ウォーターウラウン フラワーティアラ  1




☆ 一 ☆

 海からの風が港に吹き込んでいた。
 結い上げたキャラウェイ姫の髪の後れ毛が、首をくすぐるようになびいていた。
 いよいよ船に乗れる。もうすぐ海に出られるのだ。
 波の音。ゆっくり飛ぶカモメ。
 うれしくて走り出しそうな心を抑えて、ゆっくりと、ドレスの裾を上げながら進む。
 船にかけられたタラップへと向かいながら、今、別れを済ませて来たターメリック国王夫妻・・・両親のいる城をちらっとふり返る。今も、父と母は窓から見守っていてくれることだろう。
 「足元、お気をつけください。お手を」
 ローリエ国の海軍少佐が手を取った。ローリエ国は、これから彼女が嫁ごうとしている国であった。
 「ありがとう」
 レースやビーズの豪華な裾をさばきながら優雅に微笑む。ところが心の中では、こんなことを考えていた。
『嵐の甲板にいた時だって、よろけたことさえなかったのよ。船は素人じゃないわ。甘くみないでよ』
 とんでもないお姫様である。
『キャリー。明るくて元気なのは、確かにおまえのいいところです。でも、ローリエへ行ったら、ターメリックの恥にならないよう、おとなしくしているんですよ。花嫁修行も真面目にやるのよ』
 母は何度も念を押した。
『わかってるわよ、おかあさま。もう、四年前の無謀な邪邪馬じゃないのよ』
『元気のよかった私の妹でさえ、ローリエという大きな国の王妃でいるのはかなりの心労だったのでしょう。嫁いで五年で病死してしまったの』
 可愛がっていた妹の死は母にもショックだったらしく、叔母の話は何回か聞かされた。 
『みなさんに嫌われないように、ずっと猫かぶってるのよ。できるわね?』
 娘も娘なら、親も親だ。
 だが、王妃にそんな心配をさせるほど、ローリエは大国だった。我がターメリック国などは、ローリエの伯爵家程度の規模の国でしかない。
 キャラウェイを迎えに来たこの船の豪華さと言ったら。
 侍女たちを従えて船に乗り込んだ彼女は、客室に案内されながらもきょろきょろ船内を見回した。この船は、一応戦艦のはずだ。海軍が率いているし、大砲の装備も確かにある。だが、まるで豪華客船のような装飾だった。
 細かい草木の模様が彫り込まれた木の壁。重厚な扉。ローリエ国の紋章の鷹の飾りつきの真鍮のドアノブ。窓枠にも彫刻がされている。カーテンは質の良いビロウド。金の房で飾ってある。
 「ローリエの軍艦の船室は、みんなこんなに贅沢なのですか?」
 タバスコと名乗る少佐は笑いながら、
 「いえ、高貴な方をお乗せする時のための、とっておきの一艦です」
 「軍艦に高貴な人用があるなんて、お金持ちの国は違うわね。陸軍には、高貴な人用の豪華な戦車なんてあったりして」
 侍女のパセリが「お姫さま!」とたしなめたが、タバスコ少佐は、もう笑っていた。
 「し、しつれい。その件は国に着いてから陸軍少佐にでもお尋ねください」
 まだ笑いをこらえている。
 少佐といっても彼はまだ若かった。二七、八歳くらいだろうか。陽に焼けていて、笑うと白い歯が光った。
 「こちらが客室です」
 「あ、は、はい」
 「一週間程度の旅になります。ご窮屈でしょうが、ご辛抱ください。 では、失礼します」
 少佐は最敬礼をして部屋を出ていった。

 「あーあ。疲れたー」
 キャラウェイは、クッションのきいたソファに倒れこんだ。
 「こら、お姫さまったら。まだ一時間しかたってませんよ」
 「一時間でこんなに疲れるなんてー。むこうでずっと猫かぶってる自信、ないなあ。
 バージル王子は、歳も十四歳も上だし、無口できついひとなのよ。イトコと言っても血はつながっていないし。息がつまりそうだなあ」
 「でも、知的でハンサムな方なのでございましょ?真っ直ぐの黒く艶やかな髪と、漆黒の瞳の美しい殿方と聞いておりますわ」
 「確かにハンサムだけど、冷たくて、何を考えてるかわかんないヒトだわ。
 あ、あとね、バージルの黒髪と黒い瞳について触れてはダメよ。気にしてるから。
 バージルは愛妾の息子なのよ。国王には他に子供がいないから、彼が王位継承者になっているけど、庶子なわけ。お母様が東方の人で黒髪黒い瞳だったらしいわ。
 神秘的だし珍しくて素敵なのに、なんで気にするのかなあ。庶子だからって卑屈になることないのに。スケールの小さなオトコよねえ」
 「姫っ、言葉をお慎みください!」
 またパセリの檄が飛んだ。キャラウェイはペロリと舌を出す。
パセリはため息ついた。
 「もうハタチだというのに、男の子みたいで・・・。よその国のお姫様はみんなもっとレディでしょうに。
 せっかくこんなにお美しいのに、もったいないったらありゃしない」
晴れた空のような明るい水色の瞳。丸い目がくるくると、よく動く。口の悪いお喋りな唇は珊瑚のピンク。閉じてさえいれば天使の唇だ。金色の細い髪と白い肌。
四年前までの、陽に焼けた赤茶色の髪と、小麦色のソバカス少女の面影はない。
「大丈夫よー。ちゃんといいコにしてますってば。それに、ローリエ国に着いてすぐ結婚するわけじゃないし。半年の教育期間をおいて式を挙げるのよ。その間にローリエのしきたりや作法を勉強するようにという、バージルの計らいなの」
「王子は姫のオテンバぶりをよくご存じなのですね。もう少し教育が必要だということが」
「失礼ねっ」
キャラウェイはふくれた。

 キャラウェイは五人兄妹の末っ子だったせいか、かなり自由に過ごすことができた。
 裁縫やダンスより、兄たちやまわりの軍人から剣の扱い方を教わるのが好きだった。今でもたぶん腕は落ちていない。美しい詩や戯曲を読むより、戦記もの、特に海戦ものの小説を好んで読んだ。普通の学問そっちのけで、海図や磁石の読み方を覚えた。
 ターメリックは、海の国だった。小さな国だが、貿易が盛んで、決して貧乏ではない。ローリエがこの国と婚姻でつながりをもちたいのは、この国の港のせいだった。
 城も、海が見える高台にあった。キャラウェイは海を見ながら育った。

 銅鑼が鳴っている。錨があげられているだろう。船が揺れ始めた。
 キャラウェイは、窓にしがみついて外を見た。
 「あ、動き出したわよ。ほら、ほら、滑り出した、この感じ!」
 すっかりはしゃいでいる。船に乗るのがうれしくて仕方ないのだ。お輿入れだって自覚は微塵も感じられない。
 「姫は本当に海がお好きですね。四年前までは、王様に内緒でよく船に乗っていましたものね」
 王室に出入りする商人をおがみたおし賄賂をわたし、キャラウェイはたびたび商船に乗せてもらった。もちろん身分は隠して、商人や貴族の娘ということにして。
 乗ってしまえばこっちのものなので、今度は船長に頼んで、水夫にまぎれて船の仕事をさせてもらったりした。
 「四年前、嵐に遭ってローリエ国の港に辿り着いた事件以来、船に乗るのは諦めてくださったみたいで、侍女長としてもほっとしておりますのよ。
 危険なことは、本当にもうおやめくださいね。あの時は寿命が縮まる思いでした」
 パセリは自分の肩を抱きしめて震えた。
 窓辺のキャラウェイは、少しずつ早く離れていく陸を見ながら、
 「嵐・・・。嵐かあ。ほんとに嵐だったものね」とつぶやいた。
 「あれから、二度と船に乗りたいとはおっしゃらずに今日まで。よほど恐ろしかったんでございましょうね」
 パセリの言葉に、キャラウェイは苦笑したが、何も反論はしなかった。
 波の音。船の揺れるこの感じ。
 キャラウェイの胸に、さまざまな思い出がよみがえってくる。
 いや、思い出じゃない。忘れてなどいない。
四年の間、決して忘れてなどいなかった。
 最後の航海で出会った、銀の髪の海賊。
 キャプテン・ジンジャー。あの青年のことは。


☆ 二 ☆

 それは、キャラウェイが十六歳になって間もない頃。
 パセリの実家に遊びに行くという嘘をついて、家族に内緒で五回目の航海へ出た。
 商人のガラムマサラの娘ということで、彼の船に乗せてもらったのだ。
 行き先は、ローリエ国の南方の港・ガーリック。往復十日程度の旅。積み荷は香辛料と豆、小麦粉など。水夫たちも、ガラムマサラからよほど『娘を大事に扱え』と言われているのか、紳士的にキャラウェイに接した。
 それだと仕事を手伝ったりマストに昇ったりのオテンバができず、お嬢様してなければいけないので少しつまらなかったが。だが、天候もよく、甲板に出て海風を浴びたり潮の香りを味わったり、それだけでも楽しかった。水夫たちが働くのを見るだけでわくわくした。

 海の天候は変わりやすい。
 だが、人の運命もこんな風に急に変わってしまうのだと、この旅でキャラウェイは知ったのだった。
 運命を変える出会い。キャラウェイの運命が急変したのは三日目だった。
 晴れた朝だった。
 キャラウェイは甲板に出ていた。霧も靄もなく、海は遠くまで見渡せた。
 と、海上に小さな黒い点が。
 「海賊だ!海賊船があらわれた!」
 もの見の見張りの声が船に響いた。
 速度を上げて見る見る近づいて来る青い帆の船。風になびくブラックジャック。
『海賊船!』
 商船に乗せてもらうのに、海賊に遭う危険は承知だった。
『私も戦おう!』
 キャラウェイは唇をかんで拳をにぎった。 
「お嬢様は、早く船室の方へ!決して出てきてはいけませんぞ!」
 船長の言葉にキャラウェイは首を振って、自ら剣を取った。
「わたくしも戦います。
 戦って殺される方が、捕虜になって奴隷として売られるよりマシです」
「悪いが、わしらは戦わずに降伏するつもりなんだがね。海賊相手に商船の水夫が戦って勝てるわけがない。積み荷は奪われるが、あんたの父上に泣いてもらえばすむこと。わしらの命までは奪われまい」
 「あきれたー!
 意気地無し!腰抜けー!あんた達、それでも海のオトコなのっ?!
 いいわよ、わかったわよ。私一人でも戦うわ。あんた達が捕虜になっても助けてなんかやんないからねーっ!」

 「ハハハハ!」
 高らかな笑い声が甲板に響いた。
 「元気のいいお嬢さんだな」
 いつの間にか、若い船乗りが手すりに膝をたてて立っていた。この船では見ない男。
 銀色の髪を後ろで縛って、風になびかせていた。
 「この船が、そんな簡単に降伏してくれるつもりだったとは知らず、先にボートで数人潜入しておいたんだ」
 キャラウェイが振り向くと、海賊の手下が、船長や水夫長を後ろから捕らえナイフを突きつけていた。
 「他の者も乗り込んで、水夫たちを縛り上げろ。積み荷を我々の船に運びこめ」
 若いのに見事な手際だ。しかし、キャラウェイもひるんだりしない。
 「そんな勝手なこと、させやしないわ!」
 声を張り上げるキャラウェイに、若い海賊はきょとんとして彼女を見た。
 「させないって・・・ 」
 「あなたが海賊の首領なの?
  積み荷が欲しいなら、私と剣で戦って勝ってからになさい!」
 「勝ってからって言われてもなあ」
 肩をすくめる青年に、キャラウェイは剣を一本投げつけた。
 「さあ、取りなさい!」
「・・・ しょうがない邪邪馬だ。手の甲でもちょこっと傷つけて、脅かしておくか。
  泣く子も黙るシルバー・ブルー一味の首領、このキャプテン・ジンジャーに戦いを挑むとはいい度胸だ。その綺麗な顔に傷をつけられて、泣いても知ら・・・ 」
 「お黙り!」
 口上の途中でいきなりキャラウェイが一太刀あびせた。
 「おっと」
 キャプテン・ジンジャーと名乗った男は、身軽によけた。
 キャラウェイはドレスの裾をさばきながら、ジンジャーに立ち向かって来る。
「 へえ。お嬢さんのお稽古ごと程度かと思ったけど。けっこううまいな」
『・・・ どうせ海賊の剣など、どたばたの戦いで得た技術。私は女だけど、伊達に基礎から練習してきたわけじゃないのよ。でも・・・こいつ、強い!』
 カチッ、カチッと剣が交わる音が響く。甲板を二人の足が行ったり来たりした。
 「こらこら。子供同士で何を遊んでんだ」
 声が剣の音を止めた。
 「ワイルドヒース」
 海賊の一人が声の男に気づいて言った。彼はいつのまに乗り込んできたのか。
 気づけば海賊船は隣に停泊し、他の海賊たちもこちらに移って来ていた。
 「・・・おやじ」
 「いつまでも積み荷が運ばれて来ないと思って、見にくればこの始末。
 いったいこのお嬢ちゃん相手に、何のつもりで決闘ごっこなんかやってんだ」
 「いや、ちょっと、面白そうだったんで」 
「お、面白そうですってー! こっちは、決死の覚悟で荷を守ろうと戦ってたのに!」
 キャラウェイは悔しがって、床を踏み鳴らした。
 「ねっ?面白いだろう?」
 「なるほど」

 キャラウェイの抵抗むなしく、積み荷は海賊船に運ばれ、キャラウェイも人質として船に連れて来られた。
 「大丈夫、あんたは大事な人質だから手荒なことはされないよ。
 ターメリックの大商人の娘だそうだね。たくさん身代金がとれる」
 「キャプテン・ジンジャー。私は奴隷には売られないですむのね」
 「こんな未成熟なガキ、売れるもんか」
 ばちん。
 キャラウェイの平手がジンジャーの頬に飛んだ。
 「いてーっ。暴れると手足も縛るぞ」
 「ははは、おかしらが娘っこになぐられてら」
 見張りの海賊が笑っていた。
 キャラウェイは、客船に軟禁されていた。ドアの前には見張りの海賊が立っていたが、食事も与えられたし、部屋の中では自由にしていることができた。
 「キャプテン、この船はどこへ向かっているの?」
 「ガーリック港さ。ガーリック港に積み荷を金に代えに寄るんでね。
 おまえを乗せていた商船に、身代金の請求書を持たせてターメリックへ返した。ガーリック港に身代金が届いたら、すぐに返してやるさ。心配すんなよ」
 「・・・。」
『 心配するなって言われても。ガラムマサラは、おとうさまに報告するでしょうね。これで、こっそり船に乗っていたことがバレてしまう。
 それに、身代金・・・』
 「ガラムマサラには あ、あの、父にはいくら請求したの?」
 「ないしょ」
 キャラウェイはむっとしたが、おさえた。
『 ガラムマサラが払ってくれるわけがないし、やはり王が払うわけよね。
 マズイなあ、貴重な税金なのに。私の勝手な冒険の後始末のために無駄遣いさせてしまうんだわ』
 「高く請求しなかったでしょうね。父はケチだから、高いと合意しないと思うわ」
『港に着けば、逃げ出すチャンスもあるわ。いいえ、近くに船が通れば・・・』
 「逃げ出そうなんて、考えない方がいいぜ。その時は、あんたを 」
 キャプテン・ジンジャーは、人差し指をキャラウェイに向けて、弓を引く真似をした。 ジンジャーの瞳がこっちをまっすぐに見ている。
『 深い青。沖の海の色・・・』
 夜が近くなったことを知らせる海の色。群青の瞳だ。通った鼻筋、薄い唇、浅黒い顔に映える白い歯。今まで気づかなかったが、ジンジャーは美しい青年だった。
 ジンジャーの美しさに気づいたら、恥ずかしくなって目をそらしてしまった。
 「や、殺れるもんなら、やってみなさいよ」
 「ふうん。やっぱり逃げる気だったのか」 
「はっ、しまった」
 キャラウェイは口をおさえた。ジンジャーはくすくす笑いながら、
 「あんたを捕虜にしてると退屈しないな。 解放された後も、次に乗る船を教えてよ。また襲って捕虜にしてやるから」
 「ふざけるなぁぁ!」
 キャラウェイは、そこらへんにあったクッションや置物やしまいには自分の靴を脱いで投げつけた。
 「はははは。退散するか。また、遊びに来るよ。・・・お嬢さん、あなたのお名前は?」
「海賊ごときに名前を教える義理は無いわっ!」
「だって呼ぶのに不便じゃないか。じゃあ適当に呼ぶぜ、『ソバカス姫』『色黒レディ』『ジャジャ馬ガール』それとも・・・」
 「キャリーよっ!失礼な名で呼んだら承知しないわよっ」


 「キャリーか。可愛い名だね。・・・じゃあな」
 ジンジャーはドアを閉めて出ていった。
 「ったくもう、腹のたつ」
 見張りにさえクスクス笑われている。
 「怒るこたあねえよ。おかしらは、あんたのこと気にいっただよ。
 じゃ、おいらは部屋の外にいるで、逃げようなんてよからぬ気を起こすでねえよ」
 大きな岩みたいなその水夫は、人がよさそうにまた笑ってみせた。
 そして、キャラウェイはひとり。
 部屋を色々調べてみたが、窓は小さく、人が外へ出るのは無理だ。武器として隠し持てそうなものも、刃物の代用になりそうなものも置いてない。
 キャラウェイはふーっとため息ついた。
 これは、港に着いてからチャンスをうかがうしかないだろう。それまでは、体力を温存しておくことにしよう。


☆ 三 ☆

 窓からわずかに見える海が、赤く染まり始めていた。
『 きれい・・・。
  あーあ、こんな小さな丸窓からじゃなくて、甲板で百八十度の夕陽を見たい!』
と、部屋をノックする音。
 「おう、夕飯だよ」ジンジャーだった。
 食事のトレイを受け取ると、早速おねだりしてみた。
 「ねえ、甲板に上がらせて。海に落ちる夕陽が見たいの」
 「そんなこと言って、逃げようとしてもダメ」
 「逃げないわよ、海を見せてよ、お願いだから!」
 「・・・。」
 「疑うのなら、手錠してもいいわ。海の夕陽を見たいだけだってば。ほんとよ。わたし、嘘なんかつかないわ」
 ジンジャーは、くすっと笑った。笑うと優しい表情になる。白い歯がこぼれた。
 「わかったよ。仕方のないお嬢さまだ」
 「きゃーっ!ありがとう!」
 キャラウェイは思わずジンジャーにしがみついた。
 「わっ、よ、よせよ!」
 ジンジャーは赤くなって払いのけた。
 見張りの水夫がゲラゲラ笑った。
 「おかしらが赤くなってら。免疫がないもんでな」
 「う、うるさいーっ」

 「・・・。ほんとに手錠されるとは思わなかった」
 甲板の手すりにもたれて、キャラウェイは不服そうにほっぺたをふくらませていた。
 「たとえ泳ぎが達者でも、これなら飛び込んで逃げれないだろ」
 「ま、いいか」
 「物おじしないヤツだよな。まあ、怖がって泣きっぱなしでも手に負えないけど」
 「だって、見てよ」
 キャラウェイは、コバルトの中に沈んでいくプラムの夕陽をうっとり見つめていた。
 「怖がってたら、これは一生見れないわ。お屋敷の中から出て行かなければ、船の上の夕焼けを見ることはできないもの。
 海の上で海賊と戦って死ぬのも、風も吹かない屋敷の中でバーサンになって死ぬのも同じ一生よ。だったら、私は海へ出る方を選びたかったの」
 「死にかけたこともないお嬢さんが、よく言うよなあ」とジンジャーは肩をすくめた。
 「キャプテン・ジンジャー、あなた、いくつ?ずいぶん若い船長だけど」
 「来年ハタチになる。もう八年も船に乗ってるよ」
 バコン!とジンジャーは後ろからはたかれた。
 「なにが、来年ハタチ、だ。まだ今年十九にもなってねえくせに」
 「・・・おやじ。いきなり殴るなんて、ひでえよー」
 十八歳のジンジャーは、父親に抗議したが相手にされなかった。
 「日が落ちたら停泊するぞ。こんなとこでさぼってないで、準備を手伝って来い」
 「アイアイサー」
 走っていくジンジャーの背中を見ながら、キャラウェイはくすっと笑った。
 「彼はキャプテンとはまだ名ばかりの、二代目なわけね。実権はまだ、ワイルドヒース、おとうさまのあなたが握ってるんだ?」 
「手錠をはずしましょう。まったく、あいつは、レディになんてことを」
「いいのよ、キャプテンは私をレディだなんて思ってないわよ。甘く見られるよりは、気分いいわ」
「キャリー、あなたには貴族の血が?」
「えっ?いいえ、普通の商人の娘よ。な、なぜ?」
「あなたを見ていると、さる高貴な女性を思い出すんですよ」
 ワイルドヒースは、ただの海賊じゃないわね?
 その品のあるものごし、毅然とした態度。きちんとした軍隊にいたでしょう?
 ここの海賊たちも、統率がとれていて、噂に聞いていたような荒くれじゃないし」
 「さあ。すっかり歳をとりまして、若い頃のことなど忘れてしまいましたよ。
 そんなことより、海が少し荒れてきたようです。どうぞ中へお入りください」

 部屋の窓を叩く風の音が強くなった。キャラウェイは、上かけを被って耳をおおった。
 船が大きく揺れている。雨が窓を激しく叩いていた。
『海賊の次は嵐ってわけ? いくら私が冒険好きでも、カンベンしてよね』

 階段を、甲板を、せわしなく走り回る水夫たちの足音が聞こえた。
『これは、ほんとに危険な状態かも・・・』
 キャラウェイは、階段を上がって甲板へ出た。ワイルドヒースの声が響いていた。
 「舵がとれなくなる!帆をおろせ!
 傾いてる方に入った水をくみ出せ!大急ぎだ!」
 水夫たちは、雨と風に足を取られながら、必死に指示に従っていた。
 ジンジャーの声も、この嵐の中、よく通る声で響いていた。
 「ロープを引け!帆をゆるめろ!」
 「だめです、キャプテン!ロープが言うことを聞きません!」
 「キャプテン、帆が!」
 フォアマストがバリバリと、風と雨で引きちぎれた。
 「くそっ。仕方無い、メインマストまでも破れたらまずい、帆を降ろせ!綱を全部切るんだ!風の抵抗を抑えろ!
・・・おい、キャリー!出てくるな!危ないから船室に入ってろ!」
 キャラウェイに気づいて大声で叫んだ。
 「手伝うわ」
 「バカ、足手まといだ!」
 「水の汲み出しくらいならできるわ」
 「そのかっこで、何ができる」
 キャラウェイはむっとしてドレスを脱ぎ始めた。
「な、なにをする・・・」
 ジンジャーは赤くなって顔を手でおおった。
「こういうドレスは、山ほど下着をつけてるから、脱いでもあらわにはならないのよ。
これ、あげるわ。生地はたっぷりだし、丈夫だから、破れたフォアマストの代わりになるでしょ」
 キャラウェイはドレスを投げてよこした。 がっちりしたビスチェとガードルにペチコート。なるほど、下着のくせに水夫たちの服より生地が多い。
 「わかった、頼もう。今は一人でも人手が欲しい。右前方が危ない。汲み出しを手伝ってくれ」
 「ラジャー、キャプテン」
 キャラウェイは駆け出して行った。
 キャラウェイは、桶や樽を使って、下っ端の水夫たちの水の汲み出しを手伝った。ジンジャーやワイルドヒースが指示する声が聞こえている。
 キャラウェイはジンジャーを見直していた。
ワイルドヒースはともかく、まだ少年ぽさの残る彼が、ここまでやれる男だとは思っていなかったのだ。
 「キャプテン、嵐で漂流してる船がこっちへ!このままではぶつかります!」
 「舵を取れ!向きをかえろ!」
 「無理です!この風では」
 「大砲で大破させて沈没させろ!」
 「船が揺れて狙いが・・・」
 「オレがやる。火を用意しろ」
『うそ、キャプテン・ジンジャーったら、この嵐の中、なんて無茶な!』
 しかし船は正面に迫っている。
 ジンジャーは船首の主砲の横に仁王だちし、向かって来る船に狙いをつけた。
 「オレの腰が固定できるよう抑えてろ」
 「む、無理です、足元が悪くて。そ、それに船がそこまで・・・ 」
 「バカヤロウ、びびってんじゃねえ!」
 「私がやるわ。腰を抑えてるだけでいいんでしょ」
 キャラウェイは立ち上がって、船首に駆けのぼった。
 「バ、バカ、ここは一番危険な 。
 撃ち損じたら間違いなくここが真先に大破するんだぞ!」
 「わかってるわよ、そんなこと。あなたが撃ち損じなきゃいいんでしょ。
さ、早く撃ちなさいよ」
 キャラウェイはかがんでジンジャーの腰を支えた。
 「ちくしょう、簡単に言いやがる。
  いくぞ、・・・発射!」
 大きな衝撃が体に伝わった。今まで聞いたことがないような大きな音だった。
 キャラウェイはジンジャーともども衝撃で吹っ飛ばされた。
 目の前で、難破船が静かに沈んでいった。嵐の海に飲み込まれていく。ジンジャーはみごとに難破船をしとめたのだ。
 「は・・・ははは、やった。ははは・・・、危機一髪だ」
 「いいから早くどいてよ!重いわよ!」
 ジンジャーはキャラウェイの体の上に乗っかっていた。
 「あ、ごめん」

 風が弱くなってきたのがわかる。雨も小雨になってきた。
 「もう大丈夫だ。交代で休息をとろう」
 ワイルドヒースが片手を上げて合図した。 汲み出し部隊のキャラウェイも疲れて床にへたりこんでいた。
 「ほら、お嬢さん」
 ジンジャーが手を差し延べて、助け起こした。
 「見ろよ、東の空」
 東の方は雨が上がっていた。夜明けの紫色に海が染まってきた。
 「海の夕陽もいいけど、夜明けもいいだろう?」
 キャラウェイに笑いかけたジンジャーの笑顔。
 顔は泥だらけに汚れ、服もところどころ破けて汚れていた。だが、今までに出会ったどんな王子やどんな貴族の青年より、美しいと思った。
 「どうしたんだ?今頃怖くなったか?」
 「・・・えっ?」
 「あんたみたいな女の子が泣くなんてさ」
 ジンジャーに頬を触れられて初めて気づいた。自分の頬を涙がつたっていた。自分の瞳に涙があふれていた。
『なに?この涙は・・・』
 怖くなったわけじゃなかった。
 ジンジャーの笑顔を見たら、胸が苦しくなって 。
 ジンジャーの見せてくれた夜明けの紫が、あんまり綺麗だったから。


☆ 四 ☆

 「ジンジャー、おまえ、休んでいいぞ。
 あと、このお嬢さんに、何か服を。いつまでも下着で船内をうろつかれると、水夫たちの目の毒だ」
 ワイルドヒースが、ドレスの布を帆に作り代える作業をしながら言った。
 「あ、うん。わかった。水夫の服でよけりゃ、オレのを貸すよ」
 「えっ、水夫の格好をさせてもらえるの?」
キャラウェイはかえってうれしそうだった。 
「ヘンなおんな」
 ジンジャーは余計なことを言って、またキャラウェイに殴られている。
 ワイルドヒースも思わず吹き出しながらも、
「お嬢さん、この布はありがたく使わせてもらいます。助かりました。」と相変わらず律儀に礼を述べた。

 キャラウェイはジンジャーについて、船長室への階段を降りた。
「わあっ。海図に地球儀。コンパス。磁石。ここが海賊の船長室なのね、すてき」
 キャラウェイは目を輝かせた。
 「名ばかりのキャプテンでも、一応この部屋を使わせてもらってる。
ほら、着替え。洗濯してあるやつだから。オレのシャツだから大きいと思うけど」
 投げてよこしたシャツを開いて、「ほんとだー、大きいー」と自分の体にあててみる。 
「ジンジャーって、こんなに体の大きい人だったんだ」
 ジンジャーはうっとおしそうに、ごろんとベッドに横になって、「そりゃあ、女の子のあんたよりはね」と苦笑まじりに返事した。
 「そうよね。私って、女の子だったのよね」
・・・ そうなんだ。私って、女の子だったんだ・・・。
 初めて気づいたような、新鮮な驚きだった。
女の子。ほら、ジンジャーのシャツと比べると、自分はこんなに小さい。
 「着ちゃうの?」
 「・・・えっ?」
 「もう、着ちゃうの、そのシャツ」
 「・・・?・・・」
 「せっかく下着姿なのにさ」
 キャラウェイは、ジンジャーが何を言おうとしているのか、理解できなかった。ジンジャーはその表情を見てとって、もっと端的に言い直した。
 「シャツを着る前に、ここへおいで」
そう言って、自分が寝そべったベッドの空いたスペースに触れた。
 キャラウェイはカッとなってジンジャーにシャツを投げつけた。
 「いてえっ・・・」
 顔に直撃だ。
 「海賊の捕虜になった時から、覚悟してたわ。まずは船長から、ってことね」
 「ば・・・バカヤロウ!」
 今度はジンジャーがキャラウェイの顔めがけてシャツを投げ返した。
 「痛いーっ!何するのよっ!」
 「捕虜にした時に言っただろ。オレたちの船では、捕虜の女に手を出すなんて下品なことはしない、って。
 オレのこと、捕虜のおんなを食っちまうよーな船長だと思ったわけか」
 「だって、げんに・・・」
 「本気で誘ったんだけどな」
 「えっ?」
 「気のせいだったのかい?
 オレたち、お互いに気持ちが魅かれ合ってたって。そう感じたのは、オレの自惚れだったのかな」
『 魅かれてた・・・?』
 風になびく銀の髪。焼けた肌にこぼれる白い歯。深い深い海の色の瞳。
 笑う。怒る。拗ねる。くるくるとよく変わる、少年ぽさの残る表情。
 嵐の中の男らしい働き。危険を背負って船首で大砲を構えたあの後ろ姿。
『あれ?やだ、また、涙が・・・』
「キャリー?」
 ジンジャーの指が、さっきと同じように頬の涙をぬぐった。彼の指が触れたところだけが熱い。
 呼ばれた自分の名前が、自分のじゃないような気がした。父や兄が呼ぶのと違う響き。名前を呼ばれただけなのに。
 ただ、名前を呼ばれただけなのに。
 「これが、恋なの?」
 ジンジャーは瞳でうなずくと、静かにキャラウェイにくちづけした。

 「ずっと、男に生まれたかった。
 海軍でも海賊でもよかった。海が好きだったの。船に乗りたかったわ」
 ベッドの中で、シーツを引きよせてキャラウェイはかすかに微笑んだ。
 「今は?」
 「そうね・・・。女に生まれて、初めてひとついいことがあった。男だったらジンジャーと恋はできないもの」
 ジンジャーも微笑んで、キャラウェイの頬にキスをした。
 「潮の香りがするわ。ジンジャーの胸の中にいると」
 「君もね。嵐で、お互いに頭から海水をかぶってるからなあ」
 「ふふ、それもそうね」
『でも、知ってる?あなたの胸は、波の音が聞こえたわ。
 こうして抱かれていると、波にゆられているみたい・・・。』
 この青年は、自分にとっての『海』なのかもしれない。キャラウェイはふとそう思った。
 「オレは・・・女に生まれたかったなあ」
 「えーっ、なんでーっ!
 女なんて、しちゃいけないことは多いし、親の決めた相手と道具みたいに結婚させられるし、いいことなんてないわよーっ!」
 キャラウェイの反論のあまりの勢いに、ジンジャーは苦笑した。
 「親の決めたいいなずけがいるわけ?」
 「・・・一応ね」
 「オレが女に生まれてたら・・・」
 母は国を追われる必要もなかっただろう。殺されることもなかった。自分も、こうして海賊として放浪することもなかったに違いない。
 ジンジャーは遠い瞳をしていた。キャラウェイを不安にさせるような 。
 「ジンジャー?」
 「ん?・・・いや、女だったら、女海賊になってたかなあ」
 「いいわね、それ。私もなりたかったな、女海賊」
 「今からでも、なれば。 キャプテン・ジンジャーの恋人で、女海賊。かっこいいじゃん。
 この船に乗っていた商人の娘は、嵐で海に落ちて死んだんだ」
 「・・・。ステキ。すごい考え!」
 キャラウェイの水色の瞳は、きらきら輝いた。
 「でも、バレて連れ戻されたら 」
 「その時は、かっさらいに行く。両親の屋敷だろうが、いいなずけとの結婚式の教会だろうが、きっと助けに行く。
 オレは海賊だぜ。欲しいものは戦ってぶんどるさ」
『それって、戦争になりそう。相手は大国のローリエ国王子だもん』
 キャラウェイはクスクス笑った。
 「約束よ。きっとさらいに来てね」
 夢だと、わかっていた。楽しい夢を見ているのだと。
 自分がローリエの王子に嫁ぐことによるターメリックのメリットは莫大である。そして、ローリエの海軍もターメリックの港を自由にしたがっている。
 一国の姫に生まれてしまったのだ。
 本当にただの金持ち商人の娘なら、どんなによかっただろう。ジンジャーの言うように、海賊の船長の妻になって、自分も船に乗って・・・。
「キャリー?なんで泣いてるの?」
「・・・夢が苦しくて」
 キャラウェイはそう微笑んで、ジンジャーの肩に顔をうずめた。
『あと二日。ガーリック港へ着くまで、あと二日だけ、夢をみさせていて。
 ジンジャーの腕の中、こうして、波にゆられている夢を 。』


☆ 五 ☆

 「キャラウェイ姫、風が出てまいりました。そろそろ中へお入りください」
 甲板で風に当たるキャラウェイに、海軍少佐が声をかけた。
 「そうですわ、お姫様、危険ですから」
 侍女のミントも心配そうだった。
 「はいはい。 この程度の風で海に落ちるわけないじゃない」
 それでもキャラウェイはおとなしく客室に引っ込んだ。
 港を出て三日目。このあたりの海で、キャプテン・ジンジャーの海賊船に出会ったっけ。
『約束どおり、さらいに来てよ、なんて、ね』
 キャラウェイは肩をすくめて苦笑した。
 約束なんて、果たされるはずはない。
『私はあの時、結局遊ばれただけ。ジンジャーに騙されただけだったのだから』

 「誰だ、あのちっこい水夫は。見習いにあんなのいたか?」
 甲板でロープ巻きの仕事をする水夫を見て、ワイルドヒースが呟いた。
 「おやじ、あれ、キャリーだよ。オレの服を貸したんだ。なかなか似合ってるだろ?」 
ジンジャーは屈託ない笑顔で答えた。
 「ふふん、確かに女には見えないな」
 「仕事も楽しそうにやってるよ。金持ちのお嬢さんなのに、汚れる仕事も力仕事も嫌がらずに。 ほんとに、本気で、船乗りになりたかったんだろうなあ」
 「ジンジャー、楽しい思いをさせてやりたいおまえの気持ちもわかるがな。このまま、キャリーが船を降りたくないと言い出したらどうするんだ?楽しい思いをすればするほど、船から降りるのがつらくなるぞ」
 「キャリーは降りないよ。ずっとこの船にいるんだ」
 「ジンジャー?」
 「ごめん、おやじ。オレ、キャリーに惚れちゃったんだ。
 キャリーもオレを好きだと言ってくれた。この船で、女海賊になって暮らすと言ってくれた」
 「・・・馬鹿か、おまえ」
 「おやじ?」
 「確かにあの子は、そこらへんのお嬢さんより強いかもしれん。だが、良家の子女が、本気で海賊になるつもりだと思うか? その場のムードに流されてそう言っただけさ。信じるなんて、おまえも甘いな」
 「おやじ、でも、キャリーは昔から本当に海に出たくて 」
 「身代金はどうするんだ?キャリーと引換えに、嵐の破損分くらいは楽に修理できる金が手にはいるんだぞ」
 「おやじは、息子の一生に一度の恋と、金と、どっちが大事なんだ」
 「ばかもん。頭を冷やせ!」
 ワイルドヒースはぼかっとジンジャーの頭を殴った。
 遠くから見ていたキャラウェイが気づいて駆け寄ってきた。
 「ど、どうしたの?親子ゲンカはいけないわ」
 「お嬢さん、あなたは魅力的な女性です。こんなヤクザな海賊ふぜいを相手にしちゃいけませんよ。ご両親が泣きますよ」
 「ジンジャーは海賊だけど、今まで会ったどんな上流階級の男の人より素敵だわ。
 彼の髪も肌も腕も、海で戦ってきた男の勇気と優しさで満ちている。
 ジンジャーの腕は、私の海なの。さがし続けてた海なのよ。
 ワイルドヒース、わかって。
 お願い、私たちを許して。私、ずっと船にいたい」
 涙をためて、必死な声だった。
 いつか、どこかで見た、水色の瞳。
 勝気で一本気で、いつも必死な目をしていた。
 「今はそう思っていても、心は変わるんですよ、ローズ」
 「・・・ローズ? ヒース、私の名は 」
 「ああ、失礼、キャリーでしたね。
 港に着くまで水夫の真似事をしたいなら、私は止めません。
 だが、着いたら、身代金と引換えにあなたを引き渡します。
 ジンジャーはまだ名前だけの船長。私の言葉は絶対です」
 それだけ言うと、ワイルドヒースは船室へ降りて行ってしまった。
 「おやじ・・・」
 ジンジャーは肩を落とした。
 キャラウェイは両手で顔を覆った。
 「おとうさまにあんなに反対されちゃ、もうダメかしら」
 「もう一度説得してみるよ。もともと、そう簡単に許してもらえるとは思ってない」
 ジンジャーは、自分にも元気づけるように言うと、キャラウェイの肩を抱いた。

 日が落ちて、船は錨を降ろし、水夫も船も疲れを癒していた。
 一日前の嵐は嘘のように、満月の丸い月が海を船を明るく照らし出していた。
 ジンジャーの部屋をノックする音。
 「ジンジャー、私だ。ちょっと出てこい」ワイルドヒースの声だった。
 彼の乞うままに、ジンジャーは人のいない夜の甲板へ出て行った。
 「なんだよ、おやじ。 昼間の件なら、気持ちは変わらないぜ。
 あんまり反対するようなら、港へ着いたら二人で駆け落ちしちまうから」
 「ばかもんっ!」
 ワイルドヒースはジンジャーを殴りつけた。
 「おまえは、自覚があるのか?
 昼間は、彼女や他の水夫もいたから、当たり障りのない反対文句しか言えなかったが、わたしもおまえも、まだ狙われている。いつ殺されるかわからん。
 そんな危険な我々の人生に、他の人間を巻き込むのか?
 結婚だと?恋だと? ふざけるな。
 隠れ隠れして自分の身もやっとこさ守れる状態で、大切な女まで守れるか?」
 ワイルドヒースが何のことを言っているか、ジンジャーにはわかった。
 ジンジャーがまだ七つにもならない頃。暖かいスープを楽しみに家のドアを開けたとたんに、目に飛び込んできた風景。
 忘れない。
 忘れられるわけがない。
 荒らされたキッチン。散乱した食材。鍋からこぼれしたたるスープ。
・・・血まみれで倒れていた母。
 『かあさん!かあさん!かあさーん!』
 スープも母もまだ暖かかったのに、母の息はなかった。
 「おまえが本当にキャリーを愛しているなら、危険な目には合わせたくないだろう?」
 「命を賭けても、彼女を守るよ」
 「まだ、そんなことを!」
 「話はそれだけ?
 疲れているから、休む。おやすみ!」
 ジンジャーは、振り切るようにして、船室への階段を駆け降りた。
 と、壁に隠れた黒い影 。

「キャリー。起きてる?」
 ジンジャーはキャラウェイの部屋をノックした。返事はなかったが、勝手に開ける。船長の権限だ。
「『今、蝋燭を消しました』って匂いだな」
 自分が手にしている蝋燭の匂いではない、消した時の特有の匂い。
 ベッドには、シーツをすっぽり被ったキャリー。
 「ああ、ジンジャー、どうしたの?」
 目をこすりこすりベッドに起き上がる。
 「怖い夢でも見たのかい?肩で息してる」
 「えっ、いえ、別に 」
 「君は、怖い夢を見たんだ。オレとおやじの話なんて、何も聞いちゃいない。眠ってたんだから。そうだろう?」
 「ジンジャー 。ごめんなさい、私、心配になって、それで・・・。
 あなたたちには何か深い事情があるらしいけれど、でも、私、怖いものなんて無いわ。私は自分のことは自分で守れるわ」
 「怖い目になんて遭ったこともない、お嬢様のくせに」
 ジンジャーは笑っていた。
 「嵐なんてね、怖いうちにはいらないよ。自然現象だもの、自然に悪意はないから。 本当に恐ろしいのは、人間のやることだよ」 
「でも、悪意のない嵐で死ぬこともあるわ。
 私は、昨夜の嵐で死んだんだと思うことにする。そうしたら、後の人生はオマケみたいなものだもの。どんな危険があっても、怖くないわ」
 「キャリー・・・」
平民の娘ならよかったとか、もしいいなずけがいなかったら、だなんて。
ならよかったとか、もし、だったなら、だなんて。そんな泣き方は、自分らしくない。
『本当に無理なの? 何が無理なの? 不可能なことはあるの? 自分で切り開けないことがあるの?
 どんな努力と苦労をしても? 命を賭けても?』
 命がけで、出来ないことなんて、あるだろうか。
 一度は、これは夢でいいと思ったけれど。 だが、キャラウェイは、少しずつ、心に強い風が吹いて来るのを感じていた。
 「私 今までは、この恋がどこか夢みたいな気がしてた。
 私の生い立ちからすれば、好きな人について行けるなんて、奇跡みたいなもの。
 叶うわけない、ってどこかで思ってた。港に着いたら醒める夢に違いない、って。
 でも、夢を実現させるのは、自分の意志だわ。
 あなたの腕が、私の海なのよ。他のものでは、もう、代用はできない。
 私はあなたに出会ってしまったの」
 キャラウェイは、決心していた。
 国を、捨てよう。
 ターメリックの王女の地位も、優しい両親も捨てて、ジンジャーについていこう。
『私の未来は、ジンジャーの腕の中にある』
「キャリー、それはオレも同じだ。
 ガキん時から船に乗って、荒くれ船乗りに揉まれてオトナになっちまって、女の子なんて苦手だったオレなのに。
 こんな風に落ちるもんなんだな、恋って」
 「ジンジャー 」
 ジンジャーは、キャラウェイをきつく抱きしめた。
 「明日の朝、もう一度、おやじを説得してみる。それでも駄目だったら、港に着いたら二人で逃げよう」
 「ジンジャー!」
 キャラウェイが抱きついてきた。
 「女海賊にはしてやれなくなるけどね。普通の船乗りのおかみさんも、悪くないだろ?」
 大きくうなずくキャラウェイ。
 ジンジャーはキャラウェイの珊瑚の唇に唇を重ねた。そして、その後、蝋燭の灯を吹き消した。
 蝋燭の消えた匂い。
 それから、海のにおいのする男の腕。
 波の音。

 「まぶし・・・」
 朝日が部屋に差し込んでいた。
 ジンジャーが窓のカーテンを開けたのだ。 
「ごめん、起こしちまった。
 親父が夜の見張りだったんだ。交代しに行かなきゃ。それに、他の水夫が起きて来る前に、話の続きもしなきゃいけないし」
 「今日の夕方にはもう、ガーリック港に着くのね」
 「大丈夫、うまく説得するから、そんな心配そうな顔すんなよ」
 ジンジャーは笑顔で、ぽんとキャラウェイの頭を叩くと、シーツの波から起き上がった。
床に落ちているシャツを拾おうと、手を延ばした。
 「あら、ジンジャー、背中に何かついてる。・・・違うわ、アザなのね」
 キャラウェイの言葉にジンジャーの背中が凍り付いたのがわかった。
 「へ、へえ、嵐の時にでもどこかにぶつけたかな」
 あわててシャツをはおった。
 「じゃあ、あとで。朝飯の時に」
 ジンジャーは、ボタンをはめながら、部屋を出て行った。
『なんだろう、嫌な記憶でもあるアザなのかな、嵐の時にできたような新しいアザではなかったのに』
 背中の、左の下の方。
 鳥みたいな、蝶みたいな、変わった形のアザだった。


☆ 六 ☆

 朝焼けが、水平線を染めていた。
 「朝、か。さて、降ろしていた帆を上げるか」
 ワイルドヒースは立ち上がった。
 メイン・マストに亀裂が入っていた。嵐の激しさをもの語っている。突風が続けば折れたかもしれない。船は、危険な状態だったのだ。よくもってくれた。
 マストの亀裂もこれ以上広がる様子もないし、港に着くまではもつだろう。
『この帆は、あのお嬢さんのドレスだったっけ。――破れた帆の代わりにして下さい――、なんて、とんでもないお嬢さんだ』
 思い出してクスクス笑ってしまった。
 あの子なら、いいかも知れない。
 ジンジャーの支えになり、くじけず、一緒に歩いていけるかもしれない。
『まだ十八のあいつに、一生孤独と闘い続けることを無理強いするのは、あまりに可哀そうだ。こんな育ち方をしたからこそ、暖かい愛情が必要だろう』
 ジンジャーの背中に背負わされたものを考えると、ただ優しく美しい娘では駄目だ。
 強い意志と強い愛情。
 おまけに、ほんとに剣の腕も強い。自分の身を守って戦える。
『もしかしたら、最良の娘が現れてくれたのかもしれんな』
ワイルドヒースの心は、二人の仲を許す方へ傾きかけていた。
だが。
彼は、降ろした帆・・・キャリーのドレスを間近で手に取って、愕然とした。
「こ、これは・・・」

 「おやじ、おはよう。交代に来たよ」
 「・・・。」
 「どうしたの、顔色が悪いぜ。具合悪いのか?」
 帆を握るワイルドヒースの手が小刻みに震えていた。
 「香水の匂いなぞさせおって、おんなの部屋から直行か」
 「えっ?」
 ジンジャーはちょっと照れたような困った表情になって、
 「キャリーって香水なんてしてたっけ」
とシャツに顔をつけてくんくん嗅いでいた。
 「ふん、馬鹿もん。心臓が止まるほど驚いても知らんぞ。この帆を見てみい」
「帆って・・・。キャリーのドレスだった布だろ。
 港に着いたら彼女のドレスを買ってやらなきゃな。
・・・このボタンの柄!」
 ジンジャーも気づいて顔色を変えていた。
 「これ、龍、だよね。 ってことは」
 「龍は、ターメリック王家の家紋。あの国のお姫様だよ。
 『キャリー』 ・・・キャラウェイの愛称だ。末っ子の姫君の」
 「バージルの、フィアンセ、か」
 ジンジャーは、手にしていた布をぱたっと落とした。両手の震えが止まらない。
 いや、膝も、肩も・・・からだ中が震えていた。
 がくっと、床に膝をついた。
 「まさか、そんな。金持ち商人の娘だって・・・」
 「なんて言った、その商人は?」
 「たしか、ガラムマサラ・・・」
 「王室に出入りしてる商人の名だろう。キャリー、いや、キャラウェイ姫は、奴に頼み込んで船に乗せてもらってたんだろう。
 うかつだった。あんなにローズマリーに似ていたのに!」
 「あの子がキャラウェイ姫・・・。バージルのいいなずけの」
 いとこのキャラウェイ 。
 「そうかぁ。は・・・ はは、そうかあ」
 「ジンジャー、大丈夫か?落ち着けよ!」
 「大丈夫だよ。だけど、よりによって・・・バージルの婚約者だったなんて・・・」
 「ジンジャー 。だめだ、相手が悪すぎる」
 「わかってるよ、おやじ。
 はは、おかしいよな、あいつ、いずれあのローリエ大国の王妃様になる身分のくせして、本気で海賊のおかしらの女房になる気でいたんだ。女海賊になるのが夢だったんだって」
 「ジンジャー、いい女なら、港に着けばいくらでもいるさ。キャリーより美人で色気もあるぞ。気の強いのがよけりゃ、そんなのもいるだろうさ」
 「でも、そいつらはみんな、キャリーじゃない。・・・いっそ、さらってやろうかな、バージルから」
 バシーン!と平手打ちがジンジャーの頬に飛んだ。
 「いてえ・・・。冗談だよ。本気で殴るなよ、口の中切っちまった。
 そんなことしたら、命がいくらあっても足りないよな。今でさえ、逃げまわって、やっとのことで生きのびてきたのに」
 ジンジャーは血の匂いのする唾を吐き捨てると、手の甲で血をぬぐった。
 「王位継承権をめぐる陰謀なんてのがなかったら、オレがキャリーのいいなずけになってたのかな。歳も近いし、そうかもね。
 そう思うと可笑しいよな」
 ジンジャーは膝をかかえてうつむいた。ワイルドヒースはその頭をなでた。
 「五分、泣いていい。だが、その後はちゃんと浮上しろよ」
 「・・・アイアイサー」
 ジンジャーはうずくまったまま答えた。肩が震えていた。

 キャラウェイの部屋には、いつも水夫が食事を運んでくれた。
 「おはよう、岩おとこ。今朝はじゃがいもとベーコンのスープね」
 キャラウェイの軽やかな声に、『岩おとこ』とあだ名をつけられた巨人のような水夫は、ニコニコと応えていた。
 「早くごはんを食べて、甲板へ手伝いに行くわね」
 「今日は、港に着くまでに甲板の水ぶきだ。モップで、こう、ね」
 岩おとこは、モップで床を拭くしぐさをした。
 甲板でも、水夫たちは、キャラウェイを囲んで掃除を始めた。
 ゼブラプリントのシャツの水夫長、キャラウェイから『ゼブラ』の名を頂戴した男が、スペース分担をして掃除をさせた。
 「港へ着いたら船を化粧直しして、商船のフリして盗品を売りさばくのよ」
 ごつい肩幅と筋肉のゼブラは、なぜか女言葉。遠い国からこの国へ来た彼は、言葉の先生が女性 娼婦たちだったから、女言葉になってしまったのだそうだ。だが、妙にその言葉使いがマッチするキャラクターだった。 
「積み荷の中で、宝石でもドレス用の織物でも、欲しいものがあったら抜きとっとくといいわよ。キャプテンも、あんたにならモンクは言わないわ」
 「ありがと、ゼブラ。でも、私の乗ってた船は食物と香辛料しか乗せてなかったのよ。それに宝石になんて興味も無いし」 
キャリーは明るく肩をすくめてみせる。
「そう言うと思ったわ」とゼブラも歯茎をみせて笑った。
 彼女は海賊たちに好かれていた。女々しくないし、高慢でない。明るくて、元気。
 若いおかしらとのロマンスも、口に出さなくてもみんな気づいていた。こんな女の子がおかみさんなら、合格だと思っていた。

 モップを持った水夫のかっこをしたキャラウェイが、甲板へ急ぐジンジャーのもとへかけ寄った。
「ね、ね、ワイルドヒースを説得できた?
・・・顔、どうしたの?ひどく殴られたみたい」
 「遊ぶなら、人質の女には手を出すな、って殴られた。ちぇっ、さすがおやじだよな。バレてるんだもんな」
 「えっ?」
 「遊びだったんだよ。悪かったよ。
 だって、本気のフリして遊んだ方が、気持ちが入って楽しいだろ?」
 「ジンジャー ?」
 キャラウェイの、見開いた瞳。水色の、澄んだ空の色。
 ジンジャーには正視することができない。
『オレ、今、どんな顔して言ってるんだろう・・・』
「港に着けば、オンナはたくさんいるんだよ。もっと、あちこちでっぱった、色っぽいヤツがね。船の上には、オンナがあんたしかいなかった、ただそれだけのことさ」
キャラウェイの水色の瞳が、みるみる涙で溢れてきた。
『ごめん、キャリー。ごめん・・・』
 ここで、キャラウェイが、わっと泣き出して船室に駆け込むとか、ジンジャーに泣きすがるとかしたなら、ジンジャーの決意もぐらついていたかもしれない。キャラウェイを追いかけて船室へ駆け降り、抱きしめて、元の鞘に収まってしまっていたかもしれない。
 ボカッ!
 「いてぇっ!」
 キャラウェイは、モップでジンジャーを殴った。
 「私を侮辱したってわけね。
・・・あなたに決闘を申し込むわ。出会った時の、あの続きをしましょう。
  ゼブラ。私と、キャプテン・ジンジャーに剣を!」
 最後まで、キャラウェイはこういう女だった。

「よせよ、オレに勝てるわけないだろ」
甲板では、遠まきに水夫たちが輪になって、鉾先を合わせる二人を見ていた。
「ドレス姿じゃないから、この前より動きやすいわ。あの時はハンディがあったのよ」 
カチャカチャと剣がぶつかる音。
観客は、二人の早い動きをかたずをのんで見ていた。
キャラウェイが斬り込む。シュッと風を切る音がする。
ジンジャーは、横によける。銀の髪がなびいた。
「おかしらは、防戦一方だなあ」
「おんな相手に本気は出せねえ。おかしらが不利さ」
キャラウェイは本当に強かった。よけるジンジャーも必死だった。
「つっ!」
 ジンジャーの頬を剣がかすった。かすかに血が飛んだ。
 おまけに。
 至近距離のジンジャーにしか見えない。
 キャラウェイは泣きながら剣を振り回していた。あの綺麗な瞳から、大粒の涙をぽろぽろと惜しげもなくこぼしていた。
 キャラウェイに向けて剣はおろせない。
 おまけに、キャラウェイの腕がたちすぎて、手だけちょこっと傷つけるなんて無理だ。
『・・・いっそのこと・・・』
 キャラウェイに刺されて、死んでしまおうか。
 十八年間刺客に追われ続け、いつ殺されるかわからない毎日。初めて惚れた女。許されない恋。
 ・・・終わりにしてしまえ。
『オレは、もう、疲れた・・・』
 王子の刺客も、宰相だか大臣だかの刺客も、みーんなザマアミロ。オレは、惚れたおんなに刺されて死にますよ、だ。

 「きゃあーっ!」
 ジンジャーが、構えていた剣を降ろしたのだ。キャラウェイのひと突きは、予期していた剣の一払いがなかったために、ジンジャーの左腕に突きささった。
 「ジンジャー!ジンジャー! しっかりしてっ!」
 キャラウェイは剣をほおりだした。そして、メインマストにぶつかって倒れたジンジャーにかけ寄った。
 「刺した本人が一番うろたえてりゃ世話ないな。
  腕を突いただけで、致命傷じゃないさ。全然平気だよ。早くとどめを刺せば?」
 「バカ言わないで! 血が! こんなに・・・ 」
 ジンジャーの白いシャツを、みるみる血が染めていった。
 「ジンジャー!」
 騒ぎを聞きつけて、交代で眠っていたワイルドヒースが甲板に上がってきた。
 「何やったんだ、このバカ」
 「このお嬢さんと、決闘ごっこを」
 「なるほどねえ。ああ、お嬢さんもそんなに泣かなくていい、怪我はたいしたことない。 今、手当てしてやる。道具を持って来る」 
「サンキュー。
 なあ、キャリー、この程度の血を見てオロオロしてたんじゃ、女海賊にゃなれねえよ。 君は、いくら剣の腕がたっても、ほんとには人は殺せない。
 お嬢ちゃんは、ドレス着て丘に帰んな」
 ジンジャーは、怪我をしていない右手で、キャラウェイの髪をなでた。
 「楽しかっただろ、船の上は。・・・それで、いいじゃん」
 その言葉を聞いて、つーっと、キャラウェイの頬を涙が一筋流れた。

 と、船がぐらりと揺れた。
 いや、船じゃない。メインマストの亀裂がめりめりと広がり、折れかかっていた。ジンジャーが倒れてぶつかった衝撃で、かろうじてもっていた柱にも限界がきたのだ。
 「あ、あぶないーっ!」


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