「いった!バカじゃないの!?」
「俺は巨人と試合すればテレビでも中継されて金が入るとかそんなあっさいことを考えてるんじゃねぇえ!」
吾郎が投げ返した黒板消し(??)は、へろへろ、っと落ちただけで中居総監督に到達することもなかった。
「日本一の巨人軍と全力で戦いたい!ただそれだけだ!!」
「やだー、この人マジだーー」
慎吾が部屋の隅に逃げる。
「いや、でも、それならライブドアだろうが、楽天だろうが、戦いたいんじゃねぇの」
「だーかーらー!7×7なんだろうが!」
バンバンバン!中居総監督はホワイトボードを叩く。
「14チームあるってことは、セ・パそれぞれ3チームずつで6試合。残りの1チームずつで交流戦が毎回できるじゃねぇか!」
お、なるほど。
ここでうなずいてしまうところが木村のおつむの弱いところだ。
「金じゃねぇよ。俺は・・・、俺はただ、野球を愛してる。それだけだ・・・!」

じーん。
自分の言葉に自分で感動する中居総監督。もちろん、新規3球団のうち、セリーグに入るためならどんな汚いことでもやってるやる気はまんまんだ!

<つづく>

その133
「ジャニーズ その6」

ライブドアに続き、楽天がプロ野球チームを持つことに名乗りを上げてきた。
そのきっかけは、読売グループから、チームを持たないか、との打診を受けたことだとも言われている。
なぜライブドアはダメだと言った読売が、楽天には声をかけるのか。
なぜ読売はライブドアに冷たいのか。
それには、こんな裏話があったとしたら?

「なにー!?ライブドアがダルビッシュを狙ってるー!?」
ジャニーズとライブドアの蜜月は長くは続かなかった。お互いの方向性があまりに違うということで、円満に関係を解消した二つの団体は、お互いにエールを送りあったものだった。
日本のプロ野球をもっと楽しいものにしよう。
もっとみんなが楽しめるものにしよう。
その結果として儲かってしまえば、こんなに素晴らしいことはないじゃないか。
二組の気持ちは一つだった。

しかし。

「そんな記事出てたぜ」
ジャニーズ初年度総合監督である中居は忙しい。野球のことばかりを考えていられないのだ。毎週のレギュラーは、1本足りとも減っていない。
大好きなスポーツ新聞チェックがおろそかになる朝もあるのだ。
なので、別に大して好きではないが、暇ぶっこいてる木村が、スポーツ新聞チェックをする。そこで、ライブドアが、ダルビッシュを狙っているという記事を発見したのだ。
「そ、そんな!!」
中居は愕然とした。ダルビッシュ優は、ジャニーズに決して欠くことのできない選手なのだ。ライブドアに渡す訳にはいかない。
「絶対渡さない・・・!」
めらめらと中居のでっかい目は燃えた。それは星飛雄馬というよりも、もっと暗い冷たい炎だった。

「木村ぁ!電話しろー!」
「電話?」
「読売に電話だぁ!」
「よ、読売?」
「読売に電話して、ライブドアの加盟を1年遅らせろぉ〜!」
「待て待て待て」
勢いで総監督専用電話、もちろんジャイアンツ仕様、ボタンはすべてジャビットくん。固定電話なのに、着信音はジャイアンツの応援歌が登録されており、全20曲の中から選べるという代物の子機を手にしていた木村だったが、慌てて机の上に置き直す。
「そういう無茶を言うな」
「さもなければ、読売、すなわち日テレの番組から、全ジャニーズタレントを引き上げさせる!!ついでに森光子も!」
「出てるかなー!森光子はー!」
「いいから電話しろー!」
「やだー!ほんとになりそうでやだーー!!」
「じゃあ俺がかける!」
「やめろってぇぇ!」

がしっ!と後ろから羽交い絞めにしたところで、総監督室に吾郎・剛・慎吾が登場。
「何事!」
「運べ!運びだせ!」

えっさえっさえっさ。

運び出された中居総監督は、スーパー温泉に浸けられ、幻の焼酎を与えられ、すっかり脳の皺を伸ばしたというのだが・・・

果たして・・・!?

その132
「ジャニーズ その5 もしくは絞れるだけ絞れフルーツ」

「ところでおまえたち」
ジャニーズの初年度総合監督に就任した中居監督は、球団スタッフ(SMAPとも言う)にたずねた。
「いくら、実弾(タマ)持ってんだ?」
「は?」
「おまえらの裁量でいくら動かせるか、聞いてんだよ」
「何を」
球団スタッフの反応の鈍さに、中居総監督はやれやれと肩をすくめる。
「実弾っつったら現金に決まってんだろ!」
「動かせる現金?」
「自由に動かせる現金。何億ある?」

「「「「あるかーーーー!!!」」」」

球団スタッフたちの大声に、中居総監督は耳をふさぐ。
「解った解った。大きな声では言えないだろうから、一人ずつ耳打ちして。ほら。ほらほら」
ずかずかと近寄った木村は、中居総監督の耳元で大きく息をすった。
「ばかやろ!鼓膜破れるだろうがよ!」
不穏な気配を察し飛びのく中居総監督。鼓膜の一つも破らなくては自分たちの言葉は通じないのか!と耳元で叫ぼうとする木村。しばし無言の攻防が続く。
「解った解った!」
部屋の壁面においてあるホワイトボードの裏まで逃げて、中居総監督は言った。
「現金はないんだな!」
「ない!」
「じゃあ、不動産とか?債権とか?」
「財テクとかもしてねぇ!!」
中居総監督はホワイトボードに球団スタッフの名前を書き始める。
「じゃあ億単位じゃなくてもいいんだけどさ。いくらある訳。金は」
「なんでそんなこと中居くんに言わなきゃいけないんだよぉー!」
「おまえらに儲けさせてやろうって考えてんだろうがよ。だけど、ともかく元手がいるんだろうがよ」
「何を考えてるの・・・?」
吾郎は恐る恐る聞いた。
「これだ!」
中居はホワイトボードをひっくり返した!その裏面には、鮮やかな図面がマグネットで貼り付けられている。
「ジャニーズスタジアムの周囲は、ジャニーズランドとして土地取得が終わっている!」
「ジャニーズランドー!?」
「おこちゃまから、おじいちゃんおばあちゃんまでが楽しめる、本格的アミューズメント施設だ!東京ネズミーランドには負けねぇ!」
「バッカじゃないの?」
慎吾が言い、中居総監督から球団キャラクター、になるはずのぬいぐるみを投げつけられる。もちろん命中だ。
「ここに、SMAPスポンサーのアトラクションを組み込む!当然出資は俺たち、儲けも俺たちがいただく!そのためにも金が必要なんだよ!金がよ!」
「おまえが持ってるだろうがよ!タレント部門しばしば1位!」
「解った解った。おまえらが大して節税してないことは」
「・・・微妙な言葉だなー・・・」
「じゃあ、どれだけ引っ張れる?」
「何を」
「おまえはバーカーかー!」
ホワイトボードをバンバン叩きながら木村に怒鳴る。
「俺は今金の話をしてんだろうがよ!金だ金!にっこり笑っただけで誰からどんだけ金を引っ張ってこれるかってことだろうがよ!」
「ねぇよ!そんな心当たり!!」
「あのなぁ・・・」
中居は哀しそうな顔になった。
「そこらホストでも一晩で100万、200万稼ぐんだぞ?おまえらSMAPだろ?1000万、2000万引っ張ってこれなくって、なんのSMAPだ!?」
「中居くん・・・!」
「引っ張ってこれるんだ・・・!」
ふっ、と中居は笑った。
「伊達に大物と仕事してる訳じゃねんだよ」
「こえーー!こえーよ!中居ー!」
「ま、もちろん、ヒガシくんが森光子から引っ張るのが一番多いんだけどな」
「やだーー!!本当くせーー!!」
「木村は中田から!吾郎は女優たちから!剛はペ・ヨンジュンから!慎吾は三谷幸喜から!引っ張ってこい!目標一人1億!」
「ペ・ヨンジュンって会ったこともないしー!」
「三谷さんはそんなに金ないと思うー!」
「女優たちって・・・」
「ヒデは出せそうだな・・・」

「木村くんが洗脳されてるーーー!!」

ジャニーズランドに導入されるSMAPスポンサーのアトラクションとは一対!?

<つづく>

その131
「ジャニーズ その4 もしくは、まだまだ絞れるフルーツ」

日本において、女性ファンの年齢層が高い有名人といえば、ペ・ヨンジュンか氷川きよしと言われている。
この2名に次いで、ファンの年齢層が高い有名人がSMAP。
「そこを放置しておく必要はないと思う」
新球団ライブドアジャニーズの初年度総合監督、中居正広は球団スタッフに向かってそう言った。
もちろん球団スタッフとは、中居監督が己の手足以上に自由に使えるSMAPのメンバーだ。
「俺らスタッフか!」
「ああ・・・っ、足首が痛い・・・っ」さっきまですったすた歩いていたにもかかわらず、足首を押さえてうずくまれば木村は慌てたように駆け寄ってくる。
さすが中居監督の右腕。便利この上ない。
「だ、大丈夫か?」
「こんな足じゃあ、選手にノックもできない・・・!」
「するつもりだったのか・・・!」
「当たり前じゃないか!ピッチャーとしてマウンドには立てないんだ。プロテストを受けるには年齢も行き過ぎた、身長も足りない」
もうちょっと若くて、もうちょっと背が高かったらいけたと思ってる!球団スタッフたちは驚いたが、中居監督は本気も本気だ。しかし、今はそうであったかもしれない未来に思いを馳せている場合ではない。確実にそうなるであろう未来を大事にするべきなのだ。
「話を戻そう。ヨン様、氷川きよし、SMAP、それぞれのファンに共通するのは」
「年齢が高い」
「そう。年齢が高い。つまり、可処分所得が多いということだ」
「か、かしょぶん??」
笑いながら年齢が高いと言い切った慎吾は、続いた言葉がわからずに首をかしげる。
「自分で働いていたり、だんなの財布をがっちり握っている可能性が高い。何に金を使うか自分で決められる立場にあるし、その額も学生より多い」
「お金持ちってこと?」
「親から小遣いもらってる子供よりはな」
ターゲットにすべきはそこだった。これまで、ジャニーズ事務所はファンの年齢層を低く見積もり、無茶な集金はしないようにしていた(多分)。
しかし、SMAPのファンであれば、それはまだまだ汁気のあるフルーツなのだ。
半分に切って、ちょっとスプーンですくっただけのグレープフルーツだ。
ジューサーで絞れば、まだまだ絞れる。
搾り取れる。
「まず、ジャニーズの後援会にお得に入れるようにする」
「え?」
「SMAPのファンクラブ会員がジャニーズの後援会に入ると、年会費を2割引にする」
「安くするんだったら、搾り取ることにならないじゃないの?」
「吾郎。おまえはまだまだ甘いな」
ふっ、と中居監督はニヒルに笑う。
「入らなければ0円のところを、2割引きなら入っとくかと思わせるんだ」
「汚ぇ・・・!あんた汚ぇよ!」
「さらに!プレミアム後援会員となれば!これは驚くぞ!ジャニーズスタジアムで行われるSMAPのコンサートチケットを年間2枚、ペアでプレゼントだ!」
「それすげーじゃん」
「まぁ、SMAPがここでライブをするのは、おそらく年に3回前後。1回6万人いれるとして、18万人。ペアでプレゼントだから9万のプレミアム後援会員を賄える。さらに、この会場にこられない人には、他球場で行われるコンサートチケットをプレゼント。とにかく!プレミアム後援会員になれば、確実に好きな会場でコンサートを見られるように配慮する!」
「配慮!」
「あくまでも配慮だ。これで、会員になりたいという人が確実に増える。後援会費をまずはがっぽりゲットだ!」
「あ、悪人・・・!」
「もちろん、本来ジャニーズは野球チームだ。球場に来た人はもれなく野球を好きになってもらいたい。そのため、有料教室を行う。野球のあれこれを楽しく語る2時間。講師は俺。お値段、お食事がついて、1万2千円」
「悪党!!」
「お子様野球教室では有名野球選手からの直接の指導があり、お値段お一人3千円。お土産はジャニーズグッズ。言い忘れた。プレミアム後援会員は、会費3万円」
「3万!?」
「SMAPのファンクラブ員だと、24000円。これで確実に2枚チケットついてくんだぞー?高くねぇ、高くねぇ。プレミアム後援会員に返金なし!これを合言葉にする」
「お、おまえってやつは・・・!」
「大人ってのはなぁ、金で時間を買うんだよぉ!」
中居監督は断言した。
「チケット申し込んだはいいけれど、ちゃんと取れるかしら。返金になったりしないから、ハラハラ、なんてことをするくらいなら、確実にチケットが取れるジャニーズ後援会に入る方がいいんだよぉ、大人はよぉ!」
その自信はどこからくるのだ中居監督!
「しかし、まぁ・・・」
テンション上げきった中居だったが、ふと、迷いの表情を浮かべたりもする。
「コンサートで100万人動員するとして、プレミアム後援会員が50万人を超えると、ちょっとやばいなぁ・・・」
「50万人もいるか!!」
「今後ジャニーズは、素晴らしい選手、素晴らしい指導者、素晴らしいファンを得て、限りなく発展していく予定だからなぁ〜。ジャニーズファンのためのプレミアムシステムも用意する必要があるしなぁ〜。どうすればいいかなぁ〜」

こんな生き生きしている中居を見るのは久しぶりだ・・・!痛くもない足首のシップを替えさせられながら、木村は目頭が熱くなるんだか、困惑するんだか、訳がわからない気持ちになるのだった。

<続く>

その130
「ジャニーズ その3」

悲劇の名将。
中居はひっそり自分のことをそう呼んでみた。
200X年、チームメイトのミスからシーズンを棒に振るほどの怪我をしてしまった、×○のようだ。(←野球に詳しい人は具体例を思い浮かべてみよう)
中居総合監督は足首にシップをし、軽く足を引いている。大笑いしてのけぞった木村が座っていた椅子がバランスを崩し、それが中居の足首の上に落ちてきたのだ。
その椅子のメーカーの製品は、全部叩き返してやった中居だったが、はっ!と気がついた。
怪我・・・!
選手を最も遠ざけねばならないもの、それは怪我!
シーズン中の怪我は、そのあとのゲームメイクに大きく影響する。しかしだからといって、怪我をしないようなぬるいゲーム運びも気に入らない。ことによってはヘッドスライディングも辞さなで欲しい。
勝つために貪欲になって欲しい。
でもあくまでも正々堂々と買って欲しい。
で、あれば怪我に負けない体作りが必要なのか。キャンプでは、体作りにも重点を置かなきゃいかんな。高校生ルーキーはまだ体ができていないだろうし。
いや?高校生ルーキーの方がいいのか?そうするとプロ選手に重点を置くべきだろうか。

「!!」

そして、中居は思わず立ち止まり、足首に力をいれたため、いでで・・・!としばしうめく。
「木村・・・!」
ジャニーズの中居総合監督としてのことばかり考えていたが、彼はSMAPのリーダーでもある。そしてSMAPにも、ともすれば怪我でシーズンを棒に振りそうな(←シーズン?)メンバーがいたのだ。
それは、すぐに足をぐねっとやりがちな木村拓哉。
それは、すぐに腕を抜きがちな木村拓哉。
「木村ぁ!」
「はいはいはい・・・」
ドーム限定料理のサンプル制作にかかっていた木村は、菜ばしをくわえ、エプロンで手を拭き拭きやってきた。
「おまえはできる限り球場に来い!」
「はっ?」
「おまえには、特別応援団長の地位をやる。時間のある限り球場で応援しろ。どーせヒマなんだし」
「ヒマゆーな!」
「それと!こっちが重要。おまえは、トレーニングルームに出入り自由とする。ってゆーか、パーソナルトレーナーを置く!」
「はぁ!?」
「そして選手も、おまえも!怪我に負けない体を作るんだ!これで、シーズンもシーズンオフもばっちりだな!ひゃはははは!はははははは!いだだだだ!」
「その前にお前の足をどうにかしろ!」
「おまえにだけは言われたくないっ!」

いや、本当に木村拓哉はパーソナルトレーナーでもつけて、体を作り直せ!

<つづく>

その129
「Birthday SMAP3」

「ご飯できた〜」
「おぉ、薄焼き卵も完成〜」
「刺身終了〜」
中居のバースデーSMAP収録後、本当に4人は手巻き寿司を食べることにした。慎吾が米を炊き、酢飯を作る。木村が薄焼き卵、剛が魚をさばき、吾郎が手巻き寿司のセットをする。
「なんかたのしー!」
うちわでパタパタ酢飯を扇ぎながら慎吾は行った。
「ビールとかないのかなぁ」
そう言いながら剛は冷蔵庫を開け、入っていたビールを取り出してくる。
「すっげうまそ!」
山盛りの食材を前に、4人の瞳はキラキラしていた。
「じゃ、まずそれぞれ好みの手巻きを作って、それから乾杯すっか」
木村の声に、それぞれが好みの具材に手を伸ばし、きゃあきゃあ言いながら手巻きを作る。
「いやいや、そんなに酢飯積み上げてどーするよ」
「いいんだよ。2枚で巻くから」
「手巻きじゃねーじゃん!おにぎりじゃん!」
のりの上にちょっとご飯。その上にたんまり豪華食材。巻くのは不可能に近い状態になったところで、4人はグラスを手にする。
「何に乾杯?」
吾郎が尋ねる。
「そりゃ、中居の誕生日にだろ。せーの!」

はっぴばーすでーとぅーゆー!はっぴばーすでーとぅーゆーー!はっぴばーすでぃでぃあなかい〜!!はっぴばーすでーとぅーゆぅーーー!!!

4人は精一杯の声で歌い、缶ビールをぶつけ合う。
「うま!」
「米も違うねー、美味いよごろちゃん」
「そりゃあさ、取り寄せたんだよ?精米してもらったのさっきだよ?なんでこれ持って帰らないかなー、中居くん」
「それ言うんだったら俺の地元の友達セットはー!?ちょっとやろうよ、人生ゲームー!」
慎吾は人生ゲームを広げて、どの色のこまにする?と3人に聞き、勝手にゲームをスタートさせる。
「それはいいけどさ、中居、自分でファミコンとか接続できるわけ?」
「あぁ、そうだねー、中居くんできなさそー。ま、そしたらつないであげてもいいけどさー。はい、つぎつよぽん」
「剛のウォーターサーバーなぁ〜」
木村は傍らの日焼けマシーンを見つめる。
「あぁ、それね」
吾郎もそれを見つめた。その顔には、僕は絶対いらないけどね、と書いてある。それを正確に読み取り、木村は日焼けマシーンのスイッチをいれた。
「黒くなればいい!!」
「やめてよっ!」
「おまえも黒くなればいいんだ!!」
「うわ!木村くん、やめてってば!」
SMAPの美白担当、吾郎と剛に向けて、日焼けマシーンをかざし続ける。
「やめてって!」
逃げ惑う二人。コードの許す範疇で追う木村。あ、これ高い焼酎だ、と勝手に飲む慎吾。

「なんじゃこりゃあああ!!!」

悲鳴のような声が上がったのはその時だった。
「あ、お帰り」
「お帰りじゃねぇだろ!何してんだ、人の部屋で!木村!」
「手巻きパーティー?正確に言うと、敗者による手巻き寿司パーティーウイズ人生ゲーム」
「あ、僕は負けてないけどね」
「うるっせ!剛!」
玄関まで台車でウォーターサーバーを運んできた中居は、部屋の惨状に目を見張った。
「あぁ!その焼酎!」
「まあまあ、中居さん。中居さんならいくらでも手に入るじゃないですか、焼酎ごとき」
「金があるからって手に入るもんじゃねんだよ!」
玄関にある靴を、中居は正確に慎吾に投げつける。
「何勝手に鍵まであけてんだよ!どっから手に入れた?」
「そこは。ほら」
吾郎が微笑む。
「管理人さんに顔を見せればねぇ」
「あぁ、やだやだ有名人は・・・」
ぐったりしながら中居は部屋に入る。
「慎吾!これ運べ」
「やだよー。敗者にムチ打つなよー。つよぽんやれよー」
「えー、めんどくさーい」
「めんどくさいとかゆーな。俺のプレゼントだろうが!」
「中居何食うー?今日はマグロがおすすめ。美味い!」
「何食うって・・・」
木村はさっさと手巻き寿司を作り、中居に手渡した。
「あぁ・・・」
「焼酎何割り?お湯?水?流行のお茶?」
「あー、とりあえず水」
慎吾がウォーターサーバーから水を注いでグラスを渡す。
「はい、乾杯乾杯」
いつの間にか、どこからともなくワインを取り出していた吾郎がいい、5人で乾杯。もう一度ハッピーバースデーが歌われた。
「・・・俺が帰ってこなかったらどうしたんだよ・・・」
「え?帰ってくるだろ?」
木村が言う。
「だって、中居、家大好きじゃん」
「そうだよ。見てよ、このおうちで楽しみましょうセットの数々を」
日焼けマシーン、手巻き寿司セット、ウォーターサーバーを吾郎が指さす。
「地元の友達んとこいってるかもしんねーじゃん」
「いや、今日撮影スケジュール変わったじゃん。そんなすぐには連絡つかねーだろうし、荷物もあるし、帰ってくるなと」
「人の行動を読むな!」
「いや、読むっていったら中居くんだよねー。全部解ったんでしょ、誰からか」
「解るだろ、ふつー」
ふふん、と吾郎を見た中居は、諦めたように座椅子に座りなおす。
「食うべ」
「食うべ食うべ!」

その夜は花火までフルコースで、中居正広無理やりパースでーパーティーが行われたという。

その128
「ジャニーズ その2」

球団を強くするためには、もちろん選手が重要だ。選手にいかにいい環境を与えるか。
中居総合監督は考えていた。
当然、『ベンチがアホやから野球ができへん』などというセリフを吐かせてたまるものかと思うのだ。
ロッカールーム、トレーニングルームはメジャーを手本にした。
「ユニフォームは俺がデザインを」
「ひゃー!」
慎吾が悲鳴を上げる。
「そんな劣悪な環境でいいの!?ベンチがセンス最悪やからユニフォームが着られへんって言われるよっ!?」
「うるせぇ!」
「試しに描いてみなよ、中居くん。ユニフォーム着てるピッチャー」
「何で描かなきゃいけねんだよ!」
「いや、センス最悪って決め付けてたけどさ、意外にデザイン的にはいけたりすんのかなぁって。見たいよねぇ」
ジャニーズ事務所内の仮監督室内にSMAPメンバーは集まっていた。社長室並の設備になっている。
「剛も描いてみたら?」
吾郎がにこりと微笑み、慎吾が絶対描くべき!とスケッチブックを渡した。
それが悲劇の始まりだった・・・。

「いや、もう無理無理無理っ!」
慎吾は床を転がりまわっていた。
「すげえ!生画伯・・・!」
球場限定メニューを色々考えていた木村は感動したようにスケッチブックを見下ろしている。
「ユニフォームのデザイン以前の問題だよね。なんなの、君たち」
吾郎も朗らかに笑っていた。そして、中居監督は黙り、剛は中居監督の絵を批評していた。
「いや、それはおかしいよ。野球のユニフォームって、袖のところそんなになってないんじゃあ?」
「すげえ、剛画伯。野球のことで中居にいちゃもんつけてる!」
ぎゃはは!と木村がのけぞって笑った時だった。

ぐらり、と木村が座っていた事務用椅子が揺らいだ。
「おっ?」
バランスを崩し、椅子ごと木村は仰向けに倒れた。そしてその下には、中居監督の足があったのだ。
がしゃーん!
「いでーーー!!」
「いったー!」
おぉ!なんということであろう。
『仮』監督室であったがために、事務用椅子などは組み立てたばかりだったのだ。
中居総合監督の足はどうなってしまうのか!そもそもユニフォームはどうなるのか!!ジャニーズの明日はどっちだ!?

<つづく>

その127
「ジャニーズ その1」

平成16年、日本プロ野球界を激震が襲った。
近鉄買収がダメなら新球団を作り、新たにリーグに加盟すると発表したライブドアが接触を図ったのは、ジャニーズ事務所だった。
元々野球チームが作りたかったことを思い出したジャニーにより、新球団、ライブドア・ジャニーズが発足。初年度総合監督として、中居正広の就任が発表された。

「待て待て待てー!」
「んっ?どうした?木村」
「SMAPはどうするつもりだー!」
「ライブはやる!」
「あ、そうか?」
「シーズンオフにな!」
「えぇー!?」
「そんなことよりも、ダルビッシュを獲るぞ!」
「ダルビッシュ??」
「ダルビッシュと、駒大苫小牧の佐々木も、済美の
鵜久森も!」
「待て待て待て」
「プロ球界からも来てもらわなきゃいけないからなー、やっぱそうなると新庄はいるかと思うんだよな」
「中居さーん?」
「あ、そうそうそう、木村木村」
「えっ?」
「新球団設立に合わせて、新しいドーム球場が作られてるのは知ってるな?」
「しらねーよ!」
「その球場にファンを呼ばなきゃしょうがない。なんで、そこで売られる弁当なり、なんなりのメニューを考えるように」
「よ、ようにって!」
「『木村拓哉スペシャルメニュー』売れるぞー!球場内限定!客くるぞー!」
「な、中居・・・」
「応援団として、ジャニーズタレントが毎日客席に登場。年間シートは通常の2倍用意。いや、3倍にしても売れるか・・・?あぁ、忙しい忙しい!」

キラキラと輝く目をしている中居は、バットを片手に仮監督室内を忙しそうに歩き回る。パリーグに参加して、巨人以上の動員を目指す。そのためにはいい選手が必要だし、ファンサービスが必要だ。使えるジャニーズタレントはすべて使う。
「あ!シーズンオフっていっても、日本シリーズ後だからライブスタートはもうちょっと遅くなるぞー」
使える人脈もすべて使う。
「材料費とかの計算したことないから、あんま自信ないぞー?」
そうそう。あのように比較的単純な木村拓哉も含めて。

「てっぺん取ったる!!」

中居正広総合監督の一年が始まった。

<つづく>

その126
「27時間テレビ」

テーマ「27時間でできることは、жゞ☆(トリビアのタネ風)」
司会「SMAP」
SMAPへのテーマ「27時間テレビに映り続ける」

【グランドオープニング】
・各地方局が、27時間で完成させられることへの挑戦スタート。ex.27時間で一軒家を建てる。
・27時間SMAPの居場所公開。一軒家風セット。厨房、居間、各メンバーの部屋紹介。シャワーブースあり。

19:00〜
【HEY HEY HEY】
出演:ダウンタウン、SMAP、他人気アーティスト勢ぞろい。
歌あり、トークあり、ゲームあり。
ゲーム:テトリス、バトミントン、車庫入れ

21:00〜
【ビストロSMAP夕食】
ゲスト:ダウンタウン
木村・慎吾チーム VS 吾郎・剛チーム

22:00〜
【絵心バトル】
ゲスト:ダウンタウン
真の天才画伯は誰だ!草g画伯、中居画伯、浜田画伯の激突!忘れちゃならない稲垣画伯!
香取画伯VS松本画伯の頂上決戦!
てことは、司会は木村拓哉か!?

24:00〜
【ニュース】
出演:アナウンサー&SMAP
スーツ姿でニュースを読むSMAP。スポーツニュースはあえて稲垣吾郎が挑戦。

25:00〜
【ココリコミラクルタイプ】
出演:ココリコ、以下いつものメンバー。SMAP。
最低恋愛、最低メンバーなどをコントで。ココリコ田中の木村拓哉役は必見!?

27:00〜
【SMAPの今夜は眠れない】
SMAP、私物パジャマでトーク。夜食を作ったり?仮眠をとったり?もしかしたらシャワーを浴びるメンバーも!?

28:00〜
【真夜中過ぎのトリビアの泉】
出演:タモリ、以下いつものメンバー。
番組テーマになってる割には扱いが深すぎると文句たらたらのタモリ?SMAPメンバーのトリビアに、果たしてへーはいくつ?

5:00〜
【ビストロSMAP朝食】
ゲスト:タモリ
木村・剛チーム VS 吾郎・慎吾チーム VS中居・タモリチーム
シェフは離れて長い中居は、タモリの戦力となりうるのか!?中居を必ず使うがシェフタモリに与えられた条件だ!

6:00〜
【ラジオ体操】
SMAPによる新ラジオ体操が披露される。

6:30〜
【各局リレー中継】
27時間でできることの途中経過をSMAPが紹介。

8:00〜
【とくダネ!】
出演:小倉智明、以下、いつものメンバー。コメンテイターSMAPを交えたオープニングトークはどうなる!?

10:00〜
【笑っていいとも増刊号】
出演:タモリ、以下毎日のメンバー。深夜から働きづめのタモリにやる気はあるのか!?各曜日の人気コーナーにSMAPも参加。

12:00〜
【ビストロSMAP昼食】
ゲスト:三谷幸喜
13:00からの復活HRの脚本家。今回の生HRにも出演するかもしれない三谷さんのオーダーは何?

13:00〜
【復活HR】
出演:香取慎吾、以下当時のメンバー。SMAP。
轟先生のクラスに転校生(稲垣吾郎)がやってきた。しかし、箱入り息子の転校生には、じいや(中居正広)とねえや(木村拓哉)がぴったりくっついて離れない。副担任(草g剛)とともに、どうにか授業を進めたい轟先生だが、案の定、鷲尾(中村獅堂)が転校生をいじめだす!
授業はどうなるのか!轟先生の兄(三谷幸喜)は出演するのか!?生放送の時間中に、無事オチまでたどり着けるのか息を呑む展開。

14:00〜
【ウォーターボーイズ】
生ドラマで疲れたところでプールで一休み。ウォーターボーイズショーを堪能した後は、SMAPもシンクロに挑戦?実際にできるのは高飛び込み?!

15:30〜
【各局リレー中継】
ここらでSMAPを休ませたいところだが、プールから上がったばかりでも中継の紹介。

17:00〜
【ニュース】
出演:SMAP
今日のニュースを簡単に。天気予報もありますよ。

17:30〜
【ちびまるこちゃん&サザエさんスペシャル】
・まるこ、ビストロSMAPに出る
・サザエさん一家のお台場見学他3本。
SMAPが声の出演。
サブ画面では、居間でくつろぎながらテレビを見るSMAPが。

19:00
【一気にフィナーレ】
各局の成果がどんどん発表される。番組終了までに家は建つのか!
グランドフィナーレでは、27時間出演してくれた人たちを中継で結び、全員でそれじゃまたの大合唱!

・・・ダメかな。そんな27時間テレビ。

その125
「カンヌの母」

「ひろちゃん!ほら手ぇふって!ひろちゃん!!」

・・・あんなことを言ったのが悪かったというのか・・・。
木村拓哉は深く反省しながら、夜のパリを彷徨っていた。
その後ろには。
「おかーちゃーん!どこー!まだー!?」
と騒ぐ3人の子供がひっついていた。
「おかーちゃーん!アイス食べたぁい、アイスぅー!」
などと、騒いでいるのは、木村より年上であるはずの男である。
「おかあさぁん、おかあさぁん、アイスぅ〜もいいけどぅ〜、のど渇いたよ、おかぁさぁん〜」
はねるのトびらで流れているコント、哲哉とお父さんの哲哉のような喋りをしている男は、確かに年下であったが、いくらなんでも生むのは無理という年齢差しかない。
「今更だけどー、ちょっとビールも飲んでみたいかなー」
最後にぽてぽてとついてきている男は、ただの飲んだくれ。
「はー・・・」
木村はため息をついた。
スマスマの撮影で、酔っ払った3人をメリーゴーラウンドに乗せたまではよかったが。あれで酔いが回ったのか、ふざけているのか、降りてきた3人は、木村にお母さん、お母さんとまとわりついてきたのだ。
「おかあちゃーん!手ぇふったらアイス買ってくれるってゆったやーん!」
「ゆってません!」
撮影が終わった直後、いきなり中居がアイス食べたい!と言い出した。しかも、
「おかあちゃんに連れてってもらうっ!」
と木村の背中にのしかかってきた。
「はっ!?」
「フランス語が堪能なおかあちゃんに連れてってもらうっ!」
「あー!おにいちゃんずるーい!」
その上に慎吾が飛び掛ってきた。ぐえ、と、木村はつぶれそうな体を必死に支えた。
「僕はー!飲みたいでーす!のーみたーいでーす!」
「降りろ!バカ!」
「連れてって〜、おかぁさぁ〜〜ん」
そしてあろうことか、中居は言ったのだ。
「おかあちゃんに連れてってもらうから、それじゃあここで解散ってことで〜」

「お疲れ様でした〜」

あぁ・・・!
スマスマスタッフよ、なぜそうまでして中居の言うことを聞くのか・・・!
「フランス通のおかあちゃんに、アイス食べさしてもらうー」
「フランス通のおかぁさんに美味しいもの飲ませてもらうぅ〜」
「しらねぇし、フランス通じゃねぇ!」
「フランス語が可愛いって言うくらいだから喋れるはずぅ〜〜!」
「美味しい飲み物飲ませて〜!おかぁさぁ〜〜ん!」
「はははは!!あはははは!」
散々飲んだワインが、3人の意識をかなり酩酊させてしまっていた。
「もう、ダメだ・・・!」

知るはずもないフランスの街を、アイスクリームと、酒と、ビールを求めてさまよう木村は、ごめんなさい!フランス語が可愛いくらいで好きだってゆって!!と少しフランスが嫌いになるかもしれない・・・と思ったのだった。

その124
「若だんなシリーズ」

「失礼いたします。お茶をお持ちしました」
その老舗旅館では、到着したお客様に、まずはウェルカムドリンクをお持ちすることになっていた。
跡取り息子の拓哉は、ようやくその仕事をやってもよいと仲居頭からび許可が出たばかりでいささか緊張している。
老舗旅館の一人息子として生まれたが、跡を継ぐつもりなどまるでなく、東京でサラリーマン生活をしていた拓哉が実家に引き戻されたのは、ひとえに父親が亡くなったからに他ならない。
鬼のようだと思っていた母親の涙を見てしまった。
『心細くなっちゃったわね・・・』と、父の仏壇を前に、ぽつんとつぶやいた姿は、とても小さかった。
子供の頃悪さをした拓哉を軽々と引きずり、泣き喚いて暴れているにも関わらず、いとも簡単に古い土蔵に放り投げたあの母とはとても思えなかった。
『おふくろ・・・。俺、戻ろう、か・・・?』
『何言ってんのよ。あんた、東京で仕事してるんだから』
気弱に微笑む母。
『大丈夫。母さん一人でやってけるから』
そう言いながら、父の遺影へと目をやるその横顔。
拓哉は早々に退職し、意気揚々と実家に戻り。

それらすべてが芝居であったことを知る。

「男手がいるのよ!男手が!」
拓哉の母は家付き娘であった。拓哉の祖母も、そのまた上も、ずっと家付き娘。木村の家に男は生まれないとまで言われていた中で、久々に生まれた男が拓哉だった。
つまり、木村家には、男児を育てるノウハウがない。両親、親戚、従業員が試行錯誤した結果が、今の木村拓哉だ。
男前だが(両親の血)、ちょっと頼りなく(大人ばかりに囲まれていたため)、旅館業は嫌い(自分と、客に対する母親のあまりの態度の違いから)。
それでも、男手は男手。百戦錬磨の女将、陽子(野際陽子)はこうして、見事タダで使える男手を手にいれた。
「だましたなーー!!」
と騒いでももう遅い。
帰ってきたその瞬間から、拓哉の旅館従業員修行が始まったのだ。

あの辛かった日々・・・!
藤の間の前に正座し、拓哉はしばし思い返す。
竹のものさしで手の甲を叩かれながら、お茶の入れ方を教え込まれた・・・。馬車馬のように風呂場の掃除をした・・・。もうサトイモの皮は剥きたくない・・・!
こうしてようやく、お客さんの前にも直接お会いできるようになったんだ・・・!
やったな!俺!

しかし。
部屋の中から返事はない。
チェックインをして、部屋まで案内したのも拓哉だった。
それから、お茶を入れて持ってくるまでの時間はわずかに数分。あれ。トイレかな。もう速攻でかけた?いや、だって、お茶をお持ちしますか?と聞いたら、はい、と答えたじゃないか。
「失礼します?」
ふすまをあけると、スリッパが見える。
靴もある。
でかけている訳じゃあない、と、部屋へと続くふすまを開けたところ。

「ぎゃーーーーー!!!!!」

「何事ですっ!!」
女将として母として、拓哉が心配じゃないこともない陽子は、廊下の隅で拓哉の様子を観察していた。ところがこの悲鳴。そして廊下に飛び出してきた拓哉はその場で転んだ。
「うるさいですよっ!」
「し、し、し・・・!」
「し?」
「し、死体・・・」
「死体!?」
ついさっき、拓哉が案内してきた若い女性は、腹部を包丁で刺されて死んでいた。新しく入れなおしたばかりの畳に流れ出た血の色は、あまりに鮮やかで思い出しただけでめまいを起こしそうになる。
「だ、だって、さ、さっきまで・・・!」
「落ち着きなさい!落ち着いて!」
「え、えっ?」
「警察!警察呼びなさい!そっとよ!サイレンならしながらパトカーなんかきたらただじゃおきませんからね!」

「なんや、おまえ。帰ってきてたんか」
「今井先輩!」
そうして、やってきた刑事は、学生時代の拓哉の先輩、今井雅之だった。関東の温泉地でありながら、なぜか関西弁の彼は、てきぱきと状況を把握していく。

果たしてわずか数分の間に、この凶事を成し遂げた犯人は何者なのか。
なぜ、旅館の包丁が犯行に使われたのか。
殺された女性の妹(仲間由紀恵)と、拓哉の間に流れるものは、果たして愛なのか!
地元の芸者が山村紅葉なのはどうなのか!?

次週、土曜ワイド劇場、「若だんなシリーズ第1弾潮風の恋」をお楽しみに!

その123
「カンヌ→モスクワ→??」その2

木村がカンヌ、剛がモスクワの映画祭に行くということで、俺はアカデミーを獲りにいく!と中居は宣言したのだが。

「だから、俺がアカデミー賞を獲れる企画を考えろってゆってんだよ」
「ゆってんだって・・・」
「あのな?」
中居はしみじみと4人を見つめた。
「いつまでもいつまでも、待ってばかりじゃダメなんだ。こっちから色々考えていかないと!自分ならどんな企画があうのか!そういうことを考えていかないでどうするんだ!」
「じゃあ、中居くんも自分で考えればいいじゃない」
吾郎の言葉は綺麗に無視された。
「さ、言ってみなさい。はい、タケシ」
「えっ?」
言われた剛はきょとん、と中居を見返す。
「・・・確かに古いネタだけども、そこで、ツヨシだよ、って返せなくてどうするんだ・・・!」
「いや、ツヨシだけどもさ。えー?中居くんがー?アカデミー?えー?あれでいいんじゃないのー?あのー、あ!あれ!あれあれーーーー・・・!!」
「もういい。悪かったおまえオチな」
「なんでオチが必要なんだよ!」
「いつだってオチを考えてなきゃダメなんだよ!頭の体操だぞ!」
「はいっ!」
慎吾が元気よく手を上げた。
「アカデミー野球選手のマネ賞!」
「あ!いいじゃん!」
木村も賛同する。
「なんかさ、マニアックな物まねとかいいんじゃね?」
「あんのか!アカデミーにそんな賞が!」
「あー、だからー。メジャーに憧れる日本の野球少年が、アメリカに渡って、野球選手にはなれなかったけども、野球選手の物まねで、一躍有名エンターティナーになる」

「・・・あれ?」
中居は首をかしげた。
「・・・そ、それは、意外と・・・」
「意外といいんじゃない?」
吾郎もうなずき、慎吾も賛同した。
「いかにもハリウッドっぽい感じだよ。笑いと、ちょっとホロリな感じ」
うんうん、と、空気が納得のものになる。ハッピーエンド間違いなしで、アメリカでも、日本でも、ヒットしそうな要素がある。

「よし!じゃあ、木村!おまえをプロデューサーに任命する!」
「え」
「金を集めてこい!そして吾郎は監督を探せ!」
「はっ?」
「慎吾は三谷幸喜から台本をGETしてこい!確実に!」
「いやいやいやいや」
「獲るぞ!アカデミー!!」

後に、剛は韓国専門の宣伝担当という役割を与えられたという。
いけ!中居正広!SMAP史上初のアカデミー俳優は目の前だ!

その122
「カンヌ→モスクワ→??」その1

納得いかねぇな。
天下のアイドル、SMAPのリーダー、中居正広は舌打ちした。
木村拓哉がカンヌに行くのはともかく、チョナンカンがモスクワ映画祭!?
納得いかねぇ。
その上、それに、慎吾と吾郎がついていく!?
まったくもって納得いかねぇなぁ・・・。

「だからってよ!」
「カンヌ!モスクワ!ときたら次はもちろん、アカデミー賞だろ!アカデミー賞もらわなきゃしょうがないだろ!」
「も、もらうって!」
「木村くんも、カンヌで賞もらった訳じゃないし、つよぽんだって、解んないんだよ!?」
「だからこそだ」
中居は無駄な威厳を湛えて言い切った。
「だからこそ、俺が賞をもらわなくてどうする」
「だ、だからこそって・・・」
メンバー4人、まったく理解できない言葉を中居は平気で吐く。
「そこでおまえらの使命だが」
「は?」
「中居正広がアカデミー賞を取れる企画を今ここで考えなさい!はいっ!ちっちっちっ・・・」
「いやいやいやいや!」
木村が大きく手を振った。
「今ここでって」
「はい!木村くんっ!」
「えっ!?」
その大きく振った手を中居が指差す。
「はい!何がいいでしょう!」
「な、何がって・・・」
「何をすれば中居正広はアカデミー賞を獲れるでしょう!」
「え、えー!?」
「ちっちっちっちっ・・・・・・・さー!どーしたー!キムタクー!」
「キムタクゆーな!えーっと、じゃ、じゃあやっぱここは、天才シリーズ?あのー、羊たちの沈黙とか、ハンニバルとか?」
「ダメだよー!」
慎吾がそれに強く反対した。
「天才シリーズは、そもそもの中居正広を知らないと面白くない!笑えないもん!」
「別におまえを笑わせようと思ってやってんじゃねんだよ!」
「俺だけじゃねぇよ、笑ってんのは!」
「あぁあぁ!どうせ首とんだよ!爆発したよ!俺だって笑ったさ!」

こうして、話はどんどん暗礁へ乗り上げていくのだった。果たしてどうなる!果たして中居正広がカンヌで賞をもらうことはできるのか!
稲垣吾郎と草g剛は本当にこの場にいるのか!
ちょっとは喋れ(笑)!

つづく

その121
「スーパーマネージャーの秘密2」

「あれは・・・何年前のことだったんだろうね」
本当にあった怖い話風味に吾郎が語りだす。
「ある、ダイレクトメールが、事務所に届いた」
「ダイレクトメール?」
「あなたもコレで痩せられる?」
ざわつくメンバー。ことの重大さを、彼らはまだ理解していない。
しかし、いかに彼らが浮つこうと、これは事実だ。
この、恐ろしい事実を知り、慎吾はこうなってしまっているではないか。吾郎の足元で丸まって震えているではないか。小動物のように。
「そのダイレクトメールは」
「金の先物取引?」
「何、さきものとりひきって」
「いんだよ、剛は知らなくって」
「・・・」
「いいんだよ!木村も知らなくって!」
「あのね・・・」
「でも、小豆で儲けるのが一番の花形なんだっけ」
「僕だって知らないよ。聞きなさいよ!」
ソファに座っていた吾郎に立ち上がって叱られ、ちぇー、と3人はそっぽを向く。この吾郎のもったいのつけ方がムカつく、とせっかちないじめっ子、中居は思う。
「だから、なんだよ、DMって」
「それはカード会社から、クレジットカードを作らないかというダイレクトメールだった」
ソファに座りなおし、足を組んだ吾郎は先を続ける。
「最初は、単なるDMだと、彼女も捨てようとしたのだが、あて先は」
「・・・あて先は?」
「僕たち、だった」
「え?」
「SMAP5人、それぞれに、送られてきていたものだった」
「知らねぇぞ、そんなの」
「もちろん、僕たちが知るはずはない。なぜなら、それを、彼女は隠匿したからだ」
「イントク」
「いいんだよ、剛は知らなくって」
「いんとく・・・」
「おまえはバカキャラじゃないんだから知ってろ!」
「じゃあ中居は説明できるんだな?」
「できるよ。いんとくだろ?」
「・・・そのイントネーションは知らないね?」
吾郎が額に軽く手をかざし、困ったようなため息をつく。
「僕の説明が悪いんだろうね。彼女は、それを隠したんだ」
「だったら最初っから隠したって言え!」
ほんっとムカつくーー!ぜってぇ後でどうにかしてやる!と心に決める中居。
「最初、彼女には悪気はなかったんだと思う」
吾郎は、少し気の毒そうな顔をした。
「・・・些細な、好奇心だったんだ」

ある種のクレジットカードは、こちらから申込をするのではなく、向こうから作りませんか?と勧誘してくる。
そして、その勧誘によりカードを作り、ある条件で利用すると、さらに上のカードへと、勧誘される。
その頃、彼女は小耳に挟んでいたのだ。ゴールドカード、プラチナカードの上、ブラックカードというのが存在すると。

もし、ここでカードを作って、利用したとしたら。

いつかは、ブラックカードにたどり着くのだろうか、と。

彼女は、まず5枚のカードを手に入れた。
そしてそのカードを使い、グレードアップしていったのだ。
そしてついに。

木村がカンヌに行く直前になって。
5枚のブラックカードが、彼女の手元に届けられた。

「・・・それってつまり・・・?」

中居は自分が吾郎の話から理解した状況を信じることができなかった。
「え、まさか・・・」
木村も、おぼろげながら、何か見えてきた気がした。
彼が、一番彼女の買い物っぷりを見てきたのだから。
「あの靴6足って・・・」
「そうさ!!その6足の靴は、彼女の懐を一切痛めていないのさ!!」
プライド見てからお気に入りの、坂口憲二風しゃべりで、吾郎はポーズを決める。
「なぜって、すべて木村くんの口座から引き落とされているんだからね!」
「あんのばばぁーー!!」

「誰がばばあだぁーーー!!!!」

ばぁーん!とドアが開き、慎吾が慌ててソファの裏に隠れた。
ラスボス登場。
「あんたはほんっとにいつまでも口の利き方を知らないったら!」
「いやいやいや!これはお行儀がどうどかって問題じゃねぇだろ!」
「そーゆー問題なのよっっ!」
ミッチーには、後ろ暗いところなど、一点もなかった。
彼女は、女なのだ。
女に理屈は通用しない。
「いつまでもいつまでも手ばっかりかかって!これくらいなんです!!」
「これくらいって!靴6足にかばん4つだろ!?いくらになんだよ!」
「いくらだっていいでしょ〜、これまでだって気づかないほど稼いでらっしゃるんでしょ〜♪それより!」
小脇にかかえたブランド財布を、ミッチーは開いた。
「くそばばあとかって中傷されて、あたしは、とっても傷ついた。この傷を癒すには、買い物しかない!さ!どのカードにしようかなーー」
中居と吾郎がすばやく木村を指差す。剛も一瞬遅れて指差した。
「吾郎にします!」
「なんで!!」
「なんでそんな話を細かくしってんのよ!あんたは!!」
「女子と仲良くしてると、いろんな話が聞こえてくるもんでねぇ〜」
「可愛げないからあんたのカード使います!慎吾っ!」
「きゃいん!」
「今後!二度と!人様の財布に手をかけたりするんじゃありませんよっ!!」
きゅーーん・・・!
慎吾は大変なお仕置きを受けたらしく、吾郎はこれから受ける。中居と木村はとりあえず胸をなでおろし。

当然、剛はなんのことだか理解をしていないのだった(笑)

あぁ、ミッチー。そのカード、私にも貸して・・・!

その120
「スーパーマネージャーの秘密2」

SMAPのスーパーマネージャーこと、ミッチー。
海外に行っては、なんだかやたら買ってるな?という彼女には汲めども尽きぬ金の泉があったのだ。

「お、慎吾!」
よろよろと帰ってきた慎吾を、中居が笑顔で見つめる。
「見た?ミッチーの財布」
木村も楽しそうに尋ねる。二人は、なぜ、あんなにもミッチーが買い物できるのかが不思議だったのだ。
ブラックカードを持ってるっていう噂を確かめてこーい!と楽屋から放り出した慎吾の帰りを楽しみに待ってもいた。
「え・・・?」
「えって。ミッチーの財布」
「ブラックカード・・・」
『だよ』と木村は続けようとしたが、ブラックの、ク、あたりで、慎吾の体が不自然に揺れた。
「ど、どした?」
「いや、ど、どしたんだろ・・・っ」
バランスを崩し、慎吾はソファに倒れこむ。
「え?熱でもあんの?」
「そうなのかな、なんか、すごい、ヤな感じ・・・」
「寒いか?毛布かける?」
「う、うん・・・」
ソファの上で大きな体を丸め、慎吾は小刻みに体を震わせている。一体何があったというのか。
「さっきまで元気だったじゃん、なぁ」
「何やったんだよ、ミッチーのやつ・・・」
その単語を耳にした慎吾がまた震えたことに、木村も中居も気付かなかった。

「あっれー、どしたの慎吾ー」
最近スマステでは、草gのおじさん、と呼ばれている剛がドアを開けるなり言った。
「なんか、急に体調悪くなって」
「へー、大丈夫ー?」
近くによって慎吾の顔を覗き込んだ剛は、ん?と首をかしげる。
「ちょっと、やばくない?」
「あ?」
「なんか、顔色まですっごい悪いけど。顔色青っていうか、黒い」

どたーん!!

いきなり慎吾はソファから落っこちた。しかも顔面から。
「うわわ!!し、慎吾!」
「慎吾っ!?」
「い、いだい・・・」
3人で助け起こすと、慎吾は鼻血をにじませた状態で震えていた。
「やばい・・・」
「中居、救急車呼ぶか」
「救急車・・・。移動車でもいけるか」
「慎吾!慎吾しっかり!」

「・・・知って、しまったんだね・・・」

そして、静かにドアが開いた。
「吾郎・・・!」
「なんだよ、知ってしまったって!」
木村に詰め寄られ、吾郎は眉間に皺を寄せつつ、どうにか逃げようとする。が、上手くいかず、変な姿勢で壁に押し付けられた。
「い、いたい、いたい・・・」
体の固い吾郎には苦しいところだ。
「慎吾に何が起こってんだ!」
「吐け!吾郎!」
「だ、だから・・・!なんでそんなに高飛車なんだ!君たちは!」
「吾郎ちゃん!」
へんてこな格好で壁に押し付けられている吾郎に、剛も詰め寄る。
「諦めて白状しないよ!!こんな高飛車な二人にだって、お慈悲はあるよ!」
相変わらず、いろんな意味で失礼な剛だ。
「だから!だから、僕が何をしたっていうんだよ!情報提供者に対して、こ、この仕打ちっ!」
「木村、やめろやめろ。それ以上やったら泣く泣く」
「泣くかっ!」
関節を決められた状態だった吾郎は、まったく!と前髪を直しつつ、ソファに座る。足元には慎吾が丸まっている。
「・・・可哀想に・・・」
といいつつも、ソファから降りない吾郎だ。
「吾郎。いい加減に言えよ。いったい慎吾に何があったって言うんだ」
腐ってもリーダー。キリリ、とした表情で中居は吾郎を睨む。
吾郎は、その中居の目力に、そんなにびびらない方のメンバーとして(注:びびるメンバー、木村、慎吾)、ゆったりと中居を見返した。その表情は、憂いに満ちたものだった。

真実を知ること。

それが必ずしも幸せにつながるのではないと、その目は告げていた。

<つづく(笑)>

その119
「スーパーマネージャーの秘密」

あなたは不思議に思ったことはないだろうか。
SMAPのスーパーマネージャーと呼ばれている、ミッチーという女性のことを。
果たして彼女は何者なのか。
彼女は普通の勤め人とは違うのか。
海外のブランドショップで、一気に靴6足買うことができる財力とはどういうものなのか。
そんな彼女には秘密があった。

「聞いて聞いて」
カンヌから帰ってきた木村は、スマスマの収録で顔をあわせた中居に言った。
「ミッチー、またバカ買い。どうなの、靴6足って!」
「12本足があんのかっつーの!」
「手にしても2足で足りるよなぁ〜!」
など、ぎゃはぎゃはと笑っていた二人の前に、ふらり、と慎吾が現れた。
「噂、聞いたこと、ない?」
「あ?噂?」
「ミッチー、ブラックカード持ってるって」
「はぁ!?」
木村も中居も、十分に呆れた調子で声を上げる。
「それってプラチナの上ってやつだろ?」
「普通の会社員でも持てんの?中居は持ってるだろうけど」
「持ってねぇよ!」
「ウソだよー、中居くんは持ってるよー」
「持ってるよなー。そりゃ持ってる」
見せてー、見せてー、とまとわりついてくる二人を蹴り飛ばし、それで!と中居は慎吾を睨んだ。
「実際持ってんのか!?」
「いやー、そういう噂があるだけなんだけどー」
「おまえ、ちょっと確かめてきな」
「何よ、確かめるって」
「今日ミッチーくんだろ。財布の中身見りゃ解るじゃん」
「簡単に言わないでよー!そうそう簡単に人の財布の中なんか見られないでしょー!」
「そぉかぁ?」
と言いながら、木村は慎吾のジーンズのポケットから勝手に財布を抜き、勝手に中身を見る。
「やめなよぉ!もぉ〜!」
「できるできる」
「できるできるじゃねぇー!何!ここにはプライバシーってもんがないの!?」
「慎吾の財布の中身くらいは、たいしたプライバシーじゃねぇんじゃね?」
「じゃあ今度は中居の・・・、いーたーいーー」
自分のバックの伸びてきた木村の手をつかみ、丁寧に、丁寧に、ツボを痛く痛く押すあたり、中居の財布には大変なプライバシーがあるらしい。

『さっさと行ってきなー』
と控え室を放り出された慎吾は、世の中には神も仏もないものか!と宙を仰ぎながらスタッフが集まっている一室へ入っていった。
中居からは、『可愛い可愛いSMAPの末っ子が、喉渇いたぁ〜♪とでもいえば財布くらい出すだろー♪』と気軽に言われている。
そんなことくらいで財布を丸々預ける人間がいるとも思えないし、撮影現場はあっちこっちに飲み物は用意されている。
しかし、そういう困難に立ち向かうことが、慎吾は決して嫌いではない。
『む、あれだ』
ひときわ派手なブランドバックがそこにはあった。
あのバックから財布だけを持ち出し、部屋を出てから中身を確認する。幸い、バックの近くに人はいない。
体は大きくとも所詮A型。
慎吾のやることにぬかりはない。大きな体でバックを隠しつつ、後ろ手にバックをあけて、財布を抜き取る。
大きな口が、にこりと、笑みの形になった。

「ブランドバックに、ブランド財布〜」
空き室に入り、慎吾はミッチーの財布を開けた。そして目を丸くする。
「・・・うそ・・・!」
カードいれには、確かにあったのだ。黒いカードが。
「ミッチー、マジでブラックカード持ってるんだぁ・・・!し、しかも、何枚あるんだ・・・!?」
いち、にぃ・・・と数えてみると、ブラックカードは5枚あった。
「そんなに・・・!?」
単なるビデオ屋のカードじゃねぇのか?と、慎吾はその5枚を抜き出してみた。

そして。

自分が、決して触れてはいけない秘密に触れてしまったことを悟ったのだ。
そのまったく同じデザインの5枚のカードに書かれている名前。
それは。
MASAHIRO NAKAIであり、TAKUYA KIMURAであり、GORO INAGAKIであり、TSUYOSHI KUSANAGIであり、そして、SHINGO KATORIだったのだ。
「まさか、俺らの口座から・・・!」

驚きのあまり、慎吾は気づかなかった。
部屋のドアが静かに開いたことに。
今、慎吾の後ろには・・・!

「ぎゃあーーーーーーーーー!!!!!!」

(いや、紫苑様たちとそんな話をしてたもんですから(笑)いやいやいや(笑))

その118
「これといって意味のない話」

「昨日ちょっと聞いた話なんだけどさ」
SMAP×SMAP収録現場で、中居は剛に言った。
「うん、何?」
「飯食ってたら隣のカップルが喋ってて」
「うん」
「女の方が、自分が見たテレビの話してんだよ。世界一のソムリエっつって、女が出てきて、目隠しすんだって。そこに犬を連れてきて、犬の鼻を舐めると、犬の犬種が解るっていう」
「うん」
「へー、そりゃすげー、とかって話じゃん。でもその男がさ、『犬が舐めるの?』とか聞いてんの。犬に舐められて犬種当てられる方がすげえけど!そんな話してねーのは、隣の席の俺だって解ってんだから!って思ってさぁ!」
「うん」
「そんで、女が、違うよ、女の人が舐めるのっつったら、え!女の人なの!?っておめ、何聞いてんだよっっ!って横からつっこみたくてつっこみたくってさぁ!」
「うん、うん」
「その上、じゃあその女の人は、昔たくさん犬を飼っていたんじゃない?って、個人でそんなたくさんの犬種飼うヤツいるかよ!仕事とかの関係に決まってんじゃん!なぁ!」
ここで、中居は話をやめ、じっと剛を見た。
「何?」
「・・・いや、で俺はやっぱり、回転の悪いヤツってゆーか、ずれた答えを返してくるヤツってのはダメだなっておもったんだけど」
「あぁ、解る解る」
「解る?ほんと解る?剛」
「解るよ」
「じゃ、この話を聞いて、おまえ何思った?」

「え。中居くん、昨日何食ったのかなって」

「だからよーー!!おまえはよーーー!!!」

アイスホッケーのスティック片手に木村がドアを開けた時。目の前に広がっていたのは、剛の首を今にも絞めようとしている中居の姿だった。
「待て待て待て!無理無理無理!!」
二人の間に割って入った木村は、ごく普通の顔で言う。
「まだその中指じゃ無理だって」
「・・・」
「・・・」
「・・・こういうのはいいの。中居くん・・・」
「今のは面白いから問題ないだろ」
何が?ときょとんとしている木村は、剛がいるからこそ、己の首が絞められずにすんでいるということに気付くはずもなく、鼻歌混じりにスティックを振り回すばかりなのだった。

(いや、ほんとにこんな会話を聞いてしまったもんですから(笑))

その117
「Birthday SMAP2」

一番大事なワイン、1本だけを保存できるワインセラーを手に、吾郎は微笑みを浮かべながら車に乗り込んだ。
女性をエスコートする時の柔らかさで助手席にワインセラーを置き、ハンドルに手をかける。
嬉しいなぁと心の底から思っていた。それぞれのメンバーからの、愛にあふれるプレゼントだった。慎吾がくれたと思い込んでいたワインセラーが、まさか中居からのものだとは思いもしなかったが。
「てことは、慎吾がくれたのは・・・なんだったんだろう」
147cm(1/20サイズ)のシャアザクは、きっと木村からのものだろう。確か20万くらいしたはずだ。後は、空気清浄機と、チタンセット。チタンセットが中居からのものだと思っていたのだが。じゃあ、あとは剛か、慎吾・・・。ドライヤーの遊び心は慎吾にも通じるかなー。空気清浄機の実直な感じは剛っぽい。
まぁ、残念ながら残りの3つは持って帰れないのだからと素直に愛車を発進させようとしたところで。

「えっ!?」

サイドブレーキも解除しているはずなのに、アクセルを踏んでも車が前に進まない。
「な、何っ!?」
変な抵抗を後ろから感じ、ぱっと振り返ったら。

「うそぉぉ!!」
「うぉぉぉぉーーーーーー!!!!!」
チタンジャージを身にまとった慎吾が、車を引っ張っているではないか。
「な、何やってんの!慎吾!!」
「こんなに!こんなに力が出るのに!なんで選ばないの!ごろちゃんっっ!」
「な、なんでって!」
でも、チタンは最後まで迷ったものなのだ。チタンか、ワインセラーかで悩んでいた。残り二つは嬉しかったけど、ほんっとに気持ちは嬉しかったんだけど!
持って帰るつもりはさらさらなかった。
まず147cmシャアザク。そりゃあ吾郎はガンダムっ子だ。ガンダム大好きっ子だ。実物を初めて見て興奮した。嬉しかった。
けれども、あれが実際部屋におくとしたら?
ちょっと想像しただけで、吾郎はそれにNoを出さざるを得なかったのだ。面白いとは思う。自分の部屋にあの147cm(20万)のシャアザクがあり、二人の可愛いお嬢さんたちが上ったり降りたりしている様は、そりゃ可愛いだろう。でもそれはシャアザクが可愛いのではなく、お嬢さんたちが可愛いのであって。
・・・サイズが小さかったらなー。
むしろ1.47cmで、ものすごく精巧な・・・。たとえばクリスタルとかのシャアザクだったらなー。それならインテリアとしてよかったのに。
で、インテリアという点で、空気清浄機も大丈夫かなー、と思っていた。
中居からもらっていたこともあったし。そこで、はっ、と吾郎は気がついた。去年中居から空気清浄機をもらったっていうことに気づいていない男がいるとしたら彼しかいない。
あれは、剛からだったのか。

なんでなんで!!と慎吾がなおも騒いでいるので車を降りたら、慎吾の後ろにシャアザク、そして木村がおり、剛も空気清浄機を抱いている。
「あ、あのー・・・」
「チタンは体にいいんだって!」
「し、知ってる」
「じゃあ、なんでよー!」
「いや、だから、持って帰れるのは1つでしょ?」
「俺持って帰ったよ」
シャアザクの肩に手を回した木村が、憮然とした表情で言う。一番最初にこのバースデー企画の主役となった木村は、収録終了後、すべてのプレゼントをごっそり持って帰っている。
「あ、でもー・・・あっ、何!」
シャアザクが乗っている台車を、木村は勢いよく押し、助手席側に横付けする。
「あ!まさか!!」
「連れて帰れ」
ムダに優しい顔でドアを開け、ワインセラーを取り上げまずはシャアザクを座らせる。
「はい、ここな」
その膝にワインセラーが・・・。
「いや、あの、木村くん・・・。あっ!なんだ剛まで!」
「ごろちゃんち、おっきいでしょ?一部屋に一つあっても大丈夫だよ、ね?」
「え、でも、あの・・・」
後部座席には、ドライヤーと空気清浄機。慎吾が脱いだぬくもりつきチタンジャージを含むチタンジャージも置かれた。
「えーっとー・・・」
木村が、台車つきじゃなくては持ち運べないシャアザクを、これからどうすればいいというのか、吾郎は途方にくれる。
「じゃ、おつかれ」
「ごろちゃん、お誕生日おめでとー!」
「おめでとうー。使ってよ?ドライヤー。いいやつなんだから」
「あ、うん。イオンね、イオン・・・」
こうして、ものが一杯になった車に、吾郎は戻らされる。
助手席には美女ではなく、シャアザクとワインセラー。後部座席には空気清浄機だの、チタングッズだのであふれかえっている。
吾郎の美意識にややそぐわないこの環境。
ため息をつこうとして、ぐっ!とそれをこらえる。どれもこれも、メンバーからの愛じゃないか。どれもこれも、大事なものじゃないか。
ため息をつくなんて、間違えてる。あぁ間違えてるさ!泣くな!泣くな稲垣!
再びエンジンをスタートさせ、帰途につこうとしたところで、車の横を中居が通過していくのに気がついた。
「あ!中居くん!」
吾郎は直接本人にお礼をしようとした。なにせ中居らしからぬワインセラーなんてものをくれたのだから。
「お、吾郎」
「ありがとね」
「いやいや。使ってくれな」
「うん。これにいれるワイン、まだ決めてないんだけど、いつか二人で飲もうね」
にこっ、と微笑みながら言うと。
中居は笑顔のまま固まった。そして、1歩、2歩と後ずさり。
「あ。いや。うん。それは、いいや。あの、気持ちだけで。な?うん。誰か他の子と飲みなよ。女優とか、女優とか、女優とかと。な?じゃなっ」
凍った笑顔のまま、中居はすごいスピードでその場から離れていった。

「はぁ・・・」

ここでため息をついたからといって、誰が吾郎を責められよう?

その116
「Birthday SMAP」

新しく始まり、この後、来年8月までは続く・・・?予定の企画だった。
誕生日のメンバーに、他のメンバーからプレゼントが贈られる。
誕生日のメンバーは、その中から1つだけ、持ち帰ることができるのだ。つまり、そのプレゼントを贈ったものこそが、誕生日のメンバーを一番理解している、ということになる。

「んだよー、慎吾かよー」
木村の誕生日、プレゼントとして選ばれたのは、慎吾が選んだダーツゲームだった。
「ライブ中に遊んでばっかいるからだ」
パンツ25枚という、むしろ絶対に間違いのないプレゼントを選んだ中居は不服そうだ。そのパンツ25枚を抱えたまま、TMCの廊下を歩いている。
「ライブ中じゃないよー。空き時間とかじゃーん。中居くん、ちょっとくらい遊びにきたらいーのに」
「あー、これじゃなかったかなー。もう1個迷ったのあったんだよねー」
アンティークの地球儀を抱えた吾郎も不服そうだ。
「何、もう1個って」
勝者の余裕か、慎吾は笑顔で尋ねる。
「いや、クイズを出す地球儀」
「何それー!」
「国探しとか、首都探しとかさ、地球儀が問題出すんだよ。木村くんなら、そっちもありかなーとは思ってたんだけどなー」
「むしろそっちの方がありだったかもねー。ま、でも」
そして慎吾立ち止まり、最後尾を高級パスタセットを持ってついてきている剛の方を振り向いた。
中居も、吾郎も、立ち止まって剛を見る。
「ん??」
「「「パスタセットはねぇよなぁ〜!!」」」

まぁ、木村に選ばれなかったにせよ、パスタセットは自分でも使える。下着は、サイズが合わないにしても、女性のブラほど厳密なものでもないだろう。
吾郎なら部屋に地球儀があってもなんら不思議ではない。可愛い子猫ちゃんたちのおもちゃにもなってなるだろう。
そんな気分で木村より遅れてスタジオを出ようとしたところで。
「はいはいはいはい!遅いよ、遅いよ!」
「木村っ?」
出口の前に立ちふさがるようにして、木村がいた。
「えっ?何してんだよ、おまえ帰ったんじゃねぇのっ?」
「帰らない帰らない。まだ帰れないっしょ」
「あ、木村くーん、これありがとー!」
慎吾は木村が書いたカードをひらひらさせて満面の笑顔だ。
「なーにいってんだよー!慎吾これ、ありがとなー!」
ぎゅう!とダーツゲームを抱きしめて、木村は満面の笑顔(対慎吾比:2.5倍)を浮かべる。
「まぁ、それで楽しく遊べや、な」
ぽん、とその肩を叩き、出ていこうとした中居はぐわっ!と腕をつかまれ、後ろにのけぞる。
「なっ、なんだよ!」
ばさばさ!と音を立ててパンツ(25枚)が落っこちた。
「何持って帰ってんの」
「はっ?」
「それ、俺へのプレゼントっしょ」
「えっ!?」
中居は呆然と、足元に散らばるパンツ(25枚)を見つめる。
「いや、おまえ、コーナーの趣旨解ってるか?」
「だって、全部俺へのプレゼントでしょ?」
吾郎の持つ地球儀、剛の持つパスタセットにも、木村の遠慮のない視線が突き刺さる。
「え。いや・・・」
吾郎にしても、この地球儀は素敵だと思っている。ぶっちゃけ、うちにいる可愛いお嬢さんたちとのショットも頭の中にちゃんと描かれていた。
剛は、持って帰ってもいいけど、渡してもいいとふっつーに思っているが。
「だからぁ、持って帰れるのは1つで、それを選んだ人間が、一番木村のことを解ってるってネタなんだから、渡せるか」
「えーーーーーっ?????」
心の底から木村はびっくりした様子で声を張り上げる。
「なんで!」
「だからぁ!」

「だって、みんなちゃんと俺のこと解ってくれてるじゃん!!」

かああ・・・。
木村以外のメンバーの顔が、ぱぁっと赤くなった。
「お、おまえ、何ゆって・・・」
「みんな、すげえ俺のこと解ってくれてて、ほんっとに嬉しかったし!せっかく俺のためにって選んでくれたもんを、なんで返さなきゃいけない訳?ものじゃなくて、みんなの気持ちじゃん!」
「わ、解った、解ったから・・・」
「あったかい、思いやりの気持ちをさぁ、なんか、こういう形で1個しかもらえないって哀しくない?」
「いや、だから、そーゆーコーナーだからぁ」
「中居」
きりっ!とした顔で、木村は中居を見つめる。
「おまえだって、吾郎だって、剛だって、慎吾と同じにように、俺のこと解ってくれてるし」
キラキラキラ。
輝く熱い目。
「・・・も、持ってけ・・・」
「メッセージはっ?」
そのキラキラした少年の目攻撃に耐えられず、中居はパンツ(25枚)を引き渡すことを承知するしかなかった。しかしその上。
「メッセージ?」
「慎吾のにはついてたよ。メッセージ。みんなのっ」

こうしてコーナー趣旨をまったく無視し、木村はすべてのプレゼントを回収していった。
「あいつ、ほんとに31か・・・?」
大荷物を抱えて、うっきうきとスキップでスタジオを出ていく後ろ姿に、中居のつぶやきが力なく投げられる、そんな誕生日の夜だった。

その115
「コンサート」

CDをつくりつつ、コンサートの構成を考える。
そんな一杯一杯の時期がやってきた。
おそらく、誰一人として、夏休みの最初に宿題は終わらせなかったに違いないSMAPのメンバーたちは、こういうせっぱつまった感じがむしろ楽しいという集団である。
もう時間がない。
それだけで気分が盛り上がる。自然にミーティングはエキサイトした。
「V6ってー、日替でステージ変えるんだってー」
テレビでゆってた、と慎吾が言う。
「日替?全公演?」
「そんなわけないでしょ、ごろちゃん」
「2パターン日替だっけ」
「あっ、木村くんがV6のこととか知ってる!」
「しってるよ〜、ジャニーズじゃぁ〜ん」
わはは!としばし笑った後、実際のところ日替っていうのはどうなんだろう、という話になった。
「でも、結構いるぞ。何回も来てくれる人」
「いるよねー」
「木村くん、よく言うよね。あの子前も見たって」
「視力3.5ですから」
「でも、そんだけ何回もきてくれる人がいるんだったら、日替って、ありじゃん?」
「V6って、セットが変わるだけ?構成は?」
「げっ!今から構成2パターンは勘弁ー!」
「あ、そーいえばさ、あれすごくね?ユーミンの」
「あぁ!あれ!」
1つのテーブルを囲んでいた、慎吾と吾郎は、木村の言葉に手を叩いた。
「アイスショー!すげえ!」
「あれに対抗すんだったらさー、キダムとかよばなきゃダメじゃないの?」
「キダム呼んじゃったらよ・・・、誰がSMAP見てくれるよ・・・」
「吾郎ちゃんがキダムに入るってのは?」
「俺、それやられたらステージ続けらんねぇ」
「俺も(笑)!ちょー!おもしれーー!」
バンバン、テーブルを叩いて、木村たちは笑い転げた。
「吾郎のキダムなー!」
「全身タイツだけで笑える!笑えるーー!」
そうして、しばし笑いつづけた後、木村は、ことさらなんでもない風を装っていった。
「ユーミンのコンサートってさ、セットもすごかったじゃん。30mの沈没船、だっけ?」
「そうそう!見た、テレビで!」
「それでー・・・、夏だからって、メモリッピーズで歌ったじゃん。SMAP NO.5」
「ん?どしたの、木村くん」
「いやー、あれさー、悪乗りパイレーツって歌詞もあったしさー、沈没船に対抗しようと思ったら、海賊」

ばきい!

真面目ー、な顔で一人書類を向き合っていた中居の手の中にあったボールペンが真っ二つに折られた。

「おまえ。一回死ぬか?」

『・・・こ、こんなことくらいで・・・!』と、慎吾が心で泣いてしまうほど、中居の言葉に温度はない。
「静かにしてます・・・」
『何回いったらわかるんだ、うるせぇったらうるせんだよ、ぼけぇぇぇ』という顔で3人を睨みつけ、最後に、中居は剛を見た。

「韓国語の勉強はうちに帰ってやれ」

「えっ?でも、今することないのに」

「お前は何様だーーー!!!!」
「チョナンカン様ですーー!中居様ーー!!お怒りをお静めくださいーーー!!」
「吾郎!吾郎っ!ドリンクお持ちして!中居様のドリンク!巨人の選手が試合前に飲んでるってやつ!」
「謝れーーー!チョナンカーン!!」
「ミアナムニダ(すみません)」
「日本語で喋れーーーー!!!」

せっぱつまったき真面目プロデューサー、中居様の怒りは、いつまでも収まらないのだった。

その114
「謎の下宿」

中「はがきいきましょう!」
剛「はい。えーっと。皆さんこんばんばーん」
木「なつかしいっ!」
剛「今、吾郎ちゃんが、謎の下宿人ですが、皆さんは、誰が大家の下宿に住みたいですか?」
木「誰のって、また大ざっぱな・・・」
吾「響子さんかな」
中「はぁ!?」
吾「一刻館の・・・」
慎「それマンガじゃん!」
木「え?そゆこと?別に、誰でも言い訳?」
中「メンバー限定にしとこう。誰が大家だったらいい?」
しーん。
中「考えこむな!」
木「だってさぁ、だってさぁっ、絶対違うじゃん!誰が大家かで!」
中「そりゃ違うだろうけども。あ、じゃあ、誰が大家だったらやだ?」
全員の指が吾郎に向く。
吾「(心からびっくり)なんで!?」
木「だって下宿じゃねぇもん!」
慎「やだー!怖いー!ホントに謎じゃん!謎の下宿になっちゃうーー!」
吾「なんでよ!」
中「やだなー、吾郎の下宿。も、ぜってー女ばっかり」
木「女まみれ!女優だらけ!?」
慎「うわー!すげーー!!なんか、匂いとか違いそう!」
吾「まぁまぁまぁ。まぁ、でも僕が大家だったら・・・」
他の4人をすーっと眺めて。
吾「・・・・・・・・・誰がイヤかなぁ、下宿人として」
木「だから、おまえの下宿には住まねっ!つの!」
吾「木村くんは、別にいいけど」
木「やだー!」
吾「慎吾はやかなー」
慎「ラッキー!」
吾「中居くんはー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
中「・・・・・・・・・・・・・・」
吾「下宿の美観を損ねるから」
中「全っ然!住みたくねぇけど、腹立つーーーー!!!」
慎「あー、でも俺、中居くんの下宿もやだ」
中「なんで」
慎「夏とか、ちょーー!あつっくるしそう!」
木「あー、夏ダメだな。夏」
中「夏?」
慎「も、ずーーーーっと野球じゃない?そんでさぁ、巨人とか負けたらぶーぶーゆーの。俺絶対やだー」
中「俺だってやだよ!だいたい下宿屋とかしたかねぇっつの!」
木「じゃさ、じゃさ、中居あれは?えーっと、巨人軍の寮」
中「うわっ!!超やりてーーー!!」
慎「えー!選手超めーわくーー!」
中「なんでよ!もー、すんごい食事とか作るね、俺ね!トレーニングメニューとか考えるね!」
慎「やだーーー!!疲れて帰っても野球づけでー!あの人ずーーーっと喋ってるよ!絶対!」
中「うわ、やりてー・・・!」
木「中居、金もってんだから、巨人軍専用マンションとか建てれば?」
中「えー、建てよっかなあ〜・・・」
吾「1位だもんね、中居くんね」
慎「楽勝で建てられるんじゃん?」

剛「えっとね、僕はー、木村くんかなー、あ、でも、慎吾もいいかなー」

中「・・・・・・・・・・・・誰が大家がいいかってこと・・・・・?」
慎「すげえ、つよぽん・・・・・・・・」
中「そ、それでは、聞いてください、SMAPで」
中・木・吾・慎「世界に一つだけの花」

剛「でも一人暮らしの方が楽でいいかな〜」

その113
「テディベア」

こういうマンガを見たことがある。
稲垣吾郎は、SMAP×SMAPの、控え室の入り口に立ち尽くしたまま、そう思った。
両親を亡くした少年が、歌の才能を見込まれ、いい先生にも恵まれてオペラ歌手になる。そのちょっとぼんやり少年は、お父さんがくれたクマのぬいぐるみをとても大事にしていて、たった一人のお友達のように、日々話し掛けたりしていた。
そうすると、ぬいぐるみにだって気持ちは通じる。
両親のいないその少年のために、身の回りのことくらいはしてあげようと、自ら動き出した。
そうして、二人はホントの友達になったのだ。

まさか、そのマンガのようなことが現実におきるのでは・・・。

そう思ってしまう吾郎の目の前に、ちょっとぼんやりした少年がいる。
実年齢はどうやら30になっているらしいが、おつむのぼんやり度合いは少年としかいいようがない。
「いえーい!ウノウノの実ーーー!!」
そこには、等身大トニートニーチョッパーのぬいぐるみと向かい合って、ニコニコ笑いながらUNOをやっている木村拓哉がいた。
もちろん、『まだ』チョッパーは動いていないので、木村は、一人で二人分やっているのだが、一人でやるUNOの、どこがどう面白いのか、吾郎にはまるで解らない。
控え室には、他にも人間がいるのだが、それぞれに、自分の仕事があるらしく、誰もUNOに入ってあげていないらしい。
『木村くん・・・』
思わずあふれそうになる涙を、奥歯をぐっ、と噛み締めて吾郎はこらえた。
『いつか・・・!いつかきっと、そんな木村くんのことを理解してくれる人が現れるよ・・・!負けないで・・・!』

「とか思うんだったら、吾郎ちゃん、やってあげりゃあいいじゃん、UNOくらい」

外から缶コーヒーを手に帰ってきた慎吾に、背中から声をかけられ、振り向いた吾郎ははきはきと言った。
「いや、あのカードさ、ま、あんまり手触りがよくない感じがするってゆーか」
「やりたくないんでしょ?」
「まあ、デザインも、どうかなー。うーん、いや、悪くはないと思うんだけどー、ただ、こればっかりは好みの問題ってゆーかさ」
「いやなんでしょ?」
「そもそも、UNOっていうゲームのゲーム性がさ、もちろん、駆け引きは色々あると思うんだけど、でも、どっちかっていうと単純な・・・」
「あの!輪の中にいられらるのがいやなんでしょおおおおおお??????」

「うん。いや」
「やっぱね」
にこ。
にこ。

そうして、かつて、シンゴローSHOWという素晴らしいコントを作り上げた二人は、チョッパーのお友達と目を合わせないように、なにやら忙しいフリをした。

こうして。
今日も、ワンピースUNOで遊んでくれる仲間はいなかった。
しかし、明日はどうだか解らない。
戦え!チョッパーと木村拓哉!
負けるな!チョッパーと木村拓哉ーー!!(ごっつええ感じ、ゆかた兄弟風でお願いします)

その112
「TK」

深夜、ふと目が覚めた人が、何気なくテレビをつけた。
白っぽい画面が現れ、左右から二人の男が歩いてくる。
「木村拓哉です」
「草g剛です」
「えー・・・」
木村がフレームの外に腕を出した。
「握力を測ります」
古めかしい握力計を握った木村が力一杯握った、らしい。らしい、というのは、画面には、木村の上半身しか映っていないからだ。
「あぁ・・・。じゃ」
画面の下で、ちらりとその数値を確認したらしい木村は、そのまま握力計を剛に渡す。そして剛が測定している間に。

ぶちっ!

と画面が切れた。
続いて流れたのは、やったら明るい海外通販番組だ。
「え?ええ??」
その人は、慌てて新聞をひっくり返す。今のは何だったんだ!?それで、握力はいくつだったんだ!?
テレビ欄をさぐったその人が発見できたのは、前の番組の最後に、ついでのようにくっついている文字、『TK』だった。

これが、後に奇跡の長寿番組となる予定の『TK』に、その人が初めてであった瞬間だった。

『TK』について、知られていることは少ない。
<<TKに関する噂>>
週に1度流れている番組らしい。
●2分番組らしい。
●放送される曜日は決まっていないらしい。
●放送される時間も決まっていないらしい。
●放送される曜日も時間も決まっていないが、深夜、早朝であることは間違いないらしい。
●臨時ニュースがあると飛ばされるらしい。
●野球が延長すると飛ばされるらしい。
●TKというだけに、木村拓哉と、草g剛が出ているらしい。
●いつ始まったのか、はっきり知っている人はいないらしい。
●運良くか、運悪くその番組を見ると、何か、もやもやした気分になるらしい。
●2分10秒しか収録しないらしい。

そんな都市伝説を作り上げているらしい番組。TK。今夜も。そして明日の朝も。どこかで流れているかもしれない。

その111
「正しいアルプス」

「なんで!」
どうせ負けるなら。どうせ負けてしまうというなら。せめて、テレビで流れている時にして欲しかった!
心の底から木村は思った。
一度は二人とも鳴らなかったクラッカー。そのありえない絵面もなかなか面白かったと思うが、どうせ・・・!どうせ負けて本気で嘆くのであれば、その姿を、見てもらった方が・・・!
「おいしかったじゃん!」
「天下の木村拓哉が、なんでお笑い芸人みたいな発想してんだよ!」
控え室で、がっくりひざをついた木村の後ろで声がした。
振り仰ぐと。
「・・・カビ・・・」
「カビゆーな!」
天井の照明のため逆光の只中にあるSMAPリーダーのあごを、まともに下から見上げてしまい、木村は軽いめまいを覚える。
「なんで人間からコケが生えてんだよ・・・」
「コケゆーなっ!」
男らしいじゃんか、と、鏡にむかってご満悦の中居だ。そりゃそうだろう。ぺけ2になるところを寸でで脱出できたのだから。

「男らしい?」

そこに朗らかな声が響いた。
「汚いのと、男らしいの間には、なんの関係も見出せないけど?」
美しくセットされた髪型、微笑みの形の唇。
しかし目は完璧に据わっている男、稲垣吾郎だった。
「ま、汚ければ男らしいだろうっていう単純さが中居くんらしいけどね」
「あんだと?こらあ・・・」
「やめなよ・・・!」
今すぐいったろかい!と立ち上がった中居の腕を慎吾がつかむ。
「吾郎ちゃん、すげえ怖いって・・・!」
「あぁ?」
そして改めて吾郎を見た中居は、開きかけた唇をぴたっとくっつけた。
「・・・こ、こええ・・・」
鏡越しでは解らなかったそのオーラ。
氷点下の青白いなにかが吾郎の体を覆っていた。
ずずずずずっ、と、ひざをついていた木村は、そのままの姿勢で後ずさって吾郎から離れる。
ペケ2とは言え、日本アルプスに登る、ということ自体は結局楽しいんだろうなと思えてしまう激烈前向きな木村だ。この件に関し、決して吾郎とは分かり合えない。
「ご、吾郎・・・」
「左利きだからかなぁ」
座った目のまま、鏡の前に座った吾郎は、ドライヤーを持った左手を見つめる。
「手のイラストで左右どちらかって時に、なんだか不利なような気がする」
いや、それ関係ないし!
4人は心の中で思いっきり首を振った。が、口には出せない。
「ビストロ、なんで木村くんと慎吾が組むことになったの?」
そこまで戻すか!吾郎!
あそこで、自分と慎吾が組んで、ゆずゼリーのおかげで勝てた場合、木村くんから3点引いて・・・。自分に3点足して・・・。
「ほら!木村くんがペケ1なんだよ!」
「ほらってなんだそれ!」
「中居くんがペケ2だったんだ!!」
がたん!吾郎が立ち上がった瞬間、椅子が倒れた。
「やーい!ペケ1、ペケ2〜〜!!」
やーいやーい!と木村と中居を指差してスキップともいえないようなスキップをする錯乱状態の吾郎を、4人で押さえつけたのは言うまでもない。

「わ、解った。解ったから」
重量級の慎吾にうつぶせになった背中に寝られた状態の吾郎が、弱弱しく口を開く。
「ほんとに解ったのかぁ〜?」
その慎吾の上に正座した木村に言われ、こくこくと吾郎はうなずいた。自慢のおぐしが乱れている。
「でもね・・・」
意味もなく靴をはいた状態の足の裏を踏んでいた中居がいなくなり、どうにか立ち上がった吾郎はつぶやく。
「ことの重大さが解ってないと思うけど、中居くんにとっては東京ドーム巨人阪神優勝決定戦で、巨人ベンチから丸見えの場所で、たった一人、阪神のハッピを着て応援をしなくちゃいけないくらいのことなんだよ」
「うぇぇ!」
「木村くんが、ハワイのビーチに丸一日座ってなきゃいけないけど、一切海に入っちゃいけないってのの、80倍つらいんだよ!?」
「えぇ!?その状態の木村くんの80倍!?」
慎吾が思いっきり頭を抱える。海依存症の禁断症状よりも80倍辛いなんて!
「ご、吾郎ちゃん・・・」
順番からいけば、次は自分かと、どきどきしながら剛が言葉の続きを待つ。
「はぁ・・・」
しかし吾郎はため息をついたまま、とぉ〜くに目線をやる。
「そういえば・・・」
夢見るような口調で吾郎はつぶやいた。
「おにぎりは握らなかったんだなぁ〜、俺〜・・・」

「てめ!!『また』ばっくれるつもりかぁぁぁーーー!!!」

青白い氷点下のオーラがなんぼのもんじゃい!!
SMAP1熱い男、木村拓哉によって、吾郎はぼこぼこにされたのだった。
どうするアルプス一万尺!
どうなるアルプス一万尺!!

(昨日見た夢、でっかいちっさい夢だよ、ノミがリュックしょって富士登山、とか言うのがアルプス一万尺の歌詞であるってことを、ついこないだ知りました。なんかの芝居のセリフで聞いて、やっけに覚えていたフレーズだったんですが!あらー、びっくり!)

その110
「正しい紅白歌合戦」

「うわわわ!おまえ何やってんの!」
紅白歌合戦の舞台裏、そろそろ出番だというSMAPが使っている楽屋に木村の悲鳴が上がった。
「うわ!中居くんやめなよそれ!!」
慎吾も追随し、吾郎も、剛も目を見張る。
「あぁ?」
鏡の前で、眉間に深く深くしわを刻みつけていた中居は、かなりな低音で返事をした。彼の手には、スプレー缶が握られている。
「なんで銀色なんだよ!」
そのスプレー缶を木村が取り上げた。
「それさぁ、銀っていうより白じゃん。え?もうおじいちゃんってアピール?」
「そんなアピールしなくっても、十分おじいちゃんだから大丈夫だって!」
珍しく剛がハキハキとつっこみ、お、おまえやるじゃん、的空気が流れた時。

「おまえら!!」

中居の怒声が部屋中に響き渡った。
「おまえら、ここをどこだと思ってんだよ!」
「ど、どこって・・・」
瞬時に矢面に立たされたのは木村だ。
「え、えぬえっちけー・・・?」
「今日は何日だ。吾郎」
「12月、31日・・・」
「12月の!31日!12月31日のNHKってことは!?剛!」
「・・・てことは?」
「慎吾!!」
聞くんじゃなかった!という顔をした中居は剛をほったらかし、慎吾にたずねる。
「・・・え、紅白?」
「そぉう!!紅白歌合戦!今日!俺らは紅白歌合戦に来てんだよ!!」

そりゃ解ってるよ。

自分を除く4人の顔にその文字を見て、中居は木村の手からスプレー缶を奪い返しその缶で、一人ずつの頭を叩いていった。
「いて!何すんだよ!」
「こっちのセリフだこのボケジャイアン!」
「はぁ!?」
「おまえはなんてカッコをしてんだ!?」
「な、なんて・・・?」
すでに、赤い上着を着ている木村は、なんてカッコ、と言われて首を傾げる。
「普通だよ、普通!」
「普通じゃねぇだろ!この色はよ!」
「色ぉ〜?」
はっ、と呆れた顔の中居は、鏡に向き直り、なお髪を銀色に染め上げて行く。
「NHK紅白歌合戦。年に一度の、そしてその年最後の晴れ舞台。視聴率が落ちた落ちたといっても、50%近く取っちゃうお化け番組だよ。国民の半数近くが見るといわれている紅白歌合戦に、2年ぶりに登場するってゆーのに!」
中居は静かにスプレーを置く。彼の頭は、銀、というより、確かに白に見えていた。
「・・・白いよ、中居くん・・・」
「白くて結構!俺は白組だ!!」
はっ!
中居の言葉に、慎吾は目を見開いた。
白組だから、髪も白く・・・!
「な、中居くん、まさか・・・!」
「いや、中居、だからって!」
「ベタでいいんだ!」
中居は言い切る。
「紅白はベタでいい!南極の雪は『白勝った』でいいんだ!!」
スプレー缶を置いた中居は、自らの、そして木村の衣装の襟をつかむ。
「だから、なんで赤なんだよ!!白組なのに!!」
「あ、そこまでは、考えて・・・」
「考えろよ!紅白歌合戦なんだから、赤だけはダメなんだよ!!」
ほら!と、4人に渡されたのは、中居が使っていたのと同じスプレー缶だ。
「せめて、頭だけでも白に」
「やだよ!!」
「何考えてんの!」
「うるっせ!金髪のヤツが眠いことぬかすな!!」
「だって、銀ならいいけど、ほんとそれ、白に見えるじゃん!白はやだって!」
慎吾の抵抗に、中居はスプレー缶を振りかざして襲い掛かった。
「うわー!」
「辞めろって!中居!」
「助けてー!吾郎ちゃーん!」
「えっ!俺!?」
「おまえら全員白にしろーー!!」

「あ、中居くん、シャレだ!」

「「「黙れ!!」」」

木村・中居・慎吾から怒鳴られた剛だった。

「いいかおまえら」
スプレー缶片手に中居の説教が続く。
「紅白っていうのは、若者にアピールする場じゃねんだよ。30年、40年前から紅白を見つづけている紅白ファンに対するアピールが必要なんだ!そのためには派手な衣装!解りやすい演出!そういったものが必要なんだよ!」
「いや、それは解るんだけど・・・」
「解ったんなら、態度で示せ」
中居の手が、スプレー缶ごと木村の目の前に突き出される。
「あ、あー・・・。いや、でも、俺はー・・・。2003年、好青年で行こっかなーと思ってたりとかー・・・」
「吾郎!」
「絶っ対っ!やだ!!」
両手で髪を押さえ、吾郎はじりじりと後ずさる。かつて、雑誌の取材で、美しく銀色に全身染め上げたことのある吾郎だったが、こんな突貫作業で、美しく完璧にセットしたこの髪を白髪に染められるなんて耐えられなかった。
こういう時の吾郎は、キレた中居にさえ対抗できてしまうのだ。
「・・・剛・・・!は、どーせなにやったって華がないからいっか」
「失礼だなー」
しかし、もちろん。剛だって、そんな中途半端な白髪にされるのなんかはまっぴらごめんなのだった。

「SMAPさん、お願いします!」

ここで、スタッフから呼ばれタイムオーバー。
こうして、2002年NHK紅白歌合戦において中居正広は。
「おじいちゃんやん!白髪やん!!」
とファンからは嘆かれ。
「あらあ、中居くん、いつもと違ってカッコええなぁ」
と、テレビの前のおばちゃんからは喜ばれることになったのだった。
この紅白への深い愛。深い考察。
これらの点をもって、中居正広は将来、『Mr.紅白』と呼ばれることになるのだが、それはまだまだ先の話である。

その109
「きぃ、ぱたん」

「きぃむぅらぁ!」
一流ホテルの廊下に、大きな声が響く。それに被さるように、ドアを叩くけたたましい音。
「てめ!ばっくれてんじゃねぇぞぉ!開けろってんだよ!」
「あーーけーーろぉーーー♪♪」
その怒鳴り声に被さる愉快そうで調子っぱずれな声。
「いつもいつも、こんなのの守させやがって!!たまにゃあおめぇも苦労しやがれ!あーけーろぉーー!!」
「ほらほら、木村くぅ〜ん、おもしろいよぉ〜、つよぽんの舞〜!」
ぎゃははは!とけたたましく慎吾の笑い声も響き、迷惑きわまりない集団だ。
しかし、その騒ぎが聞こえないのか、しばし部屋のドアは開かなかった。
マスターキーをフロントまで借りにいくぞ、と、中居がコメカミをひくつかせた時、ようやくドアがあいた。
「んー・・・」
「あぁ〜?」
その顔を見て、中居は片方の眉をきゅーー!と釣り上げる。
「あんだぁ?そのツラぁ」
「なんか・・・、すっげ眠くて・・・」
「眠いだぁ〜?」
「眠いっ?眠いって、そんなのおかしいや、おかしいやね、木村くん、いや、僕はね、僕も、あ、冷蔵庫!」
そのドアのすきまから、踊りながら入り込んだ剛は、なぞの踊りを繰り広げながら勝手に冷蔵庫を開ける。
「何、眠いってどしたのー?」
誠実なる記録者、と描かれた名札をつけた慎吾が、デジタルビデオを木村に向ける。
「なんかしんねーけど・・・」
ぼーっとした顔で木村は首を振る。
「部屋戻ったら急に眠くなって・・・」
「ぬりーことゆってんじゃねぇぞ、あいつだあいつ!」
冷蔵庫を開けて、がばがばビールを飲んでる剛を中居は指差し、誠実なる記録者慎吾はカメラをそっちに向けた。

こうして地獄の夜が始まるはずだった。
剛は何やら喋り続け、不可思議な踊りをし、慎吾を多いに笑わせ、中居は誰にともなく説教をしている。それは、廊下に響き渡るうるささだった。
「でよぉ!なんでこいつは寝れんだよ!」
その騒音の中、木村は空いているベッドで、仰向けになったまま微動だにせず寝ている。
せっかくこの騒音の中での迷惑を分かち合おうと思っていたのに、思惑が外れた中居はむっ、と表情を歪め、机の上に置いてあった木村の携帯を手にした。
「あっ!」
誠実なる記録者が、その手元をズームする。
「何するつもり!」
「電話帳チェックしてやる」
「うわ!なんてことを!」
「ちまちまちまちまやりとりしてる大事なヒデからの携帯メールを消してやる!」
「ん?そーいや・・・、ヒデから、携帯メールってくんのかな・・・」
「え、何、友達じゃねぇからこないの」
「あなたね。そうじゃなくって、だって、ヒデ海外じゃん。海外って、携帯メールあんの?」
「あんじゃねぇのぉ?ぼーだほん、ってそーじゃねぇのぉ〜」
そういって携帯をいじりまわしている中居を見て、きっとこの人は、こうやってメンバーの携帯チェックをし・・・・・たいんだが、できないんだろうと誠実なる記録者は思う。
彼には、i−modeの操作方法などわからない。
「で、俺は思う訳よ、やっぱり歌は気持ちなんだなって!」
「よっ!演歌歌手!」
剛の演説にチャチャをいれながら騒いでいた3人だったが、そんな中においても、ふとした沈黙は訪れる。
そしてそこで聞こえてきたのだ。

きぃ。

という微かな音。

それに続く、ぱたん、という軽い音。

「きぃ?」
「ぱたん・・・?」
中居と慎吾が顔を合わせる。
「何の音だ?」
と、お互いに首を傾げたところで、すぅっと姿をあらわしたのは吾郎だった。
「ご、吾郎・・・?」
「な、何やってんの、ごろちゃん!」
「ここ、オートロックだろ?おまえ鍵とか・・・」
そんな言葉に反応することなく、死んだように眠っている木村に吾郎は近寄った。
「吾郎!?」
その彼の手には、山盛りのヘアピンがあり、うふふと薄く笑った吾郎は、寝ている木村の髪を一房とり、くるっと丸めて、ピンで留めた。
「何やってんだ・・・?」
「ぴ、ピンカール・・・!」
慎吾が驚いた通り、吾郎は、普段からは考えられない器用さで、どんどんカールを作り上げていく。
「なんでおきねぇの、木村!」
「ごろちゃんも返事しなよ!」
「酒がたりねーー!!」
こうして、木村の髪全体をピンカールした吾郎は立ちあがり、しげしげと作品を眺めた。

「ふふ」

口元に手をあて、それはそれは満足そうな様子を見せ、そのまま部屋を出ていった。
また、軽い、きぃ、ぱたん、という音だけを立てて。

「だってさぁ!」
それを聞いて、慎吾はドアにダッシュした。
「だって俺、ドアロックかけたんだよ!ほら!かかってんじゃん!!」
慎吾が指差した先には、きっちりドアをロックしている金具があった。中にいる人間だって、そのドアをあけることはできない。
ホテルの部屋に入ったら、ドアロックをしてしまうくせのある慎吾は、翌朝起きなかったため、ドアを外してあけるという大技をとられたことがあるのだ。
「音だって、あんな軽い音じゃないじゃん!」
ドアをあけて実際確かめても、あんな木の扉が締まるような音はどこからもしなかった。
「でも吾郎そうやって入ってきたじゃねぇか!」
「木村くんにピンカールをしに!?」
はっ!
慎吾は慌ててビデオのところに戻った。彼は誠実なる記録者だ。
「ごろちゃんが何やってたか・・・!って、あれぇっ!?」

そのビデオに吾郎の姿は映っていなかった。

ずっと回しっぱなしのはずだったのに、吾郎が部屋にいたはずの時間がすっぽり抜け落ち、今は、ただ、ピンカールされている木村が映っているだけだ。
「なんだぁーーーー???????」

そんな訳で、翌日のライブで、木村の髪はくるんくるんだったらしい。

(いや、時々ライブでの木村さんの髪が可愛らしくくりんくりんしていたもんで(笑))

その108
「私の彼は左利き」

「さっすが天才画伯!」
時間があったので、なんとなく、お絵描きが始まっていた。
もちろん、メンバー内であっても、天才画伯草g剛の絵は輝いていた。眩しかった。
「あーもうつよぽん、さいっこう!何をどうしたら、こんな絵がかけんの!?なんで、象を正面から描こうとか思えんのかなぁ〜〜!」
慎吾は転げまわって喜んでいる。
そんな中。
「・・・お、おまえ・・・!」
まぁ、そこそこ、適当な感じに絵が描ける木村は、剛の絵に笑って仰け反った拍子に恐ろしいものを見た。
「それ、象・・・!?」
「ん?」
タッチこそ繊細だが、そこに描かれているのが象だとは、いや、生き物だとはとても思えない。
「吾郎も、天才だよなぁ・・・」
中居もしみじみと呟く。
実は稲垣吾郎も、夢がMORIMORI時代から、天才画伯であった。問題を出した中居正広が見ても解らないような作品を描き続けていた。
「吾郎左利きだからさ、なんか、また余計に不器用そうなんだよなー」
木村はそう言い捨てて、今度のお題わぁ〜!といおうとしたところ。

「でも、僕、右手で描いたら上手いんだよ?」

「は?」
首を傾げた木村の目の前で、吾郎は右手にペンを持ち、さらさらと象を描いた。
「え?ほんとだ」
中居が思わず覗きこむほど、上手な象だった。リアルでありながら、どこか愛嬌のある象。
「え、なんで?吾郎うめぇじゃん」
「うん、まぁね。右手だったら」
「へー」
慎吾もよってきてすごいすごいと誉めそやす。
吾郎はそれからも、いくつか絵を描いて、さらに言った。
「後、字もね、右で書いたら上手いんだ」
さらりと書いた『稲垣吾郎』という署名は、大人字だった。ビジネスにばっちり使える、封筒の表書きにしても、なんら問題ないというか、むしろいい感じ!?という字。
その上、縦書きも、横書きも、どちらもばっちり。
「えー?おまえ・・・」
「それから、箸も右手だと上手いんだよ」
すちゃ!と、どこかからか黒い塗り箸を取りだした吾郎は、さらにどこかからか出てきた皿に、どこかからかでてきた小豆を乗せ、その箸でさっささっさと、どこかからか出てきたもう一つの皿に移していく。
「ご、吾郎!?」
中居が声をひっくり返らせた。

「おまえ、右利きなんじゃん!?」

絵を描くのも、字を書くのも、箸を使うのも、左手より右手が上手。
それを世間では、右利きと呼ぶ。
木村も、剛も、慎吾も、こくこく頷きながら、それに同意した。
しかし。

「いや、僕は左利きだよ」

吾郎はそう断言した。
「いや、だって、おまえ。なんでも右の方が上手いんじゃん!」
「まぁ、確かに右手でやると上手くいくこともあるけどさ」
どこかからか取り出した包丁で、どこかからか取り出した大根のかつら剥きを右手でやっている吾郎だ。
「でも、左利きなんだよ」
「いやいやいや!ありえないだろ!」
「なんの根拠で、自分が左利きだって思ってんだよ!おまえ!」

「だって、カッコいいじゃない?左利きの方が」

「・・・・・・・・・・・・・・。はーい、じゃあ次のお題は、カピパラ!」
「なんだよそれ。何?ジャンル何?」
「動物だよね、木村くん」
「ずっと動物シリーズだったじゃんかよ」
「しらねーよ!そんなの。何カピパラってさぁ〜、木村ぁ〜」
「知らない時は、カンで描け、カンで」

「こう、右脳が発達してるって感じがね、うん、やっぱり」

果たしてどうなのか、稲垣吾郎!?

その107
「my ほにゃらら chef」

「あ、すみません?あの人は何をしてるんでしょう?」
その日のビストロオーナー、木村拓哉は、ゲストとの会話をさりげなく切って、厨房に目をやった。
「あのー!何してるんですかー!」
その視線の先には、中居シェフがいた。
「じゃあ、ちょっと下の方に・・・」
ゲストの女優さんをエスコートして、木村オーナーは、厨房に降りた。
各シェフたちが、テキパキと仕事をしている中、中居シェフが動いていない。
「あのー・・・。何をやってるんですか?」
中居シェフは、右手にピーマンを持ち、その手を、顔の横まで上げていた。小指を軽く頬に当てるようにしていて、その右肘は、左手で支えられている。
「うん」
中居は、そこで、ぱちっと目を開けた。ぱちっ!と、大きく見開いた目は、確かに大きい。大きくて形もいい。綺麗とよく言われる目だ。
「その方が、素敵」
「何がですか!」
「ありがとうございます」
中居は、ゲストにお礼を言う。静かに、上品な声で。
「これで、あなたのための料理が作れます」
「なにが!」
その時、ゲストと木村オーナーが喋っていたのは、もう毎日暑くって、暑くって、このままじゃあ、12月になったら、80度ぐらいになるんじゃない?っていう、後一歩で古典の域?というバカ会話だけだった。
「え?マイリトルシェフ」
しかし、ケロリとした顔で中居は言うのだ。
「これからは、俺のことをマイリトルシェフって呼んでくれ!」
「ま、マイ・リトル・シェフ?」
それは矢田亜希子主演のドラマの名前だった。
「あのドラマの矢田は可愛いけど、俺も、矢田に負けないくらい、可愛いと思うんだ」
「・・・あ、じゃあ、慎吾シェフ・・・」
「聞けーー!」
そのドラマでの矢田亜希子は、人見知りで、とにかく大人しい女の子の役だ。こういう乱暴さはみじんもない。
「解りましたから!」
木村オーナーが言うと、またもや、ちょっと仏像っぽいポーズになっていた中居が、ふわわんと微笑む。
「お客様のための、オーダーメイドのお料理を作ります」

「・・・ビストロSMAPは、そもそもそういうレストランだから」

そう言い置いて、木村オーナーは、隣の慎吾シェフのところに行く。
慎吾シェフは、ムッカつくぅー!と地団駄踏んでいる中居シェフを見て。
「リトルシェフは確かにリトルだよね」
「うるせぇ!でぶシェフ!マイ・でぶ・シェフ!料理は常に大盛りか!」
「あぁそうだよ!俺は、debuya専属の料理人さぁ!」
「すみません、すみません・・・!」

こそこそと剛シェフのとこまで行くと、少々困った顔をしている。
「ん?どうしました」
「えっとー、僕は、何シェフになったら〜・・・」
「別になんでもいいんだよ!」
「マイ・ハングル・シェフー!」
とマイ・でぶ・シェフこと、慎吾シェフから声がかかる。だっせー!とその上にマイ・リトル・シェフの罵声が重なった。
「まんまじゃねぇか、だっせー!」
「いいよ、いいよ、剛は」
だから、木村オーナーがいった。
「そうだなー、マイ・人の話をたまには聞け!・シェフ?」
「え。そ、それって・・・」
言い捨てて、木村シェフは、最後の一人、吾郎シェフの元へと急いだ。女優を扱わせれば日本一のこの男にまかせれば大丈夫と思ったら。

「ま、僕は、マイ・オンリー・シェフ。あなたのたった一人のシェフですよね。」

「うまい!!」
パチパチパチー!とゲスト・オーナー、シェフたちから拍手を受けた吾郎シェフだった。

マイリトルシェフ。
マイでぶシェフ。
マイ人の話をたまには聞け!シェフ。
マイオンリーシェフ。
果たして勝つのは誰か!
今日は、本当にオーナーでよかった!と木村は心から思った。

その106
「喉が痛い」

香取慎吾は喉が痛かったので、病院に行ってみた。
そこには、やたらクールな医者がいた。
「喉が痛いんです」
「そうですか」
慎吾の訴えを、医者は、この世の終わりのような厳しい表情で、カルテに記入をしている。
「じゃあ、ちょっと見せて下さい」
「あ、はい」
かぱっ!と大きな口を潔く開けると、医者は、やっぱり親の敵でも見るような厳しい表情で、じっと慎吾の喉を見つめる。
え、ほんとに、見るだけ!?かと思うほどの長い時間、医者はじっと喉を見つめ、それからおもむろに金属のへらのようなものを取りだし、舌を押さえた。

「ぐえ」

その気持ち悪さにちょっと戻しそうになった慎吾は、この世の不幸を一身に背負ったような医者の顔を見て、すみません、と、涙目で謝った。
「ど、どぉなんでしょう・・・」
「・・・点滴をしましょう」
「え?」
慎吾はきょとんとした。
病院に来る前、慎吾は自分で喉の中を見ていたのだ。素人目に見ても、赤く腫れていた。これがいきなり点滴でどうにかなるものなのか?
「て、点滴ですか?」
「イヤですか?」
「イヤってゆーかぁ〜・・・」
「点滴の方が、ゆっくりと薬が入るんです。もしお急ぎでしたら、注射、という手もあるんですが・・・」
「喉ですよね?」
「えぇ。ですから注射で」
「喉にですか!?」
「いいえ?」
あんたバカ?という顔を一瞬した医者は、あ、いけない、という風に笑顔になった。
「疲れだと思います。ですから、時間があれば、ゆっくり点滴をすればいいんですけれど・・・。どうします?」
「んー・・・」
忙しい身の上ではあったが、注射もなんだか怖いし、じゃあ、点滴は怖くないのかって言えばそれもそうなんだけども、どっちもいいです、と断ったら、このクールで深刻そうな医者から、どんな目に合わされるのか解らなかったので、じゃあ、点滴を・・・とお願いした。

で、一時間ほどかけて点滴をしてもらったのだが、それで速攻喉の痛みがなくなる訳でもない。
しかし、治りませんでしたといってしまったら、一体何が起こるのか、慎吾には、想像する事すら恐ろしかったので、大人しく診察室を出ることにした。
怖かった・・・。
正直そう思う。
こんな大きな病院に、あんな妙に怖い先生がいるなんて、どういうことなんだ。直江先生って、なんであんなに怖いんだ!!

喉痛いよう、と思いながらの帰り道、病院でくれたトローチを舐めていた慎吾は、あ、と足をとめた。
「こんなとこに病院が・・・?」
食べ物屋であっても、ブティックであっても、慎吾は、その店を一目見た時の感触で選ぶことがあった。それは具体的にどうと説明できることではない。
慎吾の魂が。慎吾のソウルが!
これだ!と声を上げるのだ。
そして、その小さな医院を見た時に、慎吾のソウルは、ソウルフルに声を上げていた。
この病院にいけ!と!

その病院は、医院の看板は上げているけど、ルックスは、ゲーム喫茶のようだった。つまり、外から中が見られなくなっている。
すごく怪しいけど、こういうところに、現代の赤ヒゲ先生とかがいるんだ。きっと・・・。
慎吾はそう思いながら、そっとドアを開けた。
医院の中は、シンと静かで、待合室に他の患者はいないようだ。よかった、すぐに見てもらえる。
トローチをごっくんと飲み込んで、受けつけに行こうとした慎吾の耳に、「いてぇよ!」という声が聞こえてきた。
あっ。患者さんいるんだ。
それじゃあ、待たなきゃ、と思ったけども、看護婦さんの姿もない。受けつけにも人がいない。
待ってればいいのかなぁと、待合室のソファに座った慎吾は、診察室から聞こえてくる声に耳を傾けた。
「あ、じゃあ、縫うか?」
「縫う!?ちげーよ、腹が痛いっつってんだよ!なんだよいきなり縫うって!縫うんだったら、先に切らなきゃいけねぇだろ!」
「いやいや。そうじゃなくって、腹が痛いんだったら、そのシャツの中っかわのとこに袋を縫いつけて、カイロとかいれたら温かくっていいじゃん」
「冷やしてんじゃねんだよ!もっとこう、チクチクってゆーか」
「チクチク?あぁ。ちゃんととらないとダメだな。あの、値札のついてる。あれ。あのプラスチックの」
「そんなんじゃねぇーー!」
「だって、チクチクしてんだろ」
「腹ん中だ!腹ん中!!」
「腹の中がチクチクって・・・。あ、知ってる、それ」
「そうだよ!?おめ、医者だろうがよ!早く治せ!」
「一寸法師だな」
「一寸法師ぃ〜!?」
「おまえもな、何を食おうと勝手だけど、一寸法師はないだろ、一寸法師は」
「なんで一寸法師なんだよ!」
「だって、腹の中がチクチクだろ?そりゃ、一寸法師の針の剣だな。あれは、おばあさんが作ってくれたもんだったか、お姫様が作ってくれたもんだったか・・・あぁっ!!」
「なんだよっ!」
「こんなところにうちでのこづちが!!」
「はぁ!?おめ、何ゆってんだ!?」
「うちでのこづちがあれば、一寸法師が巨大化してしまう!おまえの腹いたいどころじゃなくなるぞ!」
「だから、一寸法師がいる訳じゃねんだよ!!治療しろよ、治療をよ!!」
「うちでのこづちなぁ〜。もらったもらった。こないだ鬼の治療した時にな。お礼にって」
「鬼になんの治療したんだよ!!」
「いや、腹が痛いってゆーから、正露丸出したんだけど」
「俺にもそれを出せよ!それを!」
「正露丸が一寸法師になんの役に立つんだ?そんなもんのんだら、変な臭いがする!ってますます暴れるぞ一寸法師」
「だーかーらー!!いねんだよ!一寸法師はよぉーー!!」

慎吾は、そっとソファから立ちあがり、そっと病院を出た。
慎吾も腹が痛かった。
あまりに面白くて。
しかしこの病院のすごいところはそれだけではない。なぜか診察室からの愉快なトークを聞いていただけで、喉の痛みまでなくなっていたのだ!
「すげえ病院だ・・・!」
慎吾の心のメモ帳に、『ジャックの闇医院』が金文字で書き込まれた瞬間だった。

(いや、慎吾が喉が痛いって病院いったのに、喉も見ずに点滴されたってゆってたんで(笑))

その105
「お誕生日」

その日は、草g剛、28歳のバースデーだった。
明日は、スマスマだし、えっと今日は何をしようかなぁ、と自宅でのんびり思っていた剛は、突然の電話に驚いて受話器を取り上げる。
部屋の電話がなるなんて、なんだか珍しい気がする。
「もしもし?」
『もしもーし!つよぽーん?』
「慎吾ー?」
あれー?慎吾に部屋の電話番号なんて教えてたっけ?と剛は首を傾げる。
『ちょっとさー、出てこないー?』
「え?俺?えっとー・・・」
『出てこなかったら、こっちから踏み込むけど』
「えっ!?」
ふ、踏み込むってここに!?
『つよぽん、まさかさぁ、ほんっとに俺らがつよぽんち知らないとかって思ってないよねぇ〜』

がぁん!

その言葉と同時に、ドアが蹴っ飛ばされた。
「慎吾、外にいんの!?」
『外にいるのはねぇ、木村くん』
「えぇ!?」
「剛ぃー!おせぇー!」
「遅いって、えぇっ!?」
『早くしなねー。木村くんも、気の長い方じゃないから』
「えっ!えぇ〜〜っ!?」
慌ててドアを開けるとニッコリ笑顔ながら、コメカミにうっすら怒りマークを浮かべている木村拓哉がいたのだった。

「ど、どしたの・・・」
「いやいやいいから。とにかく来て」
「来てって、あの・・・」
サンダル、というより、つっかけばきのまま、剛はメンバーにも内緒のはずのマンションから連れ出された。
「うわ!」
マンションの前にはどでかいバンが止まっている。
「めめめ、迷惑だよ、こんなでかいの・・・」
「この道狭いもんな。だから急げっつってんだよ」
「えぇ〜?」
そして、入るように言われたバンの中では、おまえはゴッドファーザーか!という無駄な威厳を放った中居正広がいた。
「遅い」
「遅いよ剛」
そして、やけに上品な稲垣吾郎も。そして、携帯片手の香取慎吾も。
運転席には木村が座り、後部座席に四人。
「ど、どこいくの?」
おずおずと聞いた剛の肩に、ぽんと、ゴッドファーザーの手が置かれた。
「おまえの誕生日じゃないか」
ゴッドファーザーの表情は優しく、声も甘目だ。
しかし、ゴッドファーザーを信用してしまうほど、剛もぼんやりさんではない。あぁ、誕生日なのに、一体どんな目に合わされるんだ、可哀相な俺・・・!
せめて心の憩いにと、割と仲良しだったりする吾郎を見てみると、吾郎もふふ、と微笑んでいた。
あぁ・・・!微笑んでる・・・!ごろちゃんまで微笑んでる・・・!俺で遊ぶつもりなんだぁぁぁ!

そして、その予想は、連れていかれた場所で、はっきりと確信に変わった。

「なんでボーリング場!!」
「草g剛お誕生日おめでとーー!ボーリングルメたいかーーい!!」
「いぇーーー!!!」
4人がうわーー!!と盛りあがっている。ハイタッチまでしている。そして木村はすかさず着替えまでしていた。
「そ!それは!」
「そぉう!金城武モデルばーい、ゴールデンボール!」
「木村くんかぁっこいぃーー!!」
「い、いや、木村くんがカッコいいのはいいんだけどー・・・」
「はい、剛以外集合ー」
「なんで、俺以外!」
「おまえは主役だし、ボーリングは慣れてんだから一人でいいじゃん。俺らは2・2に分かれて対決だから」
「ちょちょと!だったら、食べるのも一人な訳!?」
「あったりまえじゃん」
ゴッドファーザーは、おまえバカか、という言葉を大きく背景に描いた状態で言い切った。
「誕生日だから、剛にたくさん食べてもらおうと思ってだよ」
「ごろちゃん・・・」
ウソばっかり・・・!!
「はい、グーパー!」
中居の呼びかけに吾郎はとっとと言ってしまい、グーパー!の掛け声の後、慎吾の悲鳴が聞こえた。
「なんでごろちゃん!?なんでパーだしたんだ俺!なんで!!」
ぐおお!!とのたうち回る慎吾だったが、はっ!と立ちあがった。
「あ、全部倒しちゃダメなんだ」
そう。ボーリングルメは、残ったピンの本数分、料理が食べられるというバトル。理想は1ピン残し。ストライクの場合は、くじ引きで皿数が決められる。
「あのね。言うほど慎吾がボーリング上手いとは思わないんだけど」
まったく、失礼なと前髪に振れる吾郎にとっても、ボーリングは久しぶりだ。
「ストライク出すなよ」
木村−芥川−拓哉は、ゴッドファーザーから重々しく言われる。
「1ピン残し『で』いいから」
「『でいい』って・・・」
ゴッドファーザーは、木村−芥川−拓哉に1ピン残しをさせて、自分はガーターのみで戦うつもりらしい。

「それではー!」
こっちも、ボーリングな衣装に着替えた慎吾が朗らかに手を上げている。
「本日のご褒美発表ですー!今日は、つよぽんのお誕生日ってことで、模倣犯中居正広の権力を駆使して、叙々苑、しかも游玄亭さんから、肉を持ってきてもらいましたー!焼肉ですー!」
「えぇぇーーー!!!」
それは魅力的な!!
「3チームに分かれて争っていただき、ギブアップした人が全部払うことになります!」
あ、そ、そうだった・・・!剛はおどおどしてしまう。
いや、まて。ぷっすまにおいて、自分とユースケ・サンタマリアは、番組潰しか!といわれるほどボーリングが上手い。メンバーより、確実に回数もこなしている・・・!いける。いけるはずだ・・・!
「ま、ご褒美が分かってた方が嬉しいでしょうから発表しときますね。1フレ、叙々苑サラダ。2フレ、ネギタン塩焼き。3フレ、タラバ塩焼き、4フレ、上カルビ。5フレ、上ハラミ。6フレ、特選ロース、ちなみに4500円。7フレ、レバー刺、8フレ、石焼ビビンバ。9フレ、シャーベット」
夢のようなメニューに、くらりとしていた剛は、9フレでデザート?あれ?と首を傾げる。まさか!まさか、このアイドルたちは、ぷっすま方式を知っているとでもいうのか!10フレに、異常に重たいものをもってくるってことを知っているのか!??
「10フレ、石鍋豆腐チゲ!」
「やだよーーー!!!」

こうして、草g剛お誕生日おめでとう記念、ボーリングルメが始まった。
しかし、メンバーたちはまだ知る由もない。
肉が食える〜、肉が食える〜と楽しみにしていたのに、1フレで見事ストライクを出したあげく、くじ引きでかろうじて10ではなく、9を引いてしまった剛が早々にギブアップしてしまうことを・・・!(なんせ、ヘルプカードがないんでね)

その104
「空から降る一億の・・・」

王様のブランチで紹介されたこともあるフレンチレストラン「レイブ」で働く30歳の下働き、片瀬涼は困っていた。
彼は、コミでありながらもてるので、女の子はとっかえひっかえ。年下から同年代から、年上まで、とっかえひっかえ入れ替わり入れ替わりなのだが、仕事は真面目にやっている。
朝は一番にやってきて、夜は最後に帰る。これぞコミ!
しかし、彼がいくらレストランで真面目に働いていようと、それだけ朝から晩まで働いていては、女の子たちが納得しない。
てな訳で、開店前であるとか、閉店後であるとか、女の子がふらふらやってくることが多かった。
今晩も、一人のガールフレンドがやってきて、なにやらうっとーしいことをゆってみたり、いちゃいちゃしてみたり、なんだかんだあった挙句。
「コンソメが・・・」
作りかけのコンソメがすっかり沸き立ってしまっていた。
これがないと、明日の営業ができない。しかし、コンソメというものは、すぐにはできないものなのだ。どうしても、時間が必要なのだ。
・・・徹夜なら、なんとか・・・。
時計を睨み、翌日の営業時間を思い、冷蔵庫を開け。
「あちゃーー!」
野菜がない!ないことはないが、足りない!
肉がない!ないことはないいが、圧倒的に足りない!
野菜は、手下ちゃんの実家である八百屋に頼むとして、肉は一体どうすれば・・・。

唇を噛んだ片瀬涼の耳に、ある音楽が聞こえてきた。
「・・・黄金のコンドルよぉ〜・・・?」
すでに女の子は帰った後で、レストランには片瀬が一人でいるはず。音楽は何もかけていないし、周囲は住宅街。
しかし、確かに聞こえてくるこの曲は一体・・・?
当たりを見まわしても、誰もいない。誰の気配もしない。しかし曲だけが微かに聞こえてきている。
「なんだっけこれ、コンドルは飛んでいく?アンデスの少年ペペロ?」
片瀬の過去は、アニメ大好き少年だ。
にしても、そんなことを気にしてる場合ではない。近所のアニメおたくだか、フォルクローレに夢中オヤジだかが、かけてるんだろう。
野菜はともかく、肉だ肉!
片瀬は、仕事は真面目にやる男なので、さっそく手下に電話をいれ、実家から野菜を運ぶように言いつける。
後は肉だが・・・。
職場の電話帳から、次々に精肉業者に電話をかけてみたが、もう零時を回っていて、電話に出る人間がいる訳もない。
こーれは困った。
肉なー、肉ー。24時間営業のスーパーでもあることはある。あるが、品質が・・・。それに骨付きのものとかはないだろうしなぁ〜・・・。
「りょ、涼さん!」
「あぁ、悪いな!」
「ど、どしたんですか?なんか、あったですか?」
「まぁ、ちょっとな。バイト中悪かったな」
「いや、いいんですけど・・・」
「あ、おまえさ、肉屋の知り合いとか、いないの。友達とか、近所とか」
「に、肉屋ですか?」
「そう」
「ぼ、僕はいないですけど・・・。オヤジとか、だったらぁ〜・・・」

コトン。

その時、厨房の作業台の上で音がした。

なんだ?と振り向いた二人が見たものは、子羊のローストが美しく盛りつけられた白い大皿だった。
つけ合わせの温野菜の鮮やかな色合いや、マスタードのソースが食欲をそそる。

「に、肉・・・?」
「骨もついてるけど・・・・・・・・・・」

なんとも香ばしい香りが厨房を満たし、あぁ、今あれを食べられたら、さぞや幸せだろうと、手下ちゃんは思ったのだが。
「こーゆー肉じゃねぇーー!!!しかも料理してんじゃねぇぇーーー!!!」
最後に残っていた子羊を料理されてしまい、片瀬涼は叫ぶのだった。

『空から降る一億の吾郎吹雪』

都会の妖精吾郎吹雪。
彼(?)の活躍はまだまだ続く。

その103
「土曜9時、日テレ」

アミカワコウイチは、平凡な、というにはちょっと優秀過ぎる30歳のサラリーマンだ。
彼は今営業マンとして、課内トップに近いセールスを誇っている。
しかし、彼が得意なのは営業だけではなく、おそらく総務だろうと、経理だろうと、企画だろうと、製造だろうと、その優秀さを遺憾なく発揮するはずだった。
その上彼は偉ぶらない。いつでも、朗らかに笑みを浮かべ、ペナントレースの話だろうが、ワールドカップの話だろうが、ゴルフの話だろうが、ココリコミラクルタイプの話だろうが、なんでもする。
出張にいった時のお土産には、狙いすぎず、外しすぎずの名産を、女の子の人数分だけは下回らないように買ってくる。
着ているスーツは、派手過ぎず、地味過ぎず、ネクタイが時々おちゃめ。
お茶を飲む時は、「あちっ」と週に2度ほど猫舌であることを忘れて慌てる。
飲み会は断らない。コンパだって大歓迎。社員旅行も明るく楽しむ。
ただし、幹事をやるというよりも、幹事をこっそりサポートするタイプで、自分も人も、みんな楽しむを心がけるため、彼が一人いると、場の雰囲気は素晴らしくいい。
当然、『お持ち帰り率』は、彼さえその気になれば100%だ。
「お休みの日は何してるんですかぁ〜?あ、でも、お休みなんかないのかなぁ〜・・・」
そんな質問には、
「いやいや、休んでるよ。俺なんか、課長とかに比べたら全然楽。でもなー、なんか最近ゴロゴロすること多くってさー。たまには誘ってよー。映画とか好きなんでしょー?」
と、上司をさりげなく持ち上げつつ、質問してきた女の子が映画好き、というところを外さずに答えられる。
上司にとっては理想的な部下。
後輩にとっては理想的な先輩。
OLたちにとっては、理想的な恋人だったり、理想的な夫。
そんなアミカワコウイチの人生は順風満帆のようだったが。

しかしアミカワコウイチにも、ウィークポイントがあった。
ウィークポイントといえば、弱点。しかし、ポイント、や、点という言葉には不釣合いなほどでかい『弱点』は、名をカタセリョウ、通称「マルデダメオ」と呼ばれている男だった。

カタセリョウ、通称マルデダメオは、30歳のフリーター。世間ではダメンズとも呼ばれている。
彼を、マルデダメオと名づけたのは、もちろん、優秀なサラリーマンであるアミカワコウイチだ。
彼らは、どうやら学生時代に知り合ったようだが、そこらの事情に詳しいものはいない。アミカワコウイチはマルデダメオの話を一切したがらないし、マルデダメオの話は、ウソが多いからだ。
4畳半のアパートに住むマルデダメオは、部屋の電話からアミカワコウイチの携帯に電話をかける。彼は携帯電話を持っていない。
「もしもしー、涼ちゃんですー」
ぶつっ!
ダメオがアミカワコウイチに電話をかけるのは、せいぜい数ヶ月に1度というところだが、必ずすぐに切られてしまうことになっていた。
こうなると、電源を切っているか、電波が届かないところ・・・となってしまうので、大人しく職場に電話をする。
不思議な技で、アミカワコウイチが取引している相手の名前を知ってしまうマルデダメオは、その人間の名を語り、アミカワコウイチに取り次いでもらう。
いつだって最新の情報を、ま、ぶっちゃけ、OLから入手しているマルデダメオによって、アミカワコウイチはいつも電話に出さされてしまうのだ。
「ご用件は」
この時の声は、大変冷たい。
向かいに座っているOLが、「きゃっ♪今日のアミカワさんったら、とってもクール!メールしなきゃ、メール!」と、社内外のアミカワコウイチファンにメールを送ってしまうほど冷たい。
『ご用件は、いつもの件でぇ〜す』
「では、お調べしまして、後程ご連絡差し上げます」
冷たい声、冷たい表情のまま電話を切ったアミカワコウイチは、しばし受話器に手を置いたまま凍りつく。
「ア、アミカワくん・・・?」
例の件はどうなったかね、と、抽象的な質問をしようとした課長が言葉を失ってしまうほど。
しかし、一転、アミカワコウイチは華やかに微笑んだ。
「あ、例の件ですか?こちらなんですが・・・」
と、課長にはファイルを渡し、ホワイトボードには担当企業の名前を書き、出かけてきますと挨拶した時には、いつも通りの彼だった。
「やっぱりアミカワさん素敵・・・!」
また、OLたちの間でメールが飛び交った。

しかし、アミカワコウイチは、笑顔でいなければ怒鳴り出してしまいそうなほど怒っていたのだ。
マルデダメオに対して。
「くらぁ!ダメおぉーーーー!!!」
「・・・涼ちゃんです」
「ダメオで十分だ、ダメオで!」
素晴らしい巻き舌でアミカワが怒鳴る。散らかった4畳半で、テレビを見ていたダメオは、まぁまぁおすわりと手招きする。
「靴は脱げ!」
「靴下が汚れる!」
そんなに汚れている訳ではないが、マルデダメオの部屋だと思うだけで、アミカワコウイチには耐えられない。だったら、と、マルデダメオが差し出してくるコンビニ袋を見て、さすがに首を傾げはしたが。
「なんだ?」
「いや、せめてこれを履いて」
「アホか!!」
常識人として、土足で上がることはしたくない。
しかし、この部屋に靴を履いてあがるのもイヤだ。
そういう訳で、アミカワコウイチは、玄関から動かなかった。
「ちょっと、話しずらいじゃん!」
「聞く気にもならんような話をしようとするからだ」
「だって、依頼があったのにー。ほっとけないじゃーん!」

そう。実は、アミカワコウイチには秘密がある。
彼は、今でこそ、普通(にしては優秀すぎる)のサラリーマンである、アミカワコウイチだが、かつては、『始末屋』だった。
色んなものを始末してきた。
彼が始末してきたものが、あっちの森、こっちの湖、そっちの夢の島、に埋められていたりもする。
群れることを嫌う彼は、いつでも一人で始末をしていたが、始末して欲しい依頼者と、アミカワコウイチの間にいたのが、マルデダメオことカタセリョウだった。
もう就職も決まったし、足を洗うというアミカワコウイチに、そうか、解ったと答えたカタセリョウは、当時、そんなにダメオではなかった。
この先会うこともないだろうと二人は袂を分かったはずだったのだが。

なんせ、マルデダメオなので、困っているとか、苦しい、とかいう言葉に、気まぐれに反応し、勝手に依頼を受けてしまうことがあるのだった。

「依頼を受けるなってゆっただろーーー!!!」
「ぐるじーぐるじーー!!!押さえてる押さえてる!気道押さえてるー!!」
玄関までずるずる這ってきたマルデマデオの首を、大きな手で締めつける。こんなものはポイントさえ押さえておけば、大した力は要らない。
「無意識に殺しテクを使わせるなっ!」
顔色が変わってきたので、ちゃいっ!と玄関に投げ捨て、迷惑そうにアミカワコウイチは言う。
「無意識に殺しテクを使うなっ!!」
「あーー、なんでこいつを始末しておかなかったんだろーー!!」
「まぁまぁ、そう言わずに。これまた泣ける話だから」
「いやだーーー、聞きたくねーーーー」
マルデダメオの話は、叙情に流れすぎるきらいはあるが、アミカワコウイチの、通常よりはクールな常識に照らし合わせても、気の毒っちゃ、気の毒、ということが多い。
聞いてしまったが、最後、それを聞かなかった昔には戻れない。

こうしてアミカワコウイチは、優秀なサラリーマンでありながら、奇跡的に優秀な始末屋としても働くことになってしまうのだった。

・・・っていうような、土曜9時日テレ枠はどうかなと思って・・・。
マルデダメオは、ホントにマルデダメオなんで、依頼者の紹介しかしないし、そこしか出てこないくらいがいいです(笑)

その102
「Smaaaap Hokkaaido」

北海道のどこかにある稲垣牧場は、明治時代からの歴史を誇る由緒正しい牧場だ。酪農を主とし、乳牛が150頭。羊が200頭。また、乗馬用の馬も飼育しており、そちらは50頭を数える。
今現在、牧場を経営をしているのは、稲垣兄弟。兄の吾郎と、弟の剛だった。
「ご苦労様」
事務所にいた吾郎は、額に汗した状態で入ってきた弟に声をかける。
彼は、上野動物園裏東京芸者大学、通称、東京芸大にて、バイオリンと三味線を体系的に学んでいた才媛だ。卒業後は、神楽町近辺で働きつつ、バイオリンの研究家になる予定だったが、両親の突然の死により、故郷に戻ってきていた。
「あ、おはよう」
あー、暑かったと額の汗をぬぐっている弟の剛は、北海道から出たことがまだない。彼の地元への想いは、北の国からの田中邦衛より深いのだ。牛を愛し、羊を愛し、馬を愛す。彼の一日は、それらの愛する動物たち、いや、家族たち!の世話で始まり、その世話で終わるのだ。
「珍しいね、吾郎ちゃんがこんな時間に起きてるなんて」
「失礼な」
しかし、本来夜型の吾郎にとって、朝の7時半というのは深夜の範疇にいれてもいいくらいの時間。その時間に吾郎が起きて、事務所で仕事をしているのは、気になることがあったからだ。
「それで、羊は?」
「あ・・・」
剛は困った顔になった。
「まだはっきりしないんだけど・・・」
巨大な稲垣牧場では、最近、羊の数が減ってきている。

ような気がしていた。

いくら家族!とはいえ、羊は200頭。200頭が、198頭になったからといってすぐに気がつくものではない。
でも、どうもおかしい。エサの減り方がゆっくりになってきているし、顔なじみの羊たちの中、ここ暫く剛の側にきていない羊も1頭いる。
羊が自主的に出ていっているとは考えにくいから、当然、盗まれていると見るのが普通だろう。
むぅ。
吾郎は左手で持っていたペンを握り締める。北海道に帰る時に、女性教授から戴いたものだ。
「飯ー!」
事務所の隣は、食堂になっていて、そこから稲垣牧場のカーボーイの声がした。
朝から一働きした後、朝食を作っているのは木村拓哉。産まれついてのカーボーイだ。彼の父も、祖父も、カーボーイだった。産まれたのさえ、この牧場という彼は、カーボーイを仕事とは考えていない。彼はただ、呼吸をするように、カーボーイであるのだ。
「ま、とにかく、一度、ちゃんと数えてみよう」
「うん・・・」

テーブルについた二人の前には、朝からどんだけ食べさせるねん、という大量の食事が置かれていた。朝から働く剛や木村には何でもないだろうが、朝は、ハーブサラダを少々とクロワッサン、カフェオレでいいや、という風に見える吾郎も、大量に食べる。
その上。
「うー・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・起きてきたぞ・・・」
「うわー・・・、珍しいー・・・」
木村や、剛が目を剥いた。開いたドアの向こうにいたのは、なにやら、ドロドロととろけそうになっている巨大な男だった。
「おーーばぁーーーよぉーーーーーー・・・・・・・・」
「お、おはよう・・・」
ズルズルと、体全体を引きずるようにしながら、テーブルについたのは、稲垣牧場のもう一人のカーボーイ、香取慎吾だ。
彼はよく働くが、朝は病的に弱かった。自力で起きてきただけでも、3人は驚いてしまう。
慎吾は、近所の子供だった。大雑把に言えば、お隣、と言っていいかもしれない。お隣までは、十数キロあるが。小さい頃から、稲垣牧場で遊んでいた彼は、ごく自然に、稲垣牧場で働くようになった。動物ももちろん大好きだ。いつも、先輩の木村から、蹴られようが、踏まれようが起きない慎吾が、遅くなっても、自力で起きてきたのは、羊たちのことが気になっていたからだった。
「あのー・・・、ひつじーーー・・・わぁーー・・・?」
コーヒーを飲まなくては・・・!とガブのみしようとしている慎吾に尋ねられ、3人は黙り込んだ。牧場を一回りしていた木村にも、どうも、数が少ないような気がしている。
しかし、稲垣牧場は北海道の中でも、かなり不便な場所になる。こんなところまでやって来て、羊を、5頭や、10頭だけ持っていったとしても、大して利益はでそうもない。
そりゃあ、稲垣牧場の羊毛と言えばかなりの高級ブランドだが、それなら余計に頭数が必要なはずだ。
「今日は、羊を集めるから」
木村の声に、3人は頷いた。

今の季節、羊は放牧中なので、二人のカーボーイと、牧羊犬だけで集めるのはなかなか大変だ。
しかし、木村は産まれついてのカーボーイ。そんなことくらい任せとけと、栗毛の愛馬にまたがったまま、牧場へと出る。
「ん?」
「どしたの?」
その後に続いた慎吾は、視力、どうやら、3.5あるという木村の視線を追っかけた。
「誰か、来る」
「誰か?え?車なんていないよ?」
「車じゃない」
木村は、腕を伸ばして、その先を指差す。
「えぇ・・・?」
人並の視力しかない慎吾には、それから5分ほどしてから、ようやく誰かが見えてきた。
しかも、馬に乗っている。
木村も、慎吾も、テンガロンハットをかぶっているが、それは、とてもシンプルなもの。しかし、その馬に乗っている人物のテンガロンは。
「・・・羽ついてる・・・?」
「ついてるなぁ」
「なんか、なんか、不思議な手袋してる!?」
「革だなぁ」
のんびり言っているが、木村には解った。
彼は、産まれながらのカウボーイ。
だからこそ解るのだ。
今、稲垣牧場にやってくる男は、本物のカウボーイだ。

産まれながらのカウボーイVS本物のカウボーイ。
稲垣牧場に、本物のカウボーイ、中居正広がやってきたのは、そんな朝だった。

どうなる!稲垣牧場の羊たち!!

その101
「お中元」

『中元』
・道教で、人間贖罪の日として神を奉った日。
・旧暦七月十五日のこと。
・この時期の贈り物。七月の初めから、十五日にかけて、世話になった人などに贈る。

そう考えると、『それ』は厳密にはお中元ではなかった。
しかし彼は、サラダ油詰め合わせを、きちりと紫の風呂敷で包み、捧げ持っていた。
さすがに。
重い。
しかし、やはり定番としてはずせないと思っている。
ぴしりと背筋を伸ばした彼は、人影のない廊下の先をじっと見つめていた。
これを渡すべき人がくるのに、まだ時間があるはずだった。いつだって遅れ気味なのだ。
もっとも、遅れても、来れば上等。来ない可能性もあるのだ。だから、食品などを用意する訳にはいかなかった。今日渡せなければ、次のチャンスは、1週間後なのだから。

廊下に響く足音。
彼はさっと顔を上げた。
角を曲がって、ノンキそうに歩いてきていた男は、彼の姿を見て、一瞬立ち止まった。
視力、測れば2.5を越えるだろう彼は、その表情から、『しまった』という言葉を感じ取る。しかし、逃がすつもりはなかった。
今日こそは、これを渡さなくてはならない。
「Tさん、おはようございます」
「あ、お、おはよう。は、早いねぇ」
早くはない。彼は入り時間通りに仕事場にやってきている。
「えぇ」
しかし、彼はニッコリと微笑んだ。もちろん、顔でも商売している彼なので、微笑まれると、ぽっ、となってしまう人間は多い。Tも、ぽぉ、っとなってしまった。
そこに畳み掛けるように、風呂敷包みを差し出す。
「これ、体にいいそうなので」
Tは、いつも忙しそうだ。仕事なのか、遊びなのかはともかく、忙しそうにしている。
「あ、いや、こんなことをしていただいては」
「いえいえ、いつもTさんにはお世話になってますし」
「そんなそんな」
「いやいや」
重たい風呂敷包みが、二人の間を何度も往復させられた。
「Tさん?」
そのうち、低い声で言ったのは、彼の方だった。
顔は笑顔だが、声が低く、奥歯を噛み締めているのが感じられた。
「ぜひ。どうぞ」
「・・・ど、どおも・・・」
一音、一音をはっきり発音され、Tは、ずしりと重たいサラダ油セットを受け取らされた。実際の重み以上に重く感じられるのは、そこに彼の想いがたっぷり詰まっているからだろう。
「あの、ありがとう、ございます」
「いえいえ。ま、あの、それとは全然関係のない話なんですけれども」
「え?な、何が」
「えぇ、あの。そういえば、そろそろじゃ、ないですか?」
「あぁ、そ、そうですねぇ」
Tは足早に廊下を歩み出す。しかし、Tと彼が目指す場所は同じだ。
「もうね、やっぱり、そろそろぉ・・・」
「そう、そうなんですよ。えぇ、その。調整中でして」
「あぁ。調整中。・・・でも、あれですよね?調整役は、Tさん、なんですよね?」
「んー、いやー、ほら。僕も、ね、あのー、サラリーマンですし」
「あっはは!」
彼は、ばしーん!と、Tの肩を叩いた。
「まったまた、冗談ばっかし!」
「はは!」
「あははは!」
「はははははっ!」
笑いながら、Tは、少し泣きそうになった。
サラダ油は重いし、彼に叩かれた肩は痛いし、調整は多分難しいし、そもそも、調整した結果、あの人を納得させなくてはいけないのは、きっと、自分だ・・・!
「まぁ、もう、ね。もうそろそろ。ねぇ。去年は色々ありましたから、ここはやっぱり」
「あぁ、あぁ。そうですよね。えぇ。解ってます。はい。えぇ、はい、はい」
「楽しみですねぇ」
「あぁ、ほんとにねぇ、楽しみですねぇぇ〜〜」

「あ、木村さん、トバリさん、おはようございます」
「おはようございます!」
「お、おはよおございますぅ・・・」

SMAPの新曲は、そのサラダ油によって、上手く行ったとか、いかなかったとか、関係ないとか、中居の抵抗が激しかったとか、色々言われている。


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