宮沢賢治幻燈館
「銀河鉄道の夜」 10/81

「ザウエルといふ犬がゐるよ。しっぽがまるで箒(はうき)のやうだ。ぼくが行くと鼻を鳴らしてついてくるよ。ずうっと街の角までついてくる。もっとついてくることもあるよ。今夜はみんなで烏瓜のあかりを川へながしに行くんだって。きっと犬もついて行くよ。」
「さうだ。今晩は銀河のお祭だねえ。」
「うん。ぼく牛乳をとりながら見てくるよ。」
「あゝ行っておいで。川へははひらないでね。」
「あゝぼく岸から見るだけなんだ。一時間で行ってくるよ。」
「もっと遊んでおいで。カムパネルラさんと一緒なら心配はないから。」
「あゝきっと一緒だよ。お母さん、窓をしめて置かうか。」
「あゝ、どうか。もう涼しいからね。」
 ジョバンニは立って窓をしめお皿やパンの袋を片附けると勢よく靴をはいて
「では一時間半で帰ってくるよ。」と云ひながら暗い戸口を出ました。