真・金環日食

2003年5月31日(土) チョルネース半島

nishizaki


明るい真夜中
morning2 金環日食当日。
日食開始は午前3時過ぎのため、午前1時前にホテルを出発。
アイスランド時間は世界時と同じ。 サマータイムも設けていないため、世界時をそのまま使えます。
でもアイスランドは西経13.5度から24.5度の範囲にあるので、本来なら1時間遅れの時差を設定すべき場所です。 常に1時間進んだ時計を使っているということは、言い方を変えれば1年中サマータイムで生活しているようなもの。
もっとも、夏は昼ばかり、冬は夜ばかりの国ですから、太陽の動きと生活時間を合わせることにあまり意味はないのかもしれません。

そんなわけで、この時期の日の入りが0時近く、日の出が2時過ぎとアンバランスになっています。
つまり、午前1時はちょうど真夜中になるわけですが、夏至まで1ヶ月を切ったアイスランドは照明不要の明るさです。

気軽な観測場所
tjornes 午前2時過ぎに前日下見をしたチョルネーズ半島の北海岸へ到着しました。
途中の海岸には人がいましたが、私たちの観測場所にいたのは羊だけ。 車が近づくと逃げていってしまいました。
ちょうど日の出を過ぎた時刻ですが、水平線上に雲があり太陽は見えません。 その少し上だけが晴れていますが、残りの空は雲に覆われています。
前日の下見時より天候はかなり悪いようです。

とりあえず海を見下ろす崖の上で準備開始。 凍えるほどではなないものの気温は低く、風も多少あることから日本の冬並みの服装は必要です。
しばらくしてオレンジ色の太陽が見えてきました。 日本の埼玉付近では太陽は水平線・地平線に対して約54度の角度で上っていきますが、ここでは約34度というとても低い角度。 時間が経っても横滑りしているだけのように見え、なかなか高度が上がりません。

ゆがんだ太陽
partial 午前3時過ぎに日食開始。 太陽はちょうど晴れ間にいたので欠け始めは計算通りであることは確認できました。
高度はまだ1度強しかありません。 低空のため太陽の上下がつぶれてゆがんで見えます。

光も弱くなっていますが、直接見たり撮影したりすることはできず、減光フィルターは必要です。
低空の分だけ露出を余計にかけなければいけなかったのですが、計算をミスして露出不足となり、フィルムには部分食が写っていませんでした。 欠けた太陽が写っていたのは、デジタルカメラで撮った速報用のややブレた写真のみ。

のろのろじりじり
cloud ようやく光がまぶしくなってきた頃、太陽は晴れ間の上端に達して、雲の中に隠れてしまいました。
雲は濃い部分と薄い部分を層状に重ねたようになっていたので、高度が上がれば薄雲を通して姿が見えるはず。

しかし時間が経ってもなかなか高度は上がらず、黒い雲の後ろに隠れたまま。 薄雲から漏れている光で太陽の位置はわかりますが、太陽本体の光は見えません。
金環の時刻が近づき、横滑りばかりの太陽にじりじり。

そのまんまリングの贅沢
金環まで数分前、ようやく薄雲を通して太陽が見えました。
三日月を少し細めにしたような逆"C"字の形です。
上下の尖った先端がどんどん近づき、くっついて全体が"C"字形から"O"字形に。
金環食の始まりです。

太陽に比べて月の大きさがかなり小さいため、太い輪になっています。
通常なら強烈な光のため、フィルターで減光しなければ肉眼直視したり写真に撮ったりはできません。
しかし程よい厚さの雲のおかげで、太陽の輪をフィルター無しで見ることができました。写真撮影もそのままカメラまかせでOK。

これが皆既日食ならお話になりませんが、金環日食は形さえわかればいいのでこれで十分です。 むしろアイスランド北海岸に浮かぶ金環の光景を、道具を一切使わずそのまま見られるというのは通常味わえない贅沢。
太陽は高度約4度という低空に加え、雲を通しているため太陽は黄色っぽいオレンジ色。 高度が高いと金というより銀やプラチナに近い色になるので、これぐらいの方が金環と呼ぶのにふさわしいとも言えそうです。

annular1 annular2
annular3 annular4

さらば太陽
cloud2 約3分半の金環食が終了。
その数分後、太陽は再び厚めの雲に隠され、形が見えなくなってしまいました。
金環とその前後は当然空も暗くなっているはずですが、皆既ほど明るさの変化は大きくないこと、環が太かったこと、雲が多かったことなどで、空の明るさの変化はほとんど気づきませんでした。

その後も太陽は雲に隠れたまま。
結局日食が終わるまで、そしてその日の日没となる20時間後まで、太陽の姿を見ることはありませんでした。
後になればなるほど、あの数分間が夢のように思えます。

唯一残念だったのが、恒例のピンホールによる欠けた太陽像を撮影できなかったこと。
穴あきクラッカーなどを用意していましたが、雲を通した光では像は全くできませんでした。


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