宮沢賢治幻燈館
「銀河鉄道の夜」 23/81

 ごとごとごとごと、その小さなきれいな汽車は、そらのすゝきの風にひるがへる中を、天の川の水や、三角点の青じろい微光の中を、どこまでもどこまでもと、走って行くのでした。
「あゝ、りんだうの花が咲いてゐる。もうすっかり秋だねえ。」カムパネルラが、窓の外を指さして云ひました。
 線路のへりになったみじかい芝草の中に、月長石ででも刻まれたやうな、すばらしい紫のりんだうの花が咲いてゐました。
「ぼく、飛び下りて、あいつをとって、また飛び乗ってみせようか。」ジョバンニは胸を躍(をど)らせて云ひました。
「もうだめだ。あんなにうしろへ行ってしまったから。」
 カムパネルラが、さう云ってしまふかしまはないうち、次のりんだうの花が、いっぱいに光って過ぎて行きました。
 と思ったら、もう次から次から、たくさんのきいろな底をもったりんだうの花のコップが、湧くやうに、雨のやうに、目の前を通り、三角標の列は、けむるやうに燃えるやうに、いよいよ光って立ったのです。