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「あなた、支那反物よろしいか。六神丸(ろくしんぐわん)たいさんやすい。」
山男はびつくりしてふりむいて、
「よろしい。」とどなりましたが、あんまりじぶんの声がたかゝつたために、円い鉤(かぎ)をもち、髪をわけ下駄をはいた魚屋の主人や、けらを着た村の人たちが、みんなこつちを見てゐるのに気がついて、すつかりあわてて急いで手をふりながら、小声で言ひ直しました。
「いや、さうだない。買ふ、買ふ。」
すると支那人は
「買はない、それ構はない、ちよつと見るだけよろしい。」
と言ひながら、背中の荷物をみちのまんなかにおろしました。山男はどうもその支那人のぐちやぐちやした赤い眼が、とかげのやうでへんに怖くてしかたありませんでした。
そのうちに支那人は、手ばやく荷物へかけた黄いろの真田紐(さなだひも)をといてふろしきをひらき、行李(かうり)の蓋をとつて反物のいちばん上にたくさんならんだ紙箱の間から、小さな赤い薬瓶(びん)のやうなものをつかみだしました。
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