倦怠期の処方箋

 前編に述べた”スキーの持つ幅広いフィールド”の続編。スキーも、特定の1ジャンルだけに長く打ち込んでいると、時として倦怠期に陥る事もある。そんな貴方への処方箋を一つ。
 私の職場の身近には、スキーするって人がほぼ皆無。なぜかって聞いてみたら”飽きちゃった”からだって。そりゃー、道産子でゲレンデ歴20〜30年にもなれば煮詰まっちゃって、確かに”アルペンはもう沢山!”って言うわなあ。

 今度はクロカン。最近なんかスケーティングから始める人が多いため、レース用板しか持っていない人が多い。クロカンレースは、はじめて数年は毎年タイム向上が励みになって熱中出来るけど、やがて壁にぶつかってタイム向上が伸び悩むようになると、今まであれだけワックスだ、フォームだと熱くなっていた事が逆に、急に面倒くさくなり、そんなこんなでクロカンをやめてしまう例を聞く。

 テレマークなんかも、今はプラブーツ全盛なので、最初からダウンヒル用のハイバックプラブーツから始める人が一般的。でも幾らプラブーツとは言ってもアルペンとは勝手が違う。で、しばらくは努力しても結局、”こんなはずじゃなかった”とか、”山で使うにはちと不安”と、アルペン山スキーに戻ってしまう例もこれまた良く聞く話。


 そんな、壁にぶつかったり煮詰まった時は、スキー療法士の私(嘘)としては、下記のような処方箋を出します。

”スキーの原点に戻ってバックカントリースキー(歩くスキー)を体験してみなさい”。

 えっ!、そんな、スキーの下手な初心者や体力のない年寄りのするような事なんか、今更やれないだって?。それは貴方の偏見。実は逆なんだよ!?。


 私のお勧めはもちろん、面倒なワックスのいらない鱗底。そして、行けるフィールドがより広い、XCよりやや幅広でエッジ付きの、いわゆる”バックカントリー板”に決まり。そして金具はシンプルな昔ながらのスリーピン式がベスト。靴は当然75mmソールとなるが、皮テレブーツより軽く柔らかくて歩きやすい、歩き重視の合成皮革のゴム底ブーツで必要十分(まあXCタイプのバックカントリーブーツでも出来なきゃないけど、ちょっとシビア?)。

 ポカポカ陽気の春の残雪期のなだらかな丘陵やゆるやかな山(出来れば森林限界上か、ブッシュのない疎林のザラメが良いなあ)、そこを先に紹介した軽装バックカントリースキーで、野を越え丘を越え、登ったり滑ったり転んだりして一日を過ごすと、なにか今まで知らなかった新たな発見があるかもしれない。

     イメージとしては、G.W.頃の積丹岳喜茂別岳
    幌岳とか浜益御殿、藻琴山十勝三段山の刈り分けコースとかかなあ?。山スキーじゃ行く気がしないワイスの北斜面滑降も結構楽しめるかも知れない。

 アップダウンのある広大なフィールドに、”歩く・登る・滑る”と、スキーの三要素のバランスが取れたバックカントリースキーで行くと、以前は初心者や体力のない人向きだと思っていたあの歩くスキーが、それどころか逆にシビアなバランス感覚とみなぎる体力がないとうまく出来ない、実に奥深い上級者向けのスキーである事に気が付くでしょう。

 あれだけスピードやタイムや順位にこだわっていた人が、雪のピークでお茶飲むだけで充実感を満喫したり、大胆な滑降にこだわっていた人が、緩い雪山を転びながら降りるだけで大満足出来たりと、それはそれで新たな楽しみ、”フィールドの拡がり”である。


 現代のゲレンデスキーのフィールドの狭さについては、前回もここで書いたから、これ以上言いません(これ以上敵を作ってどーする!)。

 フリーヒールとは言っても、スケーティングXCは歩くスキーの滑走性を極めた究極の形。その究極の滑走性を得た反面、やはりこれもピステンで整地したコースしか走れないなど、フリーヒールスキーの本来持っていた”広いフィールド”を失ってしまった。

 テレマークもしかり。フリーヒールの滑降性の究極の形である今の主流には、かつて持っていた、”これさえ履いていれば、雪ある所ならどこでも行ける!”というあの軽快感はもはやなく、おのずと得意とするフィールドも、より急でより歩かずに済む所へと特化してきている。これは兼用靴が普及した昨今の山スキーにも同様に言える事。

     とは言ってもここで誤解しないで欲しい、私は別にここで、他ジャンルを批判しているのではない。あくまで煮詰まった時の話。物事をより追求すると、広く浅くから狭く深くなるのは当然の摂理。でもとことん追求しすぎると、原点と言うか、本来持っていた広いフィールド全体までは見えなくなりがちだからね。迷った時にはまず、”デフォルトスタンダード”に一度戻すというのが、全てのジャンルに言えるセッティングの鉄則。

 北欧には”悪い天候はない。悪い服装がある”という諺があるそうな。つまり装備を環境に合わせろという意味。実は私も以前は、”平均斜度の緩いスキーツアーのクラシックルートなんか、今更面白くもなんともない!”と思っていたけど、この諺をパクるとすれば、”悪いツアーコースはない。スキー装備が合っていない”と言い換えられる?。

 もっと言えば、持っている道具に合わせたフィールドしか楽しめないなんて、よくよく考えてみれば主客転倒。自分は道具を使いこなしていた積もりだったのに、実は自分が道具に使われていただけだったりして?。


 ”フィールドの拡がり”、まっ、例えるなら、3年目の浮気の危機を無事乗り越え、逆に惚れなおして絆が強くなるみたいな感じかな?。今まで見えなかった相手の一面が沢山あるってわかったら、またこれはこれで新鮮でしょ?。ナンチッテ。
 但し追伸〜
     実は合皮のバックカントリー靴、厳冬期は問題ないけど春のザラメだと水が浸みて来る物が多いんですよね。この靴の活動最適期なのに困ったもんだ!。オーバーゲータいるかな?。

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