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『かはせみだ』子供らの蟹は頸をすくめて云ひました。
お父さんの蟹は、遠めがねのやうな両方の眼をあらん限り延ばして、よくよく見てから云ひました。
『さうぢやない、あれはやまなしだ、流れて行くぞ、ついて行つて見よう、あゝいゝ匂ひだな』
なるほど、そこらの月あかりの水の中は、やまなしのいい匂ひでいつぱいでした。
三疋(びき)はぼかぼか流れて行くやまなしのあとを追ひました。
その横あるきと、底の黒い三つの影法師が、会せて六つ踊るやうにして、山なしの円い影を追ひました。
間もなく水はサラサラ鳴り、天井の波はいよいよ青い焔をあげ、やまなしは横になつて木の枝にひつかかつてとまり、その上には月光の虹がもかもか集まりました。
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