宮沢賢治幻燈館
「水仙月の四日」 10/11

 野はらも丘もほつとしたやうになつて、雪は青じろくひかりました。空もいつかすつかり霽(は)れて、桔梗(ききやう)いろの天球には、いちめんの星座がまたたきました。
 雪童子らは、めいめい自分の狼(おいの)をつれて、はじめてお互挨拶しました。

「ずいぶんひどかつたね。」
「ああ、」
「こんどはいつ会ふだらう。」
「いつだらうねえ、しかし今年中に、もう二へんぐらゐのもんだらう。」
「早くいつしよに北へ帰りたいね。」
「ああ。」
「さつきこどもがひとり死んだな。」
「大丈夫だよ。眠つてるんだ。あしたあすこへぼくしるしをつけておくから。」
「ああ、もう帰らう。夜明けまでに向ふへ行かなくちや。」
「まあいゝだらう。ぼくね、どうしてもわからない。あいつはカシオペーアの三つ星だらう。みんな青い火なんだらう。それなのに、どうして火がよく燃えれば、雪をよこすんだらう。」
「それはね、電気菓子とおなじだよ。そら、ぐるぐるぐるまはつてゐるだらう。ザラメがみんな、ふわふわのお菓子になるねえ、だから火がよく燃えればいゝんだよ。」
「ああ。」
「ぢや、さよなら。」
「さよなら。」