まったくその中に、白くあらはされた天の川の左の岸に沿って一条の鉄道線路が南へ南へとたどって行くのでした。そしてその地図の立派なことは、夜のやうにまっ黒な盤の上に、一一の停車場や三角標、泉水や森が、青や橙(だいだい)や緑や、うつくしい光でちりばめられてありました。ジョバンニはなんだかその地図をどこかで見たやうにおもひました。 「この地図はどこで買ったの。黒曜石でできてるねえ。」 ジョバンニが云ひました。 「銀河ステーションで、もらったんだ。君もらはなかったの。」 「あゝ、ぼく銀河ステーションを通ったらうか。いまぼくたちの居るとこ、ここだらう。」 ジョバンニは、白鳥と書いてある停車場のしるしの、すぐ北を指しました。 「さうだ。おや、あの河原は月夜だらうか。」 そっちを見ますと、青白く光る銀河の岸に、銀色の空のすゝきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波を立ててゐるのでした。