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宮沢賢治幻燈館 「銀河鉄道の夜」 39/81 |
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二人は顔を見合せましたら、燈台守は、にやにや笑って、少し伸びあがるやうにしながら、二人の横の窓の外をのぞきました。二人もそっちを見ましたら、たったいまの鳥捕りが、黄いろと青じろの、うつくしい燐光を出す、いちめんのかはらははこぐさの上に立って、まじめな顔をして両手をひろげて、じっとそらを見てゐたのです。 |
「あすこへ行ってる。ずゐぶん奇体だねえ。きっとまた鳥をつかまへるとこだねえ。汽車が走って行かないうちに、早く鳥がおりるといゝな。」と云った途端、がらんとした桔梗(ききやう)いろの空から、さっき見たやうな鷺が、まるで雪の降るやうに、ぎゃあぎゃあ叫びながら、いっぱいに舞ひおりて来ました。するとあの鳥捕りは、すっかり注文通りだといふやうにほくほくして、両足をかっきり六十度に開いて立って、鷺のちぢめて降りて来る黒い脚を両手で片っ端から押へて、布の袋の中に入れるのでした。すると鷺は、螢(ほたる)のやうに、袋の中でしばらく、青くべかべか光ったり消えたりしてゐましたが、おしまひたうとう、みんなぼんやり白くなって、眼をつぶるのでした。ところが、つかまへられる鳥よりは、つかまへられないで無事に天の川の砂の上に降りるものの方が多かったのです。それは見てゐると、足が砂へつくや否や、まるで雪の融けるやうに、縮まって扁(ひら)べったくなって、間もなく溶鉱炉から出た銅の汁のやうに、砂や砂利の上にひろがり、しばらくは鳥の形が、砂についてゐるのでしたが、それも二三度明るくなったり暗くなったりしてゐるうちに、もうすっかりまはりと同じいろになってしまふのでした。 |