(追記・その後)

辺りは一面、原色の世界だった。
赤い。
赤い赤い。
とても美しい赤い色。
町の名所である、展望タワーの最上階。
男…神の指令を受けた男は、一面広がる赤の中心にいた。
男の身体も例外なく赤に染まっていた。
手には拳銃、そしてタワー内で売られている、タワーを象った置物。
置物には何故か「愛・根性・勇気」と書かれている。
その全てが赤に染まっていた。

見下ろせばタワーの下には大勢の人が集まっていた。
その中には男の妻と娘の姿もあった。
その全てが、上を、男のいる最上階を見ていた。

何一つ動くものの無い最上階。
赤の世界。
たまに階段やエレベーターから「動く物」が現れるが次の瞬間には男の腕から
パン
と、乾いた音がして、次の瞬間には「動く物」は新たな赤いオブジェに早変わり。
そこは、不条理な前衛芸術のような世界であった。

男は、指令を受けた。

最後の指令を。

男は一人頷くと、手にした「愛・根性・勇気」と書かれた置物を、目の前の窓、展望用の全面ガラス張りの窓に向けて投げつけた。

タワーの下では、ちょうどテレビ局が中継を始めた時だった。
野次馬の一人が「あっ」と声をあげた。
見上げると、赤く染まったガラスが砕け、宙に舞っていた。
その中を、一際赤い塊が、まっ逆さまに落下していた。

どす

と、鈍い音がした。

その場所、男の妻と娘の、そしてテレビ中継のカメラのちょうど真ん前には花壇があった。
その花壇には色取り取りの花が咲いていたが、今、その中に真新しい真っ赤なアンテナが立っていた。


町の観光名所で起きた大量殺人事件。
事件は犯人の飛び降り自殺で幕を閉じた。
運良くその瞬間を生中継したワイドショーは、犯人が現職の警察官であった事もあり、局始まって以来の高視聴率を得た。
全国の視聴者の目がそのチャンネルに釘付けになった。

ちょうど同じ時間、裏番組で、ある映画が二十年ぶりに放映されていたのだが、その映画を見た者はほとんどいなかった。



                       ビデオ化の予定も無くEND



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