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「ぼく行ってとって来よう。」
「あゝあたしはゆっくりでいゝんだからお前さきにおあがり、姉さんがね、トマトで何かこしらへてそこへ置いて行ったよ。」
「ではぼくたべよう。」
ジョバンニは窓のところからトマトの皿をとってパンといっしょにしばらくむしゃむしゃたべました。
「ねえお母さん。ぼくお父さんはきっと間もなく帰ってくると思ふよ。」
「あゝあたしもさう思ふ。けれどもおまへはどうしてさう思ふの。」
「だって今朝の新聞に今年は北の方の漁は大へんよかったと書いてあったよ。」
「あゝだけどねえ、お父さんは漁へ出てゐないかもしれない。」
「きっと出てゐるよ。お父さんが監獄へ入るやうなそんな悪いことをした筈がないんだ。この前お父さんが持ってきて学校へ寄贈した巨きな蟹(かに)の甲らだのとなかいの角だの今だってみんな標本室にあるんだ。六年生なんか授業のとき先生がかはるがはる教室へ持って行くよ。一昨年修学旅行で (このあと原稿空白)
「お父さんはこの次はおまへにラッコの上着をもってくるといったねえ。」
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