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「それから彗星(はうきぼし)がギーギーフーギーギーフーて云って来たねえ。」
「いやだわたあちゃんさうじゃないわよ。それはべつの方だわ。」
「するとあすこにいま笛を吹いて居るんだらうか。」
「いま海へ行ってらあ。」
「いけないわよ。もう海からあがっていらっしゃったのよ。」
「さうさう。ぼく知ってらあ、ぼくおはなししよう。」
川の向ふ岸が俄(には)かに赤くなりました。楊(やなぎ)の木や何かもまっ黒にすかし出され見えない天の川の波もときどきちらちら針のやうに赤く光りました。まったく向ふ岸の野原に大きなまっ赤な火が燃されその黒いけむりは高く桔梗(ききゃう)いろのつめたさうな天をも焦がしさうでした。ルビーよりも赤くすきとほりリチウムよりもうつくしく酔ったやうになってその火は燃えてゐるのでした。
「あれは何の火だらう。あんな赤く光る火は何を燃やせばできるんだらう。」ジョバンニが云ひました。
「蝎(さそり)の火だな。」カムパネルラが又地図と首っ引きして答へました。
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