一郎はだんだんそばへ行つて、びつくりして立ちどまつてしまひました。その男は、片眼で、見えない方の眼は、白くぴくぴくうごき、上着のやうな半纏(はんてん)のやうなへんなものを着て、だいいち足が、ひどくまがつて山羊(やぎ)のやう、ことにそのあしさきときたら、ごはんをもるへらのかたちだつたのです。一郎は気味が悪かつたのですが、なるべく落ちついてたづねました。 「あなたは山猫をしりませんか。」 するとその男は、横目で一郎の顔を見て、口をまげてにやつとわらつて言ひました。 「山ねこさまはいますぐに、こゝに戻つてお出やるよ。おまへは一郎さんだな。」 一郎はぎよつとして、一あしうしろにさがつて、 「え、ぼく一郎です。けれども、どうしてそれを知つてますか。」と言ひました。するとその奇体な男はいよいよにやにやしてしまひました。 「そんだら、はがき見たべ。」 「見ました。それで来たんです。」