『どうだ、やつぱりやまなしだよ、よく熟してゐる、いい匂ひだらう。』 『おいしさうだね、お父さん』 『待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んで来る、それからひとりでにおいしいお酒ができるから、さあ、もう帰つて寝よう、おいで』 親子の蟹は三疋自分等の穴に帰つて行きます。 波はいよいよ青じろい焔をゆらゆらとあげました、それは又金剛石の粉をはいてゐるやうでした。 私の幻燈はこれでおしまひであります。