|
「えゝ、もうこの辺から下りです。何せこんどは一ぺんにあの水面までおりて行くんですから容易ぢゃありません。この傾斜があるもんですから汽車は決して向ふからこっちへは来ないんです。そら、もうだんだん早くなったでせう。」さっきの老人らしい声が云ひました。
どんどんどんどん汽車は降りて行きました。崖のはじに鉄道がかゝるときは川が明るく下にのぞけたのです。ジョバンニはだんだんこゝろもちが明るくなって来ました。汽車が小さな小屋の前を通ってその前にしょんぼりひとりの子供が立ってこっちを見てゐるときなどは思はずほうと叫びました。
どんどんどんどん汽車は走って行きました。室中(へやぢゅう)のひとたちは半分うしろの方へ倒れるやうになりながら腰掛にしっかりしがみついてゐました。ジョバンニは思はずカムパネルラとわらひました。もうそして天の川は汽車のすぐ横手をいままでよほど激しく流れて来たらしくときどきちらちら光ってながれてゐるのでした。うすあかい河原なでしこの花があちこち咲いてゐました。汽車はやうやく落ち着いたやうにゆっくりと走ってゐました。
向ふとこっちの岸に星のかたちとつるはしを書いた旗がたってゐました。
|