2006年3月29日(水) サルーム
いよいよ日食当日。
サルームの入り口に到着したのは夜明け直前の午前6時ごろ。
とても多くのバスが検問所で列を作っていますが、降りてみるわけにはいかないので数は不明です。
検問所のチェックを無事に抜けてサルームに入りました。
観測地へ向かう坂の途中から、町を囲んでいる丘の上に霧がかかっているのが見えました。
観測地に到着すると、そこも霧で覆われています。
2日前の雨の名残があるのか、湿度がまだ高いようです。
皆既日食は昼過ぎなのでまだ時間は十分にあります。
期待を持ちながら撮影準備を始めました。
今回は皆既時間が4分近くあるので、撮影機材を欲張ってみました。
望遠鏡はフィルムカメラが2台、動画用のデジタルカメラが1台。
固定した三脚には全天用の魚眼レンズを付けてインターバル撮影をするフィルムカメラ、セミ魚眼コンバージョンレンズを付けた動画デジタルカメラ。
皆既中に自分でシャッターをするのは2台だけなので目で眺める余裕は十分にありますが、皆既の間際にシャッターを押したりフィルターを外したりという操作を短時間で済ませなければならないので、その時だけ忙しくなります。
日が高くなるにつれて気温が上がり、霧がどんどん薄くなってきました。
午前10時ぐらいからは霧が完全に消え、2km先のリビア国境もはっきり見えるようになり、空に雲がなくきれいな青空の快晴になりました。もう天気の心配はなさそうです。
改めて観測地を見渡してみると、エジプトの日食見物客がこの一ヶ所に集まったので数え切れないほどの人がいます。
夜明け前にバスで移動してきた人に加え、前夜からテントで宿泊していた人もいて、その数は3000人にもなるそうです。
これまでの日食でこれより多くの観測者が一つの町に集まったことはありましたが、それらは人が町の広い範囲に散らばっていたり、国別にまとまっていたり、というものでした。
一つの区切られた領域内でこれだけ多くの人たちを、これだけ様々な国籍の人たちを一度に見たのは初めてです。
午前11時ごろ部分日食開始。
月と太陽中心が完全に一致する線は、国境を越えたリビア国内を通っています。
エジプト国内のサルームでは完全な中心は通らず、月が少し斜め方向から太陽を隠していきます。
今は太陽活動が穏やかな極小期にあたり、黒点は少ししかありません。
久しぶりの皆既日食だったためなのか、目で眺める時間の余裕があったためなのか、コロナの形に特徴があったためなのか、霧が晴れた後は空気がとても澄んでいたためなのかはわかりませんが、これまで見た皆既日食の中では一、二を争うような美い光景でした。
太陽の両側にコロナが伸びる姿は、まるで黒い太陽が翼を広げ闇となった空を雄大に飛んでいるようです。
古代エジプトの遺跡に、左右に翼が生えた太陽の図が刻まれているものがあります。
それが皆既日食のコロナを表現したものかどうかは議論が分かれるようですが、もし古代人がこの光景を見ていたらあのような絵を残していても不思議ではありません。
デジタルカメラで撮影した動画。30倍速の早回しになっています。
撮影中に露出を変えられないので露出オートのカメラ任せ。
デジタルカメラにセミ魚眼コンバージョンレンズを付けて撮影した動画。これも30倍速の早回しになっています。
上と同じく画面中心が天頂ですが、全天は写っていません。
どうせ一部だけしか写らないのなら画面に地平線を入れるべきだったと後悔しつつ公開します。
今回は太陽高度が約60度と高く地上風景と一緒に写しにくかったので、魚眼レンズを使って全天を撮影してみました。画面中心が天頂、円の周辺が地平線です。
皆既日食が終わり、恒例の部分日食のピンホールで撮影。
皆既により気温が何度下がったかを調べるのも恒例で、温度計は準備していたのですが、カメラの操作に気をとられて皆既前後に計り忘れてしまいました。
正確な気温差はわかりませんが、これまでの経験から10度ぐらいは下がっていたように感じられます。
すべての人を満足させた日食が終わり、バスに揺られてマルサ・マトルーフへ戻りました。
ホテルのベランダから西の空を見ると、半日前に黒かった太陽が、今度は赤く染まって地平線に消えていきました。