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七、北十字とプリオシン海岸
「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだらうか。」
いきなり、カムパネルラが、思ひ切ったといふやうに、少しどもりながら、急(せ)きこんで云ひました。
ジョバンニは、
(あゝ、さうだ、ぼくのおっかさんは、あの遠い一つのちりのやうに見える橙(だいだい)いろの三角標のあたりにいらっしゃって、いまぼくのことを考へてゐるんだった。)と思ひながら、ぼんやりしてだまってゐました。
「ぼくはおっかさんが、ほんたうに幸(さいはひ)になるなら、どんなことでもする。けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸なんだらう。」カムパネルラは、なんだか、泣きだしたいのを、一生けん命こらへてゐるやうでした。
「きみのおっかさんは、なんにもひどいことないぢゃないの。」ジョバンニはびっくりして叫びました。
「ぼくわからない。けれども、誰だって、ほんたうにいいことをしたら、いちばん幸なんだねえ。だから、おっかさんは、ぼくをゆるして下さると思ふ。」カムパネルラは、なにかほんたうに決心してゐるやうに見えました。
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