@今日のつっこみ・円周率篇(前編)
寺脇研が(ちがー)円周率を3にするといったとき、わたしは、重要なのは円周率という概念や考え方であって、それがわからんちんには3だろうが 3.14159 だろうが同じことではないかなあ、程度の感想しか持たなかった。つまり特に拒否反応を感じなかったわけだ。その後、あちこちで否定的意見が見られるようになって、へー、と思ったのである。というのが前段階。
それからだいぶたって、朝日新聞のとろんコーナーである「eメール時評」の9月 17日分に、いとうせいこう氏が「円周率は約3でいいか」という記事を書いた。以下、引用しつつわたしの感想を述べる。
教育の体系は刻々と変わっており、今の小学生は漢字を書き順通り書く必要がなかったりしているらしいが、このところ子を持つ親と話すと必ず話題になるのが円周率の変更である。
あの円周率がじき「約3」と教えられることになるという驚がくすべき事実に、どの年代の親もとまどいを隠せていない。
あのわけのわからない数字の連鎖に対する懐古趣味では決してない。3.1415……はそのまま「割り切れなさ」の不思議として文科系の僕にも数学の核心を印象づけたのだし、割り切れないからこそ 3.14 と「みなしておく」という思考過程にも数学の基盤があったはずだ。
そこには勉強を始めたばかりの人間の前に現れる数学的思考への契機がある。残念ながら以後チンプンカンプンだった算数に、今なお僕がどこかで敬意をおくのは、以上のことを円周率が教えていたからである。
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なぜここで文科系が、というのは置いといて、いとういせいこう氏個人にとって、「円周率が数学的思考への契機」になり「数学の核心を印象づけた」のだろうとしても、他の誰もが同じだとは限らないという点は指摘しておかねばならない。さらに、円周率だけにその役割を与えるのだとしたら(そうはいっていないが)、それは無茶というものである。数学の持つ「センス・オブ・ワンダー」を教えたり感じさせる手立ては他にいくらでもあるだろう。同様に、「みなしておく」という思考過程を教えることだって他の方法で可能である。いや。むしろそれは円周率以前に教えておかねば、円周率の理解にも苦労してしまうのではないか、わたしはそう考える。
引き続き同氏の記事から。
そしてまた、僕以外の多くの人にとっても、やはり円周率というものが円周を求めるだけの存在ではなかったことは、あまりにあちこちでこの話題が出てくることことでもわかる。
0.3333……を三分の一と呼ぶことと、3.1415……を約3と呼ぶことは似ている。似ているのだが、むろん天地の隔たりがある。前者に「割り切れなさ」と「みなし」という抽象思考があるのに対して、後者にはただ単なる「漠然」と「あきらめ」があるだけだからだ。
円周率の名前を約3にするのなら、授業の名前も約算数とか約数学にすべきである。言葉の厳密な意味にかかずらう文科系としてはっきりそう訴えておく。
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「0.3333……を三分の一と呼ぶことと、3.1415……を約3と呼ぶこと」は似ていないとわたしは思うが、これも置いといて、「円周率の名前を約3にするのなら、授業の名前も約算数とか約数学にすべきである。言葉の厳密な意味にかかずらう文科系としてはっきりそう訴えておく。」というのは厳密から程遠い意見にしか思えない。厳密な意味では、3がダメなら 3.14 だってダメだろう。もし、学校で教える円周率が 3.14159 なら、算数をなんと呼べばいいのだ。それに、言葉の厳密な意味にかかずらうのは理数系も同じである。ここには数式を言葉とみなせない「文科系」の弱点が透けて見えるし、むしろいとうせいこう氏のような文科系作家は、言葉の厳密な意味からもれてしまいがちなある種の感情や雰囲気といったものを表現していくのが主たる仕事ではないんだろうか。
といったようなことを、この記事を読んだわたしは感じたのだった。
するとその日、「できるかな?」の日記の17日分に、以下のようなことが書かれた。
「円周率を約3にするのなら、授業の名前も約算数とか約数学にすべきである。言葉の厳密な意味にかかずらう文化系としてはっきりとそう訴えておく。」from 朝日新聞の朝刊「eメール時評」いとうせいこう。この意見は、「そんなこと、最初からそうだ」ってことが判っていない「典型的な勘違い」だと思う。シミュレーションや計測をすると、そういうことが理解できていない人達に限って、盲目的に信じてしまう傾向があるが、それとどこか似ている。文化系とか理科系とかそんなこと関係なくて、単にいとうせいこうが「何かを絶対視したがってる」だけ。ゲーデルの爪の垢を煎じて飲んでみるのも良いのではないだろうか?
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ホントだよね、うんうん、とか思っていたら、次にすのものさんが「いろいろ」の 2000-09-18 (1) 日分に次のように書かれた。
小学校の算数で円周率を約 3 と教えるようになるなんてとんでもない、という話はあちこちで聞くが、 3.14 と教えるにしたって近似である。しかし、(3.14159265359 - 3.14) / 3.14 * 100 = 0.05072145190446 だから、この近似の誤差は約 0.05% にすぎない。 1 メートルの 0.05% は 0.5 ミリメートルであることを考えると、ここまでの精度が要求されることは日常生活ではまずあるまい。直径をここまでの精度で計ることは不可能だから、それに円周率を掛けて円周の長さを出すにも円周率の精度はこのくらいで十分だ。
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これを受けて、わたしが「数学者にそういわれたら、いとうせいこうも反論できまい」と書いたことに反応があったのである。ふう、やっとここまできた。長くなったので続きはこの後だ。
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