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一郎はをかしいとおもつて、ふりかへつて見ますと、そこに山猫が、黄いろな陣羽織のやうなものを着て、緑いろの眼をまん円にして立つてゐました。やつぱり山猫の耳は、立つて尖(とが)つてゐるなと、一郎がおもひましたら、山ねこはぴよこつとおじぎをしました。一郎もていねいに挨拶(あいさつ)しました。
「いや、こんにちは、きのふははがきをありがたう。」
山猫はひげをぴんとひつぱつて、腹をつき出して言ひました。
「こんにちは、よくいらつしやいました。じつはをとゝひから、めんだうなあらそひがおこつて、ちよつと裁判にこまりましたので、あなたのお考へを、うかがひたいとおもひましたのです。まあ、ゆつくり、おやすみください。ぢき、どんぐりどもがまゐりませう。どうもまい年、この裁判でくるしみます。」山ねこは、ふところから、巻煙草(まきたばこ)の箱を出して、じぶんが一本くはえ、
「いかゞですか。」と一郎にだしました。一郎はびつくりして、
「いゝえ。」と言ひましたら、山ねこはおほやうにわらつて、
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