天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第1話『病気の弟に届ける(後編)』

めっちゃ短い前回までの話。

「早坂由紀夫として生きていく決心をした由紀夫は、最後に蘇った記憶をたどり、義理の弟、溝口正広に会いに行く」短すぎ(笑)でも、それだけの内容やったもんな(笑)

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今日の由紀夫ちゃんのお仕事

その1.届け物「ボールとグローブ」届け先「溝口正広」

その病院には、たくさんの子供が入院していた。子供特有の甲高い騒ぎ声と、消毒の匂いのアンバランスさに、武弘は眉をひそめる。

義理の両親がいない事を確認して、武弘は正広の病室に入った。ベッドに横になり、点滴を受けていた正広は、ふいに開いたドアに、驚いたように首を向けた。
「兄ちゃん!」
「大丈夫か」
ぶっきらぼうに、由紀夫は言う。
「大丈夫だよぉ」
正広は、起きあがろうとして失敗しじたばたしながら、笑った。
「大袈裟なんだよ、こんなもんまでしてさぁ」
細い腕に刺さっている点滴を指差しながら、なおも起き上がろうとする正広を、武弘は止めた。
「外れたら、どーすんだよ」
「いいよぉ、ねぇ、兄ちゃん、何してたの?どこにいんの?」
「いいから、ほら」
肩を押さえて横にさせると、子供っぽく口を尖らせながら、正広は武弘を見上げる。

正広が、すっかり色白になっている事に由紀夫は気づいた。正広は元々色白だったが、それが解るのは、冬のほんのわずかな期間くらいだった。それ以外は、ずーっと外で遊んでるため、真っ黒。そんな正広が、そろそろ夏なのに真っ白なのは、どれくらい長い期間ここで、こうしているのかが解るような気がする。

「兄ちゃん」
横になったまま、正広は言った。
「兄ちゃん、もう帰ってくる?」
「えぇ?」
「うち、帰って来ない?」
「…来ねぇよ」
「そっかぁ…」
解ってた、って言うように、自由になってる足をバタバタさせる。
「でも…、あんがと。お見舞い来てくれて」
「あぁ…」
「俺、大丈夫だからさっ」
ニコっと笑い、元気よく正広は言った。
「俺さ、一年だけど、野球部レギュラー寸前だったんだぜ?退院したら、すぐ復帰だよぉ」
得意そうに言う正広を、ベッドの横の椅子に座った武弘は見ていた。
「そんで、高校行ったら、甲子園じゃん?そっから、プロ野球!10年後の巨人のエースだかんね、俺」

正広は、両親と、兄の確執を、どこかで自分のせいだと感じていた。正広にとっては、兄も、両親も大事な人で、どうにか両者の間に入りたかった。だから、両親に気に入られるように、元気に、明るく、いい子でいたけれど、自分がそうすればするほど、両親は兄を疎んじるように見えて、そして、兄が自分を嫌うように思えて、辛かった。
それでも。
正広には、そうする事しかできなかった。自分を嫌ってるはずの兄が、誘えば嫌がりながらでもキャッチボールをしてくれる。
兄ちゃんは、自分を嫌いじゃない。
前の通り、元気にしてれば、またキャッチボールしてくれるだろう。そう思いながら、一生懸命喋っていた正広の言葉は、武弘の呼びかけで遮られた。

「ひろ」
『武弘と、正広と、ひろ、がお揃いだね』と言った正広は、武弘に「ひろ」と呼ぶように言っていた。自分もひろなのに、という武弘に、だって兄ちゃんは自分の事をひろ、なんて呼ばないだろ?と押し切られて。
その約束のままに、武弘が、静かに名前を呼ぶと、天井を見上げるように話していた正広が、くるんと武弘の方に顔を向けた。頬を紅潮させ、大きな目を見開くようにして。
「ひろ…。大丈夫、か…?」
見開いた正広の瞳に、見る見るうちに涙がたまる。

武弘は、結局家を出てしまった。

もう、自分は野球もできない。

元気で、丈夫で、明るくって、ずっといい子にしていたのに。

理不尽な想いにかられ、入院してから始めて正広は泣いた。
「も…、俺…っ、野球できない…!」
自由になる片手で、ごしごしと涙をこすりながら、正広は泣く。
「もお…、できない、よぉー…!」

『手術が成功すれば命に別状はないが、完治はしない』武弘が永井から聞かされたのは、その程度の事だった。でも、完治をしないという事は、今後、正広はスポーツをする事は不可能だと言うことで、本気でプロ野球を目指していた正広にとっては、死刑の宣告にも近いものだったかもしれない。

武弘は、弟が泣いてるのを見て、心から驚いた。
いつも陽気で、元気で、泣くような子供じゃあなかったのに。
「ひろ…」
無理してたんだ…。そう思う。病気より、野球ができない事の方が辛かったろう。泣きなれてないものだから、小さな子供のようにしゃくりあげながら、涙の止まらない正広をどうにしかしたくても、武弘には何もなくて…。
「ひろ、ほら」
持っていたバンダナを顔の上に落とす。細い指が、ギュっと握りしめる。

「また、来るから」
「…」
バンダナの下で、正広の表情は解らない。
「今日、俺、手ぶらでさ」
わざと明るい言葉で。
「今度、なんか、いいもん持って来てやるよ」
一度大きくすすりあげた正広が、ちらっとバンダナの影から、武弘を見上げた。
「今度…?」
「今度。何がいい?」
じーーっと、武弘を見てた正広は、そのバンダナで涙をふく。目のふちと、鼻の頭を真っ赤にして、それでも、正広は笑った。
「ってゆーか、その今度って早くないと、俺、退院しちゃうよ?」
「そうなの?」
「そうだよぉ。すぐ手術して、すぐ退院なんだから」

そして、3年。

正広は病院を変え、まだ入院していた。


「兄ちゃん…?」
ベッドに起きあがって、雑誌を眺めてた正広は、3年経ったとは思えないほど、正広の外見はあまり変っていない。細い体は、ほとんど大きくなってなかった。入院してるのに、なんで?と思う薄い茶色の髪。色白の顔に、目ばかりが目立つ。
「久しぶり」
「ひ、久しぶり…って、ねぇ、兄ちゃん?」
「そうだけど…、ちょっと違うか」
「違う?」
正広は、美樹と同じように、武弘はもう死んだものと思っていた。武弘は、めったにしなかったけど、したとなると正広との約束だけは、守っていたから。

「ちょーっと記憶喪失になってて」
明るく、軽く言う兄を、起きながら夢を見ているような顔で、正広はじーっと見つめた。笑ってる。正広の知ってる兄は、ほとんど笑うようなことはなかったし、笑う時は、イヤミな、冷たい顔になった。
「記、記憶喪失…?」
「そう。おまえの事思い出したの、今日になってから」
「忘れてたの…?」
由紀夫は、正広が呆然と呟くのを見て、申し訳ない気持ちになる。

「あの…、ひろ…」
二・三歩足を踏み出すと、何の前触れもなく正広の大きな瞳から、ボロボロと涙がこぼれはじめた。
「あ、ゴメンっ!」
慌てて飛んで行き、細い、狭い肩を抱く。
「いや、あの、あれこれあって…!悪かったって!ひろ?ちょっと?」
「よぉ…かったぁー…」
笑った声で、正広は呟いた。
「え…?」
「もう死んじゃったのかとか、そうじゃなくって、俺が嫌いだから来てくんないんだとか、ずーっと思ってて…」
パジャマの袖で、涙をぬぐう。
「兄ちゃん生きてたし、俺のこと忘れてたけど、でも、思い出して来てくれたし…」
そこでまた泣けてきたらしい。
「よかったぁー…、よかったよぉー…!」
ベッドに腰掛けた由紀夫の腕をつかんで、笑いながら、正広は泣いた。

気が済むまで泣いて、ようやく正広は由紀夫の腕を離す。
「兄ちゃん、ずっと、何してたの?」
「ん?届け屋」
「届け屋?」
今の自分は、早坂由紀夫という名前で、何をしていて、どこに住んでいて、を正広に説明する。一緒に仕事をしてる、奈緒美たちの事も。
「早坂、由紀夫かぁ…。いい名前だね」
「そうか?」
「いい名前だよ。じゃあ、兄ちゃん、まだ三つなんだ」
「そう、みっちゅ。お兄ちゃん、お小遣いちょーだい?」
ふざけてジャレついてくる由紀夫に、正広は嬉しくてしかたなくなってきた。

ずっとずっと、こんな風にしたかった。
どこにでもいる兄弟みたいに、ふざけたり、じゃれあったり、ケンカしたり、遊んだり、いろんなことがしたかった。

「おまえ、手術成功したんだってな」
3年前みたいに、こそこそ隠れてくるつもりはまったくなかった由紀夫は、正広に会うより前に主治医の先生に話を聞きに行っていた。やたらと背の高い、足の長い、色の黒い、モデルばりに男前の先生(友情出演)は、正広の状態を懇切丁寧に教えてくれる。
「うん、そう」
体調の変化なんかがあって、手術できるだけの体力を整えるのに時間がかかったけれど、手術は成功していた。後は、退院するだけだったのだが。
「おまえ、どうすんの…」
由紀夫に尋ねられて、正広は首を傾げる。
「だって」
「あぁ、お父さんたち?」
これも、主治医の森先生(趣味バイク・車)から教えてもらった事だが、溝口の養父母は、一年ほど前に事故で亡くなったという。不幸中の幸いは、保険金だの慰謝料だの(こっちが徒歩、向こうが車だったせいもあり)がわんさか入り、正広は当面金に困る事だけはない事。
「兄ちゃんにも知らせたかったんだけど…。ごめんね」
「いや、それは…」
別に、仲のいい親子関係じゃあなかったから…と思ったけれど、先生から、養父母が死んだ事を聞かされた由紀夫は、自分でも驚くほど胸が痛かったことを思い出す。
「育ててもらって…」
「え?」
「引きとってもらって、食わせてもらって、大きくしてもらって…。ありがとうって言わなきゃいけなかったんだよな」
「兄ちゃん…」

病室に、夕日が入ってくる。しばらく二人は黙っていた。

「そだ、これ」
由紀夫は、持っていた紙袋を正広に渡す。
「何?」
「お見舞い、っつーか。退院祝い?」
袋の中の包みを開けて、正広は小さく歓声を上げた。
「もーさぁ、中味ばればれなんだけど…。俺、それっくらいしかおまえの好きなもん思いつかなくって」
「グローブ…」
嬉しそうに、グローブを手にとって、正広が笑顔になる。
「んで、俺のがこっち」
手品のように、由紀夫がグローブを取り出す。
「また、やろうな」
袋の中に残ってたボールを、正広のグローブに置いて、由紀夫は言った。

「退院したら」
真新しいグローブの、あちこち触ってる正広に声をかける。
「一緒に暮らす?大した部屋じゃねぇけど」
「いいのっ?」
「青少年の健全な育成には向かない生活だけどな」
「今更なぁに言ってんのぉ?ホントに兄ちゃんー?」
グローブをした手で、バンバン由紀夫を叩き、正広は大笑いした。

正広と暮らすんだったら、とりあえず千明に毎朝来るなと釘刺しとかなきゃいけないなと、由紀夫は思った。

<おわり>

…、もう何時やねん。5時か!いつまでやってんねん!寝ろや!今朝は6時45分会社集合で仕事ちゃうんか!…ほな、もう起きとった方がえぇね(笑)でも、夜中に寝てて、早朝起きたんだよーん。

そんな訳で、次回以降、正広くんが登場する場合もありましょう!

黒ラブ様、色々とネタをありがとうございましたー!次回、来週の水曜日!にできるかにゃ?

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